利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

424 夏の終わりに

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424

私の言葉にエルさんは、至極当然という顔で頷いた。

「ああ、もちろん知ってるよ。詳しいことが言いたくないが、昔からあの男の無鉄砲に迷惑をかけられてきたクチさ。あれは頑固だからねぇ。まぁ、最近は少しまともになったようだけどさ、フェッフェ」

どうやらエルさんとグッケンス博士は昔馴染みのお仲間らしい。

「私がここのいることは、ハンスには内緒だよ。昔馴染みなんてお互い煩わしいだけさ」

エルさんがそう言うので、とりあえずこの店のことやエルさんのことはグッケンス博士に言わないことにしよう。

(でも、そういうものなんだろうか。懐かしいとか思わないのかな)

だが魔術師同士の関係についてあまり知識がないので、エルさんがそういう以上仕方がない。

またいつでもおいで、というエルさんに見送られ私が学校に戻ると、夏休みの終わりまであと1週間となったトルルが、かなり憔悴してカフェスペースにいるところに出会ってしまった。

もう日も少ないというのに、上級生たちに負けて練習室の予約すらままならず基礎魔法の目標数のクリアが難しい状況だそうで、家に帰らず最後まで居残った子たちと(オーライリは夏休み後半家に帰ることができた)、かなりどんよりとした夏休みを過ごしているようだった。

この時期になると、さすがに二学期の準備もあるため指導してくれる教官もない完全な自主練習のため、みんな行き詰まったままらしい。

「ねぇマリスさん、見ていてくれるだけでいいから付き合ってくれないかな。お願い!」

低空飛行とはいえ、ひとつも〝基礎魔法講座〟を落としていない私は、みんなに単位を落とさないお守りというか座敷わらしというか、そんなラッキーアイテム的存在として崇められているようで、私がいるだけでご利益がありそうだからと、他の居残り組にもトルルは頼まれているらしい。

「わかりました。じゃ、3日だけで良ければおつきあいします」

切羽詰まったみんなの癒しになるなら、お付き合いしてもいいだろう。それに、学生たちとの交流があまりない私には、これもまた夏休みの思い出になるかもしれない。

部屋に戻ってグッケンス博士にこの話をしたところ、1日だけなら付き合ってやろうと言ってくれた。そこで先生が見つかったことをトルルに知らせると、もう狂喜乱舞。大騒ぎになって、残っていた生徒全員(なぜか上級生まで)やってくる事態になった。

グッケンス博士が特に驚いていなかったところをみると、博士が特別指導をするというと必ずこういった状況になるようだ。博士は上級生たちに、今日は〝基礎魔法講座〟の生徒たちの指導だからと告げ、彼らにはもし時間があったら見てやろうと言い、その場に残ることは認めた。

そして最高の指導教官としても知られるグッケンス博士は、緊張するトルルたちに次々と指導を加えていった。それはどれもとても的を射た指導で、悩んでいたどの子もそれぞれの解決策を得た様子を見せ、みんな夢中で練習をし始めた。

その合間合間に、上級生たちにもこと細かくとアドバイスを与え、グッケンス博士が去った後の2日で、指導を受けた生徒たちはかなりの成果を挙げた様子だった。トルルも目標の単位が獲得できるところまで来たらしく、やっと顔から緊張が抜けてきている。

私は夏休み中訓練で終わってしまった居残り組のために、パーティーを提案した。

広い庭を利用して、ちょっと夏祭り風に流しそうめん大会を企画し、事務方からの許可ももらった。

以前、マホロの別荘でやったことがあるので、ソーヤとセーヤのふたりも慣れた手つきで設営してくれ、以前よりかなり立派で長い装置が出来上がった。

今回は食べ手が若者ばかりなので、食べ応えを考え麺は〝そうめん〟ではなく〝冷やしラーメン〟を考えている。

山形など東北にある冷たい中華スープで食べるラーメンだ。極限まで油を抑えた冷たいスープにチャーシューと薬味を添えてみた。この究極のさっぱりラーメンは、夏にぴったりだろう。

そして、それとは真逆のこってり味噌に辛味を効かせたひき肉たっぷりで熱々のスープも準備。こちらは麺の冷たさと汁の熱さの温度差を楽しんでもらう。若い男の子たちには、こういうパンチの効いた味が好まれるだろう。

まぁ、一番喜んでたくさん食べていたのはソーヤだったけどね。みんな初めての味らしく、また流しそうめんの設えももちろんみんな初めて見るので、なんだかものすごいハイテンションではしゃいでくれた。いつの間にか、残られていた教授陣や事務局の方々まで加わって、学校中の方が楽しんでくれたようだ。

「ありがとう、マリスさん! これ、マリスさんの発案なんだよね。もう、最高に美味しくて楽しいよ!
なんだか、居残ってよかった気がしてきたぐらい!」

トルルはかき氷の準備をしていた私の両手をとって、本当に楽しそうに笑っている。わたしにとっても、とても夏らしい、いい思い出になった。

用意したカラフルなフルーツソースで、学校のみんなとかき氷を食べながら見た夕暮れの夏の光景を、きっと私は一生忘れないだろう。

(うん、いい夏休みだった)
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