【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿

文字の大きさ
24 / 37
第二幕

15 秘密の求愛者-9(※三人称視点)

しおりを挟む

 落ち着いたような顔をしたアイリスは、結局剣を握りしめたままで、王宮へ戻っていった。

 ルヴィはその様子を見ていることしかできなかった。

「彼女こそ本物の狂気の持ち主だ……たかが任務の失敗一つで、決死の覚悟をするなんて……おそるべしアリストイーリス、"隣国の癇癪玉"とは斯様に恐ろしい者なのか……」

 その目に宿る、狂気を思い出しながら小屋に戻ったルヴィ。

「ルヴィ?戻ったのか?アリステラは上手くやってくれたのかい?」

 その帰りを待っていたアルサメナは、朗報を期待していた。

「……ご主人様、 逃げましょう」

 しかし、従者はアルサメナの肩を掴んで、真剣な顔をしてそう言う。

 自分達は王宮から追放されている。

 そして、これからアイリスによる殺戮が始まる。

 国内の混乱は避けられない。

 もはやこの国に留まることは危険しかない、とルヴィは早合点していた。

「……ベルミダはなんて?」

 サァッと血が頭から引けていくのを感じたアルサメナは、震えそうになるのを抑えて、何とか言葉を紡いだ。

「あなたのベルミダは王様を愛していて、彼に手紙を書いていました。……私達の行動は遅過ぎた」

 俯く従者を見てアルサメナは呆然とした。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「……な、何か勘違いしてるんじゃないか?もっと詳しく話してくれよ」

 あまりに現実味が感じられなかった彼は、酷く狼狽したまま、聞き返してしまう。

 聞き間違いか、或いは白昼夢であったことを期待して。

「いま言ったとおりです、王様を愛していて手紙を書いていたと。 これ以外に私に何を言えと言うのですか……残酷な事実しかありませんよ……」

 俯く従者を再び見たアルサメナ。

「……嘘だ、そんな馬鹿な事が……アリステラはどうした?」

 暗号を渡したはずの密偵は戻っていない。

 うっかりしているルヴィなら、間違いかもしれない、そんなことは事実ではないと訂正してくれるかもしれない。

 そんな一縷の望みを託して尋ねる。

「……まったくのほんとをお話ししたのですよ、アリステラさんは、本来の主人の命令に従う為に、王宮へ剣を握りしめて戻って行きました。……王を殺して自決するおつもりでしょう。私達は早くこの国を出なくては……」

 しかし結果は同じだった。

「この国を……!?ここにはベルミダがいるんだぞ!?だからこそ未だこうやって隠れて……!!」

 取り乱すアルサメナは、目に涙を浮かべる。

「ご主人様!聞き分けてください!貴方様は運が悪かっただけなのです!偶々王族に生まれてしまい、偶々、将軍の娘に恋してしまっただけなのです!ただ、運が悪かった!町や村に生まれたのなら、きっと幸せに暮らせたことでしょう!」

 アルサメナを抑えたルヴィもまた、涙で目を濡らしていた。

「運が悪かった……?そんな……理不尽なことが……」

「そうです、理不尽ですが、貴方の幸せはここにはなかったのです、行きましょう。何処かへ落ち着いて、幸せを探すのです。そうでなくては……私達は報われない……王宮に関わったが故、全てを失った私達は……」

 さめざめと泣きながら言うルヴィ。

「……心が空っぽになってしまったよ、ルヴィ。僕はどうしたらいいんだ」

 虚空を見つめるアルサメナは、その空白を埋めるものを、その虚空に探した。

 けれど、彼の心に映るものは何もなかった。

「私達は逃げましょう、どこか遠くへ。誰も知らない場所へ、あの狂気と背徳の渦巻く王宮の手が届かないところへ」

「ああ、そうしよう。どこかへ消えてしまいたい気分だ……付いてきてくれるか?」

「ええ、ご主人様のお望みならば、そこが地獄であろうが何処へでも参りましょう。ですが生きる望みを絶ってはいけません」 

 すぐにでも心中しようと言いかねないアルサメナの、もしくは既に心中しようと言っていたのかもしれない彼の言葉を聞いたルヴィは、言い聞かせるように、肯定と共に付け加えた。

「僕はまだこの世に希望が残っているなんて楽観はできない……ああ、誰か、人を裏切る者達を厳しく罰してはくれないのか……?」

「その刃は既に振るわれるのが決まっています、ですが、私達の物ではありません」

 アイリスが王を殺しに行ったと思っていたルヴィは、そう自身の主人に言って、安心させようとした。

「僕は無力だな……兄を止めることも出来ず、救う事も出来ず、そして殺されると分かっていて、止める事も出来ないのか。そして、愛する人に裏切られ、その相手が兄だ。……もう何もしたくない……」

 しかし、絶望に打ちひしがれるアルサメナには、自分を責める材料が増えたことにしかならなかった。

「……次の王座を狙う野心家にとっては、本来の正当継承者たるご主人様は邪魔な存在です、こんなところで絶望していては、じきにここへ刺客が──」

 そう口にした瞬間、扉が力強く開け放たれた。

「なっ──」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの婚約者なんですけどね!

キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は王宮精霊騎士団所属の精霊騎士。 この度、第二王女殿下付きの騎士を拝命して誉れ高き近衛騎士に 昇進した。 でもそれにより、婚約期間の延長を彼の家から 告げられて……! どうせ待つなら彼の側でとわたしは内緒で精霊魔術師団に 入団した。 そんなわたしが日々目にするのは彼を含めたイケメン騎士たちを 我がもの顔で侍らかす王女殿下の姿ばかり……。 彼はわたしの婚約者なんですけどね! いつもながらの完全ご都合主義、 ノーリアリティのお話です。 少々(?)イライラ事例が発生します。血圧の上昇が心配な方は回れ右をお願いいたします。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。 さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。 “私さえいなくなれば、皆幸せになれる” そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。 一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。 そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは… 龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。 ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。 よろしくお願いいたします。 ※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

処理中です...