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第三部
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「……何か大変だったんだって? バルバラからちょっと聞いたんだけど」
その夜、寝室に戻ってきたアレクがそう言いながら思い出し笑いをしていた。
「笑わないで。本当に大変だったんだから」
カミーユが贈ったハンカチを家宝にすると騒ぎ立てるエルネストを護衛たちがなんとか宥めて落ち着かせるまで、かなり大変だった。
その時バルバラの孫だというジョエルとも少し話をしたのだけれど、バルバラとは幼い頃に会ったきりで騎士であった父をボコボコに負かした怖い人という記憶だけだったらしい。
ロラン王子の護衛で当分こちらに滞在するからバルバラに稽古をつけて欲しいとキラキラした目で言っていた。バルバラの稽古の容赦なさを知っているカミーユは彼を尊敬すると同時に少しだけ同情した。
「ごめんごめん。今回は一人で頑張りたいって言ってたから、これでも心配してたんだよ。でもちゃんと話せてよかったじゃない」
「そうなんだけど……何か予想以上にややこしくて」
ロラン王子とエルネストが接近していることがドミニク三世に知れれば、どうなるのか。
それに、彼らが関心を向けているディマンシュの虐殺事件。あの裏に何かあったんだろうか。
「ディマンシュの虐殺かあ……。なんかね、全部が綺麗に片付いたあとに公表された感があるんだよね……。あれが作為だったってことになると、マルク王の印象も変わってくる。だからロラン殿下は一緒に調べないか、って言いたかったんだね」
「ただ、あの方がダイモスに留学するのなら、誰か他の人がこっそり調査を継続しているってことだし、その内一人がエルネスト叔父上ということなのかな」
「うん。多分ね。侯爵の気がかりだったカミーユは今ダイモスにいる。塔にいた間は手出しできなかっただろうけど、今は違う」
そうか。わたしが塔から出たからエルネスト叔父上は本格的に動きだしたのかもしれない。……わたしの母の名誉回復のために。
「……危ない事をなさるのは心配だな……」
アレクはカミーユの呟きを聞いてそっと頬にキスをした。
「大丈夫だよ。あのハンカチを渡したのなら、きっと君の【祝福】が彼を守るだろう。その実効は僕が証明済みだ」
「そうならいいな……。わたしにできるのはそれだけだし」
「とりあえず、楽しいことを考えよう? 先の心配ばかりしていたら、苦しくなるよ」
アレクはそう言ってカミーユをベッドに座らせて、その隣に来る。
「楽しいこと?」
「とりあえず立王太子式がおわって一段落したら、新婚旅行に行くと父上に交渉してる。もし良かったらカミーユも冒険者登録しない?」
「わたしが?」
「冒険者登録は偽名でもできるから。僕だって『アレク』だし。まあ、領地の人たちは知ってるけどね。瞳の色をかくしていれば、シーニュとの関わりを指摘されることはないだろうから、男装で大丈夫だし。その辺は考えておくから」
冒険者。物語の中でしか知らないけれど、アレクは実際に冒険者として働いていたのだから、詳しいのだろう。自分の剣の腕がどれほど通用するのかはわからないけれど、存分に身体を動かせるのは楽しそうに思えた。
「やりたい。わたしにもできるだろうか」
「一応登録時に適性試験はあるけど、大丈夫だよ。二人であちこち依頼をこなしながら回るのは楽しそうでしょ?」
カミーユの反応にアレクは満足げに笑う。そしてカミーユの腰に手を伸ばしてきた。
「でも、国王陛下のお許しは出るの? この間まで王都にいなかったんでしょう?」
「執務については定期的に転送魔法で領地に送ってくるし、僕が出なくてはならない行事の時は戻る約束にしてる。どうせ社交シーズンになったら王都から動けなくなるんだから今のうちだよ」
「それじゃアレクが大変だよ。わたしに手伝えることはない?」
カミーユがアレクの顔を覗き込むと、彼は何かを思い出したように一瞬目線を外した。
「あー……そうだった。カミーユに相談しなきゃって思ってたんだよ」
「相談?」
「君に決闘申し込みが届いている。レイモンドの婚約者のマーガレット嬢と数人のご令嬢の連名で」
カミーユは首を傾げた。
決闘申し込みとは? 初めて聞く単語だった。
この国では問題を決闘で解決することが多いとは聞いていたけれど、案内状みたいなノリで決闘を申し込んで来るのだろうか。
けれどそのマーガレット嬢というのが誰なのかわからない。
「わたしはそのご令嬢に何か失礼をしたんだろうか?」
アレクは困った様子で眉を下げた。
「それが、レイモンドが王太子になれなかったから、自分は将来王妃になるために努力してきたのが水の泡になった。だからせめて妃としては自分が優秀なんだと周囲に知らしめたいから勝負しろってことらしい。他のご令嬢たちも、レイモンドの愛人を狙っていたらしい」
「……それはわたしに責任があることなんだろうか」
レイモンドが王太子になれなかったのは儀式の結果だ。しかも彼は禁じられた毒を持ち込んだりしたことが知れて立場が悪くなっている。自業自得だけれど本人も死にかけてアレクに助けられたことから、あれからはなりを潜めている。
それまではアレクを押しのけて王太子になるのが確実だと言われていたらしくて、大勢の貴族たちが彼に阿っていたのだとか。だから婚約者の令嬢は王妃になれると思い込んでいたのだろう。それをぽっと出の人族などに奪われたと……?
いや、わたしは何もしていないのでは?
「単なる逆恨みなんだけどね。ご婦人はやれ舞踏会でドレスのデザインが被ったとか、ダンスの順番を守らなかったとか、そういうことで決闘しちゃうからね……。まあ、大概はどちらも代理人を立てて行うから」
「……」
カミーユはそれを聞いて頭が痛くなってきた。
「ということはご令嬢本人が出てくるわけじゃないんだ?」
「そう。お抱えの格闘士とか騎士とか連れてくるから侮れないよ? まあ、バルバラみたいな例もあるけどね。もちろんカミーユも代理人を立ててもいい。僕が出ても構わない」
「代理人なんて要らない。わたしが出る」
カミーユは迷わず答えた。決闘と言われれば物騒だけれど、武術の試合だと思えば強い相手と戦えるのは良い機会だ。
若い女性に剣を向けるのはためらいがあるけれど、向こうが代理人に屈強な者を出してくるのなら遠慮しなくていい。
だってわたしはバルバラ以外と剣を交えたことがないのだもの。王太子妃という立場だったら武術大会があったとしても、おそらく観覧席で観ているだけの立場になる。
「わたしが出て戦うことで、か弱い人族の妃を娶ったとアレクを侮る者が減るだろう」
アレクが小さく吹きだした。
「そう言うと思った……。」
「だって正式な試合をしてみたかったんだ。わたしは自分がどの程度剣が使えるのか試してみたいし。鍛錬の励みになる」
アレクは笑みを浮かべて頷いた。
「わかった。それじゃ向こうに返答しておく」
「あ、だけど、あの王位継承者決定みたいな大きな場所でするわけじゃないよね?」
「そうだね。私的な決闘は裁判所に隣接された決闘場で立ち会い人のみで行うことになってるから。ただ、内容的に立ち会い希望は多いだろうね。大丈夫かい?」
カミーユは少し考え込んだ。
大勢の群衆を目にすると過去を思い出して怖くなる。けれど、これも克服しなくてはと思う。これからアレクと一緒に生きていくのなら、人前に出ることは必須になるのだから。
「アレクも立ち会ってくれる?」
「もちろん」
緑色の瞳を柔らかく細めて、アレクが即答する。
「だったら大丈夫」
一人でも自分の味方がいるのなら、あの時とは違う。カミーユはアレクの顔を見つめて答えた。
「アレクがいるのなら、わたしはいくらでも強くなれるんだ」
そう言ったら抱き寄せられて、頬に唇が触れてきた。目を伏せると今度は唇が重なる。
一頻り口づけを繰り返してから、アレクがカミーユの頬を撫でながら告げてくる。
「でも、ほどほどにしてね? あんまり強くなったら、夫婦げんかなんてできなくなっちゃうよ」
「そんなことないでしょう? アレクのご両親を見ていたら、か細いグレンダ妃の方が強そうだもの。……それに、アレクが言ったじゃないか。閨事で会話をするのだと。喧嘩よりその方が平和じゃない?」
ちょっとはしたないだろうか、と思いながらカミーユはアレクに問いかけた。
せっかく二人きりで寝室にいるのだから、そちらの会話もしたいと思ってしまう。閨事を強請るのは恥ずかしくて、まっすぐには口にできないけれど。
「そうだね。じゃあそうしようか。もっと仲良くなれるだろうし」
アレクの手がゆっくりとカミーユをベッドに押し倒した。
「可愛いカミーユ。……閨事と口にするだけでそんなにまっ赤になって。僕の理性をどこまで吹き飛ばすつもりなの?」
そんなのわからない。けれど、肌を重ねて誰よりも近くにアレクを迎える行為を知って、それが自分の求めていたことだと気づいた。
……わたしは愛されたかった。肉親に、そして周りの人たちに。
決して愛されていなかったわけではなかったのだろう。父も母もわたしを案じてくれていたと聞いたときは嬉しかった。母の実家の人たちもわたしのことを気にかけていたと知ることができた。
けれど、それを実感できるような記憶をカミーユは持たなかった。閉じこめられて外界と遮断された暮らししか知らなかった。
愛してくれていた人がいたのなら、その人を愛したかった。それができなかった。
その後悔があるから、もっとアレクと愛し合いたいと強く思う。
「……わたしはアレクに愛されたい。そして、アレクを愛したい。それだけだから」
「ああもう、負けました。僕の負けだよ」
アレクがわずかに身体を震わせたような気がした。被さってくる身体をカミーユは両腕で迎え入れるように受け止めた。
その夜、寝室に戻ってきたアレクがそう言いながら思い出し笑いをしていた。
「笑わないで。本当に大変だったんだから」
カミーユが贈ったハンカチを家宝にすると騒ぎ立てるエルネストを護衛たちがなんとか宥めて落ち着かせるまで、かなり大変だった。
その時バルバラの孫だというジョエルとも少し話をしたのだけれど、バルバラとは幼い頃に会ったきりで騎士であった父をボコボコに負かした怖い人という記憶だけだったらしい。
ロラン王子の護衛で当分こちらに滞在するからバルバラに稽古をつけて欲しいとキラキラした目で言っていた。バルバラの稽古の容赦なさを知っているカミーユは彼を尊敬すると同時に少しだけ同情した。
「ごめんごめん。今回は一人で頑張りたいって言ってたから、これでも心配してたんだよ。でもちゃんと話せてよかったじゃない」
「そうなんだけど……何か予想以上にややこしくて」
ロラン王子とエルネストが接近していることがドミニク三世に知れれば、どうなるのか。
それに、彼らが関心を向けているディマンシュの虐殺事件。あの裏に何かあったんだろうか。
「ディマンシュの虐殺かあ……。なんかね、全部が綺麗に片付いたあとに公表された感があるんだよね……。あれが作為だったってことになると、マルク王の印象も変わってくる。だからロラン殿下は一緒に調べないか、って言いたかったんだね」
「ただ、あの方がダイモスに留学するのなら、誰か他の人がこっそり調査を継続しているってことだし、その内一人がエルネスト叔父上ということなのかな」
「うん。多分ね。侯爵の気がかりだったカミーユは今ダイモスにいる。塔にいた間は手出しできなかっただろうけど、今は違う」
そうか。わたしが塔から出たからエルネスト叔父上は本格的に動きだしたのかもしれない。……わたしの母の名誉回復のために。
「……危ない事をなさるのは心配だな……」
アレクはカミーユの呟きを聞いてそっと頬にキスをした。
「大丈夫だよ。あのハンカチを渡したのなら、きっと君の【祝福】が彼を守るだろう。その実効は僕が証明済みだ」
「そうならいいな……。わたしにできるのはそれだけだし」
「とりあえず、楽しいことを考えよう? 先の心配ばかりしていたら、苦しくなるよ」
アレクはそう言ってカミーユをベッドに座らせて、その隣に来る。
「楽しいこと?」
「とりあえず立王太子式がおわって一段落したら、新婚旅行に行くと父上に交渉してる。もし良かったらカミーユも冒険者登録しない?」
「わたしが?」
「冒険者登録は偽名でもできるから。僕だって『アレク』だし。まあ、領地の人たちは知ってるけどね。瞳の色をかくしていれば、シーニュとの関わりを指摘されることはないだろうから、男装で大丈夫だし。その辺は考えておくから」
冒険者。物語の中でしか知らないけれど、アレクは実際に冒険者として働いていたのだから、詳しいのだろう。自分の剣の腕がどれほど通用するのかはわからないけれど、存分に身体を動かせるのは楽しそうに思えた。
「やりたい。わたしにもできるだろうか」
「一応登録時に適性試験はあるけど、大丈夫だよ。二人であちこち依頼をこなしながら回るのは楽しそうでしょ?」
カミーユの反応にアレクは満足げに笑う。そしてカミーユの腰に手を伸ばしてきた。
「でも、国王陛下のお許しは出るの? この間まで王都にいなかったんでしょう?」
「執務については定期的に転送魔法で領地に送ってくるし、僕が出なくてはならない行事の時は戻る約束にしてる。どうせ社交シーズンになったら王都から動けなくなるんだから今のうちだよ」
「それじゃアレクが大変だよ。わたしに手伝えることはない?」
カミーユがアレクの顔を覗き込むと、彼は何かを思い出したように一瞬目線を外した。
「あー……そうだった。カミーユに相談しなきゃって思ってたんだよ」
「相談?」
「君に決闘申し込みが届いている。レイモンドの婚約者のマーガレット嬢と数人のご令嬢の連名で」
カミーユは首を傾げた。
決闘申し込みとは? 初めて聞く単語だった。
この国では問題を決闘で解決することが多いとは聞いていたけれど、案内状みたいなノリで決闘を申し込んで来るのだろうか。
けれどそのマーガレット嬢というのが誰なのかわからない。
「わたしはそのご令嬢に何か失礼をしたんだろうか?」
アレクは困った様子で眉を下げた。
「それが、レイモンドが王太子になれなかったから、自分は将来王妃になるために努力してきたのが水の泡になった。だからせめて妃としては自分が優秀なんだと周囲に知らしめたいから勝負しろってことらしい。他のご令嬢たちも、レイモンドの愛人を狙っていたらしい」
「……それはわたしに責任があることなんだろうか」
レイモンドが王太子になれなかったのは儀式の結果だ。しかも彼は禁じられた毒を持ち込んだりしたことが知れて立場が悪くなっている。自業自得だけれど本人も死にかけてアレクに助けられたことから、あれからはなりを潜めている。
それまではアレクを押しのけて王太子になるのが確実だと言われていたらしくて、大勢の貴族たちが彼に阿っていたのだとか。だから婚約者の令嬢は王妃になれると思い込んでいたのだろう。それをぽっと出の人族などに奪われたと……?
いや、わたしは何もしていないのでは?
「単なる逆恨みなんだけどね。ご婦人はやれ舞踏会でドレスのデザインが被ったとか、ダンスの順番を守らなかったとか、そういうことで決闘しちゃうからね……。まあ、大概はどちらも代理人を立てて行うから」
「……」
カミーユはそれを聞いて頭が痛くなってきた。
「ということはご令嬢本人が出てくるわけじゃないんだ?」
「そう。お抱えの格闘士とか騎士とか連れてくるから侮れないよ? まあ、バルバラみたいな例もあるけどね。もちろんカミーユも代理人を立ててもいい。僕が出ても構わない」
「代理人なんて要らない。わたしが出る」
カミーユは迷わず答えた。決闘と言われれば物騒だけれど、武術の試合だと思えば強い相手と戦えるのは良い機会だ。
若い女性に剣を向けるのはためらいがあるけれど、向こうが代理人に屈強な者を出してくるのなら遠慮しなくていい。
だってわたしはバルバラ以外と剣を交えたことがないのだもの。王太子妃という立場だったら武術大会があったとしても、おそらく観覧席で観ているだけの立場になる。
「わたしが出て戦うことで、か弱い人族の妃を娶ったとアレクを侮る者が減るだろう」
アレクが小さく吹きだした。
「そう言うと思った……。」
「だって正式な試合をしてみたかったんだ。わたしは自分がどの程度剣が使えるのか試してみたいし。鍛錬の励みになる」
アレクは笑みを浮かべて頷いた。
「わかった。それじゃ向こうに返答しておく」
「あ、だけど、あの王位継承者決定みたいな大きな場所でするわけじゃないよね?」
「そうだね。私的な決闘は裁判所に隣接された決闘場で立ち会い人のみで行うことになってるから。ただ、内容的に立ち会い希望は多いだろうね。大丈夫かい?」
カミーユは少し考え込んだ。
大勢の群衆を目にすると過去を思い出して怖くなる。けれど、これも克服しなくてはと思う。これからアレクと一緒に生きていくのなら、人前に出ることは必須になるのだから。
「アレクも立ち会ってくれる?」
「もちろん」
緑色の瞳を柔らかく細めて、アレクが即答する。
「だったら大丈夫」
一人でも自分の味方がいるのなら、あの時とは違う。カミーユはアレクの顔を見つめて答えた。
「アレクがいるのなら、わたしはいくらでも強くなれるんだ」
そう言ったら抱き寄せられて、頬に唇が触れてきた。目を伏せると今度は唇が重なる。
一頻り口づけを繰り返してから、アレクがカミーユの頬を撫でながら告げてくる。
「でも、ほどほどにしてね? あんまり強くなったら、夫婦げんかなんてできなくなっちゃうよ」
「そんなことないでしょう? アレクのご両親を見ていたら、か細いグレンダ妃の方が強そうだもの。……それに、アレクが言ったじゃないか。閨事で会話をするのだと。喧嘩よりその方が平和じゃない?」
ちょっとはしたないだろうか、と思いながらカミーユはアレクに問いかけた。
せっかく二人きりで寝室にいるのだから、そちらの会話もしたいと思ってしまう。閨事を強請るのは恥ずかしくて、まっすぐには口にできないけれど。
「そうだね。じゃあそうしようか。もっと仲良くなれるだろうし」
アレクの手がゆっくりとカミーユをベッドに押し倒した。
「可愛いカミーユ。……閨事と口にするだけでそんなにまっ赤になって。僕の理性をどこまで吹き飛ばすつもりなの?」
そんなのわからない。けれど、肌を重ねて誰よりも近くにアレクを迎える行為を知って、それが自分の求めていたことだと気づいた。
……わたしは愛されたかった。肉親に、そして周りの人たちに。
決して愛されていなかったわけではなかったのだろう。父も母もわたしを案じてくれていたと聞いたときは嬉しかった。母の実家の人たちもわたしのことを気にかけていたと知ることができた。
けれど、それを実感できるような記憶をカミーユは持たなかった。閉じこめられて外界と遮断された暮らししか知らなかった。
愛してくれていた人がいたのなら、その人を愛したかった。それができなかった。
その後悔があるから、もっとアレクと愛し合いたいと強く思う。
「……わたしはアレクに愛されたい。そして、アレクを愛したい。それだけだから」
「ああもう、負けました。僕の負けだよ」
アレクがわずかに身体を震わせたような気がした。被さってくる身体をカミーユは両腕で迎え入れるように受け止めた。
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