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「ああああああああああっ!!!!」
ガバリ。
そんな効果音がぴったり当てはまるかのように、ベッドから跳ね起きる。
心臓が飛び出そうなくらいうるさい。
汗で張り付く髪や服が鬱陶しい。
息が上手く吸えなくて、手が震える。
「…………ゆ、め?」
その震える手を見て、やっと少しずつ落ち着いてきた。
ゆっくりゆっくり深呼吸を繰り返して、大きなため息を吐いて膝を抱えた。
「…………生きてる……」
生きてる。
死んでない。
上から圧し掛かってくるささくれだった木々も、自分の潰れる音も、何もかも。
「夢、だったんだぁ……」
視界がにじむ。
ぼたぼたと零れ落ちる涙をぬぐう余裕もない。
ただただ、生きてることに安心した。
生きててよかった。
死ぬのは怖い。
そんな当たり前のことを、二度目の人生にしてやっと痛感した、そんな朝だった。
「おはようございます……」
「遅い! もう朝食はないからね!」
食堂に行くと、もう誰も居なかった。
だいぶ涙を止めるのに時間がかかっちゃったからなぁ……。仕方ないか。
たとえ態度が変わったとしても、イキシアは元来優しい性分だ。
以前のような距離感で話しかけたから、一か月前のあの時は引かれてしまったけど……。きちんと適度な距離を保って話しかければ、普通に話してくれるし、ほんの少しだけど笑ってくれる。
もちろん、前みたいな目は、もうしてくれないけれど。
寂しいけれど、つきりと胸が痛むけれど、それでもイキシアと話しができる。
だから、なるべく同じ時間に食事をとるようにしてたんだけど……。
今日はどうしようもない、うん。
……けど。
「レリアは呼びに来てくれると思ったんだけどなぁ……」
ちょっとショックだ。仲良くなったと思ってたんだけどなぁ。
ストレリチア、レリアとは同年代ということもあり、けっこう仲良くしてたと思う。
そりゃもちろん思うことがたくさんありすぎる私は素直に仲良くできなかったんだけど……さすがヒロインというかなんというか。
察してくれて、こっちが不快にならない距離感を保ったまま根気よく話しかけて。いい子さ加減と彼女自身は何も悪くないという事実に私が折れた。
いや、よく考えてよ。
中身アラサーのおばちゃんに十七、十八くらいの女の子が一生懸命気を使ってくれてんだよ? 居たたまれなくてしかたなかったよね。
これでよくある鈍感ヒロインで自分の「仲良くしたい!」って意志だけ優先する子だったら嫌えたんだけどさぁ……。
しっかり私に気を使ってくれるんだもん。
そりゃ受け入れるしかないよね。
だって中身、いい歳こいたアラサーなんだもの。
「……? シスター、レリアはどうしたんですか?」
そういえばレリアが食堂にいない。
彼女は今の時間帯は朝食の跡片付けをしているはずだ。
もしかして、レリアも具合が悪いのかな? それなら私を呼びに来なかったのもうなずける。
同室だけど、今朝の私に周りを気にする余裕はなかったし。
イキシアに呼びに来てほしかったな、なんて、贅沢な思いを打ち消すように、シスターへ問いかけた。
けれど、その返答は思ってもみなかったもので。
「はあ? 何を言ってんだい、ラーレ。レリアってのは誰のことだい?」
「……は?」
──どくり。
また、心臓が嫌な音を立てる。
やめてくれ、もう私の心臓の許容範囲は超えている。朝で既にお腹いっぱいです。ライフはゼロよ。
シスターは「変な夢でもみたのかい?」なんて呆れたように言って、「昼に使うじゃがいもの皮抜きをしとくんだよ」と、いつものように雑用を押し付けて食堂を出ていく。
シスターは、綺麗な顔をしているレリアを気に入っていた。
だから、彼女視点で紡がれるゲームでは、シスターはとてもいい人だった。
だから自分に対するあたりがしこたま強くて泣いたんだけど、それは今関係なくて。
そんなシスターが、あんな嘘をつくとは思えない。
……待て待て待て、嫌な予感がする。
「おや、シスターはここにいないんですね」
朝めいっぱい掻いた汗とはまた種類の違う汗がダラダラと流れ落ちる。
知ってる、これ冷や汗っていうんでしょ。
「ラーレ? 顔色が悪……」
「神父様!!」
「わぁあ!!?」
立ち尽くす私に、神父様は心配そうに顔を覗き込んできたけれど、ごめんなさいちょっと今それどころじゃなくてですね!
「今日は! 何日ですか?!」
「はい……?? あ、ああ! ごめんなさい、ラーレ。今日は……」
──あなたの誕生日でしたね。
すいません、祝うのが遅くなりました。ちゃんとプレゼントは用意してありますからね!
なぁんてわたわたしている神父様の声が遠い。
つまり? これはアレか??
「…………ループ物、確定……?」
絶望が列を成してご来店、ってこういうことをいうんだろうな。
その後あまりの顔色の悪さに私は自室に放り込まれ、記念すべく二度目のレリアとの初めましてを交わしたのは夕飯になってからだった。
ガバリ。
そんな効果音がぴったり当てはまるかのように、ベッドから跳ね起きる。
心臓が飛び出そうなくらいうるさい。
汗で張り付く髪や服が鬱陶しい。
息が上手く吸えなくて、手が震える。
「…………ゆ、め?」
その震える手を見て、やっと少しずつ落ち着いてきた。
ゆっくりゆっくり深呼吸を繰り返して、大きなため息を吐いて膝を抱えた。
「…………生きてる……」
生きてる。
死んでない。
上から圧し掛かってくるささくれだった木々も、自分の潰れる音も、何もかも。
「夢、だったんだぁ……」
視界がにじむ。
ぼたぼたと零れ落ちる涙をぬぐう余裕もない。
ただただ、生きてることに安心した。
生きててよかった。
死ぬのは怖い。
そんな当たり前のことを、二度目の人生にしてやっと痛感した、そんな朝だった。
「おはようございます……」
「遅い! もう朝食はないからね!」
食堂に行くと、もう誰も居なかった。
だいぶ涙を止めるのに時間がかかっちゃったからなぁ……。仕方ないか。
たとえ態度が変わったとしても、イキシアは元来優しい性分だ。
以前のような距離感で話しかけたから、一か月前のあの時は引かれてしまったけど……。きちんと適度な距離を保って話しかければ、普通に話してくれるし、ほんの少しだけど笑ってくれる。
もちろん、前みたいな目は、もうしてくれないけれど。
寂しいけれど、つきりと胸が痛むけれど、それでもイキシアと話しができる。
だから、なるべく同じ時間に食事をとるようにしてたんだけど……。
今日はどうしようもない、うん。
……けど。
「レリアは呼びに来てくれると思ったんだけどなぁ……」
ちょっとショックだ。仲良くなったと思ってたんだけどなぁ。
ストレリチア、レリアとは同年代ということもあり、けっこう仲良くしてたと思う。
そりゃもちろん思うことがたくさんありすぎる私は素直に仲良くできなかったんだけど……さすがヒロインというかなんというか。
察してくれて、こっちが不快にならない距離感を保ったまま根気よく話しかけて。いい子さ加減と彼女自身は何も悪くないという事実に私が折れた。
いや、よく考えてよ。
中身アラサーのおばちゃんに十七、十八くらいの女の子が一生懸命気を使ってくれてんだよ? 居たたまれなくてしかたなかったよね。
これでよくある鈍感ヒロインで自分の「仲良くしたい!」って意志だけ優先する子だったら嫌えたんだけどさぁ……。
しっかり私に気を使ってくれるんだもん。
そりゃ受け入れるしかないよね。
だって中身、いい歳こいたアラサーなんだもの。
「……? シスター、レリアはどうしたんですか?」
そういえばレリアが食堂にいない。
彼女は今の時間帯は朝食の跡片付けをしているはずだ。
もしかして、レリアも具合が悪いのかな? それなら私を呼びに来なかったのもうなずける。
同室だけど、今朝の私に周りを気にする余裕はなかったし。
イキシアに呼びに来てほしかったな、なんて、贅沢な思いを打ち消すように、シスターへ問いかけた。
けれど、その返答は思ってもみなかったもので。
「はあ? 何を言ってんだい、ラーレ。レリアってのは誰のことだい?」
「……は?」
──どくり。
また、心臓が嫌な音を立てる。
やめてくれ、もう私の心臓の許容範囲は超えている。朝で既にお腹いっぱいです。ライフはゼロよ。
シスターは「変な夢でもみたのかい?」なんて呆れたように言って、「昼に使うじゃがいもの皮抜きをしとくんだよ」と、いつものように雑用を押し付けて食堂を出ていく。
シスターは、綺麗な顔をしているレリアを気に入っていた。
だから、彼女視点で紡がれるゲームでは、シスターはとてもいい人だった。
だから自分に対するあたりがしこたま強くて泣いたんだけど、それは今関係なくて。
そんなシスターが、あんな嘘をつくとは思えない。
……待て待て待て、嫌な予感がする。
「おや、シスターはここにいないんですね」
朝めいっぱい掻いた汗とはまた種類の違う汗がダラダラと流れ落ちる。
知ってる、これ冷や汗っていうんでしょ。
「ラーレ? 顔色が悪……」
「神父様!!」
「わぁあ!!?」
立ち尽くす私に、神父様は心配そうに顔を覗き込んできたけれど、ごめんなさいちょっと今それどころじゃなくてですね!
「今日は! 何日ですか?!」
「はい……?? あ、ああ! ごめんなさい、ラーレ。今日は……」
──あなたの誕生日でしたね。
すいません、祝うのが遅くなりました。ちゃんとプレゼントは用意してありますからね!
なぁんてわたわたしている神父様の声が遠い。
つまり? これはアレか??
「…………ループ物、確定……?」
絶望が列を成してご来店、ってこういうことをいうんだろうな。
その後あまりの顔色の悪さに私は自室に放り込まれ、記念すべく二度目のレリアとの初めましてを交わしたのは夕飯になってからだった。
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