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5森に住む聖人候補
850 祝賀会
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850
大盛況だったお祭りも終わってしまえば、以前と変わらぬ日常がやってくる。
ひとときの興奮と喧騒を楽しんだ私も、静けさを取り戻した港町から離れた山中で今日も相変わらずのんびり生活を満喫中だ。山を散策し畑を耕し花の世話をする、のどかで平和なスローライフ。この生活になんの不満もない。
でも、この間からチクチクとひとつだけ気になっていることがある。沿海州の一部で流行り始めているという病気のことだ。
アキツにはまだその流行は及んでいないそうだが、伝染性の病気であれば広がり始めてからでは多くの人が苦しむことを免れなくなる。しかも、この港町は品質の良い海産物の主要な仕入れ先になっている。行商人など国から国へ旅する人たちが多く訪れる土地なので、危険な病の保菌者がいた場合、それがいつやってくるかわからないのだ。
(助けられることがあるかどうかはわからないけど、少し情報は集めておいた方がいいよね……)
私はソーヤに隣国の様子や病の実態について少し調べてもらうことにした。
「了解しました。それでは行ってまいります!」
「お願いね。でも、危険なことはしないでね」
ソーヤからのリクエストのおかずをいっぱい詰め込んだ大きなお弁当箱を持たせて送り出したところで、私も出かけることにする。今日は先日の〝綱引き神事〟の優勝者であるヨシン組が〝山神神社〟のお社に綱を奉納する儀式があり、その後の宴会に私もご招待を受けているのだ。ヨシンさんとタイチは私がこの神事の発案者であることを知っているので、神事にもぜひ来てほしいと何度もお誘いがあった。また注目を浴びてしまいそうな神事の来賓だけは固辞したのだが、お祝いごとを何度も断るのも気が引け、多くの人に紛れられそうな祝賀会だけは参加することにした。
「さて、お土産はこんなところでいいかしらね」
今回はたくさんのお酒を準備し、それに合うおつまみもいくつか用意した。今回の目玉は研究を重ねてきた燻製の盛り合わせだ。それをカゴに偽装した《無限回廊の扉》の中に収納してから、私は会場である領主館へと向かった。
私が到着したときには、すでに領主館は大変な賑わいで、部屋に並べられたご馳走とお酒を手に、たくさんの人が庭で語らっていた。
(これだけの大人数ならうまく紛れ込めそうかな。少しお料理の味見をしてからお祝いのご挨拶をして帰ろっと)
なるべく目立たぬよう会場入りした私は、持参した料理やお酒を領主館のメイドさんたちに渡した。そして、さてテーブルに並んだ新鮮な山海の珍味のどれから食べようかと楽しく迷っていたのだが、手を出す前にタイチとヨシンさんに速攻で捕まってしまった。
「お待ちしておりましたよ、メイロードさま。たくさんのお祝いの品物をありがとうございます」
「ずいぶんいい酒を持ってきてくれたそうじゃないか。何よりの祝いだよ。ありがとうな」
「あ、ヨシンさん。この度は優勝おめでとうございます。優勝綱の奉納も無事に終わってよかったですね」
「ああ、ありがとうよ! おかげでヨシン組の運気は最高さ!」
あとで挨拶しようと思っていた今日の主賓にいきなり捕まって、私は慌てて挨拶する。
どうやら私が到着したら間髪を入れずに知らせるよう指示がされていたようで、まだ一口も食べていないうちに拉致られることになってしまった。
離してくれる気はなさそうなので、しぶしぶお偉い方々やお年寄りなどのためのテーブル席に案内された私は、そこで賓客待遇を受けることになった。
(このテーブル、あのときの会議の出席者多すぎ!)
そう、このテーブルはタイチの領主就任を認めさせたあの会議のときに列席していた、この街の重要なポジションにいる方々ばかりなのだ。おかげで、私への対応は皆さん王族にでも対するような丁寧さで、すこぶる居心地が悪い。
「メイロードさま、おひさしゅうございます。おかげを持ちまして、この街も私の仕事もしっかり持ち直せました」
「メイロードさま、お会いできて光栄です。その節はこの港をお救いいただきありがとうございました」
次々に挨拶にくる強面の大人たちに私は笑顔を向け、上品そうに微笑むことで何とかやり過ごす。
(今日は例の変装をしていないメイロード・マリスそのものの格好なので、こうなるとは思ってたんだけどね。お祝いごとに変装姿というのも失礼な気がしたし、タイチにもできればこの姿で来て欲しいと言われちゃったし……まぁ仕方ないか)
そのうちワゴンで料理が大量に運ばれてきて、皆さんの前に置かれたので、そこからはそのメンバーでなし崩し的に話が始まってしまった。
「申し訳ありません、メイロードさま。最近、お姿を港で見たという噂が広まっておりまして、隠しきれませんでした」
(変装と魔法で姿を隠してはきたけど、長期間たくさんの人に見られて、しかもメイロード・マリスを知っている人もいるとなると、完璧とはいかないなぁ……)
タイチが申し訳なさそうに小さな声でそう謝ってきた。だが、逗留が長くなれば、こんなこともあるだろうとは思っていたので、ダメージは低い。ただし、噂をこれ以上広げないことに最善を尽くすよう釘は刺しておいた。
「今日はお祝いのために私がやってまいりましたが、この街に滞在しているのは旅の〝見習い薬師〟のメイロードでございます。どうか皆さまそれをお忘れなきように。それがお互いのためというものですよ」
美少女スマイルでそう脅しをかけると、皆さんに緊張が走り、黙ってうなづいてくれた。きっと彼らの目にはサイデムおじさまを始めとする私のゴツい後見人の皆様の姿が見えていることだろう。
「では、美味しそうなお祝い料理をいただきましょうか」
私がそういうと、そこからは歓談が始まった。
最初はめでたい話に花が咲いて、何度も乾杯があり、ヨシン組の剛腕を皆で褒め称えていたが、そこから話の雲行きが怪しくなっていった。もちろん、それは例の隣国で流行しているという病の話だ。
「突然人が倒れるという病らしく、いまだに原因は不明なのだそうだ」
「アキツ国にも及ぶのでしょうか」
「その可能性は十分ありそうだが、かといって防ぐ手立てがなぁ……」
そこでひとりの網元がこう言った。
「実はマホロの大神殿にいらっしゃる巫女様が、この国に病気が入り込まないよう祈祷をしてくださったらしいのだが、どうやらその祈祷の最中に倒れられて、いまもかなりお悪い状態のままだそうだ。衆生の病をその身に受けられたとの話も伝わってきている。まったくもっておいたわしいことだ」
「それって〝青の巫女〟のことでしょうか?」
「はい。首都マホロにございます大神殿の奥の院にいらっしゃるミカミの姫君です」
(え、セイカが倒れたってこと!?)
私は驚きで、そこから何も食べる気にならず、ずっとセイカの身を案じながら、皆さんの話に耳を傾け続けた。
大盛況だったお祭りも終わってしまえば、以前と変わらぬ日常がやってくる。
ひとときの興奮と喧騒を楽しんだ私も、静けさを取り戻した港町から離れた山中で今日も相変わらずのんびり生活を満喫中だ。山を散策し畑を耕し花の世話をする、のどかで平和なスローライフ。この生活になんの不満もない。
でも、この間からチクチクとひとつだけ気になっていることがある。沿海州の一部で流行り始めているという病気のことだ。
アキツにはまだその流行は及んでいないそうだが、伝染性の病気であれば広がり始めてからでは多くの人が苦しむことを免れなくなる。しかも、この港町は品質の良い海産物の主要な仕入れ先になっている。行商人など国から国へ旅する人たちが多く訪れる土地なので、危険な病の保菌者がいた場合、それがいつやってくるかわからないのだ。
(助けられることがあるかどうかはわからないけど、少し情報は集めておいた方がいいよね……)
私はソーヤに隣国の様子や病の実態について少し調べてもらうことにした。
「了解しました。それでは行ってまいります!」
「お願いね。でも、危険なことはしないでね」
ソーヤからのリクエストのおかずをいっぱい詰め込んだ大きなお弁当箱を持たせて送り出したところで、私も出かけることにする。今日は先日の〝綱引き神事〟の優勝者であるヨシン組が〝山神神社〟のお社に綱を奉納する儀式があり、その後の宴会に私もご招待を受けているのだ。ヨシンさんとタイチは私がこの神事の発案者であることを知っているので、神事にもぜひ来てほしいと何度もお誘いがあった。また注目を浴びてしまいそうな神事の来賓だけは固辞したのだが、お祝いごとを何度も断るのも気が引け、多くの人に紛れられそうな祝賀会だけは参加することにした。
「さて、お土産はこんなところでいいかしらね」
今回はたくさんのお酒を準備し、それに合うおつまみもいくつか用意した。今回の目玉は研究を重ねてきた燻製の盛り合わせだ。それをカゴに偽装した《無限回廊の扉》の中に収納してから、私は会場である領主館へと向かった。
私が到着したときには、すでに領主館は大変な賑わいで、部屋に並べられたご馳走とお酒を手に、たくさんの人が庭で語らっていた。
(これだけの大人数ならうまく紛れ込めそうかな。少しお料理の味見をしてからお祝いのご挨拶をして帰ろっと)
なるべく目立たぬよう会場入りした私は、持参した料理やお酒を領主館のメイドさんたちに渡した。そして、さてテーブルに並んだ新鮮な山海の珍味のどれから食べようかと楽しく迷っていたのだが、手を出す前にタイチとヨシンさんに速攻で捕まってしまった。
「お待ちしておりましたよ、メイロードさま。たくさんのお祝いの品物をありがとうございます」
「ずいぶんいい酒を持ってきてくれたそうじゃないか。何よりの祝いだよ。ありがとうな」
「あ、ヨシンさん。この度は優勝おめでとうございます。優勝綱の奉納も無事に終わってよかったですね」
「ああ、ありがとうよ! おかげでヨシン組の運気は最高さ!」
あとで挨拶しようと思っていた今日の主賓にいきなり捕まって、私は慌てて挨拶する。
どうやら私が到着したら間髪を入れずに知らせるよう指示がされていたようで、まだ一口も食べていないうちに拉致られることになってしまった。
離してくれる気はなさそうなので、しぶしぶお偉い方々やお年寄りなどのためのテーブル席に案内された私は、そこで賓客待遇を受けることになった。
(このテーブル、あのときの会議の出席者多すぎ!)
そう、このテーブルはタイチの領主就任を認めさせたあの会議のときに列席していた、この街の重要なポジションにいる方々ばかりなのだ。おかげで、私への対応は皆さん王族にでも対するような丁寧さで、すこぶる居心地が悪い。
「メイロードさま、おひさしゅうございます。おかげを持ちまして、この街も私の仕事もしっかり持ち直せました」
「メイロードさま、お会いできて光栄です。その節はこの港をお救いいただきありがとうございました」
次々に挨拶にくる強面の大人たちに私は笑顔を向け、上品そうに微笑むことで何とかやり過ごす。
(今日は例の変装をしていないメイロード・マリスそのものの格好なので、こうなるとは思ってたんだけどね。お祝いごとに変装姿というのも失礼な気がしたし、タイチにもできればこの姿で来て欲しいと言われちゃったし……まぁ仕方ないか)
そのうちワゴンで料理が大量に運ばれてきて、皆さんの前に置かれたので、そこからはそのメンバーでなし崩し的に話が始まってしまった。
「申し訳ありません、メイロードさま。最近、お姿を港で見たという噂が広まっておりまして、隠しきれませんでした」
(変装と魔法で姿を隠してはきたけど、長期間たくさんの人に見られて、しかもメイロード・マリスを知っている人もいるとなると、完璧とはいかないなぁ……)
タイチが申し訳なさそうに小さな声でそう謝ってきた。だが、逗留が長くなれば、こんなこともあるだろうとは思っていたので、ダメージは低い。ただし、噂をこれ以上広げないことに最善を尽くすよう釘は刺しておいた。
「今日はお祝いのために私がやってまいりましたが、この街に滞在しているのは旅の〝見習い薬師〟のメイロードでございます。どうか皆さまそれをお忘れなきように。それがお互いのためというものですよ」
美少女スマイルでそう脅しをかけると、皆さんに緊張が走り、黙ってうなづいてくれた。きっと彼らの目にはサイデムおじさまを始めとする私のゴツい後見人の皆様の姿が見えていることだろう。
「では、美味しそうなお祝い料理をいただきましょうか」
私がそういうと、そこからは歓談が始まった。
最初はめでたい話に花が咲いて、何度も乾杯があり、ヨシン組の剛腕を皆で褒め称えていたが、そこから話の雲行きが怪しくなっていった。もちろん、それは例の隣国で流行しているという病の話だ。
「突然人が倒れるという病らしく、いまだに原因は不明なのだそうだ」
「アキツ国にも及ぶのでしょうか」
「その可能性は十分ありそうだが、かといって防ぐ手立てがなぁ……」
そこでひとりの網元がこう言った。
「実はマホロの大神殿にいらっしゃる巫女様が、この国に病気が入り込まないよう祈祷をしてくださったらしいのだが、どうやらその祈祷の最中に倒れられて、いまもかなりお悪い状態のままだそうだ。衆生の病をその身に受けられたとの話も伝わってきている。まったくもっておいたわしいことだ」
「それって〝青の巫女〟のことでしょうか?」
「はい。首都マホロにございます大神殿の奥の院にいらっしゃるミカミの姫君です」
(え、セイカが倒れたってこと!?)
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