差し出された毒杯

しろねこ。

文字の大きさ
34 / 36

守るための力

しおりを挟む
この力を手に入れるまでティタンは、血の滲む努力をしてきた。

体を鍛え、身体強化の魔法を調節して、自分の動きに合った魔力の流れを作れるように、何年も鍛錬をした。

イメージと体の動きが一致するよう、大きな齟齬が生じないよう、隙を与えないよう、毎日剣を振っていた。

実践ということで魔獣退治を続けた日々もある。

人相手の訓練と言うことで、他国の闇賭場にて身分を隠し、闘士として戦ったこともあった。

自分にあるのはこの膂力だけ。

ならば力であらゆるものを守れるような男になろうと、並々ならぬ思いで修行を続けていたのだ。

ルドとライカはミューズの視界に、主が入らないようにと壁となって立ち塞がる。

いくらなんでもこれ以上残虐な様子を見せ続けてはいけないと慮った。

「ルド、ライカ、お願いです。ティタン様を見せてください」
青褪めた顔でマオに支えられながらも、それでもミューズは言った。

「私の責務です……ですから最後まで見届けさせて下さい」
ミューズが戻りたいと願ったことで起こった戦だ。

目を逸らしてはいけないと決意している。

今にも嘔吐しそうなほどの血の匂いや
天井や壁にまで迸る人の肉片や血液。

ルドとライカ越しでもわかる。

酷い有様だと。

それを行うのはミューズに対して穏やかに微笑み、愛を囁いてくれていたティタンだ。

彼だけに全てを任してはいけない。

「ひぃぃっ!」
剣を捨て、逃げるものも出始めている。

このような悪鬼に勝てるわけがないと、ようやく悟ったのだ。

「ぎゃっ!」
逃げる兵を切り捨てたのは、リンドールの近衛兵。

「お前ら味方だろ、何故殺した……」
ティタンは静かな眼差しで睨みつける。

「敵前逃亡などあり得ん。命令に背くもには死だ」
ずらりと並ぶ近衛兵。

軽く十人はいるだろうか。

王族を守る役目を持つ者たちだ、雰囲気が明らかに違う。

「「ティタン様、加勢を」」
ルドとライカが声を合わせてそう言った。

「いらん。だからしっかりミューズを守っていろ」
ミューズはティタンの表情と様子に何も言えない。

鎧も剣も髪すら血塗れになっている。

足元に転がる死体。

そして、新たな敵と真っ向から睨み合っている。

「逃げようとする者達を俺は切り捨てたりはしない。だからお前らの行いは許せん」

「ふん。ここまで人を紙切れのように殺した男が何を言う」
剣を構えた近衛兵達がティタンを囲む。






「死んだ王女を担ぎ上げて、何を企んでいる?」

「そもそも本人かどうかも怪しい」

「王妃様が確かに殺したはずだ。どこかで偽物でも連れてきたのだろう」

「アドガルムが嘘をついて挙兵したか。他の周辺諸国が知ればどうなるやら」
口々に近衛兵達は好き勝手な事を言う。

「私の事を覚えていないというのですか?!ルシアン!」
近衛兵長に向かい、ミューズは叫んだ。

「我らが主は王妃様だ。軽々しく我が名を口にするな」
その言葉と怒気に、ルドとライカは剣を構え、マオはミューズを下がらせる。

「言いたいことは終わりか?」
ティタンのこめかみには青筋が立っている。

ミューズが名前を呼んだならば、ミューズを知る人物のはずだ。

謀られたのも知っているのに、それでも尚王妃側につくとは。

ここまでティタンが力を見せつけたのに実力差もわからないのか。

「尽くすべき主を間違えたと、自身を恨むがいい」
ティタンは容赦しない。

近衛兵だけあって、先程の兵より丈夫だった。

それだけだ。








まともに大剣に当たらぬようにしているが、別にティタンは剣だけではない。

時には蹴り飛ばし、投げ飛ばす事も行なう。

踏みつければ鎧ごと肉体を潰すことも出来た。

「半端に鍛えたもんだな。楽になれず苦しかろう」
虫の息となっている近衛兵達に見向きもしない。

血まみれの相貌で最後通告をする。

「終わりだよ、ジュリア王妃」






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 
恋愛
「わ……私と結婚してください!」と叫んだのは、男爵令嬢ミーナ プロポーズされたのは第一騎士団の団長、アークフリード・フェリックス・ブランドン公爵 アークフリードには、13年前に守りたいと思っていた紫の髪に紫の瞳をもつエリザベスを守ることができず死なせてしまったという辛い初恋の思い出があった。 そんなアークフリードの前に現れたのは、赤い髪に緑の瞳をもつミーナ 運命はふたりに不思議なめぐりあいの舞台を用意した。 ⁂がついている章は性的な場面がありますので、ご注意ください。 「なろう」でも公開しておりますが、そちらではまだ改稿が進んでおりませんので、よろしければこちらでご覧ください。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

あなたにわたくしは相応しくないようです

らがまふぃん
恋愛
物語の中だけの話だと思っていました。 現実に起こることでしたのね。 ※本編六話+幕間一話と後日談一話の全八話、ゆるゆる話。何も考えずにお読みください。 HOTランキング入りをしまして、たくさんの方の目に触れる機会を得られました。たくさんのお気に入り登録など、本当にありがとうございました。 完結表示をしようとして、タグが入っていなかったことに気付きました。何となく今更な感じがありますが、タグ入れました。

恋は雪解けのように

ミィタソ
恋愛
王国アルテリア。 公爵家の令嬢エステルは幼馴染の侯爵嫡子クロードと婚約していた。 しかし社交界デビューを目前に、突然の婚約破棄を通告される。 「貴女の瞳には野心がない。装飾品でしかない女性に、我が家の未来は託せぬ」 冷徹に宣告するクロードの手元に、安物とは思えぬ新たな指輪が光っていた。 屈辱に震えるエステルは、古びた温室で偶然出会った謎の青年に差し出された赤い薔薇を握りしめる。 「この花のように、貴女は凍てついた大地でも咲ける」 そう囁いた青年こそ、政敵である辺境伯爵家の嗣子レオンだった。 雪解けと共に芽吹く二人の恋は、王家の陰謀に巻き込まれていく――。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

処理中です...