25 / 37
第二幕
16. 秘密の求愛者-10(※三人称視点)
しおりを挟む
◆◇◆◇◆◇◆◇
「アルサメナ様!貴方様の処遇が決まりました!」
扉を開け放ったのは兵士だった。
アルサメナの追放処分の解除を伝えに来たのだ。
「なぜ……ここが……」
そんなことは知らないルヴィは、殺気立ち、隠していたナイフを両手に構える。
「かつての同業者に随分な態度だな?」
ニヤリと笑う兵の顔はルヴィの見知った顔だった。
「……王に尻尾を振った裏切り者どもに話す言葉なんてありません……」
ナイフを差し向けて今にも飛び出しかねない勢いのルヴィ。
「用があるのはお前じゃない、下がれ」
「アルサメナ様に用があるとなれば、私が引くわけには参りませんから。何があろうと、私は殿下をお守りしなくてはならない」
「邪魔をすると言うなら──」
剣を抜こうとする兵。
「"そっち"の方が話が早い──」
対して一瞬で間合いを詰めたルヴィは、片手のナイフで剣を抑え、もう片方を喉元へ突きつける。
「腕だけは変わっていないらしい、だがその細腕で」
「……そこまでだルヴィ。一応は用件を聞こうじゃないか」
「アルサメナ様!こんな奴らの話を聞くことはありません!」
「……命令が聞けないのか?」
「……かしこまりました」
ナイフを袖に収納したルヴィは、アルサメナの隣へ戻る。
「よろしいですかな、王弟殿下。貴方様は王宮への呼び出しがかかっております、我々と来て貰えますよね?」
「……ああ、どこでも行こう、それが地獄であろうとも」
「アルサメナ様……兵が無事にここに来ると言うことは……恐らく、失敗したという事ですよ……無事ではすみませんよ……?」
「良い。兄上とはいずれ決着をつけねばならない。その結果……命を落とすことになろうとも」
「……あの……もう良いでしょうか?殿下?」
何故そこまで決死の表情なのか分からない兵士は、呆れたように尋ねた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、ルヴィに顛末を伝えたアイリスは、ベルミダを探して彼女の部屋へ向かっていた。
「……まだ何か手はあるはず……幾らでも探りは入れられる……早まるな私……早まるんじゃあ、ないぞ……剣は最後……剣は最後よ……」
考えながら歩いていた彼女は、部屋の前に辿り着いている事すら気がつかず、扉へ頭を強かにぶつけた。
「ふぎゃっ!」
「騎士様……?ここで何を?」
その背に声をかけたのはベルミダだった。
「……い、いえ、なんでもありません。王よりベルミダ様の護衛を命じられましたので、参りました次第で」
「あら、そうなの。さ、お入りになって」
「え、あ、はい。しかし……」
アイリスからすれば、部屋の主でもないのに、中へ連れようとする娘に戸惑う。
「……私の護衛なのに、外にいるわけにもいかないでしょう?」
「…………え?」
微笑むその口から出た言葉をアイリスは理解することが出来なかった。
「それにもう、とぼける必要もなくってよ、王様はもう、貴方を疑う事なんてしないわ」
「──っ!」
この瞬間、アイリスは理解した。
暗号を手渡したのは、ベルミダではなく、以前話で聞いていた妹の方だったのだと。
◆◇◆◇◆◇◆◇
自身の迂闊さを後悔したアイリスだったが、もう一つ気がついた。
様子を見るに、ベルミダは暗号を妹から受け取っていない事を。
受け渡した妹は、暗号が誰から届いた物なのか察しがついていたように見えていた。
その場でナローシュではない、と言っていたのを思い出したアイリスは、この結果が持つ意味をすぐに見出した。
──アトランタが意図的に暗号を隠しているのだと。
「……あの、ベルミダ様、アトランタ様から何か受け取ってませんか……?」
「……何も」
ベルミダは妹が自分の事を好きなのだと思ったままだったので、それを隠した。
「……そうですか」
その所為でアイリスの中ではアトランタが黒であることが確定してしまった。
しかし、不可解な点が残っていた。
彼女覚えている限りでは、ナローシュはアトランタから恋文を受け取っていた。
アイリスからしてみれば、もし、王の事を好いているなら、王が無中な姉に対して贈られる恋文など、そのまま渡して不貞の証拠にした方が、よっぽど話は簡単なように思えた。
そうしない理由は何か、そう考えた時、アイリスの脳裏に浮かんだのは、姉の妨害だった。
「不躾な事をお聞きしますが、妹君とはあまり仲がよろしくないのですか?」
「……私はあの子の味方よ、それ以上でも以下でもないわ」
「失礼いたしました」
しかし、返答は予想外だった。
まさか、アルサメナに横恋慕しているとは知らないアイリスには、もはや状況が理解できなかった。
これで多少仲が悪そうならば、姉の妨害の為に隠したとしても、おかしくなかったかもしれなかったが、そうでもなさそうな様子にしか見えなかった。
ベルミダの方は、この質問でナローシュが軽々しく口を開いたのだと思い、下がり続ける彼の好感度が底を抜いてしまった。
もう考えても、分かりそうにないのでアイリスは諦めて観察をしようと決めた時──
「失礼、ベルミダ様はいらっしゃいますでしょうか、ナローシュ様がお呼びです」
戸を叩き、部屋へ現れたのは兵士。
再びナローシュから呼び出しがかかった。
「今度は何かしら、たいした用事じゃあ、ないのでしょうけど……騎士様、行きましょう?」
アイリスは混迷極まる事態に、少しでも光明が指すことを祈った。
「アルサメナ様!貴方様の処遇が決まりました!」
扉を開け放ったのは兵士だった。
アルサメナの追放処分の解除を伝えに来たのだ。
「なぜ……ここが……」
そんなことは知らないルヴィは、殺気立ち、隠していたナイフを両手に構える。
「かつての同業者に随分な態度だな?」
ニヤリと笑う兵の顔はルヴィの見知った顔だった。
「……王に尻尾を振った裏切り者どもに話す言葉なんてありません……」
ナイフを差し向けて今にも飛び出しかねない勢いのルヴィ。
「用があるのはお前じゃない、下がれ」
「アルサメナ様に用があるとなれば、私が引くわけには参りませんから。何があろうと、私は殿下をお守りしなくてはならない」
「邪魔をすると言うなら──」
剣を抜こうとする兵。
「"そっち"の方が話が早い──」
対して一瞬で間合いを詰めたルヴィは、片手のナイフで剣を抑え、もう片方を喉元へ突きつける。
「腕だけは変わっていないらしい、だがその細腕で」
「……そこまでだルヴィ。一応は用件を聞こうじゃないか」
「アルサメナ様!こんな奴らの話を聞くことはありません!」
「……命令が聞けないのか?」
「……かしこまりました」
ナイフを袖に収納したルヴィは、アルサメナの隣へ戻る。
「よろしいですかな、王弟殿下。貴方様は王宮への呼び出しがかかっております、我々と来て貰えますよね?」
「……ああ、どこでも行こう、それが地獄であろうとも」
「アルサメナ様……兵が無事にここに来ると言うことは……恐らく、失敗したという事ですよ……無事ではすみませんよ……?」
「良い。兄上とはいずれ決着をつけねばならない。その結果……命を落とすことになろうとも」
「……あの……もう良いでしょうか?殿下?」
何故そこまで決死の表情なのか分からない兵士は、呆れたように尋ねた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、ルヴィに顛末を伝えたアイリスは、ベルミダを探して彼女の部屋へ向かっていた。
「……まだ何か手はあるはず……幾らでも探りは入れられる……早まるな私……早まるんじゃあ、ないぞ……剣は最後……剣は最後よ……」
考えながら歩いていた彼女は、部屋の前に辿り着いている事すら気がつかず、扉へ頭を強かにぶつけた。
「ふぎゃっ!」
「騎士様……?ここで何を?」
その背に声をかけたのはベルミダだった。
「……い、いえ、なんでもありません。王よりベルミダ様の護衛を命じられましたので、参りました次第で」
「あら、そうなの。さ、お入りになって」
「え、あ、はい。しかし……」
アイリスからすれば、部屋の主でもないのに、中へ連れようとする娘に戸惑う。
「……私の護衛なのに、外にいるわけにもいかないでしょう?」
「…………え?」
微笑むその口から出た言葉をアイリスは理解することが出来なかった。
「それにもう、とぼける必要もなくってよ、王様はもう、貴方を疑う事なんてしないわ」
「──っ!」
この瞬間、アイリスは理解した。
暗号を手渡したのは、ベルミダではなく、以前話で聞いていた妹の方だったのだと。
◆◇◆◇◆◇◆◇
自身の迂闊さを後悔したアイリスだったが、もう一つ気がついた。
様子を見るに、ベルミダは暗号を妹から受け取っていない事を。
受け渡した妹は、暗号が誰から届いた物なのか察しがついていたように見えていた。
その場でナローシュではない、と言っていたのを思い出したアイリスは、この結果が持つ意味をすぐに見出した。
──アトランタが意図的に暗号を隠しているのだと。
「……あの、ベルミダ様、アトランタ様から何か受け取ってませんか……?」
「……何も」
ベルミダは妹が自分の事を好きなのだと思ったままだったので、それを隠した。
「……そうですか」
その所為でアイリスの中ではアトランタが黒であることが確定してしまった。
しかし、不可解な点が残っていた。
彼女覚えている限りでは、ナローシュはアトランタから恋文を受け取っていた。
アイリスからしてみれば、もし、王の事を好いているなら、王が無中な姉に対して贈られる恋文など、そのまま渡して不貞の証拠にした方が、よっぽど話は簡単なように思えた。
そうしない理由は何か、そう考えた時、アイリスの脳裏に浮かんだのは、姉の妨害だった。
「不躾な事をお聞きしますが、妹君とはあまり仲がよろしくないのですか?」
「……私はあの子の味方よ、それ以上でも以下でもないわ」
「失礼いたしました」
しかし、返答は予想外だった。
まさか、アルサメナに横恋慕しているとは知らないアイリスには、もはや状況が理解できなかった。
これで多少仲が悪そうならば、姉の妨害の為に隠したとしても、おかしくなかったかもしれなかったが、そうでもなさそうな様子にしか見えなかった。
ベルミダの方は、この質問でナローシュが軽々しく口を開いたのだと思い、下がり続ける彼の好感度が底を抜いてしまった。
もう考えても、分かりそうにないのでアイリスは諦めて観察をしようと決めた時──
「失礼、ベルミダ様はいらっしゃいますでしょうか、ナローシュ様がお呼びです」
戸を叩き、部屋へ現れたのは兵士。
再びナローシュから呼び出しがかかった。
「今度は何かしら、たいした用事じゃあ、ないのでしょうけど……騎士様、行きましょう?」
アイリスは混迷極まる事態に、少しでも光明が指すことを祈った。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの婚約者なんですけどね!
キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は王宮精霊騎士団所属の精霊騎士。
この度、第二王女殿下付きの騎士を拝命して誉れ高き近衛騎士に
昇進した。
でもそれにより、婚約期間の延長を彼の家から
告げられて……!
どうせ待つなら彼の側でとわたしは内緒で精霊魔術師団に
入団した。
そんなわたしが日々目にするのは彼を含めたイケメン騎士たちを
我がもの顔で侍らかす王女殿下の姿ばかり……。
彼はわたしの婚約者なんですけどね!
いつもながらの完全ご都合主義、
ノーリアリティのお話です。
少々(?)イライラ事例が発生します。血圧の上昇が心配な方は回れ右をお願いいたします。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。
ぐうたら令嬢は公爵令息に溺愛されています
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のレイリスは、今年で16歳。毎日ぐうたらした生活をしている。貴族としてはあり得ないような服を好んで着、昼間からゴロゴロと過ごす。
ただ、レイリスは非常に優秀で、12歳で王都の悪党どもを束ね揚げ、13歳で領地を立て直した腕前。
そんなレイリスに、両親や兄姉もあまり強く言う事が出来ず、専属メイドのマリアンだけが口うるさく言っていた。
このままやりたい事だけをやり、ゴロゴロしながら一生暮らそう。そう思っていたレイリスだったが、お菓子につられて参加したサフィーロン公爵家の夜会で、彼女の運命を大きく変える出来事が起こってしまって…
※ご都合主義のラブコメディです。
よろしくお願いいたします。
カクヨムでも同時投稿しています。
全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。
さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。
“私さえいなくなれば、皆幸せになれる”
そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。
一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。
そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは…
龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。
ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。
よろしくお願いいたします。
※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
この恋に終止符(ピリオド)を
キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。
好きだからサヨナラだ。
彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。
だけど……そろそろ潮時かな。
彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、
わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる