差し出された毒杯

しろねこ。

文字の大きさ
35 / 36

最期

「企みは終わりだ」
ジュリアに突きつけられた剣からは血が垂れている。

死がすぐそこにあるのだ。

ジュリアはただ、ガタガタと揺れるだけ。

「何か言うことはあるか?」
兵力にここまでの差があるとは。

シグルドも寝返った。

国境はすぐ崩された。

そして、ガードナー領。

リリュシーヌが生まれ育ったあの土地から、アドガルムの兵は大量に現れ、リンドール城内へと流れ込んできた。

リリュシーヌの弟を早く押さえ込もうとはしていたが、領内は結界に阻まれて入れなかった。

リオンはカレンとの婚約を餌に入り込み、事前に王城内の兵士達のほとんどを使い物にならないようにしていた。

魔法に耐性のあるものが捕らえようとしたが、カミュという従者がそれを阻む。

影から影を渡り、軌跡すら追えぬ速さで剣を振るっていた。

ジュリアは崩れ落ち、何もかも終わったことを悟る。

せめて最期は苦しまぬ毒を……。

ジュリアが動くより早くティタンの拳がその腹に食い込み、痛みと衝撃にジュリアは動けなくなった。

「自害はさせるな。犯した罪を償わせねばならぬ」
直様アドガルムの兵士が猿轡をし、両手足を縛った。

「王城を隈なく探し、毒の証拠を集めろ。数々の毒物があると聞いた、ミューズに使用したものもあるはずだ」

「場所は僕がわかります、案内をしましょう」
リオンの蝶が先導するように動く。

「ミューズとサミュエルは国王ディエス殿の元へ、マオは二人について行ってくれ」
現在どのような容態かはわからないが、今いる中で回復に長けているのはこの二人だ。

後で、ロキに頼んでシュナイ医師もアドガルムから連れてきたい。

「ルドとライカは手分けして通信石で各方面に連絡してくれ。あとの者は、投降した者たちをどこかに軟禁しておいてくれ。どいつが味方かわからないからな」
ティタンは壁の方に寄り、腰掛けた。

身体強化の魔法も解け、さすがに疲れが出たのだ。

ミューズの前でみっともなく座り込む姿を晒さなくて良かったと、ホッとする。







ディエスは予断を許さない状態ではあったが、ミューズとサミュエル、そして遅れて来たシュナイのおかげで順調に回復していった。

リンドール国内も整えられていく。

国王派の貴族達がミューズ達に協力して、王妃に味方した貴族を次々と捕らえていった。

ティタンが暴れ壊したところはアドガルムが賠償金を払い、補修した。

安全になった王城には、王弟で太閤でもあるクラナッハが来て手助けをしてくれた。

アドガルムを宗主国とし、リンドールは属国となって従った。

シグルドのいるパルシファル領は、アドガルムの領土となった。

ガードナー領はそのままリンドールに与することになったが、
「今後何かあれば、反逆するからな」
とロキは公言していた。








牢獄の中、ティタンは一人の女性を見下ろしていた。

「毒杯は俺が授けよう。苦しんで逝け」
隠し部屋から発見された数多の毒は、シュナイとサミュエルに解析を頼んだ。

どれがミューズに使われたものかを調べさせ、調合してもらった。

試せる者は数多くいたので、円滑に調べることができた。

捕虜の名目で捕らえた者の中で、国王ディエスを謀った者、今後もリンドールへ害なすとされる者で試したのだ。

表向きは病で亡くなったことにしている。

「ミューズに飲ませた物と同じだ。用意させてもらった」
恐怖と絶望で変わり果てた姿になったジュリアの両脇に、ルドとライカが立つ。

体は震えており、怯えた目でティタンを見上げていた。

ティタンは抜き身の剣を携えたまま、跪くジュリアをただ見つめていた。

「飲めないのか?ミューズには差し出した癖に」
この毒薬がどれ程酷いものか、ジュリアは知っていた。

事前に解毒薬を飲んでいたミューズでさえも、数日苦しみ、死の恐怖を味わったくらい強力なものだ。

もちろんジュリアに解毒薬などない。

「さぁ、どうした。飲めないなら、飲ませてやるぞ」
ティタンから放たれる威圧感に、牢内は緊迫した空気に包まれる。

「お赦しを…」
一言。

叶わなくとも口からつい出てしまった。

ティタンは溜め息を吐く。

「お前に毒を盛られた者は、皆そういう思いだったのだろうな……順番が来ただけだ。報いを受けよ」
ルドとライカが後ろからジュリアの両腕を押さえる。

ぐっと顔を押さえられ、毒杯への距離が近づく。

「お慈悲を、どうかっ、どうかっ!!」
作ったのだから、わかる。

どれだけ苦しいのか。

「やれ」
顔を押し付けられ、必死の抵抗をする。

息が出来ず、苦しい。

男の二人の力に、抵抗はそう長くは出来なかった。

鼻から口から体内に侵入したそれに、ジュリアの体は蝕まれた。

「あっ、がっ…!」
触れた皮膚がまず、崩れた。

鼻腔も、口腔内も、血が溢れる。

飲み込まされた毒のせいで、喉も内臓も灼けるように熱い。

ルドとライカは離れ、ティタンは淡々と見下ろした。

「これが自分に使われるとは、思っていなかったのだろうな」
涙と涎まみれになった元王妃に対し、ただ思うのは憎悪。

「苦しませて命を奪いたい程、ミューズやリリュシーヌ様が憎かったのか?」
ジュリアの隠し部屋で知ったことだ。

リリュシーヌの死の真相。

「知れば、ミューズは貴様への復讐を考えてしまうかもしれない。彼女にそのような考えを持たせたくない」
自分の血溜まりでのたうつジュリアに、ただただ告げていく。

「シグルド殿とロキ殿からも了承を得、俺が決行することになった。二人が復讐をすればリリュシーヌ様も哀しむからな。この戦の将として責任を果たさせてもらう」
ハクハクと口を動かし、息を吸うのも最早出来ないようだ。

「凄い才能を持っていたのに、蹴落とす事しか考えられなかったとは、憐れだな……」
間違った方向にさえ行かなければ、このような最期になるはずもなかった。

毒と薬は紙一重。

ジュリアのこの知識と探究心が良き道に進めば、たくさんの人の命を救う優れた薬師となっただろう。

こと切れたジュリアはもう動かない。









「心が晴れる事はないものだな……」
本来なら皆の前で斬首するべき人物だった。

それをしなかったのは、ミューズの前でリリュシーヌを殺したことを明言させたくなかったからだ。

可能性が少しでもあるならば、ここで引導を渡した方が安心だ。

ミューズをこれ以上悲しませるわけにはいかない。


感想 0

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら

雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」 「え?」 伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。 しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。 その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。 機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。 そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。 しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。 *他サイトでも公開しております。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。