差し出された毒杯

しろねこ。

文字の大きさ
19 / 36

応援と決心

しおりを挟む
「ミューズ様、ちょっとエリック様のひと押しが強引すぎましたが、何となく自分の心の内に気づけましたか?」
レナンが優しく声を掛ける。

ミューズは少し頬を赤らめ、困ったように眉尻を下げ、俯いた。

ミューズの髪を撫でると、レナンは力強く励ます。

「あなたをいじめたエリック様は、わたくしが責任持って懲らしめます!ですのでどうか気を悪くせず、自分の気持ちに正直になり、安心してわたくしの妹になってください」

「レナン様、お気持ちだけで結構ですよ。でもありがとうございます」
レナンなら本当にエリックを懲らしめそうと思ってしまった。

その言葉を聞いていたエリックの苦笑いが見える。

「そういうわけだ、ミューズ嬢。俺はこれから懲らしめられるそうなので、ティタンにきちんと本音を伝えるんだぞ。他の女性についての話を出した時に、嫌だと思っただろ?それが君の本心だ」
エリックがミューズに近づいた。

思わず警戒して体を強張らせてしまう。

「日常というものは呆気なく壊れる。言いたいことは早めに言ったほうがいい。後悔なきようにな」
ミューズに耳打ちすれば、レナンがむすっとする。

「これ以上ミューズ様をいじめたら、本気で怒りますよ」

「いじめたのではなく、助言しただけだよ」
レナンがエリックの腕を掴んで、引きずるように引っ張っていく。

「レナン様あたしも行きます。ニコラ、グズグズするな」

「キュアも女性ばかりに優しくするのではなくて、同僚にもたまには労りの言葉くらいかけて下さいよ。それではティタン様、失礼します」
ニコラがフラフラと立ち上がり、一同が部屋の外へと向かう。

「ティタン」

「なんですか?」
ドアを閉じる前にエリックはティタンに声を掛けた。

「準備は整えた。結果報告がてら、後で俺のところに来てくれ。一発殴りたいならその時で」
ニコラの表情が引き攣る。

庇い立てまでしたのにと、殴られ損になりそうで腑に落ちない。

そしてまともにティタンの拳を受けたらただではすまないとも実感している。

エリックに受けさせるわけにはいかない。

「殴る理由がない」

「そうか」
ティタンとエリックは視線を交わしたが、それで話は終わった。

パタンとドアが閉められる。









緊張感が解け、ミューズはベッドに体を横たえる。

「大丈夫ですか?」
マオの気遣い。

「とても、疲れたわ…」
どっと体の力が抜ける。

「すまなかったミューズ、今後は兄上が来る時は俺も同席する。無茶な事を言わせないように見張るから」

「いえ大丈夫ですわ。エリック様も色々な事が重なって、心配だったのだと思います」
レナンの仲裁?らしきものがなければ、そうは思わなかったが。

エリックはエリックなりに、弟であるティタンを思っての行動だったのだろう。

「あとはレナン様に任せます。きっと懲らしめてくれますし」
エリックはレナンの言葉を聞いて、表情を変え、きちんと対応していた。

レナンを大切にしているのが言葉の端々からも見て取れたから、特別な人であるレナンが言えば、何でも聞いてくれそうだ。

「……ティタン様。不安はいっぱいあるのですが、今の思いを聞いてくれるかしら」
ミューズは勇気を出して、そう言う。
彼と苦楽を共にする決意が出来た。

従者たちは互いに目を合わせる。

「では、僕は席を外します」

「俺も失礼いたします」
マオとルドは気を遣い、部屋の外へと出た。

ティタンとミューズ、二人っきりの空間に少々気恥ずかしさを感じてしまうが、この機会に告げなくてはとミューズはゆっくりと、自分の気持ちを伝えていく。






「いっぱい待たせてしまってすみません……私は、あなたを」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 
恋愛
「わ……私と結婚してください!」と叫んだのは、男爵令嬢ミーナ プロポーズされたのは第一騎士団の団長、アークフリード・フェリックス・ブランドン公爵 アークフリードには、13年前に守りたいと思っていた紫の髪に紫の瞳をもつエリザベスを守ることができず死なせてしまったという辛い初恋の思い出があった。 そんなアークフリードの前に現れたのは、赤い髪に緑の瞳をもつミーナ 運命はふたりに不思議なめぐりあいの舞台を用意した。 ⁂がついている章は性的な場面がありますので、ご注意ください。 「なろう」でも公開しておりますが、そちらではまだ改稿が進んでおりませんので、よろしければこちらでご覧ください。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

あなたにわたくしは相応しくないようです

らがまふぃん
恋愛
物語の中だけの話だと思っていました。 現実に起こることでしたのね。 ※本編六話+幕間一話と後日談一話の全八話、ゆるゆる話。何も考えずにお読みください。 HOTランキング入りをしまして、たくさんの方の目に触れる機会を得られました。たくさんのお気に入り登録など、本当にありがとうございました。 完結表示をしようとして、タグが入っていなかったことに気付きました。何となく今更な感じがありますが、タグ入れました。

恋は雪解けのように

ミィタソ
恋愛
王国アルテリア。 公爵家の令嬢エステルは幼馴染の侯爵嫡子クロードと婚約していた。 しかし社交界デビューを目前に、突然の婚約破棄を通告される。 「貴女の瞳には野心がない。装飾品でしかない女性に、我が家の未来は託せぬ」 冷徹に宣告するクロードの手元に、安物とは思えぬ新たな指輪が光っていた。 屈辱に震えるエステルは、古びた温室で偶然出会った謎の青年に差し出された赤い薔薇を握りしめる。 「この花のように、貴女は凍てついた大地でも咲ける」 そう囁いた青年こそ、政敵である辺境伯爵家の嗣子レオンだった。 雪解けと共に芽吹く二人の恋は、王家の陰謀に巻き込まれていく――。

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

侍女は婚約が内定している俺様属性の男と縁を切りたい。

彩柚月
恋愛
 リリアは侯爵令嬢。オスカーとは、婚約予定。あくまでも予定で、まだ結んでいません。オスカーは何故かリリアにだけ、威圧的な態度を取るらしい。嫌で仕方がないので、オスカーの兄とプレ婚約期のやり直し。 今が幸せなので、あなたのことは助けてあげられません。   ※ご都合主義満載 ※細かい部分はサラッと流してください。

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

処理中です...