利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

896 反響は大きすぎて

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896

サシャさんはキビキビと対応しながら、皆に見つからなさそうな位置から会場に入った私に事情を説明してくれた。

「今日は開場の数時間前からこんな状態で……あの日以降、教会に〝ドラジェ〟のことを聞きたいとか、購入はできないのかという問い合わせがたくさんきたのですよ。聞いたところでは、貧しい子どものひとりがメイロードさんからいただいた〝ドラジェ〟を自分の母親に分けたそうで、その母親が自分が雇われているお金持ちの家での世間話に話したようです。そこから大人にも話が広がり〝教会で見たこともないとんでもなく美味しい菓子が配られた!〟という噂が一気に広がったようです」

〝ドラジェ〟は確かに甘いお菓子ではあるが、コーティングしているだけで、ほぼ木の実だし、ハチミツは流通しているのだから(まぁ、それも安くはないけど)、そこまでインパクトはないだろうと考えた私が甘かったようだ。

「余裕のある方々にも〝ドラジェ〟の噂が広がったのですが、誰も知っている方はいらっしゃらなかったようです。ああいう方々は新しいものや珍しいものがお好きのようで、見たこともないこのお菓子に興味をお持ちになったようでした。それで、使用人に命じてエストレートの町中を探させたそうなのですよ。でも、〝ドラジェ〟が買える店は見つからず、そうこうしている間に街中を探し回る使用人たちから、さらに話が広がってしまったようで……」

〝ドラジェ〟が見つからないのは当然だ。あれを作るためには精製された砂糖とそれを粉砕しキメの細かい粉状にする技術が必要で、どちらの技術もこの世界でできない技術ではないが、おそらく試みた人はいない。

試みない理由は簡単で、素材はあるが製法が発見されていない上、手間がかかるからだ。まだ、製菓技術の発達が遅れているここでは無理もない。
私は自分が料理好きだから、素材の純度を上げる精製やきめを揃えるための粉砕技術は、料理や菓子を作るときのとても重要な要素だと思っていた。だから魔法が使えるようになってからはいろいろなやり方を試してみたし、魔法を使えば純度の高い砂糖を精製することも粉糖を作ることもそれほど難しくなかったし、量産したければ《生産の陣》がある。

(この辺りは薬作りのために学んだ魔法技術がすごく使えるんだよね。とはいえ、まぁ、お菓子を作るために貴重な魔法力を使う魔法使いはいないだろうな。私は作るけど)

「もしかして、この並んでいる人たちは私のお菓子を〝買う〟つもりなんですか?」

「これは寄付されたものを生活に困っていらっしゃる方々におわけするための催しだと何度もお伝えしたのですが、買うといっているのだから、高く売ってその金で施しを行えばいいはずだ、と言われてしまいまして……」

「私は子どもたちにお菓子を配りたいだけなんですけど、困りましたね」

この〝ドラジェ〟は、子どもたちにあげるために用意したものだ。これについて私は〝売る〟などとひとコトも言っていない。その上、現状では彼らによって私があげたいと思っている子どもたちが列から排除されてしまっている。
ここは慈善のための場のはずだ。にもかかわらず、人の好意に対して、彼らは勝手に値をつけ待ち望んでいた子どもたちを押し退けている。私にはその態度はとても不躾で傲慢だと感じられたので、並んでいる大人たちは放置することにした。

(彼らも主人の命令を受けているだけなんだろうけど、それにしたってこんなやり方はないでしょう。売りモノにするなんて考えてなかった〝ドラジェ〟を強引に買おうとするなんて冗談じゃない! 〝ドラジェ〟の使い道どうするか決めるのは私だ)

私はソーヤを〝ドラジェ〟の入った袋と一緒にさっさと撤退させ、配布を事情により中止することをサシャさんに告げた。今日甘いお菓子をもらえると思っていた子どもたちには気の毒だが、この状態ではとても子どもたちに届けられるとは思えない。

これは〝差し入れ〟として、個人の好意で用意したもの。元々売るつもりで作っていない〝ドラジェ〟を商品として売るならば、商売人としていろいろと考えなければならないことがある。

(今回は原価も考えていないし、値つけに必要な情報も不十分だし〝商品〟にするならそれなりの体裁も作りたい。お菓子なんだし、売り物にするなら見栄えは良くしたいもん。とにかくこんな状況で売り物として世に出すのはダメだ)

そして私はサシャさんに提案した。

「後日、子どもたちのために本の読み聞かせの会を開きませんか? そのときにおやつが振る舞われるかも、と告知してください。もちろんそれは私が作ってきます。これは、子どもたちだけの催しなので大人は入場できないということで……」

「はい、それはとてもいい催しですね。それで子どもたちが読み書きに関心を持ってくれたら、とても嬉しいことです。ちょっとしたものでも〝おやつ〟はきっと魅力的でしょうから、可能性あるというだけでも、きっと多くの子どもたちがきてくれると思いますよ」

これは私の名前が出ない教会の催しだ。〝ドラジェ〟との関連を疑われることはないだろう。たとえ疑われたとしても、子どもたちの中に大人が混じればすぐわかる。

(それに甘いお菓子ならいいわけで、別に〝ドラジェ〟にこだわる必要もないもんね。なにか別のお菓子を考えようっと。甘くて小さなお菓子かぁ……なにがいいかな)

私はサシャさんにだけ小さな袋に入った〝ドラジェ〟をわたして、並ぶ人々の横をすり抜け家へと戻った。

私がいることで、かえって騒ぎが大きくなることを懸念して、今日はお手伝いも自粛だ。

(まったく、これじゃ潜入どころじゃないじゃない! 失敗したなぁ)

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