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5森に住む聖人候補
826 〝石吐き病〟
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826
「俺のわかることならなんでも教えるよ。この集落のことならよく知っている自信があるからね。なんでも聞いてよ、小さな薬師さん」
〝小さな〟は余計だ!と思いつつも、私は気になっているいくつかのことを聞いてみることにした。
「先程炒めものでいただいた〝アオバナグサ〟なんですが、あれはこの辺りではよく食べられているものなのでしょうか?」
「ああそうだよ。あれはこの辺りの山ならあちこちに生えているし、育てやすいんで村の畑でも作ってる。とにかく丈夫で成長が早いし冬の間も食べられるんで、寒い季節には青物が少ないこの辺りでは重宝な野菜だな。それになによりうまいからね。それが、どうかしたのかい?」
どうやら〝アオバナグサ〟は長く食されてきた、かなりこの地域に根づいた食材らしい。そこで私はもうひとつ、どうしても気になっていたことを確かめた。
「この地域で腰の激痛を伴う症状、それから尿道から石が出るといった症状のある方はいませんか?」
タルロさんは、なぜここにきたこともなかったはずの私がそんなことを知っているんだと、とても驚いた顔をしつつも、少し声を落としてこう答えた。
「すごいな、どうしてそんなことがわかるんだろうな。お嬢ちゃんは本物の薬師様なんだ……ああ、そいつはこの辺りに昔っからあるやつでね〝石吐き病〟っていうんだよ。毎年のように罹るやつがいるんだが、水を多く飲ませるぐらいしかできることがなくて、石が腹から出てくるまでひたすら激痛に耐えるしかないんだ。うちの親父も一度やったんだが、それは見ていられないぐらいの七転八倒だったな。なのに、石が出ちまったらケロッとしているんだから、変な病気だよ」
(ああ、やっぱり……)
私は原因と結果が明らかなこの状況を見過ごすことはできなかった。私の知る防ぐ方法があるのだから薬師としてこれは伝えるべき事柄だろう。
「いまからお伝えすることを、ぜひ集落の皆さんで共有してください。それで〝石吐き病〟にかかる方は格段に減るはずです」
私の言葉にタルロさんは驚きと混乱が混じりあった顔を見せたが、声の真剣さから何かを感じ取ってくれたらしく数秒後にゆっくりと頷いた。
「ああ……わかったよ……」
私も背筋を正し、落ち着きのある態度で話すよう心がけた。
「〝アオバナグサ〟の中に含まれているある成分が、みなさんの躰の中に石を生む原因です。ですがご心配は入りません。この成分は水に溶け出しますので、しっかり茹でれば抜けてしまいます。炒め物などにしたい場合は、事前にしっかり水に浸けてこの成分を水に逃してあげてから使うようにしてください。することはこれだけです」
「ええ!! 〝アオバナグサ〟の中にそんな病気の素があったなんて信じられないが、たしかに親父も〝アオバナグサ〟は好物で生でそのまま食べてることもあったな。あれが悪かったのか。そんなこと誰も知らなかったよ!」
「そうですね。他の山菜のように舌に感じる明らかなえぐみなどがあれば、なんらかのアク抜きを考えますが、この〝シュウ酸〟という物質はそういう違和感を感じさせないので、見落とされがちなのです」
とくにここで食べられている〝アオバナグサ〟は、品種改良された私の世界のものと違い、野生種のためなのだろう非常に結石の原因となる〝シュウ酸〟が多い。常にしっかり処理をしてから食べなければ〝石吐き病〟は増えこそすれ絶対になくならない。
「食べるなというのではありません。土地の方のためには必要な野菜だと思います。それにしっかりアク抜きをしてやれば問題なく食べられますから。どうぞこのことを皆さんに伝えてあげてください。あと、水をしっかり飲むというのもとても大事なことなので続けてくださいね」
「ああ、驚いた! これはすぐに、すぐに広めなきゃな!」
そういうが早いか、私の言葉をタルロさんはすぐさま背後で働いていた家族に伝えはじめた。そこからは大騒ぎだ。彼らも私のところに詳しい説明を聞きにきたので丁寧に解説。すると彼らは店の中にいた人々にすぐさまそれを伝え始め、集落中に広めるように促した。
私が〝薬師〟という職業(修行中の設定だけど)であると名乗ったこと。〝キズバンド〟という有用な品をこの集落にもたらしていたこと。すでに集落の顔役であるソロスさんとも面識があること。こうした状況が功を奏し、彼らはまったく私の言葉を疑うことはなかった。
(それに、対処法を教えただけで、なにかを売りつけようというような話ではないからね)
特にひどい目に遭った経験があるというタルロさんのお父さんは、フロアに出て演説せんばかりの勢いで、とても熱心に伝えてくれていた。この方もまたこの集落の顔役らしいので、皆すぐに耳を傾けてくれそうだ。
(この勢いなら、すぐに周知されそうね。よかった)
「俺のわかることならなんでも教えるよ。この集落のことならよく知っている自信があるからね。なんでも聞いてよ、小さな薬師さん」
〝小さな〟は余計だ!と思いつつも、私は気になっているいくつかのことを聞いてみることにした。
「先程炒めものでいただいた〝アオバナグサ〟なんですが、あれはこの辺りではよく食べられているものなのでしょうか?」
「ああそうだよ。あれはこの辺りの山ならあちこちに生えているし、育てやすいんで村の畑でも作ってる。とにかく丈夫で成長が早いし冬の間も食べられるんで、寒い季節には青物が少ないこの辺りでは重宝な野菜だな。それになによりうまいからね。それが、どうかしたのかい?」
どうやら〝アオバナグサ〟は長く食されてきた、かなりこの地域に根づいた食材らしい。そこで私はもうひとつ、どうしても気になっていたことを確かめた。
「この地域で腰の激痛を伴う症状、それから尿道から石が出るといった症状のある方はいませんか?」
タルロさんは、なぜここにきたこともなかったはずの私がそんなことを知っているんだと、とても驚いた顔をしつつも、少し声を落としてこう答えた。
「すごいな、どうしてそんなことがわかるんだろうな。お嬢ちゃんは本物の薬師様なんだ……ああ、そいつはこの辺りに昔っからあるやつでね〝石吐き病〟っていうんだよ。毎年のように罹るやつがいるんだが、水を多く飲ませるぐらいしかできることがなくて、石が腹から出てくるまでひたすら激痛に耐えるしかないんだ。うちの親父も一度やったんだが、それは見ていられないぐらいの七転八倒だったな。なのに、石が出ちまったらケロッとしているんだから、変な病気だよ」
(ああ、やっぱり……)
私は原因と結果が明らかなこの状況を見過ごすことはできなかった。私の知る防ぐ方法があるのだから薬師としてこれは伝えるべき事柄だろう。
「いまからお伝えすることを、ぜひ集落の皆さんで共有してください。それで〝石吐き病〟にかかる方は格段に減るはずです」
私の言葉にタルロさんは驚きと混乱が混じりあった顔を見せたが、声の真剣さから何かを感じ取ってくれたらしく数秒後にゆっくりと頷いた。
「ああ……わかったよ……」
私も背筋を正し、落ち着きのある態度で話すよう心がけた。
「〝アオバナグサ〟の中に含まれているある成分が、みなさんの躰の中に石を生む原因です。ですがご心配は入りません。この成分は水に溶け出しますので、しっかり茹でれば抜けてしまいます。炒め物などにしたい場合は、事前にしっかり水に浸けてこの成分を水に逃してあげてから使うようにしてください。することはこれだけです」
「ええ!! 〝アオバナグサ〟の中にそんな病気の素があったなんて信じられないが、たしかに親父も〝アオバナグサ〟は好物で生でそのまま食べてることもあったな。あれが悪かったのか。そんなこと誰も知らなかったよ!」
「そうですね。他の山菜のように舌に感じる明らかなえぐみなどがあれば、なんらかのアク抜きを考えますが、この〝シュウ酸〟という物質はそういう違和感を感じさせないので、見落とされがちなのです」
とくにここで食べられている〝アオバナグサ〟は、品種改良された私の世界のものと違い、野生種のためなのだろう非常に結石の原因となる〝シュウ酸〟が多い。常にしっかり処理をしてから食べなければ〝石吐き病〟は増えこそすれ絶対になくならない。
「食べるなというのではありません。土地の方のためには必要な野菜だと思います。それにしっかりアク抜きをしてやれば問題なく食べられますから。どうぞこのことを皆さんに伝えてあげてください。あと、水をしっかり飲むというのもとても大事なことなので続けてくださいね」
「ああ、驚いた! これはすぐに、すぐに広めなきゃな!」
そういうが早いか、私の言葉をタルロさんはすぐさま背後で働いていた家族に伝えはじめた。そこからは大騒ぎだ。彼らも私のところに詳しい説明を聞きにきたので丁寧に解説。すると彼らは店の中にいた人々にすぐさまそれを伝え始め、集落中に広めるように促した。
私が〝薬師〟という職業(修行中の設定だけど)であると名乗ったこと。〝キズバンド〟という有用な品をこの集落にもたらしていたこと。すでに集落の顔役であるソロスさんとも面識があること。こうした状況が功を奏し、彼らはまったく私の言葉を疑うことはなかった。
(それに、対処法を教えただけで、なにかを売りつけようというような話ではないからね)
特にひどい目に遭った経験があるというタルロさんのお父さんは、フロアに出て演説せんばかりの勢いで、とても熱心に伝えてくれていた。この方もまたこの集落の顔役らしいので、皆すぐに耳を傾けてくれそうだ。
(この勢いなら、すぐに周知されそうね。よかった)
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