利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
278 / 840
3 魔法学校の聖人候補

467 ロンガ親子の悪巧み

しおりを挟む
467

「おいおいおい!! なんだか〝チェンチェン工房〟の様子がおかしいぞ」

ゴテゴテとしたデザインの値段だけは高そうなファー付きの毛皮のベストを着て、むっちりした指に指輪をジャラジャラとつけた小太りの男が〝ザイザロンガ工房〟へ駆け込んできた。

弟子たちを怒鳴りつけたり、物を投げつけたりしながら、作業台に向かっていたザイザロンガは、面倒くさそうに振り返り、やってきた男の方を向く。

「親父、なんだよ。俺はいま忙しいんだよ。〝鞍揃え〟用の新しい鞍を考えるのに必死なんだ!」

実際には、考えているのはいままさに怒鳴られたり物をぶつけられたりしている〝チェンチェン工房〟から、金で無理やり引っ張ってきた職人たちだったが、ザイザロンガの中ではそれはが考えていることになっているらしい。

魔法関連施設を除けば、セルツ唯一の知られた産業である革製品の問屋はいくつかあるが、〝ロンガロンガ〟工房の主人、ザイザロンガの父親であるマバロンガは、この街で一番大きな革問屋を経営している。この街では羽振りの良い名士ではあるが、その影響力は限定的だ。なぜなら、この街には〝チェンチェン工房〟という、国中に名の通った有名な革工房があるからだ。彼らの影響力そして信用力はこの街では不動のもので、革の価格も流行の流れも、すべては〝チェンチェン工房〟主導で決まってしまい、革問屋主導で旨味のある商売をすることはなかなかできない状況だった。

だからこそマバロンガは〝チェンチェン工房〟の親方の死に乗じて、工房ごと根こそぎ奪い取り新しい工房を開く、という三男ザイザロンガの話に乗った。少なくない資金を出し〝チェンチェン工房〟に負けない大きさのこの工房を突貫で建てさせ、すぐに仕事を始めさせた。

「親父のところから革はもう買えないんだから〝鞍揃え〟に使えるような上等な革を大量に買いつけるのは時間的にも資金的にも無理だろう?心配ないぜ」

自分がそう仕組んだのだから、間違いないとばかりに鼻を鳴らすザイザロンガを、マバロンガは怒鳴りつけた。

「バカヤロウ! 自分で見てきやがれ!! 〝チェンチェン工房〟には朝からずっと革を叩く槌音が響いているし、忙しそうに働いてるぞ!」

「え、はぁ? そんなバカな……」

慌てて立ち上がったザイザロンガとマバロンガは、コソコソと〝チェンチェン工房〟へと忍び寄り中の様子を窓から覗き見た。

そこには大量に積み上げられた革を忙しそうに選びながら処理しているプーアと職人たちの姿があった。あれから雇い入れたのか、下働きの弟子の数も増えている。

ザイザロンガは小さな声で、それを指差しながら父親を責めた。

「どういうことなんだよ、親父!! この街の革問屋は全部抑えたんじゃなかったのかよ!! あいつら、立派な革がたっぷりあるじゃねーか! 誰が売ったんだよぉ」

今後の取引を盾に脅しをかけた上、金まで握らせて抑え込んでいるこの街の革問屋がマバロンガの店を裏切るとは到底考えられなかった。

「もちろん、革問屋たちには目を光らせておるし、第一、これだけの量の高級皮革がこの街で動けば、ワシが知らずに済むわけがなかろう。……しかしいい品だ。遠目だがここに置かれている革は品質も種類もうちの店以上かもしれん。魔術師横丁のババアが孫みたいな子供と何度か訪ねてきていたらしいが、あのババアが革の買い付けに動いたって話も聞いてねぇしな。なら、一体どこから……」

わけがわからず戸惑うマバロンガを残して、工房の裏に回ったザイザロンガは井戸の水汲みに来た入ったばかりらしい下働きの少年を呼び止め、その太い腕でいきなり胸ぐらを掴んで締め上げた。

「おい! 小僧、あの革はなんだ! どこから仕入れた!! 密輸品じゃないだろうな!」

すっかり怯えた少年は、先代と付き合いのあったイスの商人から買い付けたらしい、と答えた。

「イスだとぉ!! そんな知り合いがいるなんて親方から一度も聞いたことがないぞ!  第一、イスからここまで運んでくるにしても、こんな短期間では無理だろうが!!本当なのか、おい!」

「ああ、本当だとも」

泣きそうな少年をさらに締め上げて聞き出そうとするザイザロンガの腕を、プーアが掴んで振りほどき少年を助け出す。

「うちの子に乱暴はやめてくれないか。第一革工房が革を買い集めるのは、だろう。何が問題なんだ」

後ろからマバロンガも口を出す。

「〝鞍揃え〟は、高貴な方々がお乗りになる鞍を披露する催しだ。そんな素性の知れない汚らしい怪しい革なぞ使ったものを出品されては困るんだよ。名門の工房に公衆の面前で恥はかかせたくないからね」

(やっぱりメイロードさまのおっしゃった通りの嫌がらせだな)

プーアは、メイロードの想定通りの行動に出てくる元兄弟子を冷ややかに見ていた。

「そんな心配はしてもらわなくとも結構だ。取引については正当な手順で、きっちりと行われている。それも〝鞍揃え〟の時になれば説明するさ。さあ、こっちは人数が少なくて忙しいんだ、帰ってくれ!」

親方の死後から続いていた意気消沈した様子もなくなり堂々としたプーアの態度に、今まで兄弟子をかさにきて影でいじめ続けていたザイザロンガは、唇を噛んだ。

「生意気な小僧がぁ!」

掴みかかろうとする息子を、ここで問題を起こしてはまずいとマバロンガがなだめ、そのまま散々悪態をつきながらふたりは自分の店へと戻っていった。

頭に湯気を立ててブリブリ怒りながら工房へ戻った親子は、こうなったらもう少し〝鞍揃え〟のために動く必要があると考え、ふたりでひそひそと何かを相談し始めた。

ソーヤが大量のおにぎりをばくばく食べながら横でその悪巧みをすべて聞いているとも知らずに……
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。