利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

537 里山のお菓子

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537

村の方たちとのお喋りはグッケンス博士のことから、魔法使い全般のことへと移っていった。当然、トルルのことにも話が及ぶ。幼い時にはなかなかの暴れっぷりのガキ大将だったらしいトルルだが、魔法力も高く子供の頃から簡単な魔法も使えたため昔からその道へ進むのでは……と思われていたそうだ。そしていまもこの村で八十年ぶりに魔法学校へ入学した村人の期待の星らしい。

「すごいよね。この村から魔法使い様が出るなんてさ」
「うちもよくトルルちゃんには風車を回してもらって、助かってたんだよ」
「魔法使いってのは、いったいどんな勉強をしてるんだい?」
「食べるものも違うのかねぇ」
「勉強するとどんなことができるようになるんだね?」

雑多な興味を向けられ、私とトルルはそれに冗談交じりに答えていく。だが、話していくうち、時々トルルの顔に暗い影が落ちることが出てきた。それは、卒業してからについての話だ。

村の方たちは、基本的にトルルがこの村に戻ってくることを期待している。貴族でもなく、そこまで高い魔法力でもないトルルが〝国家魔術師〟へと進むとは、みんな考えていなかったし、心優しい性格のトルルが戦地へ行くことを望むとは誰も思っていないからだ。

それにここにはトルルの大事な家族がいる。彼らのためにもトルルはここに戻るのではないか、そう思っているようだ。

(確かに、魔法使いがひとりいれば生活は楽になるし、生産性は向上するし、外敵への守りも固くなる、といいこと尽くめだ。村の人たちがトルルにそれを期待してしまうのは当然かもしれない……)

まだ二年生のトルルだが、彼女自身村人たちのそうした期待を感じているようで、それがあの暗い影の原因のような気がした。

(明日、お菓子作りをしながら、トルルと話してみよう)

ーーーーー

翌日もよく晴れた気持ちの良い日だった。日差しは強いが風が心地よく吹いているので、過ごしやすく寝覚めの気分も最高だった。私が泊めてもらった家の女将さん手作りの民宿の朝食は、木の実を使ったドレッシングの野菜サラダに根菜の煮物と漬物、そして雑穀のお粥。決して豪華ではないが、これはこれで滋味があって美味しい。

(お醤油と味噌があればさらに美味しくなるとは思うんだけど、素朴な滋味のあるイケる味だよね)

このお家は民宿をするだけの余裕のある大きさのお宅なので、台所も広い。そこで、今日はここをお借りしてお菓子作りをしてみることにした。

まずはトルルと待ち合わせて朝市へ。小麦粉やら蜂蜜やら、木の実それに木の実から絞った油やら、甘い味のする芋も手に入れた。朝市でも私とトルルが一緒にいると目立つのか、あちこちから声をかけられ、買い物も気前よくおまけしてくれた。

「マリスさんと一緒だと、食費が安上がりになって助かるわ。美女ふたりだとモテて困るわね」

買い物袋を抱えたトルルも上機嫌だ。

(そういえば、どこの市場でもよくおまけしてもらえると思っていたけど、そうかメイロードの容姿もあったんだな。美少女パワー恐るべし!)

さて、今日のお菓子の試作はというと和菓子系だ。

まずは〝芋ようかん〟から。サツマイモとは少し風味が違うものの甘さがある芋、この里で取れるこの芋は以前訪れたときに調査購入済みだっただったので、これをお菓子に仕立てることにした。

「まずは皮を剥いて水に少しさらしてアクを抜きましょうか。その後はじっくり蒸して、甘みを引き出すのよ」

トルルはしっかりメモを取りながら作り方を覚えようとしている。

「この芋はおかず向きじゃないから、子供のおやつに蒸して食べたりすることが多いんだけど、これをどうするの?」

フードプロセッサーでもあれば簡単なのだが、さすがにそれは無理。ここは人の力で蒸し上がった芋を丁寧に潰していく。なるべく滑らかになるよう二度ほどざるで漉したりしてなんとかペースト状にした後、蜂蜜を足して甘さを調整。それを用意しておいた木型に紙を敷いたものの中へと入れて形を整えた後、上に板を乗せ少しだけ重みをかけ、涼しい場所に置き粗熱をとっていく。

その間にもうひとつのお菓子を作ることにしよう。

薄力粉と卵と砂糖それに油、至ってシンプルな材料。だが、上白糖といったものはないので蜂蜜を少し煮詰めたものを代用として使った。ベーキングパウダーが使えたらさらにサクサク感の強いものができるかもしれないが、まぁそれをここで言っても仕方がない。

「これは〝かりんとう〟っていう揚げ菓子なの。油が貴重品だから、ちょっと贅沢ではあるけどこの里では木の実がいろいろな種類たくさん採れて、木の実油も比較的使いやすいらしいから良いんじゃないかと思って……」

まずは卵と油と蜂蜜をよく混ぜ、そこにふるいにかけた薄力粉を入れて全体を練ってまとめる。後は食べやすい大きさでスティック状に整形して低温の油できれいな色に揚げれば完成だ。

「これはカリカリして美味しいね。村にあるものだけで作れるし、簡単!」

「うん。さらに豪華にするなら表面に煮詰めた蜂蜜をかけてもいいし、さらに砕いた木の実を表面につけても香ばしくて食感が複雑になるし美味しいよ」

「すごい、すごい! へぇ、そうやって工夫できるんだね」

冷えて固まった〝芋ようかん〟は型から外し、崩れないよう糸を使って長方形の見慣れた形に切りそろえた。今日は食べやすいよう、もう一工夫。半量を〝芋きんつば〟にしてみよう。表面に小麦粉を溶いたものを塗ってきんつば風にして、子供たちが手で持って食べやすくしてみた。

(本当は白玉粉も使えればモチっとした食感も出るんだけど、まぁ今回は持ちやすさ優先でこれで我慢)

「わぁ、これも綺麗だね。本当に高級なお菓子みたい」

私とトルル、そしてソーヤもキッチンのテーブルでお茶をしながら出来上がったお菓子の試食をすることにした。

「これ、食べると芋そのものって感じだね。でも、美味しくて食べやすくて、今まで食べたことのないお菓子……とっても上品な味なのに、ここで取れるものだけで作っているからなのかな、すごくしっくりくる」

〝芋ようかん〟と〝芋きんつば〟そして〝かりんとう〟の味にご機嫌のトルルだったが、そこでこんなことを言い始めた。

「私がこの里に残っても、こんな風に新しい驚きや画期的な何かができるのかな……みんながそんな期待をしているような気がして、正直ちょっと……村に戻るのが不安なの」

どうやらこれがトルルの憂いの原因のようだ。
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