裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都

文字の大きさ
56 / 70

56 密談

しおりを挟む
【ヘンリックside】

 翌日の朝、ヘンリックの元にエーヴェルトが病床にある国王をヘンリックと共に見舞いたい事を希望しているとの報告が上がった。

 ローゼリアもエーヴェルトも、フォレスター公爵家があった頃は筆頭公爵家令息と令嬢という貴族の最上位の存在でであったにもかかわらず、見た目よりもずっと大人しくて慎ましい存在だった。しかし、ここにきて兄妹で目立つ存在となっていた。

 前日の謁見の間ではエーヴェルトの言葉によって彼を支持する流れが出てきてしまったのだ。あの場でエーヴェルトに異議を唱えたのはヴィルタだけだった。

 元々の正当性はあちらにある。そして大国を後ろ盾とした場合、どちらが勝つのかは目に見えている。

 つまり彼を敵に回せば大国エルランドをも敵に回す事になるとあの場にいた誰もがそう思ったから誰も異議を申し立てる者がいなかったのだろう。

 貴族たちは今はまだ動く事を迷っていたり、時局を見てから判断しようと思っている者たちが大半だろうが、もしかしたら既にエーヴェルトに何かしらのアクションを取っている者もいるかもしれない。

 最悪の場合、王族の首を差し出してエルランドに恭順しかねない可能性だってあった。

 フォレスターを追いやったのはヴィルタだが、最初の引き金を引いたのはヘンリックなのだ。自分がマリーナに懸想をした結果、ヴィルタに付け入られて彼の立場を強いものとしてしまった。

 どうして自分はローゼリアを見ようとしなかったのだろう。成長するに従ってローゼリアが優秀だと気付いてはいたが、彼女の優秀さはあまり周りに知られていなかったし、婚約していた頃は化粧で不美人に見えていたので特に劣等感は抱いていなかった。堅苦しい話題ばかりを提供する彼女をつまらない存在だといつも思っていた。

 ローゼリアは侍女や令嬢たちと違い、ヘンリックをちやほやして持ち上げてくれるような事はなかった。自分に関心を持たない相手には自分も関心を持てない、それだけだった。

 そんな事を考えているうちに国王の私室のドアの前まできてしまった。約束の時間よりも少し早く来たので、エーヴェルトはまだ来ていないだろう。

 本来ならば病床にある国王の体調を考えるとエーヴェルトを会わせたくは無かった。国王も昼間の謁見の間での事は側近からおおよその事は聞いているだろう。しかし、エルランド王国を後ろ盾にしたエーヴェルトの要求を断る事は出来ない。

 ドアをノックすると侍女がドアを開けてくれた。近頃は寝台の上で執務をする事も多いのだが、エーヴェルトと会うためだろうか、今日の国王はソファーに座ってゆっくりとお茶を飲んでいた。

 国王の私室は薬草茶独特の強い匂いがしていた。小さい頃、薬草茶の匂いが嫌だと言ったら父王は『お前の為に長生きをしないといけないからな』と笑って頭を撫でてくれた。ヘンリックが生まれた時に国王は既に50を越えていた。たった一人きりの息子を父王は可愛がってくれた。

 ヘンリックは国王の隣の一人掛けソファーに座り、大きな父を見る。母親に似て背の低い自分はついぞ父親の身長を越える事が出来なかった。

 歳を取った父に若い頃の面影は無い。ヘンリックが物心をついた時にはもう父は老いていた。その父に心配をかけまいと、早く父に楽をさせて自分が国を動かしていくのだと思ってきた。それなのに今はこうして老体に鞭を打たせているのだと思うと胸が痛くなった。

 ドアがノックされ、廊下から『ピオシュ様がお見えになられました』とエーヴェルトに付けた侍従の声がした。

 国王の私室に入室したエーヴェルトは先ず、国王の元まで来ると片膝をついて頭を垂れた。

「エーヴェルトか、大きくなったな。お前も掛けるといい」

「失礼します」

 そう言ってエーヴェルトは国王とヘンリックの前のソファーに腰を掛けた。

「クレメンスは息災にしておるか?」

「父は今、伯父の元で過ごしております」

「そうか、お前を見ていると先のピオシュ公爵夫妻を思い出すな。私の父はお前の祖母を私の妃に迎えたがっていたが叶わなかった。父は早くからエルランドとの繋がりが重要だと考えていた。もしも先のピオシュ夫人を妻に迎える事が出来たのならお前のような子供が生まれていたのかもしれないな」

 ヘンリックは国王がエーヴェルトに親しそうな態度を見せた事に驚いていた。

「ピオシュの祖父は幼い頃から祖母一筋であったと聞いています。その祖父から祖母を取り上げる事は難しかったでしょう。孫の中でも私と妹は特に祖母によく似ていますので、離れていてもいつも祖父は私たちの事を気に掛けていたと母はよく申しておりました」

 ふと国王がそばに仕えている侍従に目配せをした。部屋にいた侍従や侍女たちは皆が示し合わせたように出て行ってしまい、国王とヘンリック、エーヴェルトの三人だけが部屋に残された。

「………愚息が申し訳なかった」

 そう言って国王はエーヴェルトに頭を下げる。ヘンリックは国王が頭を下げた事に驚いた表情を見せたが、エーヴェルトは表情も変えずに国王を見ていた。

「頭をお上げ下さい。人払いをされたのは賢明なご判断だと思います。私は我が父からの言伝と、この国に来た真の目的をお話したく参りました」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...