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6 謎の事件と聖人候補
895 〝ドラジェ〟
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895
会場の隅っこの机を借りて〝ドラジェ〟を配り始めると、最初はみたことのないお菓子に不思議そうに遠巻きにしていた子どもたちだったが、味見用に一粒づつ配ったあたりから様子が変わってきた。
「甘いよ!! すごくカリカリだよ!」
「これがあまい? あまいっておいしいね!」
目を見張り驚く様子をみせた子どもたちは、どうやら他の子どもや知り合いに自分たちの体験を拡散したらしく、私たちが袋詰めに追われている間に、ワラワラと人が集まってきてとんでもない人数が並び始めてしまった。
「サシャさん。とりあえず、今回は子どもたち限定にしましょう。あと、二度並びもダメってことにしないと行列が捌き切れないです」
「そうですね。量にも限りがありますし……そうしましょう」
慌てた様子のサシャさんと対応を決めたところで、私はソーヤに応援を要請した。
〔ソーヤ、いま大丈夫かな? できればこちらの応援に来て欲しいんだけど……〕
〔わかりました。大丈夫ですよ。いまはこちらにも大きな動きはないですし、セーヤに任せてそちらへ向かいますね〕
〔ありがとう、助かるわ〕
「私の家の者がもうすぐ来てくれる予定になっているので、その子にも手伝わせましょう。それまでは私たちでなんとかしないとですね」
私が並んでいる人たちに子供にしか配らないことを告げて回っていたサシャさんに声をかけると、彼女は少しホッとした表情になった。
「それはありがたいですね。この炊き出しはいつも人手不足なので、こちらを助けてもらうのは難しいですから……」
なんとか列を短くしようと、紙でも〝お子様限定〟と張り出してみたが、識字率の低さが災いしてあまり効果がみられず、結局声を上げ注意喚起を続けるしかなかった。しかも、行列は全然減る様子がない。
駆けつけてくれたソーヤの超高速袋詰めのおかげで、何とか急場は凌いだが、用意したドラジェは一時間ほどで配り終えてしまった。だが、撤収作業をしている間にも、甘いお菓子が配られていたことを知るのが遅かった子どもたちは次々とやってくる。何もない机の上を見た小さな子どもたちから、がっかりした顔で
「もうもらえないの?」
「あまいおかし、もうないの?」
とたくさんの子供たちに囲まれ涙目で言われた私は、ごめんねと謝りつつ、あまりの不憫さに
「またすぐ持ってくるからね。そのときに食べられるよ」
と約束してしまった。
「高価なお菓子なのではないですか? 作るのも大変なのではありませんか?」
サシャさんは私を気遣って、無理をしてもってくることはないのだと言ってくれたが《生産の陣》というスキルを持つ私にとって、この世界での完全再現に成功している〝ドラジェ〟の大量生産はとくに大変なことではない。
(まぁ、それを教えるわけにはいかないけどね)
「大丈夫ですよ、家の者も手伝ってくれますし……では、そうですね、明後日の炊き出しのときにまた持ってきます。もし子どもたちから聞かれたら、そう教えてあげてください」
「おやさしいのですね。感謝いたします」
サシャさんは少し悲しそうな笑顔でこう続けた。
「貧しい子どもたちは、日々の食事にも事欠くが多いのです。なんとか私たちで日々の食事のお世話はしておりますが、さすがにそれ以上のことは……今日このお菓子をいただいた子どもたちの多くは甘いお菓子を食べたのも初めてでしょう。よほど嬉しかったのでしょうね」
「それなら尚更食べられなかった子にあげなきゃいけないですね。大丈夫です。たくさん用意してきますよ」
「ありがとうございます。どうかあなたのために祈らせてください」
サシャさんはそういうと手を組んでしばし祈りを捧げていた。
(どうやら、サシャさんは本当に敬虔な〝退魔教〟の信者のようね。しかも献身的でやさしいし……とても悪巧みの手先になるような人とは思えないわ)
私とセーヤは、このあとほかの炊き出しを手伝ったり、寄付された服の補修を手伝ったりしてから帰宅した。今日の様子では、この教団の人々は総じて善良で裏表のない人々のようだ。そして、一日中いたのに炊き出しの場に〝教区長〟ラケルタ・バージェは一切姿を見せなかった。
(他の司教たちはことあるごとに手伝いをしてくれているのに、一番偉い〝教区長〟だけ姿すら見せないってやっぱりおかしいよね。布教のためでもあるはずの慈善活動なら、絶対顔は出すべきだと思うんだけど……どうにもあやしいなぁ)
この日手伝いに精を出しつつも、私は教会の方を見ながら、さらに探りを入れる方法はないかと考えていた。
そして約束の日。ソーヤに《生産の陣》を使って複製した大量の砂糖菓子〝ドラジェ〟が詰まった大きな袋を持ってもらい炊き出しを行なっている〝退魔教〟の教会前にやってきた私は、すでに砂糖菓子欲しさに並んでいる人々の列を目の当たりにしてしまった。
サシャさんに駆け寄り話を聞くと、この数日でエストレートの街に〝ドラジェ〟の噂が一気に広まってしまったらしい。
(うわ、これは……やっちゃったかな)
会場の隅っこの机を借りて〝ドラジェ〟を配り始めると、最初はみたことのないお菓子に不思議そうに遠巻きにしていた子どもたちだったが、味見用に一粒づつ配ったあたりから様子が変わってきた。
「甘いよ!! すごくカリカリだよ!」
「これがあまい? あまいっておいしいね!」
目を見張り驚く様子をみせた子どもたちは、どうやら他の子どもや知り合いに自分たちの体験を拡散したらしく、私たちが袋詰めに追われている間に、ワラワラと人が集まってきてとんでもない人数が並び始めてしまった。
「サシャさん。とりあえず、今回は子どもたち限定にしましょう。あと、二度並びもダメってことにしないと行列が捌き切れないです」
「そうですね。量にも限りがありますし……そうしましょう」
慌てた様子のサシャさんと対応を決めたところで、私はソーヤに応援を要請した。
〔ソーヤ、いま大丈夫かな? できればこちらの応援に来て欲しいんだけど……〕
〔わかりました。大丈夫ですよ。いまはこちらにも大きな動きはないですし、セーヤに任せてそちらへ向かいますね〕
〔ありがとう、助かるわ〕
「私の家の者がもうすぐ来てくれる予定になっているので、その子にも手伝わせましょう。それまでは私たちでなんとかしないとですね」
私が並んでいる人たちに子供にしか配らないことを告げて回っていたサシャさんに声をかけると、彼女は少しホッとした表情になった。
「それはありがたいですね。この炊き出しはいつも人手不足なので、こちらを助けてもらうのは難しいですから……」
なんとか列を短くしようと、紙でも〝お子様限定〟と張り出してみたが、識字率の低さが災いしてあまり効果がみられず、結局声を上げ注意喚起を続けるしかなかった。しかも、行列は全然減る様子がない。
駆けつけてくれたソーヤの超高速袋詰めのおかげで、何とか急場は凌いだが、用意したドラジェは一時間ほどで配り終えてしまった。だが、撤収作業をしている間にも、甘いお菓子が配られていたことを知るのが遅かった子どもたちは次々とやってくる。何もない机の上を見た小さな子どもたちから、がっかりした顔で
「もうもらえないの?」
「あまいおかし、もうないの?」
とたくさんの子供たちに囲まれ涙目で言われた私は、ごめんねと謝りつつ、あまりの不憫さに
「またすぐ持ってくるからね。そのときに食べられるよ」
と約束してしまった。
「高価なお菓子なのではないですか? 作るのも大変なのではありませんか?」
サシャさんは私を気遣って、無理をしてもってくることはないのだと言ってくれたが《生産の陣》というスキルを持つ私にとって、この世界での完全再現に成功している〝ドラジェ〟の大量生産はとくに大変なことではない。
(まぁ、それを教えるわけにはいかないけどね)
「大丈夫ですよ、家の者も手伝ってくれますし……では、そうですね、明後日の炊き出しのときにまた持ってきます。もし子どもたちから聞かれたら、そう教えてあげてください」
「おやさしいのですね。感謝いたします」
サシャさんは少し悲しそうな笑顔でこう続けた。
「貧しい子どもたちは、日々の食事にも事欠くが多いのです。なんとか私たちで日々の食事のお世話はしておりますが、さすがにそれ以上のことは……今日このお菓子をいただいた子どもたちの多くは甘いお菓子を食べたのも初めてでしょう。よほど嬉しかったのでしょうね」
「それなら尚更食べられなかった子にあげなきゃいけないですね。大丈夫です。たくさん用意してきますよ」
「ありがとうございます。どうかあなたのために祈らせてください」
サシャさんはそういうと手を組んでしばし祈りを捧げていた。
(どうやら、サシャさんは本当に敬虔な〝退魔教〟の信者のようね。しかも献身的でやさしいし……とても悪巧みの手先になるような人とは思えないわ)
私とセーヤは、このあとほかの炊き出しを手伝ったり、寄付された服の補修を手伝ったりしてから帰宅した。今日の様子では、この教団の人々は総じて善良で裏表のない人々のようだ。そして、一日中いたのに炊き出しの場に〝教区長〟ラケルタ・バージェは一切姿を見せなかった。
(他の司教たちはことあるごとに手伝いをしてくれているのに、一番偉い〝教区長〟だけ姿すら見せないってやっぱりおかしいよね。布教のためでもあるはずの慈善活動なら、絶対顔は出すべきだと思うんだけど……どうにもあやしいなぁ)
この日手伝いに精を出しつつも、私は教会の方を見ながら、さらに探りを入れる方法はないかと考えていた。
そして約束の日。ソーヤに《生産の陣》を使って複製した大量の砂糖菓子〝ドラジェ〟が詰まった大きな袋を持ってもらい炊き出しを行なっている〝退魔教〟の教会前にやってきた私は、すでに砂糖菓子欲しさに並んでいる人々の列を目の当たりにしてしまった。
サシャさんに駆け寄り話を聞くと、この数日でエストレートの街に〝ドラジェ〟の噂が一気に広まってしまったらしい。
(うわ、これは……やっちゃったかな)
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