【完結済】ラーレの初恋

こゆき

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 原作が、始まった。
 それと同時に起こった、変化。

 ストレリチア……レリアがやってきて、そろそろ一か月が経つ。
 彼女はすっかり教会に馴染んでいた。

 まるで、最初からこの教会にいたかのように。

「いや、レリアの順応能力高すぎでしょ」

 あとコミュ力。

 ブチ。
 雑草を引っこ抜きながら思わず本音が口をつく。

 ゲームをしている時から馴染むの早いなぁとは思ってたんだ。
 実際に現場にいるとつくづく実感するよね。

 ストレリチア。通称レリア。
 鮮やかなオレンジの瞳と柔らかい青の髪を持つ美少女。
 実は王家の落胤で、王家に伝わる浄化の唄声をもつヒロイン。
 性格は少しお転婆だが、コロコロと表情の変わる明るい子だ。

 いや、ほんっっっっっっとにいい子なんだわこれが。

 よく乙女ゲームのヒロインは「いい子過ぎて無理」とか「鈍感すぎてイライラする」とか言われることも多いじゃん?
 ぶっちゃけ私も鈍感すぎたり話に矛盾ありすぎて言ってることがブレ過ぎたりしてるヒロインはあまり好きじゃなかった。
 まあ、後者はヒロインが、というよりストーリーのせいなんだけど。

 え、性格が悪い? それ褒め言葉ね。

 まぁ、それはさておき。つまりだ。
 レリア、現実で接すると文句なしにいい子過ぎて辛い。

「そりゃぁ皆好きになるわけだぁ……」

 ブチブチと雑草を抜いては袋に放り込みを繰り返す。
 単純作業って独り言増えるよね~。そもそもこれ、私の仕事じゃなくてシスターのだし。今日も今日とて立派にいびられてます。

 よっこいしょ、なんて掛け声をかけて、雑草がパンパンに詰まった袋を肩に担いだ。
 ……前は、イキシアが手伝ってくれてたのになぁ。

 レリアがやってきて起こった変化。
 それは「まるで最初からいたかのように」馴染んだレリアの存在だけじゃなかった。

 言わずもがな、所謂「攻略対象者」達に起こった、私への態度の変化だ。

 一瞬前世で読んでたざまあ系小説みたいにレリアの中身が違うのか!? と身構えもしたけど、そんな素振り一切なし。
 むしろ今の教会の主要キャラで一番私に優しいのはレリアだと思う。これで演技だったら私泣く。というか人間不信なる。

 つまり、レリアが何かしたわけではなく、純粋に「原作が始まったから」彼らの態度が変わった、ということだ。

「……いや、意味わからん」

 どさっ。
 マシロのいる小屋の奥へと袋を降ろして、肩を回した。この雑草たちはあとで町の農家さんたちが肥料にしてくれるんだって。ありがたや。

「にゃう」
「マシロ!」

 ああ、お前は相変わらず可愛いねマシロ。私の天使。

 足にすり寄ってきたマシロを愛でながら、ぼんやりと考えを口に出して整理していく。
 こんなこと教会じゃあ言えないからなぁ……。ここはボロボロすぎて人がめったに来ないから、こういう考え事にはもってこいだ。

 イキシアたちの変化。
 それがレリアのしたことじゃないのは分かった。

「けど、じゃぁ、なんで皆の態度があんなに変わったんだろう?」
「にう?」

 よくある嫌われとかでもない。
 そう、それは、まるで…….

「私と過ごした、記憶が、消えた……?」
「しゃーーー!!」
「マシロ!?」

 みしっ。

 ポロリと口からその言葉が零れ落ちたその瞬間。
 マシロが急に威嚇の声を上げて、小屋から飛び出した。
 そして、耳に響く木の押し潰される音。

 ──思い出した。

「あ……やば、逃げな、きゃ」

 マシロを匿うために、奥の方へと来ていたのが悪かった。出入り口が遠い。
 走り出して、けれど、自分が置いた袋が邪魔をする。
 つまずいて、足がもつれて、倒れこんで。

 その間にも、木々の悲鳴は大きくなっていく。

 思い出した。
 これは、この日は。

「小屋の崩落に巻き込まれ、て、亡くなった……!」


 シスターを悼むために、レリアが初めて能力を披露する日──!


 だめ、まだ死ねない。
 だって、私、まだ、イキシアに何も伝えられてない。

 立ち上がって、また走ろうとして、その瞬間。
 上から降ってきた、重たい木材たちに、私の記憶は掻き消えた。

 意識が途絶える、その瞬間。
 鐘の音が、聞こえた気がした。
 
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