【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。

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第27話 今までの思い(ローシュ視点)

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「エカテリーナ=ブルックリンと申します」
 綺麗な礼をするエカテリーナを、僕は最初人だとは思えなかった。

 同い年なのに洗練されていて、動作も軽やか。顔も人形のように整っており、貴族らしく表情も抑えていたため、余計にそう思えたのだ。

 最初はこんな綺麗な子が自分の婚約者なんてとドキドキしたが、段々と側にいて慣れてくると気持ちが変わっていく。

「ねぇ、エカテリーナ。君は僕の事が好き?」

「えぇ、もちろん殿下を敬愛しています」
 そう答えるエカテリーナの声は事務的で形式的で、いつしか人と接するというよりも人形に話しかけているような気分になっていったのだ。

 別に彼女が僕に酷い事をしたわけではなく、寧ろ人一倍気を配ってくれ、大切にしてくれた。

 僕の好物を持ってきてくれたり、体調の事を心配してくれたり、手紙もいっぱいもらって、至れり尽くせりなのだが……。

「大丈夫ですか? 殿下」
 体調を崩すとお見舞いにも来てくれる彼女が段々と煩わしくなり、そして怖くなった。

 彼女は完璧なんだ。

 貴族として淑女として、崩すことのない表情も真面目な言葉も。そして魔石を持たずとも魔法が使えることも怖い。

 何も持たずとも生身で戦えるという事を示しており、それは人間凶器のようなものだから。

 記憶を失うきっかけになった事件よりも前に、僕は刺客に襲われた事がある。
 その際に彼女は魔法で僕を助けてくれた。

 その力は強大で、彼女が軽く力を使っただけで人が死んだ。

 堪らなく怖かった。
 そんな強い力を持っていて、そして無表情で人を殺す彼女の事が。

 誰も彼女を咎めないし、寧ろ褒めたたえる。

 それに反比例して、僕はもっとしっかりするようにと言われてしまう。

 精神的にも身体的にも弱く、病がちな僕には酷な言葉がぶつけられた。

(彼女のように最初から強い人に追いつけるわけがないだろう)
 彼女はその件以降更に認められ、僕は頼りない第二王子としてますます縮こまるようになった。

 これでもっと彼女を大事にしよう、自分ももっと頑張ろうと奮起したら良かったかもしれないが、そんな気は起きなかった。

 しょっちゅう体を壊す僕が、そしてどれだけ頑張っても婚約者においつけない現実が、僕から意欲を奪っていく。

「あのような婚約者様がいるなんて、ローシュ殿下が羨ましい」
 褒め言葉はエカテリーナに向けて。自身が褒められることはそうはない。

 しかし転機は訪れた。

 学園に入ると、様々な者が僕を褒めたたえる。
 今まで浴びた事のない賞賛の言葉に、僕は心地よさを感じていた。

 そしてあるものが発した言葉が耳から離れない。

「王家の血を引き、そして心も優しいローシュ様の婚約者になれたエカテリーナ様は、さぞ幸せでしょう」

(そうだ、エカテリーナは僕の婚約者だから幸せなんだ)
 それを聞いて仄暗くも喜びの気持ちに満ち溢れてしまった。

(僕はこの国で最高位の男だ。いかに優れたエカテリーナでも、王族ではない。そんな彼女よりも自分は偉いのだ)
 僕は王子で、両親と兄に次いで偉い。

 いかにエカテリーナに力があろうとも彼女は侯爵令嬢、自分よりも下の存在だ。
 そう思えば少しは気が晴れた。

 下位貴族の中には僕と同じくエカテリーナの事を、「人形のようで怖い」という気持ちになったものが少なからずいる。

 またとても規律に厳しく、でも高位貴族で生徒会の一員であるエカテリーナに苦情を言える者はいない。

 僕以外には。

「彼女は僕の言う事なら何でも聞く。だから、僕が彼女を正し、道を示していかなければいけない」
 僕以外に彼女に命じられるものはいないのだもの。

 時に皆の前で叱責し、また僕の仕事を肩代わりさせた。

 彼女は強いのだから僕が言わないと止まらない、そして強い彼女は少し仕事が多くなっても平気でこなせるからね。

 エカテリーナに仕事をさせて時間が空いた分は皆と話す時間に充てることが出来、とてもいい時間を過ごせた。

 皆の悩みを聞いたり、頼りにされるというのは何と嬉しい事だろう。

 父も兄もエカテリーナも、大事な話を自分にしてくれることはない。
 ならば僕は自分に大事な話をしてくれる、この者達に耳を傾けなくては。

 広く皆の意見を聞くことは将来の国の為になる事だ。

 僕は新たな自分の役割を見出して、やる気に満ち溢れていた。
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