利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
93 / 840
2 海の国の聖人候補

282 オーダー入ります!

しおりを挟む
282

翌日、私が届けたシャツの入った包みを開けた瞬間、ラーヤさんはいきなり泣き出した。
しかも、びっくりするほどの号泣で、暫くは話すこともできないほどだった。

「よ、よかったぁー!本当に、落ちなかったらどうしようと、ずっと悩んでいました。先祖伝来の服を私の代でダメにするなんてことにならなくて、本当によかった!!」

この先祖伝来の〝アキツ瑠璃蔓草〟のシャツをダメにしてしまった事は、私の想像以上の痛恨事だったのだろう。

やっと落ち着きを取り戻したラーヤさんは、シャツの状態を丁寧に確かめながら、当主に受け継がれてきたというこの着物は、この店の象徴であり、魂なのだと熱く語り、美しい輝きを取り戻したシャツに頬ずりしながらウットリとしている。

「しかもこれ、汚される前の状態より、更に美しい光沢になっています。本当に真っさらの新品のようです。ああ、できることなら、私の着物の全てをお願いしたいぐらいです!!
もちろん、ダメなことは分かっておりますが……」

今回の件について、ラーヤさんは、代金はいくらでも〝言い値で〟支払うので、請求して欲しいと言ってきかないが、私は仕事として受けたつもりはないので、どうするべきかちょっと考えてしまった。

「それより、とにかく絶対に、このことは秘密にして下さいね」

「もちろんです。この技術は、この国にとってあまりにも有益過ぎます。少しでも噂が広まれば、メイロードさまの元へは豪雨のような数の依頼が来てしまいます。それにそれだけで済めば良いですが、中には、きっと強引なことをする輩も出てくるはずです。

この技術、必ず大きな商売になるでしょうが、メイロードさまがそれを望まれていないことは分かっておりますので、私も誓って口外は致しません」

いつの間にか〝さま〟づけで私を呼び始めたラーヤさんは、どうやら相当察しがいいらしい。

(さすがの〝見立て〟だな。薄々、この魔法も私の仕業だと分かっているのかも……)

何度言っても、頑なに金銭の授受を断る私にラーヤさんは方針を変えた。

「では、この店の最高の技術で、メイロードさまにお似合いになるお召し物を作らせて頂けませんでしょうか?帝国のセンスもぜひ取り入れさせて頂き、うちで一番のお針子に仕立てさせます!」

この提案は、私の好奇心とクラフト魂に火をつけ、スイッチが入ってしまった。

「それは、面白いですね。いい旅の記念にもなりそうです。お支払いは致しますので、是非作業工程から見せて頂きたいです!」

そこからは、その着物のお金を支払う支払わないという押し問答がしばらく続いた。

「ラーヤさん、これは本業のお仕事の依頼なのですよ。タダで請け負ったりすべきことではありません!」

「しかし、メイロードさま。これは、私どもからの感謝のお品なのでございます。私どもの誠意なのです。是非ともお受け取りを!」

そんなやりとりをした末、折衷案となったのは、材料費に糸目をつけない代わりに、その材料費分は私が負担する、技術料についてはラーヤさんが負担する、というものだった。

「その方が、私も気兼ねなく提案ができて良いのです!」

と、もっともらしい理屈をつけ、不満顔のラーヤさんを強引に押し切った。

ラーヤさんも私の頑固さに根負けしたらしく、それ以上の交渉は諦め、早速採寸を始めることになった。

「この店では、小さなお子様のためのドレスは、普段礼服以外はあまりお作りする機会がないので、お針子たちにもいい勉強になるでしょう。メイロードさまも、お望みがございましたら何でもおっしゃってください。

技術には自信がございますので、どんな複雑な図柄でも文様でも美しく仕上げさせて頂きます」

店主の顔になったラーヤさん、早速大量の生地見本を広げ始めた。

さすが老舗の高級店らしく、見本の数も膨大。
光沢も触り心地も千差万別な生地の山。
動物、植物、魔獣に至るまで、繊維として取れるものなら何でも布にしているという勢いだ。

「すごいですねぇ。ランテルは本当に〝布の都〟なんですね」

感心しながら見本帳を見ている私に、ラーヤさんが説明してくれたところによると、この見本帳の生地の半分は受注生産品、更にその半分はいつ手に入るかも定かではないそうだ。

今の〝アキツ瑠璃蔓草〟のように、市場にほとんど出ない希少な繊維は数多いという。

「ほとんどのものは、たくさん生産する技術が確立していないので、原材料の取れ高次第なんですよ。困ったことですが、それだけ多様な商品があるということでもありますから……」

選ぶにしても、あまりに膨大な量なので、このまま見本を見続けてもラチがあかないと判断した私は、まずは作りたい着物の骨子を決めようと提案した。
その上で、それに合いそうな布地をある程度絞り込もうという作戦だ。

そこで、ランテルの今の流行などを参考にしたいという私のために、明日ラーヤさんが〝辻練り〟に同行させてくれることになった。

〝辻練り〟をしている人たちが着るのは、どれも最新の流行を取り入れた一押しの衣装。
一緒に見て回れば、きっと参考になるはずだという。

「明日は私も、この美しい当家自慢の〝アキツ瑠璃蔓草〟の衣装を、最も美しく着て見せましょう。やっと、シミを隠して着なくとも良くなりました。本当に嬉しいことです!」

そこから、ラーヤさんの明日の衣装のアレンジのために、お針子さんや従業員の方も加わり、喧々諤々の議論が始まり、私へのラーヤさんの着こなし解説も延々と続き、大いに盛り上がった。

(本当に、この国の人は着飾ることが好きなんだなぁ)

私は楽しそうにあれこれ言い合うその様子を微笑ましく見ながら、自分の服のことに考えを巡らせ、メモを取り続けていた。
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。