利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
638 / 840
5森に住む聖人候補

827 チビ薬師様

しおりを挟む
827

「なんだい、見習いとか言ってたが立派な薬師様じゃないか!」

次の日はサービスだという、他の人たちとは明らかに違うやけに豪華な朝食を〝谷間の憩い〟亭でありがたくいただいたあと

(まぁ、食べたのはほとんどソーヤなんだけどね)、

従業員のみなさん総出のお見送りを受けながら出立した。

そして、集落を出る前に昨日注文された商品を雑貨店へと納品に出向くと、店主のソロスさんがからかうようにこう言ってきたのだ。

さすがは狭い集落の中、昨夜私が酒場で伝えた情報は瞬く間に駆け巡り、こうしてソロスさんにもしっかり伝わった、ということのようだ。必要な情報が素早く伝わっているようで、とても喜ばしい。

「いえ、たまたま知っていただけですよ。下処理に気をつけさえすればかなり防げる病気ですので、そのやり方をお伝えしただけで……」

「それだって、俺たちは知らずに長い間痛い思いを我慢してきたんだ。メイロードさんには感謝しても仕切れないね!」

納品用に渡したカゴの中身を確かめながら、ソロスさんの絶賛は止まらない。

(いつの間にかメイロード#さん____#になってるし……)

「これでもここの連中は〝石吐き病〟に関しては長いこといろいろ調べていたんだぜ。あちこちの村や町に伝わる眉唾物の怪しい治療法だってたくさん試してきてる。石を砕いて飲むとか、わざと高熱を出すなんていうめちゃくちゃな方法だって藁にもすがる思いで試した者もいる。高い金を払って〝ポーション〟を飲んだやつだっているが、痛みがやや軽くなるぐらいだった。それも石が出るまで持続しなかったせいで、もう一度激痛に見舞われてもっと苦しい思いをしたりしてなぁ……踏んだり蹴ったりだった」

苦しむ人たちの姿を思い出すのかソロスさんは眉を寄せている。

「ありがとうよ、これで〝石吐き病〟が減ったら、メイロードさんはこの集落の英雄、いや救いの女神だよ」

「そんな大袈裟な」

「いやいや、大袈裟じゃない! ここに住んでいる限り逃れられない病気があるってのはな、心に重くのしかかるんだよ。俺だってみんなのたうち回って苦しむ様子を子供のころから何度も見せられながら暮らしてきた。あれがいつか自分にも降りかかる……そう思いながら生きるのは、いやなもんなんだぜ」

「それは……そう……ですよね」

たしかに原因がわからず、誰に降りかかるかもわからない激痛を伴う病が身近にある生活のストレスは、みんなに暗い影を落とし続けてきただろう。完全に駆逐するまではできなくとも、原因と対処法がわかっている、という安心感はここの人たちには大事なことに違いない。

「そうそう昨日こちらでいただいた〝ラジーネック〟は積極的に食べたり飲んだりしてください。あれには石が作られるのを抑える〝クエン酸〟という成分が入ってますから。十分なアク抜きと水分摂取、それに〝ラジーネック〟という特産の柑橘を常日頃から積極的に食べれば、きっと風土病とまで呼ばれるような数の患者は出なくなるはずです」

これは昨日も伝えたことだが、念押しに伝えておいた。

「そうだってな。〝ラジーネック〟が〝石吐き病〟にいいらしいって噂はたしかにあったんだが、そうかやっぱりいいんだな」

根本的な〝シュウ酸〟の大量摂取が解決していない状況で柑橘だけをとっても効果は半減する。きっといままでは飲んだところで結局罹るのだということで、あまり効果があるとは思われなかったのだろう。

「これからはちゃんとメイロードさんに言われたことを守ってやってみるよ。なんだか希望が持てる……うれしいことだ」

上機嫌のソロスさんから、私は商品の代金とお土産だという〝ラジーネック〟をどっさり受け取り、店の前まで出て見送ってくれたソロスさんにペコっと頭を下げた。

(さあ、これで近隣へのご挨拶もできたことだし、のんびり生活を再開できるぞ!)

スキップしたいような気分で村の出口へと向かう私だったが、どうも昨日とは明らかに何かが違う。

気がつけば、しっかり魔法で存在を希薄にしているはずなのに、出会った人がみんな頭を下げてくるし、

「メイロードさん!」
「薬師様!」

と声までかけられる。

(あ、あれぇ?)

どうやら土地の人とは違う服装であることと、チビ薬師であることが伝わっているようで、顔の印象が薄くてもしっかり認識されちゃっているようだ。

集落に希望を与えたインパクトは、私の想像を超えたとんでもなく大きなものだったらしい。

〔またですか……〕

〝ラジーネック〟が入った大きな袋を嬉しそうに抱えたソーヤが《念話》でそう言いながらクスクス笑っている。

〔うー、言わないでよ。わかってます!〕

ついおせっかいをしてしまった末のこの結果。私は少し恥ずかしい気持ちになり、笑顔の人々からの挨拶にひきつった笑顔を返しながら、足早に集落を後にしたのだった。
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。