利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
92 / 840
2 海の国の聖人候補

281 汚れの正体

しおりを挟む
281

「私は〝見立て〟に関しては、誰にも負けない自信がございます」

ラーヤさんの特殊能力、それは人を見極める〝見立て〟

つまり服装や佇まいを見るだけで、その人となりや職業、階級や収入についておおよそ見当がつくのだそうだ。
持って生まれた才能に加え、商人と〝辻練り〟で得た様々な知識や出会いが〝見立て〟の精度を飛躍的に上げ、間違うことはほぼないという。

「でも、メイロードさん。あなたに関しては、本当に判らなかった!」

自信がなくなるぐらい、私について判らなかったラーナさんの判定は

〝普通じゃない〟

だったらしい。

「あなたが〝ただの子供じゃない〟ということは、一目会って分かりました。その人が、この服の汚れを落とす方法を知っているという。これは運命だと思ったのです!」

確かに私にも自分が普通じゃないという自覚はある。
ラーナさんの特殊能力、なかなか本物のようだ。

「メイロードさんのお召し物は、イスの超高級服飾店の特注品で、それを成長に合わせてお直しされたものです。直された方の手仕事も本当に素晴らしい。いくつか、見たことのないデザインや素材も付け足されていて、非常に興味深い仕上がりですね。召使いに、とてもいいお針子さんがいらっしゃるようです」

直したのは私で、リメイクに当たっては、いくつか異世界素材のリボンやボタンも使っている。
褒められて嬉しいが、それにしてもさすがの慧眼、他の国のファッション事情にまで通じているとは……

「なるほど、あなたの眼力は分かりました。信用して頂いて、ありがとうございます。
では、明日の昼、またこちらにこれをお持ち致しましょう」

「どうぞよしなに……」

ラーヤさんが捧げるように手にした服を受け取り、深々と頭を下げる姿に見送られて、私は店を出た。
またも、なかなかに責任重大なことを、つい引き受けることになってしまった。

(セーヤのいう通りね)

どうやら、私は火中の栗を拾う名人のようだ。
私を心配してくれる人たちには申し訳ないが、性分なのだから仕方がない。

(それに、ちょっと気になることがあるから、博士に見てもらおうかな……)

私は、まず滞在する宿を定め、部屋に《無限回廊の扉》をつないだ。
この時間なら博士は魔法学校の自室にいるはずだ。

私が《無限回廊の扉》を抜け部屋に入ると、博士は遅めの昼ごはんに私のお弁当を食べていた。
本日はラフテーをメインにしたなんとなく沖縄風弁当。

しっかり油抜きした後、泡盛を加えねっとりと甘辛く煮込んだ箸で切れる柔らかさの豚バラ肉に、人参を細切りにして炒め卵と混ぜて仕上げるニンジンしりしり、クーブイリチーは細切りにしたバンダッタの昆布で作った炒め物。それに、島豆腐風に固く作った冷奴も添え、おやつにはサーターアンダギーも用意した。

「おお、久しぶりだな、メイロード。旅を楽しんでいるようで何よりだ。
今日の弁当も一風変わっていて美味いが、酒が飲みたくなって困るな」

(私のは、きっとセイリュウが全部話しているんだろうなぁ……)

「ええ、楽しんでますとも。近いうちに、更に美味しい海産物が手に入るようになりますから、お楽しみに!
絶品の貝焼きを作りますからね」

私はそう言うと、セーヤに持って来た例のシャツを広げさせた。

「また洗濯か、ご苦労なことだな。
立派な仕立ての貴重品のようだが、この汚れは……」

やはり博士も、私と同様に何か引っかかったようだ。

すぐに汚れの一部を魔法で浮かせて抜き、その汚れを試験管へ移した博士は《鑑定》し始めた。

「染料かと思えば、随分と剣呑な汚れだな。これは〝ブルーオーク〟の血だよ」

〝ブルーオーク〟は大陸にも沿海州にも広く生息する魔獣で、知能も高く厄介な連中だという。

「まぁ、知能が高いといっても、連携攻撃ができる程度で、基本的にはケモノだがな。集団で襲ってくるので一般人にはなかなかの強敵だよ。

〝ブルーオーク〟は青い血が特徴で、その成分は人の血に近いと言われておる。時間が経てば経つほど落ちにくくなる厄介なものだ。
特に汚れに弱い〝アキツ瑠璃蔓草〟との相性は最悪だ。これはお前さんが知恵をつけた、あの〝魔法屋〟ぐらいしか対処できんだろうな」

何を考えているのか、このシャツを汚した愉快犯は、どこより着物を愛する〝布の都〟のそこら中で、魔獣の血を浴びせ掛けるイタズラをしていることになる。
気持ち悪い上に、タチが悪いことこの上ない。

「ということは、これ〝魔法屋〟の仕業じゃないですよね。わざわざ自分たちに落とせない汚れを広めるなんて、むしろ評判を落とすだけで意味がないです」

どうやら、ラーヤさんたち〝辻練り〟の恨みは見当違いの方へ向かっているようだ。
〝魔法屋〟復権のためにも、早く犯人を捕まえてほしい。

一息ついて落ち着いた後、私は綺麗にシャツを広げて〝パーフェクト・バニッシュ〟を発動。

「見事なものだ。まずます精度も速度も上がっている。凝り性だな、お前は」

博士はなんだか嬉しそうに笑っている。
確かに、これは博士と作り出した画期的な術式に基づいたオリジナル魔法。

この世界の常識から考えて、莫大な魔法力を湯水の如く注ぎ込んで〝洗濯〟を研究する魔法使いなどいない。

(例外的な二人……偏屈博士とおかしな異世界人が揃ったから完成できたちゃったんだよね)

他の魔法使いから見れば無意味に近い術式かもしれないが、私にとっては、この魔法はとても汎用性が高く面白い魔法なので〝魔法屋〟騒動の後も、色々研究を続けていたのだ。お陰で今は、この魔法の派生でもできるようになっている……がそれはまた別の話。

隅々まで綺麗になった〝アキツ瑠璃蔓草〟の服はその綺麗な光沢を取り戻している。
こうしてみると、このシャツは一際ヒトキワ光沢が美しく〝アキツ瑠璃蔓草〟の製品の中でも特別な逸品だと分かる。しかも、生地だけでなく仕立ても刺繍も本当に丁寧で繊細な一級品だ。

「こんなに綺麗な着物を血で汚すなんて、とても着道楽の国の人の仕業とは思えないですよ!」

すっかり作り手に感情移入してしまった私は、犯人は一体何を考えているのかと、心から憤っていた。
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」 頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。 彼がチラリと見るのは周囲。2学年上の彼の教室の前であったというのが間違いだったのかもしれない。 この一言で彼女の人生は一変した――。 ****** ※タイトル少し変えました。 ・暫く書いていなかったらかなり文体が変わってしまったので、書き直ししています。 ・トラブル回避のため、完結まで感想欄は開きません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。