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52 害虫被害についての会議①
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【ヘンリックside】
その日ランゲル王国の王宮内では定例会議が開かれていた。本日の議題は南部の害虫被害についてで、大臣たち以外には一部の高位貴族と南部の領主たちも会議に参加していた。
国王は病床の為会議に出席が出来なかった為、王太子であるヘンリックが議長であるヴィルタ公爵の隣に座る。二年前のあの日までこの席には国王とフォレスター公爵が座っていた椅子だった。
ヘンリックは会議に参加している重臣たちを見回す。この二年ですっかり顔ぶれが変わってしまった。以前は派閥のバランスを考慮された人選で大臣も決められてきたが、今ではヴィルタ家の派に属している貴族が多く、ヘンリックの隣に座るヴィルタもそれが当然だというような顔をしている。
「件の害虫被害の件についてご報告を致します。南部の各領主からはかなり深刻であると話が出ていますが、今現在はまだ収穫前なので具体的な数字は上がっていません。王家が独自に調べた結果、前年度の3割程度の収穫となる見込みですが、昨年は小麦が不作だった為、一昨年以前の収穫量と比べると1.5割程度となっております。皆さまもご存知の通り我が国の小麦の7割ほどが南部で作られています。幸い北部では害虫の被害は報告されていないので、害虫被害は南部だけのものとなっております。北部で主に栽培されているライ麦は例年同様の収穫量が見込める予定です。ただ先ほども申し上げました通り、昨年の収穫量がかなり少なかった為、王家で蓄えている小麦が今年は少ないのが現状で、王家の貯蔵庫を開放したとしても来年の収穫まで持たせる事は難しいと推察しております」
文官は淡々と報告書を読み上げるが、聞いている貴族たちの顔色はどんどん悪くなっていく。事前に報告書を読んでいたヘンリックでさえも渋い表情を浮かべていた。
「ライ麦しかないということは、我々に黒パンを食べろという事か?」
「いや、北部の収穫量なんてたかが知れている。黒パンでも食べられればいい方だろう」
「残っている小麦にライ麦を混ぜれば少しはマシになる。それに今からでもジャガイモを多く植えさせないと冬が越せなくなるな」
「南部に害虫被害なんてこれまであったか?」
「いや無かったな、一昨年まではフォレスターがうまくやっていたんだろう」
貴族たちの囁き声はヘンリックの耳にも届いていた。公には出来ないが南部の害虫被害の原因は領民たちが荒地にしていて雑草が生い茂っている元耕地から発生していた。荒地にしている原因を調べたら、領主が代わり税が多くなった為に領民たちの間でストが広範囲で起きていたからだった。
ヘンリックは隣に座るヴィルタ公爵を横目で見る。
南部でストが起きていた事をヘンリックは害虫被害が起きるまで知らなかった。これまではフォレスターが広大な南部の土地を治めていたが、フォレスターが没落した後の南部は分割されて、ヴィルタ公爵を始めとした新しい領主たちが治めている。新しい領主は全てヴィルタ派の貴族たちで、南部はヴィルタ家が取りまとめていると言ってもいい状態なのに、害虫被害が深刻になるまでヘンリックには南部で起きている事は全く伝えられていなかったのだ。
「静粛に!先ずこの難局を乗り切るために王家の貯蔵庫は開放する。しかし、それだけでは足りない。この問題は国全体で取りかからないと乗り越えられないだろう。なので諸侯の皆には各々で確保している麦を一旦王家に預け、王家から各領に分配をしたいと思っている」
ヘンリックがそう述べるとざわめきが起こる。反感を買う事は覚悟していたが、このままでは国として立ち行かなくなってしまう。
「殿下、私は自領の麦を開放する事には反対です。蓄えている小麦の量はそれぞれが違いますからそれを全て王家に渡すなんて不平等な事は出来る訳がないでしょう」
最初に反対の声を上げたのは何とヴィルタだった。彼は南部の害虫被害を初期の段階で把握しており、早いうちから小麦をたんまりと買い込んでいた事をヘンリックは既に知っていた。
なのでヘンリックは貴族たちから小麦を集める事はヴィルタに相談しないで議会で可決しようとしていたのだが、早速反対に遭ってしまった。
◆◆◆◆◆
短編小説『僕の妹はもっさり令嬢』
ローゼリアの兄、エーヴェルトが主役のお話になります。
エルランドでローゼリアが留学していた時の物語です。
もしよろしかったらご覧ください。
その日ランゲル王国の王宮内では定例会議が開かれていた。本日の議題は南部の害虫被害についてで、大臣たち以外には一部の高位貴族と南部の領主たちも会議に参加していた。
国王は病床の為会議に出席が出来なかった為、王太子であるヘンリックが議長であるヴィルタ公爵の隣に座る。二年前のあの日までこの席には国王とフォレスター公爵が座っていた椅子だった。
ヘンリックは会議に参加している重臣たちを見回す。この二年ですっかり顔ぶれが変わってしまった。以前は派閥のバランスを考慮された人選で大臣も決められてきたが、今ではヴィルタ家の派に属している貴族が多く、ヘンリックの隣に座るヴィルタもそれが当然だというような顔をしている。
「件の害虫被害の件についてご報告を致します。南部の各領主からはかなり深刻であると話が出ていますが、今現在はまだ収穫前なので具体的な数字は上がっていません。王家が独自に調べた結果、前年度の3割程度の収穫となる見込みですが、昨年は小麦が不作だった為、一昨年以前の収穫量と比べると1.5割程度となっております。皆さまもご存知の通り我が国の小麦の7割ほどが南部で作られています。幸い北部では害虫の被害は報告されていないので、害虫被害は南部だけのものとなっております。北部で主に栽培されているライ麦は例年同様の収穫量が見込める予定です。ただ先ほども申し上げました通り、昨年の収穫量がかなり少なかった為、王家で蓄えている小麦が今年は少ないのが現状で、王家の貯蔵庫を開放したとしても来年の収穫まで持たせる事は難しいと推察しております」
文官は淡々と報告書を読み上げるが、聞いている貴族たちの顔色はどんどん悪くなっていく。事前に報告書を読んでいたヘンリックでさえも渋い表情を浮かべていた。
「ライ麦しかないということは、我々に黒パンを食べろという事か?」
「いや、北部の収穫量なんてたかが知れている。黒パンでも食べられればいい方だろう」
「残っている小麦にライ麦を混ぜれば少しはマシになる。それに今からでもジャガイモを多く植えさせないと冬が越せなくなるな」
「南部に害虫被害なんてこれまであったか?」
「いや無かったな、一昨年まではフォレスターがうまくやっていたんだろう」
貴族たちの囁き声はヘンリックの耳にも届いていた。公には出来ないが南部の害虫被害の原因は領民たちが荒地にしていて雑草が生い茂っている元耕地から発生していた。荒地にしている原因を調べたら、領主が代わり税が多くなった為に領民たちの間でストが広範囲で起きていたからだった。
ヘンリックは隣に座るヴィルタ公爵を横目で見る。
南部でストが起きていた事をヘンリックは害虫被害が起きるまで知らなかった。これまではフォレスターが広大な南部の土地を治めていたが、フォレスターが没落した後の南部は分割されて、ヴィルタ公爵を始めとした新しい領主たちが治めている。新しい領主は全てヴィルタ派の貴族たちで、南部はヴィルタ家が取りまとめていると言ってもいい状態なのに、害虫被害が深刻になるまでヘンリックには南部で起きている事は全く伝えられていなかったのだ。
「静粛に!先ずこの難局を乗り切るために王家の貯蔵庫は開放する。しかし、それだけでは足りない。この問題は国全体で取りかからないと乗り越えられないだろう。なので諸侯の皆には各々で確保している麦を一旦王家に預け、王家から各領に分配をしたいと思っている」
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