利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
736 / 840
6 謎の事件と聖人候補

925 救助の詳細を報告

しおりを挟む
925

貴族というのは決まり事が大好きだ。

なにかことを起こすためには、必ずあれこれよくわからない儀礼や手順があり、アポイントひとつ取るだけでも複雑な手順を踏まされる。相手が皇族ともなれば、服装から挨拶から、それに相応しい日付かどうかまで、やたらと考慮しなければならない事柄があり、公式訪問ともなれば何週間も待たされるのが当たり前なのだ。

(そのたびにセイツェさんたちを煩わせなきゃいけないし、ホント時間の無駄よねー、面倒しかないんだから)

では、そんなまどろっこしいことなどしている場合ではない、今回のような緊急事案での面会の場合はどうなるか。

いくつか方法はあるが、最も即効性が高いのは皇族から〝信頼の指輪〟を借り受けることだ。
この特別に作られた皇家の紋章とそれぞれの皇族の紋章がデザインされた指輪は、皇族の皆さんがひとりひとつずつ持っている特別な品だ。皇族と同等の権利を貸し与えられた者に一時的に授けるという意味を持つとんでもないもので、有名な御老公様の印籠のような効果を持っている。

当然、滅多に貸し出されることはない帝国の至宝でもあるわけだが、実はグッケンス博士はなんと皇帝陛下から別枠でこの指輪を賜っている。

(これ一時的じゃなくて、永久貸与だっていうんだからすごいよね。だから、博士と一緒ならいつでも皇宮内はフリーパスだしどんな政府機関へもズカズカ入り放題、なんて便利! この指輪は皇宮内の結界や罠を解除できる特殊仕様だから、本当に最速だよね)

私は昨日、ユリシル皇子からその貴重な指輪を貸していただいた。すぐに報告に来て欲しいからということで、いつ何時でもすぐ出入りできるようにという破格の計らいだ。

この指輪ははめた人の指のサイズに合うようできていて、皇宮の警備の人は常にその人の指にある指輪をチェックしているので、私がなにも言わずとも、どのチェックポイントも瞬時に扉が開けられ、最敬礼状態で通してもらえた。

(おお、すごい!)

私は内心これは話が早くて気持ちいい! と思いつつもそれを顔に出さないよう注意し、スタスタと宮殿内を進んだ。知らせがあったのだろう、すぐに私の傍にユリシル皇子の警備の方が何人か現れ、私は彼らに先導され守られながら皇子の待つ応接室へと向かった。

応接室にはゴリゴリの結界魔法と監視阻害系の多種多様な魔法が組み込まれていて、さすが皇宮内の応接室という感じだ。

〝ここでの話は絶対外部には出さない!〟

という、強烈な意志を感じる鉄壁の魔法防御といえた。

(さすがだわね……私が何かしなくても、安心して話せそう)

扉の前に立つと、すぐ内側から扉は開けられ、私は対皇族用の貴族のお辞儀をする。ただし、長ったらしい口上は省略だ。いまはそういう場面ではないし、それは必要ないと事前に聞かされている。

「メイロード、さすがだな。早かったね。調査隊の冒険者たちと戻ったということだけは《伝令》があったが、ぜひ詳細を聞かせて欲しい」

前のめりのユリシル皇子の様子から、かなりの興奮が見て取れる。

(まぁ、まさかひとりで突っ込んで行った私が調査隊の皆さんと戻ってくるとは思わなかったよね。彼らが生きている保証もない状況だったし……ここは、どういうことなのか説明して納得してもらわないと。それに、あのダンジョンのおかしさについても早急に報告した方がいいよね)

「それでは、前置き抜きで説明させていただきます」

そこから私は綺麗に清書してきた私の作った地図、そして冒険者の方々が作成した地図を私が複写しておいたものを机の上に広げ、冒険者の方々にで出会うまでのことを話していった。

「……ですから、私は地下三階までなんの危険もなく進んでいきました。博士に教えていただいた《迷彩魔法》は実に良い仕事をしてくれるのです」

「それは、実に素晴らしい技術だ。メイロードとグッケンス博士の師弟関係もうらやましいよ。私も子供のころには指導いただいたが、そこまで優秀な生徒ではなかったからね。残念なことだが……」

ユリシル皇子のその言葉には、実感がこもっていた。皇族は貴族の中でも最も高い魔法力があり、グッケンス博士のシゴキにも耐えられる可能性は高かったはずだ。とはいえ、私のように全属性の適性がある人がとても珍しいのはここでも同じで、複雑な構成の博士オリジナル魔法を習得することは、いくら努力してもできるとは限らない。

(努力の人っていわれているユリシル皇子は、博士の魔法を学びきれなくて悔しかっただろうね)

「話が逸れたね。彼らを見つけたところから話してくれ」
「は、はい。そこから魔法でどうにかこうにかダンジョンの壁に穴を開けまして、そこから疲弊していたみなさんに回復系の魔法薬を渡し、さらに穴を広げてなんとか通れる通路を確保、ですが壁が硬くて苦労しました……」

「ダンジョンの壁を抜いた……というのか?」

「はい。それしかみなさんを助ける手段がなかったので……」

「それは、すごい…‥実にすごいな!」

魔法の詳細はぼかして、ざっくり話を進めていたにもかかわらず、ユリシル皇子の目を見開いての驚き方は絶句に近いものだった。

(あれ? もしかして、あの壁って相当特殊なものだったの……かな?)

私は背中に流れる汗を感じながら、ともかく話を続けるしかなかった。なんとか、話を進めてこの話がこれ以上広がらないことを全力で願いながら。
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。