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55 親書の内容
【ヘンリックside】
「………これは、貴公もこの内容を知っていたのか?」
「はい、我が家も関わっている事ですので、事前に陛下からお話をいただいております」
ここでエーヴェルトが話す“陛下”はもちろんエルランド王国国王の事だ。
「こんな事っ、無理に決まっておるではないかっ!」
「お言葉ですが我が国と致しましても、援助云々といった話よりも先ずはエルランド王国の物をお返しいただけないと同じテーブルにはつけませんので」
ヘンリックを見上げるエーヴェルトの口調は淡々としていて何の感情も読み取れない。
謁見の間にいる貴族たちは親書にはどのような内容が書かれているのかが気になっていたが誰も聞けないでいた。ただ一人を除いて。
「拝見してもよろしいか」
ただ一人だけその場を動く事が出来たヴィルタ公爵は、そう言いながらヘンリックのそばまで近づく。
「これは、お前の責任だ」
ヘンリックはそう言いながらヴィルタに親書を手渡した。
受け取った親書を読み進めるうちに、己の唇を強く噛んだヴィルタの口元がへの字に曲がっていく。
「こんなものは嘘です!冤罪だっ!」
そう言って親書をくしゃりとつぶし、エーヴェルトの顔に投げつけた。
エーヴェルトは冷ややかな表情で自分の目の前に立つヴィルタを見つめる。
「私は陛下のお考えをお伝えするための使者でしかございません。そしてここで起きた事は国王陛下にお伝えいたします。せっかくランゲル王国のお歴々の方々もいらっしゃいますので、我が主であるエルランド国王陛下からのお返事を申し上げます。我が母ナタリー・ピオシュはランゲル王国へ輿入れをした際に、王妹であった祖母より宝飾品を何点か預っていました。さらに生家であるピオシュ公爵家より家具一式、ドレス数十着、宝飾品数十点も持ってきておりました。しかし、我が家が降爵の折は屋敷から一切の物の持ち出しは禁止されました。母はその事が理由で心を病み、一時期は外にも出られない状態でした」
エーヴェルトは謁見の間に集まっている貴族たちを見渡す。何も知らなかったようで驚いた顔をしている者、戸惑いの表情を浮かべている者、覚えがあるらしく青い顔をしている者と様々だった。
「私としましてはフォレスターの物はともかく、母の物はエルランド王家及びピオシュ家の物なのでお返しいただけるものだと思いましたが、結局今の今まで一点たりとも戻ってきておりません。特に祖母からの宝飾品はエルランド王家に代々受け継がれていたものもありました。輿入れ当初はフォレスターが管理をしていたのでランゲル王国との友好の証として返品を求めるつもりはありませんでしたが、フォレスターがなくなり母がエルランドに帰った以上、あれらの品々をランゲル王国が所持しているのは理にかなっていない」
元フォレスターの派閥に属していた貴族たちの何人かがエーヴェルトを縋るように見つめていたが、エーヴェルトはそれを無視した。
父が冤罪で断罪された時、見て見ぬフリをした貴族は多かった。別の派閥だった者たちはともかく、フォレスターの派閥に属していた貴族たちはこれまでフォレスターに守られてきたのだから、せめてあの時彼らが味方についていたら、家財一式まで奪われる事は無かった、とエーヴェルトは思っている。
「ランゲル王国の食糧問題も重要な事ですが、我が国エルランド王国にとっても王家や筆頭公爵家であるピオシュ家の紋章が刻まれた品々が国外に流出したままというのは国としての威信に関わります。どのような形であれ全て返して欲しいというのが我が国の意向でございます」
ヘンリックはエーヴェルトが使者としてやってきたと聞いて、フォレスターが没落した原因になった脱税事件について追及されるのだと思っていたが、まさか夫人のナタリー・ピオシュの持ち物の事を言われるとは思わなかった。
没落したフォレスターの扱いはヴィルタが積極的に動いていたので全てまかせていたが、エルランド王家やピオシュ家の紋章が入った物まで取り上げていたとは思わなかったのだ。
フォレスターだけの問題であったなら、内政不干渉だと誤魔化す手段もあったが、エルランド王家の紋章の入った物品の紛失は国際問題だ。これまでヘンリックは社交界にあまり姿を見せないナタリーの存在を軽く考えていた。どうして自分はこれまで何も考えないでのうのうと生きてきたのだろう。
ヘンリックが下を向いて震えている時、エーヴェルトは立ち上がって、壁際に佇む貴族たちに向けて話し始めた。
「あの時、フォレスターから奪ったものを全て調べて下さい。そしてこの場にいる方々の中で我が家に関する物をお持ちの方がいらっしゃったら至急返して頂きたい。エルランド王国に麦を求める前に先ず、あの時の事を思い出して下さい。私はこの国で文官としての仕事をする傍らフォレスターの決算に関する書類は13歳の頃から全て目を通してきました。書類を見た方々はここ数年は父のサインの隣に私のサインがあったから知っていたはずだ。その私の目から見てもフォレスターは国家へ納める税を誤魔化すような事はしていなかった。フォレスターが脱税をした事を証明する書類を私は見せてもらえなかった。そして我が家で領地の管理をしていた者のひとりであり、脱税をしたと証言したあの男爵家の者は行方知れずだ。今一度願うが、私にあの書類を見せてもらいたい。書かれた数字を不自然に直した箇所があるか、筆跡のおかしなところがあるのかをこの目で確かめたい」
そう言ってエーヴェルトは頭を下げた。その場にいた誰も何も言えなかった。
エーヴェルトがこの場での目的としていた事は、貴族たちに自分とフォレスターの存在を大きくアピールする事にあった。フォレスター家がなくなってからまだ3年経っていない。
自分がこうして大国エルランドを後ろ盾として再び貴族たちの前に現れる事で貴族たちは大きく揺れるだろう。
貴族たちの中にはフォレスターがまだ大きな存在として残っている事を知った上でのパフォーマンスだった。
エーヴェルトの思惑通り、貴族たちは政局の風向きが大きく変わった事を感じていた。
「………これは、貴公もこの内容を知っていたのか?」
「はい、我が家も関わっている事ですので、事前に陛下からお話をいただいております」
ここでエーヴェルトが話す“陛下”はもちろんエルランド王国国王の事だ。
「こんな事っ、無理に決まっておるではないかっ!」
「お言葉ですが我が国と致しましても、援助云々といった話よりも先ずはエルランド王国の物をお返しいただけないと同じテーブルにはつけませんので」
ヘンリックを見上げるエーヴェルトの口調は淡々としていて何の感情も読み取れない。
謁見の間にいる貴族たちは親書にはどのような内容が書かれているのかが気になっていたが誰も聞けないでいた。ただ一人を除いて。
「拝見してもよろしいか」
ただ一人だけその場を動く事が出来たヴィルタ公爵は、そう言いながらヘンリックのそばまで近づく。
「これは、お前の責任だ」
ヘンリックはそう言いながらヴィルタに親書を手渡した。
受け取った親書を読み進めるうちに、己の唇を強く噛んだヴィルタの口元がへの字に曲がっていく。
「こんなものは嘘です!冤罪だっ!」
そう言って親書をくしゃりとつぶし、エーヴェルトの顔に投げつけた。
エーヴェルトは冷ややかな表情で自分の目の前に立つヴィルタを見つめる。
「私は陛下のお考えをお伝えするための使者でしかございません。そしてここで起きた事は国王陛下にお伝えいたします。せっかくランゲル王国のお歴々の方々もいらっしゃいますので、我が主であるエルランド国王陛下からのお返事を申し上げます。我が母ナタリー・ピオシュはランゲル王国へ輿入れをした際に、王妹であった祖母より宝飾品を何点か預っていました。さらに生家であるピオシュ公爵家より家具一式、ドレス数十着、宝飾品数十点も持ってきておりました。しかし、我が家が降爵の折は屋敷から一切の物の持ち出しは禁止されました。母はその事が理由で心を病み、一時期は外にも出られない状態でした」
エーヴェルトは謁見の間に集まっている貴族たちを見渡す。何も知らなかったようで驚いた顔をしている者、戸惑いの表情を浮かべている者、覚えがあるらしく青い顔をしている者と様々だった。
「私としましてはフォレスターの物はともかく、母の物はエルランド王家及びピオシュ家の物なのでお返しいただけるものだと思いましたが、結局今の今まで一点たりとも戻ってきておりません。特に祖母からの宝飾品はエルランド王家に代々受け継がれていたものもありました。輿入れ当初はフォレスターが管理をしていたのでランゲル王国との友好の証として返品を求めるつもりはありませんでしたが、フォレスターがなくなり母がエルランドに帰った以上、あれらの品々をランゲル王国が所持しているのは理にかなっていない」
元フォレスターの派閥に属していた貴族たちの何人かがエーヴェルトを縋るように見つめていたが、エーヴェルトはそれを無視した。
父が冤罪で断罪された時、見て見ぬフリをした貴族は多かった。別の派閥だった者たちはともかく、フォレスターの派閥に属していた貴族たちはこれまでフォレスターに守られてきたのだから、せめてあの時彼らが味方についていたら、家財一式まで奪われる事は無かった、とエーヴェルトは思っている。
「ランゲル王国の食糧問題も重要な事ですが、我が国エルランド王国にとっても王家や筆頭公爵家であるピオシュ家の紋章が刻まれた品々が国外に流出したままというのは国としての威信に関わります。どのような形であれ全て返して欲しいというのが我が国の意向でございます」
ヘンリックはエーヴェルトが使者としてやってきたと聞いて、フォレスターが没落した原因になった脱税事件について追及されるのだと思っていたが、まさか夫人のナタリー・ピオシュの持ち物の事を言われるとは思わなかった。
没落したフォレスターの扱いはヴィルタが積極的に動いていたので全てまかせていたが、エルランド王家やピオシュ家の紋章が入った物まで取り上げていたとは思わなかったのだ。
フォレスターだけの問題であったなら、内政不干渉だと誤魔化す手段もあったが、エルランド王家の紋章の入った物品の紛失は国際問題だ。これまでヘンリックは社交界にあまり姿を見せないナタリーの存在を軽く考えていた。どうして自分はこれまで何も考えないでのうのうと生きてきたのだろう。
ヘンリックが下を向いて震えている時、エーヴェルトは立ち上がって、壁際に佇む貴族たちに向けて話し始めた。
「あの時、フォレスターから奪ったものを全て調べて下さい。そしてこの場にいる方々の中で我が家に関する物をお持ちの方がいらっしゃったら至急返して頂きたい。エルランド王国に麦を求める前に先ず、あの時の事を思い出して下さい。私はこの国で文官としての仕事をする傍らフォレスターの決算に関する書類は13歳の頃から全て目を通してきました。書類を見た方々はここ数年は父のサインの隣に私のサインがあったから知っていたはずだ。その私の目から見てもフォレスターは国家へ納める税を誤魔化すような事はしていなかった。フォレスターが脱税をした事を証明する書類を私は見せてもらえなかった。そして我が家で領地の管理をしていた者のひとりであり、脱税をしたと証言したあの男爵家の者は行方知れずだ。今一度願うが、私にあの書類を見せてもらいたい。書かれた数字を不自然に直した箇所があるか、筆跡のおかしなところがあるのかをこの目で確かめたい」
そう言ってエーヴェルトは頭を下げた。その場にいた誰も何も言えなかった。
エーヴェルトがこの場での目的としていた事は、貴族たちに自分とフォレスターの存在を大きくアピールする事にあった。フォレスター家がなくなってからまだ3年経っていない。
自分がこうして大国エルランドを後ろ盾として再び貴族たちの前に現れる事で貴族たちは大きく揺れるだろう。
貴族たちの中にはフォレスターがまだ大きな存在として残っている事を知った上でのパフォーマンスだった。
エーヴェルトの思惑通り、貴族たちは政局の風向きが大きく変わった事を感じていた。
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