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3 魔法学校の聖人候補
583 メイロードの出自
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583
「ええと……なんですか? 今年も私に〝魔法競技会〟へ出ろ、とおっしゃってます?」
チェット・モートさんを前に、私は呆れ顔でそう言ったが、モートさんは愛想笑いをしつつも引き下がってはくれない。
「去年も申し上げましたが、私は聴講生なので、参加義務はないですよね」
〝魔法競技会〟は、二学期の学校行事。直接対決で魔法の実力を競い合うイベントだ。自分の力を誇示したい学生や就職を有利にしたい学生にとってはとても大事な競技会だ。対外的な注目度も高く、観戦の来場者も多い。昨年はオリジナルのハンカチを作ってずいぶん稼がせてもらった。
確かに昨年は私も出場した。
ドール参謀の『メイロードならもしかしていいところまでいくんじゃなの?』という好奇心のせいで出場させられてしまったのだが、それについてはご本人にもうそんなことはしないと約束してもらっているし……なぜ今年もまたそんなオファーが来るのだろう。
「その‥‥ですね。今年もメイロード・マリスさまには推薦者が現れまして……今回も学校の名誉に関わる方からの推薦でございますので、どうしても出場していただきたいわけなのでございます」
モートさんがおずおずと差し出した推薦状のサインは〝シド帝国国立魔法学校 生徒会長 アーシアン・シルベスター 〟となっていた。
「会長が! なんで!?」
その紙を掴んでまじまじと見ながら、私は混乱していた。なぜ、生徒会長が一介の庶民の聴講生を推薦するのか。
「毎年、こういった推薦はあることなんですか?」
私の問いにモートさんも首を傾げながら話してくれた。
「そこなんですよね。生徒会に参加されている学生は、もともと優秀な方たちばかりですから、推薦などなくても皆さんいい成績を収められます。もちろん〝生徒会推薦枠〟は昔から認められてはおりましたが、わざわざ推薦状が出ることはいままでなかったのです」
だがシルベスター会長はその伝家の宝刀を使ってきたわけだ。自ら進んで競技会に出ることがないだろう私を引き摺り出すために……
(なにを考えているんだか、あの人は……)
「モートさん、申し訳ありませんがこの件は保留とさせてください。とにかくシルベスター会長に本意をお聞きしてからでないと決断できないです」
いい返事がもらえなかったことに落胆しながらも、モートさんは私の返事を待ってくれることになった。だが、期限は3日以内。それまでに会長と話し合ってほしいそうだ。
「今年の二学期は大きな行事が続いていますので、あまり時間がございません。どうぞお早いお答えをお願いいたします」
モートさんの言う通り〝研究発表会〟の準備に時間を取られたので〝魔法競技会〟の準備期間が短くなっているのだ。ともかく会長と話をするため、私は生徒会室へと向かった。
生徒会室では、会長が役員たちと会議をしていたが、私の姿を見ると彼らとの打ち合わせを切り上げ、奥の部屋へと私を連れて行った。ドアを閉めると会長とふたりきりでなかなかに気まずい。だが、さっさと話を進めなければ。
「あの、私を競技会にす……」
「ああ、推薦した。君には今回は三位以内に入賞してもらいたい」
シルベスター会長は、普段と変わらないポーカーフェイスで、私を見つめてそう言った。
「な、なぜ、私をす……」
「君が才能ある魔法使いであることを貴族たちに知らしめたい。ふむ……やはり三位入賞ではなく優勝してくれたまえ」
話している間に、いつの間にか要求レベルがさらに上がっている。
考えてみれば、シルベスター生徒会長はこれまで、クローナをけしかけて私と対立させようとしたり、生徒会へ無理やり引き込んだりと、いろいろ私に対して含むところのある対応をしてくれている。だんだん腹が立ってきた私は、強い口調で突っ掛かった。
「なんで私が出たくもない〝魔法競技会〟に推薦されて、しかも優勝しなくちゃいけないんですか?! 私は目立ちたくありませんし、貴族の皆さんに認められたいとも思っていません! 一体何の冗談ですか!」
私の剣幕に少し眉を潜めた会長は、私にソファーへ座るように言い、自らお茶を入れてくれた。そして、私の前のソファーへ腰を下ろすと、ひとつため息をついてから話を始めた。
「君の入学以来、私は君を観察してきた。君に高い魔法力があるだろうことは推察できたし、独創的で正確無比な君の魔法は敬服するに値するものだとも思っている。しかも君は人を助け、人を動かす方法も知っている。実に素晴らしい」
「はぁ……」
手放しで私のことを褒め始める会長。一体なにが起こっているのかわからず混乱する私。そこへさらに訳のわからない言葉が続いた。
「さすがはシルベスター公爵家の血筋だ、と私は嬉しく思う」
「はぁ!?」
意味がわからず、高級そうな茶器に入った貴重な紅茶をこぼしそうになる私に、少しだけ微笑みを浮かべたシルベスター会長。
「落ち着いて聞いてもらいたい。メイロード・マリス、君は貴族の血を引いている。君の父アーサー・マリスは本名をヴァイス=アーサー・シルベスターという人物で、私の叔父だ。したがって君もシルベスター公爵家の血筋となる」
(私が貴族!?)
私は呆気に取られ、もう紅茶がティーカップからこぼれていることすら忘れていた。
「ええと……なんですか? 今年も私に〝魔法競技会〟へ出ろ、とおっしゃってます?」
チェット・モートさんを前に、私は呆れ顔でそう言ったが、モートさんは愛想笑いをしつつも引き下がってはくれない。
「去年も申し上げましたが、私は聴講生なので、参加義務はないですよね」
〝魔法競技会〟は、二学期の学校行事。直接対決で魔法の実力を競い合うイベントだ。自分の力を誇示したい学生や就職を有利にしたい学生にとってはとても大事な競技会だ。対外的な注目度も高く、観戦の来場者も多い。昨年はオリジナルのハンカチを作ってずいぶん稼がせてもらった。
確かに昨年は私も出場した。
ドール参謀の『メイロードならもしかしていいところまでいくんじゃなの?』という好奇心のせいで出場させられてしまったのだが、それについてはご本人にもうそんなことはしないと約束してもらっているし……なぜ今年もまたそんなオファーが来るのだろう。
「その‥‥ですね。今年もメイロード・マリスさまには推薦者が現れまして……今回も学校の名誉に関わる方からの推薦でございますので、どうしても出場していただきたいわけなのでございます」
モートさんがおずおずと差し出した推薦状のサインは〝シド帝国国立魔法学校 生徒会長 アーシアン・シルベスター 〟となっていた。
「会長が! なんで!?」
その紙を掴んでまじまじと見ながら、私は混乱していた。なぜ、生徒会長が一介の庶民の聴講生を推薦するのか。
「毎年、こういった推薦はあることなんですか?」
私の問いにモートさんも首を傾げながら話してくれた。
「そこなんですよね。生徒会に参加されている学生は、もともと優秀な方たちばかりですから、推薦などなくても皆さんいい成績を収められます。もちろん〝生徒会推薦枠〟は昔から認められてはおりましたが、わざわざ推薦状が出ることはいままでなかったのです」
だがシルベスター会長はその伝家の宝刀を使ってきたわけだ。自ら進んで競技会に出ることがないだろう私を引き摺り出すために……
(なにを考えているんだか、あの人は……)
「モートさん、申し訳ありませんがこの件は保留とさせてください。とにかくシルベスター会長に本意をお聞きしてからでないと決断できないです」
いい返事がもらえなかったことに落胆しながらも、モートさんは私の返事を待ってくれることになった。だが、期限は3日以内。それまでに会長と話し合ってほしいそうだ。
「今年の二学期は大きな行事が続いていますので、あまり時間がございません。どうぞお早いお答えをお願いいたします」
モートさんの言う通り〝研究発表会〟の準備に時間を取られたので〝魔法競技会〟の準備期間が短くなっているのだ。ともかく会長と話をするため、私は生徒会室へと向かった。
生徒会室では、会長が役員たちと会議をしていたが、私の姿を見ると彼らとの打ち合わせを切り上げ、奥の部屋へと私を連れて行った。ドアを閉めると会長とふたりきりでなかなかに気まずい。だが、さっさと話を進めなければ。
「あの、私を競技会にす……」
「ああ、推薦した。君には今回は三位以内に入賞してもらいたい」
シルベスター会長は、普段と変わらないポーカーフェイスで、私を見つめてそう言った。
「な、なぜ、私をす……」
「君が才能ある魔法使いであることを貴族たちに知らしめたい。ふむ……やはり三位入賞ではなく優勝してくれたまえ」
話している間に、いつの間にか要求レベルがさらに上がっている。
考えてみれば、シルベスター生徒会長はこれまで、クローナをけしかけて私と対立させようとしたり、生徒会へ無理やり引き込んだりと、いろいろ私に対して含むところのある対応をしてくれている。だんだん腹が立ってきた私は、強い口調で突っ掛かった。
「なんで私が出たくもない〝魔法競技会〟に推薦されて、しかも優勝しなくちゃいけないんですか?! 私は目立ちたくありませんし、貴族の皆さんに認められたいとも思っていません! 一体何の冗談ですか!」
私の剣幕に少し眉を潜めた会長は、私にソファーへ座るように言い、自らお茶を入れてくれた。そして、私の前のソファーへ腰を下ろすと、ひとつため息をついてから話を始めた。
「君の入学以来、私は君を観察してきた。君に高い魔法力があるだろうことは推察できたし、独創的で正確無比な君の魔法は敬服するに値するものだとも思っている。しかも君は人を助け、人を動かす方法も知っている。実に素晴らしい」
「はぁ……」
手放しで私のことを褒め始める会長。一体なにが起こっているのかわからず混乱する私。そこへさらに訳のわからない言葉が続いた。
「さすがはシルベスター公爵家の血筋だ、と私は嬉しく思う」
「はぁ!?」
意味がわからず、高級そうな茶器に入った貴重な紅茶をこぼしそうになる私に、少しだけ微笑みを浮かべたシルベスター会長。
「落ち着いて聞いてもらいたい。メイロード・マリス、君は貴族の血を引いている。君の父アーサー・マリスは本名をヴァイス=アーサー・シルベスターという人物で、私の叔父だ。したがって君もシルベスター公爵家の血筋となる」
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私は呆気に取られ、もう紅茶がティーカップからこぼれていることすら忘れていた。
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