釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。

文字の大きさ
1 / 21

第1話 困りました

しおりを挟む
「あらあらまぁまぁ」

 本日も困った事に絡まれてしまった。

「どいて下さらない? 私図書室に行きたいのだけれど」

 本を抱えたラズリーは、廊下を立ち塞がるように並ぶ令嬢達に声を掛ける。

 彼女達はラズリーの方も見ずにひそひそと話をするばかりだ。

(これは困りましたね)

 無理矢理通ってもいいだろうけど、それもまた悪く言われそうだ。

 学園に入学してから幾度かある嫌がらせだ。

 婚約者が諌めてくれたりするが、それでも居ないときを狙って、こうして嫌がらせをしてくる。

(何とかしましょ)

 再度声を掛けようとすると、ラズリーの肩に手が置かれた。

「大丈夫よ、ラズリー」

「あたし達に任せなさい」

 そう言って二人の令嬢が、ラズリーの代わりに廊下を立ち塞がる女生徒達に近づいていく。

「こんなにも広がって立ち話なんて、淑女にあるまじき行為よ。ねぇルールー」

 赤い髪の令嬢は胸を張り、きつい目つきで女生徒達を睨む。

「そうね、アリーナ。みっともないったらありゃしないわね」

 クスクスと笑いながら、白い髪の令嬢は近づいた。

「あなた達、急に出てきて失礼ですわね」
 火花が散りそうな睨み合いが始まる。

「皆が通る道を塞ぐなんて、お行儀も意地も悪いんじゃない? サロンにでも籠もってネチネチ話の続きをしたらどう?」

 アリーナはそんな事を言って、虫でも払うかのような仕草をする。

「下らない話で道を塞ぐくらいならば、いっそサロンに閉じこもって出てこないでちょうだい。邪魔以外の何ものでもないわ」

 明らかな喧嘩腰な言葉のルールー、二人の言動を聞いてラズリーははらはらする。

「二人共言い過ぎだわ」

 ラズリーが嗜めるが、二人に引く気はない。

「あら、本当のことよ。全く毎度毎度懲りない人達ね。一度がっつりとお灸を据えてもらいましょ」

 ルールーの言葉に令嬢達はビクリとする。

「学園で起きたことは、自分達で解決しなさいと言われているはずよ」

「意味を履き違えてないかしら? 何をしてもいいとかそういう事ではないのよ?」

 アリーナはため息をついた。

「注意されても懲りないし、幾度もこのような事をされたら、腹が立つに決まっているでしょ」

 ルールーはクスッと笑う。

「まぁちょっと淑女らしからぬ令嬢達がいるって、とあるところで話すだけよ。直接手を出すなんてしないわ」

 ルールーはラズリーの手から本を取る。

「そうよ。こういう無礼な令嬢がいるって話を家族にするだけだわ」

 アリーナもラズリーの手から本を取った。

 二人は空いたラズリー手をそれぞれ取り、堂々と歩き出す。

「御免遊ばせ、通してもらうわよ」

 颯爽とした二人に挟まれ手を引かれ、ラズリーも歩き出す。

 二人に守られたラズリーは滞りなく邪魔した令嬢達の間を通ることが出来た。

 そのまま三人は振り返ることなく図書室へと向かっていった。


 ◇◇◇


「ありがとう、二人のおかげで助かったわぁ」

 ラズリーが深々と頭を下げたのを見て、二人は頭を撫で回す。

「いいのよ、ラズリーにはお世話になってるし、従兄弟の婚約者だもの」

 アリーナはラズリーの婚約者である、ファルクの従姉妹だ。

 アリーナの父親とファルクの父親が兄弟なのである。

 その為アリーナはラズリーを大事にしている。

「あたしもラズリーにはお世話になってるからね。またあの肌がつやつやになる化粧水が欲しいわ」

 ラズリーは薬学の知識を元にして化粧品をいくつか作っている。その化粧品をルールーが気に入った為、付き合いが始まった。

 もちろん優しいラズリー自身も好きな為、こうして手助けもしているのだ。

「さて、図書室なら安全よね。帰りはファルクが迎えに来るだろうし、私達は先に帰るわ」

 名残惜しそうにラズリーを抱きしめるアリーナとルールー。

「もう少し一緒にいたいけれど、ちょっと野暮用が出来たからまたね」

「野暮用?」

「そう。淑女らしからぬあんな令嬢達に売るドレスはなさそうよって、お父様とお母様の前で世間話をしようかなと思って」

 ルールーは意地悪い顔をする。

 ルールーの両親はドレスが好きで、特に母親はドレスの店を開いている。

 王妃御用達のその店は貴族からも評判が良く、提携先も多い。

 もしもドレスが買えないとなれば、貴族令嬢としてこれから先、社交界で大変な事になる。

「奇遇ね。あたしも丁度両親とそういう世間話をしようと思ったの。生真面目なお父様と怒りん坊なお母様がどういう反応をするか、楽しみね」

 アリーナの両親は大公閣下に仕えている。

 大公夫人の専属侍女である母はきっとそこで話をするだろう。

 大公閣下の下で働く父はラズリーの父とも親友で、卑怯な者を嫌う。

 彼女達の父親に真偽を問い詰めにかかるだろう。

「私が両親に相談するからいいのよ」

 申し訳なく思ってそう言うと、二人は首を横にふる。

「「家族と話をするだけよ」」

 気にするなといいたいのだろう。

「学園の事は学園で解決、なんて謳うけれど、要は面倒くさいだけじゃない。それに親に言ったほうがあの子達もすんなりと引くと思うわ」

「そうそう。それにラズリーの両親は多忙だし、すぐに動けないでしょ。ファルクもすぐには親に言えないし。言うとあの父親が乗り込んで来ちゃうものね。それを避けるためにもこういう搦め手の方がいいわ」

 ファルクの父親は短気だし、ラズリーの父親は多忙だ。

 早く穏便に解決をしたいなら任せて欲しいと、二人はラズリーの説得にかかる。

「耐えるのは美徳かもしれないけれど、それで友人が嫌な目に合うのは嫌なのよ。今日だって一人でこっそり動いてああなっちゃったでしょ。ああいう輩とトラブルにならない為にももっとあたし達を頼って」

 ズイッとアリーナはラズリーを見る。

「お節介かもしれないけど、あたし達はラズリーを守りたいの。ほら、小動物みたいで、可愛いじゃない? それにファルクばかり株を上げるのは許せないし」

 ルールーもラズリーを見つめる。

「その赤いリボンも赤い眼鏡もファルクの色でしょ?」

 ラズリーは顔を赤くしてしまう。

「婚約者の色を纏うなんていいわ、憧れちゃう。しかもリボンはファルクからのプレゼント、いいわねぇ」

「あと眼鏡で顔を隠すのも、大きめローブで肌を隠しているのも、ファルクが他の男にラズリーを見られたくないとか言ったからでしょ? ラブラブで羨ましいわ」

 二人の言葉にラズリーは羞恥で俯いてしまう。

(隠していたのに、何でわかるのでしょう?)

 理由は二人にも言ったことはなかった。

 不自然にならない程度にと思っていたのに、バレバレだったなんて恥ずかしすぎる。

「別に皆に晒すことはないからそのままでいいと思うけれど、着飾りたくなったら教えてね。お化粧とヘアセットは任せて」

 アリーナがウィンクをする。

「ではドレスはあたしに任せてね。ラズリーに似合う物をしっかり用意するから必ず相談してよ」

 ルールーも胸を張り、堂々と言い放つ。

「二人共、ありがとう」

 こんなに頼りになる友人が二人もいて、とても嬉しくて胸がほっこりした。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です

青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。 目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。 私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。 ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。 あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。 (お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)  途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。 ※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法

本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。  ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。  ……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?  やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。  しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。  そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。    自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 ◇レジーナブックスより書籍発売中です! 本当にありがとうございます!

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。 オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。 それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが… ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。 自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。 正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。 そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが… ※カクヨム、なろうでも投稿しています。 よろしくお願いします。

処理中です...