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53 害虫被害についての会議②
【ヘンリックside】
「ならば公爵はこの問題をいかが致すおつもりか?」
「こういう時こそ他国に支援を求めればいいでしょう。害虫被害が起こっているのは我が国だけで、他国は例年通り収穫が見込めるという話ではないですか」
その時外交を担当している大臣が恐る恐る手を上げて発言をした。
「公爵は具体的にどの国に支援を求めようとお考えなのでしょうか?」
ヴィルタ公爵家は国内では力を持っているが、外交に明るい家ではない。それにヴィルタは簡単に支援と言うが、同情だけでは国は動いてはくれない。
「輸送費用の事を考えると隣国のエルランドが最有力候補でしょうな。こういう時の為に我が国は長年エルランドと付き合いをしたきたはずだろう」
「お言葉ですが公爵、最近の我が国とエルランドとの関係は希薄になっております」
「それは外交を担当している貴公の怠慢であろう」
何も考えていないヴィルタの言葉に、大臣は怒りを露わにする。
「なっ……、この二年我が国はエルランドから冷遇されております。今はまだエルランド大使もいますが、それもいつ引き揚げられてしまうかわからない状況です。その原因はフォレスターを潰してしまったからではありませんか!」
大臣は顔を真っ赤にしてヴィルタを睨むが、ヴィルタは涼しい表情を浮かべたままだ。
「確かにフォレスター夫人はエルランド国出身だったが、それならばまたエルランドから貴族を娶ってそれを条件に支援を求めればいい話だろう」
赤い顔をした大臣はワナワナと震えている。
フォレスター夫人の輿入れは前国王陛下がかなり苦心しながら時間を掛けていた事と、エルランド王国が自国の貴族の力関係を鑑みた結果実現した事であったのに、それを簡単にもう一度と言うその口をどうにかしてやりたい気持ちになるのを大臣は何とか抑えていた。
「公爵はあのフォレスター夫人がどういったお方だったのかをご存知ではないのか?夫人の母君は先代のエルランド国王陛下と同母の王妹で、先代の国王陛下には王子しかいなかった事からナタリー夫人は王女と同等の立場にあった方なのですよ。我が国がぜひにと迎え入れた方でしたのに、あのような縁談はそう簡単に結べるようなものではないっ!」
「夫人はエルランドに帰ってしまってもオルコットに嫁いだ娘がまだいただろう。その娘に一時的に外交官の役職を与えてエルランドと交渉させればいいではないか。ランゲル人として国の大事に働いてもらえばいい。王妃教育も受けていたのだからすぐに使えるだろう」
ヴィルタの言葉にそれまでざわついていた場がしんと静まった。非常識な事を話している事に気付いていないのは彼だけだった。
これまで臣下の中ではフォレスターが群を抜いて力を持っていたので、ヴィルタ家が目立つような事は無かった。当代のヴィルタ家当主がどのような人物であるのか分からないまま、皆でヴィルタ家を持ちあげてフォレスターを裏切ってしまった。
二年前ヴィルタに味方した者は様々だった。金を渡されて受け取ってしまった者、弱味を握られていた者、見えない圧に従ってしまった者。残りは数で物をいわせて従わせたのだった。
フォレスターを切ったのは手痛かった、そう誰もが思って何も言えずにいた場を纏めたのはヘンリックだった。
「ヴィルタ公爵、王族でもないただの伯爵夫人を外交官には出来ない。エルランドから反感を買うだけだ。それに持っている麦を出さないと最初に飢えるのは被害を受けた南部の領民たちなのだぞ。自領の麦を出す事に反対の者は他にいるか?」
ヘンリックの言葉に手を上げるものはいなかった。おそらくヴィルタはこの会議が終わったらすぐに麦を隠す事をするだろうが、王都で買った分については領収書の写しを既に取ってある。それでも全ての麦を出させるのは難しいだろう。
とにかく王家で麦を管理すれば国民に出せる麦の量を把握出来るし、他国から支援を受けるにしても具体的な数字を出す事が出来る。
こういった時に他国はどのように乗り切っているのかエルランドに留学経験があるローゼリアならば何か知っているのかもしれない。国としても彼女を重用すべきだった。自分が私的な恋愛感情に振り回されなければ彼女は今も国に尽くしてくれただろう。
後悔するのは今更だが、こうやって国王の代理をするようになって初めてヘンリックは恋愛熱が冷めて物事を俯瞰して見る事が出来るようになっていた。父王があれほどローゼリアを手放すなと言った言葉が今なら痛いほどよく分かる。
結局その日の議会で決まった事は、エルランドを始めたとした近隣諸国へ支援を要請する親書を出す事と、各領主に必要があれば麦を出すようにいずれ王命を出すと通達する事だった。
「ならば公爵はこの問題をいかが致すおつもりか?」
「こういう時こそ他国に支援を求めればいいでしょう。害虫被害が起こっているのは我が国だけで、他国は例年通り収穫が見込めるという話ではないですか」
その時外交を担当している大臣が恐る恐る手を上げて発言をした。
「公爵は具体的にどの国に支援を求めようとお考えなのでしょうか?」
ヴィルタ公爵家は国内では力を持っているが、外交に明るい家ではない。それにヴィルタは簡単に支援と言うが、同情だけでは国は動いてはくれない。
「輸送費用の事を考えると隣国のエルランドが最有力候補でしょうな。こういう時の為に我が国は長年エルランドと付き合いをしたきたはずだろう」
「お言葉ですが公爵、最近の我が国とエルランドとの関係は希薄になっております」
「それは外交を担当している貴公の怠慢であろう」
何も考えていないヴィルタの言葉に、大臣は怒りを露わにする。
「なっ……、この二年我が国はエルランドから冷遇されております。今はまだエルランド大使もいますが、それもいつ引き揚げられてしまうかわからない状況です。その原因はフォレスターを潰してしまったからではありませんか!」
大臣は顔を真っ赤にしてヴィルタを睨むが、ヴィルタは涼しい表情を浮かべたままだ。
「確かにフォレスター夫人はエルランド国出身だったが、それならばまたエルランドから貴族を娶ってそれを条件に支援を求めればいい話だろう」
赤い顔をした大臣はワナワナと震えている。
フォレスター夫人の輿入れは前国王陛下がかなり苦心しながら時間を掛けていた事と、エルランド王国が自国の貴族の力関係を鑑みた結果実現した事であったのに、それを簡単にもう一度と言うその口をどうにかしてやりたい気持ちになるのを大臣は何とか抑えていた。
「公爵はあのフォレスター夫人がどういったお方だったのかをご存知ではないのか?夫人の母君は先代のエルランド国王陛下と同母の王妹で、先代の国王陛下には王子しかいなかった事からナタリー夫人は王女と同等の立場にあった方なのですよ。我が国がぜひにと迎え入れた方でしたのに、あのような縁談はそう簡単に結べるようなものではないっ!」
「夫人はエルランドに帰ってしまってもオルコットに嫁いだ娘がまだいただろう。その娘に一時的に外交官の役職を与えてエルランドと交渉させればいいではないか。ランゲル人として国の大事に働いてもらえばいい。王妃教育も受けていたのだからすぐに使えるだろう」
ヴィルタの言葉にそれまでざわついていた場がしんと静まった。非常識な事を話している事に気付いていないのは彼だけだった。
これまで臣下の中ではフォレスターが群を抜いて力を持っていたので、ヴィルタ家が目立つような事は無かった。当代のヴィルタ家当主がどのような人物であるのか分からないまま、皆でヴィルタ家を持ちあげてフォレスターを裏切ってしまった。
二年前ヴィルタに味方した者は様々だった。金を渡されて受け取ってしまった者、弱味を握られていた者、見えない圧に従ってしまった者。残りは数で物をいわせて従わせたのだった。
フォレスターを切ったのは手痛かった、そう誰もが思って何も言えずにいた場を纏めたのはヘンリックだった。
「ヴィルタ公爵、王族でもないただの伯爵夫人を外交官には出来ない。エルランドから反感を買うだけだ。それに持っている麦を出さないと最初に飢えるのは被害を受けた南部の領民たちなのだぞ。自領の麦を出す事に反対の者は他にいるか?」
ヘンリックの言葉に手を上げるものはいなかった。おそらくヴィルタはこの会議が終わったらすぐに麦を隠す事をするだろうが、王都で買った分については領収書の写しを既に取ってある。それでも全ての麦を出させるのは難しいだろう。
とにかく王家で麦を管理すれば国民に出せる麦の量を把握出来るし、他国から支援を受けるにしても具体的な数字を出す事が出来る。
こういった時に他国はどのように乗り切っているのかエルランドに留学経験があるローゼリアならば何か知っているのかもしれない。国としても彼女を重用すべきだった。自分が私的な恋愛感情に振り回されなければ彼女は今も国に尽くしてくれただろう。
後悔するのは今更だが、こうやって国王の代理をするようになって初めてヘンリックは恋愛熱が冷めて物事を俯瞰して見る事が出来るようになっていた。父王があれほどローゼリアを手放すなと言った言葉が今なら痛いほどよく分かる。
結局その日の議会で決まった事は、エルランドを始めたとした近隣諸国へ支援を要請する親書を出す事と、各領主に必要があれば麦を出すようにいずれ王命を出すと通達する事だった。
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