234 / 840
3 魔法学校の聖人候補
423 競技会の目的
しおりを挟む
423
「さっき、庶民から魔法使いを目指す子たちには、国家魔術師はいい就職先だという話をしたね。そのために実力を見せることができるこの競技会は大きな意味があるんだよ」
この競技会には、生徒の親である多くの貴族たちが観戦に訪れるだけでなく、次世代の国家魔術師を探す軍部を始めとする各省庁の人間も多くやってくる。そのため学内の行事とはいえ、三年生たちは実技面接のひとつであるという意識で臨んでおり、強い緊張の中で競技会は行われる。
「それじゃ、貴族たちにとっての競技会はと言うと、さらに事情は面倒なのさ」
貴族たちにとっても、この競技会は大きな意味を持っていた。家族がこの学校にいる人たちにとっては、子供達の実力を知るよい機会であるが、それは同時に次の世代の持つ〝魔法による攻撃力〟を知る機会でもある。
シド帝国は近年、文化国家としての方向に政策の舵を切ったとはいえ、元々はガチガチの軍事国家だ。多くの貴族たちはその強さによって地位を獲得してきたし、今でも戦いへの参加は貴族たちの最も需要な義務となっている。
「貴族の子弟はね、絶対失敗しちゃいけないし侮られてもいけない。それは家名を傷つけることになるからね。彼らにとっては、競技会は彼らの家がいかに優秀で、国を支える貴族としてふさわしいかを誇示する行事でもあるのさ。貴族の子供達はそこから逃れられない。あの子たちも大変なんだよ」
どうやら三年生や貴族の子弟にとっては、とんでもない重圧が課せられた大会らしい。
(就職がかかっているとなったら、そりゃ緊張するよね。しかも衆人環視の中でやるわけだし、貴族は貴族で大きな失敗をしてしまったら取り返しがつかないし…… これは怖いかも)
「で、グッケンス博士がどう関わってくるのですか?」
私の言葉に、エルさんはチョコチップクッキーを食べて笑顔を浮かべつつ話してくれた。
「ハンスは決勝に残った子たちの対戦相手になっているのさ」
本当は、教授陣の中から生徒は誰でも対戦相手を選べるのだが、最強の魔術師であるハンス・グッケンスがいる以上、生徒たちは他に勝っても実力を知らしめることができない。特に貴族の子弟たちは、凡百の相手にいくら勝ってもなにも誇れない。
決勝には12名が進み、トーナメントで対決するのだが、それと並行して12名は必ずグッケンス博士を指名し対決するのだ。それにより、トーナメントの対戦で実力者同士が潰し合った結果、公正な評価がつかない可能性を排除するのだという。皆が知りたいのは、誰が勝つかだけでなく、本当の実力者が誰かなので、この二重のふるいにかけるのだそうだ。
「ハンスが行方をくらましている間は、まぁある意味平和だったがね。帰ってきた今となっては、学生たちは戦々恐々としているだろうさ。特に貴族の子弟たちは、どうしたら恥をかかずにハンスとやりあうか、夏休み中頭を悩ませているだろうよ」
国家魔術師の集団と戦っても、完膚なきまでに叩きのめせてしまうグッケンス博士を魔法学校の人たちも貴族たちも良く知っている。だから、勝てるとは思っていないまでも、それでも爪痕は残したい、ということのようだ。
「例年、ハンスは自分からはほとんど攻撃せず、交わしたり受け流したりして競技時間を終えるんだ。逆に攻撃を返されるのは〝名誉〟なんだとさ」
対戦中は相手の力量を正確に図ることに徹して、競技時間終了まで受身に徹するのがグッケンス博士のやり方だそうだ。対戦者は、なんとか博士を追い詰めこちらへの攻撃をさせられれば、ほぼ勝利だそうだ。
(そこまで実力差があるんだ。すごいな、博士)
「ただ、アイツは腹芸のできない男だからねぇ。作らなくともよい敵をまた作るんじゃないかと心配だよ」
エルさんはできの悪い弟を心配する姉のような口調でそう言ってため息をついた。
「あの……もしかして、グッケンス博士ともお知り合いなのではありませんか?」
私はエルさんにそう聞いた。
「さっき、庶民から魔法使いを目指す子たちには、国家魔術師はいい就職先だという話をしたね。そのために実力を見せることができるこの競技会は大きな意味があるんだよ」
この競技会には、生徒の親である多くの貴族たちが観戦に訪れるだけでなく、次世代の国家魔術師を探す軍部を始めとする各省庁の人間も多くやってくる。そのため学内の行事とはいえ、三年生たちは実技面接のひとつであるという意識で臨んでおり、強い緊張の中で競技会は行われる。
「それじゃ、貴族たちにとっての競技会はと言うと、さらに事情は面倒なのさ」
貴族たちにとっても、この競技会は大きな意味を持っていた。家族がこの学校にいる人たちにとっては、子供達の実力を知るよい機会であるが、それは同時に次の世代の持つ〝魔法による攻撃力〟を知る機会でもある。
シド帝国は近年、文化国家としての方向に政策の舵を切ったとはいえ、元々はガチガチの軍事国家だ。多くの貴族たちはその強さによって地位を獲得してきたし、今でも戦いへの参加は貴族たちの最も需要な義務となっている。
「貴族の子弟はね、絶対失敗しちゃいけないし侮られてもいけない。それは家名を傷つけることになるからね。彼らにとっては、競技会は彼らの家がいかに優秀で、国を支える貴族としてふさわしいかを誇示する行事でもあるのさ。貴族の子供達はそこから逃れられない。あの子たちも大変なんだよ」
どうやら三年生や貴族の子弟にとっては、とんでもない重圧が課せられた大会らしい。
(就職がかかっているとなったら、そりゃ緊張するよね。しかも衆人環視の中でやるわけだし、貴族は貴族で大きな失敗をしてしまったら取り返しがつかないし…… これは怖いかも)
「で、グッケンス博士がどう関わってくるのですか?」
私の言葉に、エルさんはチョコチップクッキーを食べて笑顔を浮かべつつ話してくれた。
「ハンスは決勝に残った子たちの対戦相手になっているのさ」
本当は、教授陣の中から生徒は誰でも対戦相手を選べるのだが、最強の魔術師であるハンス・グッケンスがいる以上、生徒たちは他に勝っても実力を知らしめることができない。特に貴族の子弟たちは、凡百の相手にいくら勝ってもなにも誇れない。
決勝には12名が進み、トーナメントで対決するのだが、それと並行して12名は必ずグッケンス博士を指名し対決するのだ。それにより、トーナメントの対戦で実力者同士が潰し合った結果、公正な評価がつかない可能性を排除するのだという。皆が知りたいのは、誰が勝つかだけでなく、本当の実力者が誰かなので、この二重のふるいにかけるのだそうだ。
「ハンスが行方をくらましている間は、まぁある意味平和だったがね。帰ってきた今となっては、学生たちは戦々恐々としているだろうさ。特に貴族の子弟たちは、どうしたら恥をかかずにハンスとやりあうか、夏休み中頭を悩ませているだろうよ」
国家魔術師の集団と戦っても、完膚なきまでに叩きのめせてしまうグッケンス博士を魔法学校の人たちも貴族たちも良く知っている。だから、勝てるとは思っていないまでも、それでも爪痕は残したい、ということのようだ。
「例年、ハンスは自分からはほとんど攻撃せず、交わしたり受け流したりして競技時間を終えるんだ。逆に攻撃を返されるのは〝名誉〟なんだとさ」
対戦中は相手の力量を正確に図ることに徹して、競技時間終了まで受身に徹するのがグッケンス博士のやり方だそうだ。対戦者は、なんとか博士を追い詰めこちらへの攻撃をさせられれば、ほぼ勝利だそうだ。
(そこまで実力差があるんだ。すごいな、博士)
「ただ、アイツは腹芸のできない男だからねぇ。作らなくともよい敵をまた作るんじゃないかと心配だよ」
エルさんはできの悪い弟を心配する姉のような口調でそう言ってため息をついた。
「あの……もしかして、グッケンス博士ともお知り合いなのではありませんか?」
私はエルさんにそう聞いた。
366
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。