塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

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第三部

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 バルバラ以外の侍女や乳母は通いだったから事情を知らなかった。だからわたしのことを見捨てられた子だと同情して憐れんでいたのだ。
 王妃は当時王宮を我が物のように牛耳っていた宰相の娘だった。側妃の産んだ子が王子だったと知れれば何をされるかわからない。だからマルク王はカミーユを王女として育てることに同意していたのだという。いずれなんとかして市井で暮らせるようにしてやりたいと。
 そのころ、王宮を囲む状況は悪化していた。次々に起きる災害、貴族による亜人への迫害、重税に対する民の反感、暴動、治安の悪化。
 若くして即位したマルク王は宰相たちに相談しながら自分で政治を行うつもりだったが、気づいたら重臣たちによって重要な場から遠ざけられ、王は世継ぎを設けるのが仕事だと、政治に関わることができなくなった。
 もともとは詩歌や読書を好む穏やかな気質だったマルク王は、それでも何とか民のために手を尽くそうと努力しては挫折を繰り返していた。彼にはあまりに味方が少なく、そして若さゆえに侮られていた。
 民が穏やかに暮らせる国を作りたいのに、貴族たちは民からその余裕さえ奪い取るように搾取して、自分たちだけが贅を尽くしている。いずれこの国は滅びるだろうと言っていた。
 暴動が各地で激化して、王都に押し寄せてくるようになると、貴族たちは王宮から逃げ出して屋敷や領地にこもってしまった。王は使用人たちには民に紛れて逃げるように命じて、わずかな部下たちになんとか暴徒の説得を試みさせた。それも空しく、王宮に暴徒がなだれ込んだ。

「……当時の事件には全てドミニク三世を即位させたい反国王派の貴族たちが関わっていました。噂によって民を扇動し、王は偽物だと騒ぎ立てていたのです。マルク王は王家の瞳を持たぬ、神を欺いた偽王だから処罰されねばならないと……」
 バルバラは俯いた。
「私はシーニュの民ではないし、マルク王の臣下でもありません。私から見たらマルク王はごく普通の真面目な若者でした。不器用で繊細でそして争いを好まなかった。亜人を見下しているという噂もありましたが、私はそうは思いません。初めてお会いした時に、『ダイモスの王からお国の詩集を送っていただいたことがある。亜人の表現というのは実にのびのびして逞しく、羨ましいと思った』とおっしゃっていました。ディマンシュの事件もあの方が命じたとは思えません……けれど、当時はそれを口にすることはできなかった」
 もしバルバラが喋っていたら、彼女はドミニク三世に対する叛意ありと処刑されていただろう。そうなったらカミーユの側には誰もいなくなる。
 母の実家も目をつけられていたから近づくことを禁じられ、カミーユの助命を訴えるくらいしかできなかった。
 人々はドミニク三世の即位を喜び、熱狂していた。誰も味方はいなかったのだ。
 だからバルバラは一人で全てを抱え込んで、カミーユをマルク王の子にふさわしい者に育てようとしていたのだ。いつか、マルク王の名誉が回復されると願って。
「……今までそれを教えてくれなかったのは、わたしが幼かったから?」
「子供というのは良くも悪くも正直です。あなた様がうっかりとドミニク三世の悪口など口にすれば何をされるかわからない。マルク王も真実など教えなくてもいいと仰せでした」
 教えてくれても良かったのに。塔の中ならいくらでもその時間はあったのに。
 いや、教えてもらっても、あの頃のわたしだったら何もできない自分を嘆いて絶望したかもしれない。
「バルバラは……わたしの父上に最後に会ったのはいつだったの?」
「暴徒が王宮に押し寄せていたころでした。何かあれば使用人に紛れて逃げろと……ダイモスでもどこでもいいから……。おそらくもう手遅れだとご存じだったのでしょう」
 夜遅く訪ねてきたマルク王はバルバラにそう命じた。
『民の怒りは当然だろう。私は無能な王だった。力が足りなかった。せめて怒りの矛先になるのが私の役目だ。ドミニクは私の立場を羨んでいたが、この場に立てば王など楽なものではないと知るだろう。愚かなことだ』
 知られていたマルク王は相次ぐ暴動の対応に疲れ、バルバラの目から見てもわかるほど痩せ衰えていた。それすらも放蕩していたからだと叩かれていた。
「逃げ出すことはかないませんでした。ドミニクは離宮の場所を知っていて、一番にカミーユ様の身柄を押さえたのです。おそらくは彼は得られなかった【祝福】にまだ固執していたのでしょう」
 カミーユは思わず身を震わせた。
 王女が殺されなかった理由。そしてカミーユだけが王都から離れた地で幽閉された理由。
 ……叔父上がわたしを側妃にしたいと言ってきたのはそれが理由なのか。世間から遠ざけて育てて、叔父上の言いなりになるようにしてから手元に呼び寄せるつもりだったのか。
 ダイモス王国からの縁談がなければ、本当にそうなっていた。
「……バルバラ。もし、わたしが本当に王女であの人の側妃にされたら、【祝福】を与えることになったんだろうか?」
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