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第28話 間違った決断(ローシュ視点)
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何を押し付けても文句も言わずに行なってくれて、その内に僕は調子に乗ってエカテリーナに色々な事をやらせ、そして婚約者の義務を少しずつ放置していく。
茶会の時間を減らし、空いた時間で他の者達と遊びにいったりしていた。
さすがにエカテリーナも文句を言うようになってきて煩わしく思い始め、そしてゾッとする。
(このまま彼女と結婚していいのかと)
彼女は確かに身分もあり、優秀で便利だ。
でもこの先ずっと共に過ごす相手としてはどうなのだろう。
一生この優秀なエカテリーナと比べられて、手にした自由もこうして潰されて。それは果たして生きているという事になるのだろうか。
そんなもやもやを抱えつつ過ごしていると、兄やブルックリン侯爵からも苦言を呈された。
「自分の婚約者を大事にしなさい」
そう言われてますますエカテリーナに対して嫌悪が募る。
(姑息だ。僕が言い返せない相手に泣きついて、そんな事を言わせるなんて)
しかし二人を敵に回してはいけない。
王太子である兄と、強い権力を持つ侯爵に対抗する手段は今の僕は何も持っていない。何とかしないと……。
僕は友人達に助言を求めた。
エカテリーナとの婚約をなかった事にしたい。
しかし自分から言い出しては王家と侯爵家に亀裂が走る、何かいい案はないかと。
「ではエカテリーナ様が傷物になったという事で穏便に解消されては?」
そう女生徒に提案されて、僕は身震いをする。
「エカテリーナは凄腕の魔女だ。そんな事出来る男はいないよ」
昔エカテリーナが撃退した時を思い出し、首を振った。
「一対一ならともかく複数でかかればいいのでは? エカテリーナ様だってそれなら対処できないのではないでしょうか」
確かにエカテリーナは戦うのは本当は苦手だと言っていた。
皆で押さえつければ勝てるのだろうか。
「小さな傷でもいいのです。顔に残りさえすれば婚約は解消出来るはずですわ。お金さえあれば、何でもしてくれるものは市井にいっぱいおりますし」
恐ろしい事を考えつくものだなと感心する。
同じ女性であれば顔に傷がつく事がどれだけ酷い事か。そして傷がついた令嬢がどういう末路を辿るか、知らないわけではあるまいに。
だが一番ひどいのは僕だろう。
深く考えるのを止めて、その案に乗ったのだから。
エカテリーナと離れるために、彼女を切り捨てるために、その作戦を決行したのだから。
結果は散々だ。
護衛達が思ったよりも優秀で、僕とエカテリーナはピンチにすらならなかった。
呆気なく掴まっていくごろつき達。
腹が立ったが、仕方ない。作戦を練り直そう。
腹立ちまぎれにリヴィオに馬車の手配を任す。
こいつは僕の乳兄弟で小さい時から一緒だが、真面目で融通が利かない。
護衛の自分が離れるわけには行かないと困った顔をしているが、困らせたくて言ったんだ。それで少し溜飲が下がる。
「では私が殿下を守りますので」
エカテリーナが折衷案を出し、それならばとリヴィオは何とか納得して離れていく。
(こんな場面でも良い子の仮面は脱がないんだな)
穏便に済ませる為に、こうして自分が責任を請け負う事にエカテリーナは慣れている。
また苛立ちが膨れ上がるが、そうした瞬間に再度刺客が襲って来た。
(こんなのは聞いていない!)
何とか声は抑えたが、叫び出しそうだった。
だがエカテリーナの素早い動きで敵は仕留められる。でもその反対側から来た刺客が僕を狙ってきた。
(殺される!)
僕は恐怖した。
刺客にではない、エカテリーナにだ。
彼女は一瞬で刺客を仕留め、そしてすぐさま次の対応をしていた。彼女の手には既に光が集まっており、仕留めにかかっている。
こんなに敏く、そして強大な力を持つ彼女が、今回の件で気づかないわけがない。
今回僕が街に誘ったのはエカテリーナを陥れようとしたことに。
そうなるとさすがのエカテリーナも僕を許さないかもしれない。下手したら僕もこのように燃やされて殺されるかも。
それならば。
「わあぁぁぁ!」
僕はエカテリーナの体を引っ張って前に押した。
初めて見る戸惑いの表情はすぐさま赤で塗りつぶされる。
刺客が手にした剣がエカテリーナの頭部を薙いだのだ。
だが、エカテリーナもただ地面に伏すことはなく、散りそうな魔力を集め、男に放つ。
相打ちのような形で二人が倒れたところで護衛の者達が来たが、僕は恐ろしさと緊張で意識を失い、その後どうなったかは記憶にない。
茶会の時間を減らし、空いた時間で他の者達と遊びにいったりしていた。
さすがにエカテリーナも文句を言うようになってきて煩わしく思い始め、そしてゾッとする。
(このまま彼女と結婚していいのかと)
彼女は確かに身分もあり、優秀で便利だ。
でもこの先ずっと共に過ごす相手としてはどうなのだろう。
一生この優秀なエカテリーナと比べられて、手にした自由もこうして潰されて。それは果たして生きているという事になるのだろうか。
そんなもやもやを抱えつつ過ごしていると、兄やブルックリン侯爵からも苦言を呈された。
「自分の婚約者を大事にしなさい」
そう言われてますますエカテリーナに対して嫌悪が募る。
(姑息だ。僕が言い返せない相手に泣きついて、そんな事を言わせるなんて)
しかし二人を敵に回してはいけない。
王太子である兄と、強い権力を持つ侯爵に対抗する手段は今の僕は何も持っていない。何とかしないと……。
僕は友人達に助言を求めた。
エカテリーナとの婚約をなかった事にしたい。
しかし自分から言い出しては王家と侯爵家に亀裂が走る、何かいい案はないかと。
「ではエカテリーナ様が傷物になったという事で穏便に解消されては?」
そう女生徒に提案されて、僕は身震いをする。
「エカテリーナは凄腕の魔女だ。そんな事出来る男はいないよ」
昔エカテリーナが撃退した時を思い出し、首を振った。
「一対一ならともかく複数でかかればいいのでは? エカテリーナ様だってそれなら対処できないのではないでしょうか」
確かにエカテリーナは戦うのは本当は苦手だと言っていた。
皆で押さえつければ勝てるのだろうか。
「小さな傷でもいいのです。顔に残りさえすれば婚約は解消出来るはずですわ。お金さえあれば、何でもしてくれるものは市井にいっぱいおりますし」
恐ろしい事を考えつくものだなと感心する。
同じ女性であれば顔に傷がつく事がどれだけ酷い事か。そして傷がついた令嬢がどういう末路を辿るか、知らないわけではあるまいに。
だが一番ひどいのは僕だろう。
深く考えるのを止めて、その案に乗ったのだから。
エカテリーナと離れるために、彼女を切り捨てるために、その作戦を決行したのだから。
結果は散々だ。
護衛達が思ったよりも優秀で、僕とエカテリーナはピンチにすらならなかった。
呆気なく掴まっていくごろつき達。
腹が立ったが、仕方ない。作戦を練り直そう。
腹立ちまぎれにリヴィオに馬車の手配を任す。
こいつは僕の乳兄弟で小さい時から一緒だが、真面目で融通が利かない。
護衛の自分が離れるわけには行かないと困った顔をしているが、困らせたくて言ったんだ。それで少し溜飲が下がる。
「では私が殿下を守りますので」
エカテリーナが折衷案を出し、それならばとリヴィオは何とか納得して離れていく。
(こんな場面でも良い子の仮面は脱がないんだな)
穏便に済ませる為に、こうして自分が責任を請け負う事にエカテリーナは慣れている。
また苛立ちが膨れ上がるが、そうした瞬間に再度刺客が襲って来た。
(こんなのは聞いていない!)
何とか声は抑えたが、叫び出しそうだった。
だがエカテリーナの素早い動きで敵は仕留められる。でもその反対側から来た刺客が僕を狙ってきた。
(殺される!)
僕は恐怖した。
刺客にではない、エカテリーナにだ。
彼女は一瞬で刺客を仕留め、そしてすぐさま次の対応をしていた。彼女の手には既に光が集まっており、仕留めにかかっている。
こんなに敏く、そして強大な力を持つ彼女が、今回の件で気づかないわけがない。
今回僕が街に誘ったのはエカテリーナを陥れようとしたことに。
そうなるとさすがのエカテリーナも僕を許さないかもしれない。下手したら僕もこのように燃やされて殺されるかも。
それならば。
「わあぁぁぁ!」
僕はエカテリーナの体を引っ張って前に押した。
初めて見る戸惑いの表情はすぐさま赤で塗りつぶされる。
刺客が手にした剣がエカテリーナの頭部を薙いだのだ。
だが、エカテリーナもただ地面に伏すことはなく、散りそうな魔力を集め、男に放つ。
相打ちのような形で二人が倒れたところで護衛の者達が来たが、僕は恐ろしさと緊張で意識を失い、その後どうなったかは記憶にない。
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