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2 海の国の聖人候補
282 オーダー入ります!
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282
翌日、私が届けたシャツの入った包みを開けた瞬間、ラーヤさんはいきなり泣き出した。
しかも、びっくりするほどの号泣で、暫くは話すこともできないほどだった。
「よ、よかったぁー!本当に、落ちなかったらどうしようと、ずっと悩んでいました。先祖伝来の服を私の代でダメにするなんてことにならなくて、本当によかった!!」
この先祖伝来の〝アキツ瑠璃蔓草〟のシャツをダメにしてしまった事は、私の想像以上の痛恨事だったのだろう。
やっと落ち着きを取り戻したラーヤさんは、シャツの状態を丁寧に確かめながら、当主に受け継がれてきたというこの着物は、この店の象徴であり、魂なのだと熱く語り、美しい輝きを取り戻したシャツに頬ずりしながらウットリとしている。
「しかもこれ、汚される前の状態より、更に美しい光沢になっています。本当に真っさらの新品のようです。ああ、できることなら、私の着物の全てをお願いしたいぐらいです!!
もちろん、ダメなことは分かっておりますが……」
今回の件について、ラーヤさんは、代金はいくらでも〝言い値で〟支払うので、請求して欲しいと言ってきかないが、私は仕事として受けたつもりはないので、どうするべきかちょっと考えてしまった。
「それより、とにかく絶対に、このことは秘密にして下さいね」
「もちろんです。この技術は、この国にとってあまりにも有益過ぎます。少しでも噂が広まれば、メイロードさまの元へは豪雨のような数の依頼が来てしまいます。それにそれだけで済めば良いですが、中には、きっと強引なことをする輩も出てくるはずです。
この技術、必ず大きな商売になるでしょうが、メイロードさまがそれを望まれていないことは分かっておりますので、私も誓って口外は致しません」
いつの間にか〝さま〟づけで私を呼び始めたラーヤさんは、どうやら相当察しがいいらしい。
(さすがの〝見立て〟だな。薄々、この魔法も私の仕業だと分かっているのかも……)
何度言っても、頑なに金銭の授受を断る私にラーヤさんは方針を変えた。
「では、この店の最高の技術で、メイロードさまにお似合いになるお召し物を作らせて頂けませんでしょうか?帝国のセンスもぜひ取り入れさせて頂き、うちで一番のお針子に仕立てさせます!」
この提案は、私の好奇心とクラフト魂に火をつけ、スイッチが入ってしまった。
「それは、面白いですね。いい旅の記念にもなりそうです。お支払いは致しますので、是非作業工程から見せて頂きたいです!」
そこからは、その着物のお金を支払う支払わないという押し問答がしばらく続いた。
「ラーヤさん、これは本業のお仕事の依頼なのですよ。タダで請け負ったりすべきことではありません!」
「しかし、メイロードさま。これは、私どもからの感謝のお品なのでございます。私どもの誠意なのです。是非ともお受け取りを!」
そんなやりとりをした末、折衷案となったのは、材料費に糸目をつけない代わりに、その材料費分は私が負担する、技術料についてはラーヤさんが負担する、というものだった。
「その方が、私も気兼ねなく提案ができて良いのです!」
と、もっともらしい理屈をつけ、不満顔のラーヤさんを強引に押し切った。
ラーヤさんも私の頑固さに根負けしたらしく、それ以上の交渉は諦め、早速採寸を始めることになった。
「この店では、小さなお子様のためのドレスは、普段礼服以外はあまりお作りする機会がないので、お針子たちにもいい勉強になるでしょう。メイロードさまも、お望みがございましたら何でもおっしゃってください。
技術には自信がございますので、どんな複雑な図柄でも文様でも美しく仕上げさせて頂きます」
店主の顔になったラーヤさん、早速大量の生地見本を広げ始めた。
さすが老舗の高級店らしく、見本の数も膨大。
光沢も触り心地も千差万別な生地の山。
動物、植物、魔獣に至るまで、繊維として取れるものなら何でも布にしているという勢いだ。
「すごいですねぇ。ランテルは本当に〝布の都〟なんですね」
感心しながら見本帳を見ている私に、ラーヤさんが説明してくれたところによると、この見本帳の生地の半分は受注生産品、更にその半分はいつ手に入るかも定かではないそうだ。
今の〝アキツ瑠璃蔓草〟のように、市場にほとんど出ない希少な繊維は数多いという。
「ほとんどのものは、たくさん生産する技術が確立していないので、原材料の取れ高次第なんですよ。困ったことですが、それだけ多様な商品があるということでもありますから……」
選ぶにしても、あまりに膨大な量なので、このまま見本を見続けてもラチがあかないと判断した私は、まずは作りたい着物の骨子を決めようと提案した。
その上で、それに合いそうな布地をある程度絞り込もうという作戦だ。
そこで、ランテルの今の流行などを参考にしたいという私のために、明日ラーヤさんが〝辻練り〟に同行させてくれることになった。
〝辻練り〟をしている人たちが着るのは、どれも最新の流行を取り入れた一押しの衣装。
一緒に見て回れば、きっと参考になるはずだという。
「明日は私も、この美しい当家自慢の〝アキツ瑠璃蔓草〟の衣装を、最も美しく着て見せましょう。やっと、シミを隠して着なくとも良くなりました。本当に嬉しいことです!」
そこから、ラーヤさんの明日の衣装のアレンジのために、お針子さんや従業員の方も加わり、喧々諤々の議論が始まり、私へのラーヤさんの着こなし解説も延々と続き、大いに盛り上がった。
(本当に、この国の人は着飾ることが好きなんだなぁ)
私は楽しそうにあれこれ言い合うその様子を微笑ましく見ながら、自分の服のことに考えを巡らせ、メモを取り続けていた。
翌日、私が届けたシャツの入った包みを開けた瞬間、ラーヤさんはいきなり泣き出した。
しかも、びっくりするほどの号泣で、暫くは話すこともできないほどだった。
「よ、よかったぁー!本当に、落ちなかったらどうしようと、ずっと悩んでいました。先祖伝来の服を私の代でダメにするなんてことにならなくて、本当によかった!!」
この先祖伝来の〝アキツ瑠璃蔓草〟のシャツをダメにしてしまった事は、私の想像以上の痛恨事だったのだろう。
やっと落ち着きを取り戻したラーヤさんは、シャツの状態を丁寧に確かめながら、当主に受け継がれてきたというこの着物は、この店の象徴であり、魂なのだと熱く語り、美しい輝きを取り戻したシャツに頬ずりしながらウットリとしている。
「しかもこれ、汚される前の状態より、更に美しい光沢になっています。本当に真っさらの新品のようです。ああ、できることなら、私の着物の全てをお願いしたいぐらいです!!
もちろん、ダメなことは分かっておりますが……」
今回の件について、ラーヤさんは、代金はいくらでも〝言い値で〟支払うので、請求して欲しいと言ってきかないが、私は仕事として受けたつもりはないので、どうするべきかちょっと考えてしまった。
「それより、とにかく絶対に、このことは秘密にして下さいね」
「もちろんです。この技術は、この国にとってあまりにも有益過ぎます。少しでも噂が広まれば、メイロードさまの元へは豪雨のような数の依頼が来てしまいます。それにそれだけで済めば良いですが、中には、きっと強引なことをする輩も出てくるはずです。
この技術、必ず大きな商売になるでしょうが、メイロードさまがそれを望まれていないことは分かっておりますので、私も誓って口外は致しません」
いつの間にか〝さま〟づけで私を呼び始めたラーヤさんは、どうやら相当察しがいいらしい。
(さすがの〝見立て〟だな。薄々、この魔法も私の仕業だと分かっているのかも……)
何度言っても、頑なに金銭の授受を断る私にラーヤさんは方針を変えた。
「では、この店の最高の技術で、メイロードさまにお似合いになるお召し物を作らせて頂けませんでしょうか?帝国のセンスもぜひ取り入れさせて頂き、うちで一番のお針子に仕立てさせます!」
この提案は、私の好奇心とクラフト魂に火をつけ、スイッチが入ってしまった。
「それは、面白いですね。いい旅の記念にもなりそうです。お支払いは致しますので、是非作業工程から見せて頂きたいです!」
そこからは、その着物のお金を支払う支払わないという押し問答がしばらく続いた。
「ラーヤさん、これは本業のお仕事の依頼なのですよ。タダで請け負ったりすべきことではありません!」
「しかし、メイロードさま。これは、私どもからの感謝のお品なのでございます。私どもの誠意なのです。是非ともお受け取りを!」
そんなやりとりをした末、折衷案となったのは、材料費に糸目をつけない代わりに、その材料費分は私が負担する、技術料についてはラーヤさんが負担する、というものだった。
「その方が、私も気兼ねなく提案ができて良いのです!」
と、もっともらしい理屈をつけ、不満顔のラーヤさんを強引に押し切った。
ラーヤさんも私の頑固さに根負けしたらしく、それ以上の交渉は諦め、早速採寸を始めることになった。
「この店では、小さなお子様のためのドレスは、普段礼服以外はあまりお作りする機会がないので、お針子たちにもいい勉強になるでしょう。メイロードさまも、お望みがございましたら何でもおっしゃってください。
技術には自信がございますので、どんな複雑な図柄でも文様でも美しく仕上げさせて頂きます」
店主の顔になったラーヤさん、早速大量の生地見本を広げ始めた。
さすが老舗の高級店らしく、見本の数も膨大。
光沢も触り心地も千差万別な生地の山。
動物、植物、魔獣に至るまで、繊維として取れるものなら何でも布にしているという勢いだ。
「すごいですねぇ。ランテルは本当に〝布の都〟なんですね」
感心しながら見本帳を見ている私に、ラーヤさんが説明してくれたところによると、この見本帳の生地の半分は受注生産品、更にその半分はいつ手に入るかも定かではないそうだ。
今の〝アキツ瑠璃蔓草〟のように、市場にほとんど出ない希少な繊維は数多いという。
「ほとんどのものは、たくさん生産する技術が確立していないので、原材料の取れ高次第なんですよ。困ったことですが、それだけ多様な商品があるということでもありますから……」
選ぶにしても、あまりに膨大な量なので、このまま見本を見続けてもラチがあかないと判断した私は、まずは作りたい着物の骨子を決めようと提案した。
その上で、それに合いそうな布地をある程度絞り込もうという作戦だ。
そこで、ランテルの今の流行などを参考にしたいという私のために、明日ラーヤさんが〝辻練り〟に同行させてくれることになった。
〝辻練り〟をしている人たちが着るのは、どれも最新の流行を取り入れた一押しの衣装。
一緒に見て回れば、きっと参考になるはずだという。
「明日は私も、この美しい当家自慢の〝アキツ瑠璃蔓草〟の衣装を、最も美しく着て見せましょう。やっと、シミを隠して着なくとも良くなりました。本当に嬉しいことです!」
そこから、ラーヤさんの明日の衣装のアレンジのために、お針子さんや従業員の方も加わり、喧々諤々の議論が始まり、私へのラーヤさんの着こなし解説も延々と続き、大いに盛り上がった。
(本当に、この国の人は着飾ることが好きなんだなぁ)
私は楽しそうにあれこれ言い合うその様子を微笑ましく見ながら、自分の服のことに考えを巡らせ、メモを取り続けていた。
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