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6 謎の事件と聖人候補
1007 消滅
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1007
(もうこれ以上、エピゾフォールをこの世界に居させてはいけない…‥一刻も早くエイガン大陸に叩き返す‼︎)
人を殺めることに一切の躊躇がなくなっている魔王の様子と残骸となって海に沈んでしまった〝天舟〟を目の当たりにして、そう決意した私は、ちょっとした作戦を考えた。
〔セイリュウ、ここから私はエピゾフォールを挑発します〕
〔えっ、危なくない? なっ……なにをする気なの、メイロード⁉︎〕
〔詳しく話している時間はないんだけど、これがうまくいけば決着をつけられるはずなの。いまの魔王は危険すぎる、ここは短期決戦でいきましょう〕
〔でも……〕
〔お願い! そのためにいまは魔王の視線を私に集中させておきたいの。きっとすごい攻撃も受けるし……それに私は防御の魔法を使えないかもしれない。ごめんね〕
私の真剣な表情に、振り返ったセイリュウが笑顔を向けてくれる。
〔……わかった。ホント、メイロードは頑固だからなぁ。仕方ない、僕もできる限り防御を維持するよ〕
〔ありがとう、セイリュウ〕
雲の上でいままで前衛をしてくれていたセイリュウの前に進み出た私は、深く息を吸い心を落ち着かせると、できる限り声を張った。
「あーあ! 魔族の王様がここまで愚かだなんて、本当に残念。あなたはいま自分がどんなに惨めで無様なのか、なーんにもわかってないのね!」
私は頭の中で挑発的に聞こえそうな言葉を必死に選びながら、それでも余裕があるそぶりを見せようとゆっくりと話を続ける。
「以前のあなたはまだ少しはマシだったわ。ごくごく少ししか影響を与えられないこのイルガン大陸で、随分いろいろな騒動を起こしてくれた。どれもとても周到で人を弄ぶものだったけれど、あのころのあなたには知性が感じられたし、おかげで随分振り回されたわ」
まるで魔王の人間界への攻撃を評価しているように話すことで、彼の耳目を私に向けさせ、そこでさらに言い募る。
「なのに……いまのあなたはどう? 怒りに任せて力任せで、馬鹿みたいに鞭を振るうだけ! これがエイガン大陸の、魔族を統べる王なのかしら?」
私はできる限り嫌味ったらしく、挑発的に嘲る言葉を探しながら続ける。
「魔王様はすべてから〝魔力〟を奪い自分の力とするのでしょう? でも、きっともうあなたの大陸には、あなたに魔力を捧げるものはいない……だからその膨大な魔力で執念深く〝聖なる壁〟を破壊する方法を試し続けたのよね。で、お暇なときにイヤガラセみたいなちょっかいを人間に出していた。
その末には〝吸魔玉〟なんてものまで作り出して、私たち人間が神から与えられた〝魔法力〟を〝魔力〟に変換する魔道具まで作り上げた、その執念……いえ妄執には呆れるほかないわ」
私は哀れなものを見るように、いま魔王の姿に変化している〝鞭〟の先端を見つめた。
「そんなに私たちが、私たちの〝魔法力〟が欲しかったのね……いえ欲しがっていたのはあなたじゃない《王への供物》の渇望にあなたが抗えないだけ」
私は指を刺し、エピゾフォールを笑ってやった。
「滑稽ね! ひたすら〝魔力〟を求め、あなたを飢えさせるその力は、あなたを強くはするけれど、絶対に満足は与えない。魔王エピゾフォール……その権能に引きずられるだけのあなたは、その権能のただの奴隷よ」
鞭がしなり、耳をつんざくような高い音を響かせた。
〔黙れ! 黙れ! 世界を統べる最強の王の前にひれ伏せ!〕
「それは無理ね……だって、いまのあなたは王じゃないもの。あなたはかわいそうな自らの奴隷なんですもの、違うかしらエピゾフォール?」
〔だま……れ……ぐ、グゥ……うう〕
どうやら〝奴隷〟という言葉はエピゾフォールに深く刺さったようだ。最後の理性が、自らの権能に抗おうと試みている。
(でも、きっとそれも長くは保てないわね)
私はエピゾフォールにこれまで彼がしてきたことを思い出させることで、権能の支配下にいる魔王になんとか考える力を呼び戻そうとしていた。もちろん、この状況に至っていることを考えれば、すでに彼の理性のほとんどは《王への供物》にとらわれているだろう。
(それでも、この一瞬でいい。この一瞬だけ、自分の権能に抗ってくれたら……)
すべてを従えすべてを取り込むエピゾフォールの権能……それは最高の力のはずだったのに、こんな小娘から、自らが自らの〝奴隷〟になっていると指摘されている。この事態は、彼にとって耐え難い屈辱のはずだ。
〔王に……この世界の王に……なんという……おのれ! ギギ……ギ……〕
抗ってはいるようだが、やはりもうすでにエピゾフォールの思考の乱れは制御不能の領域に達しつつある。
そして、不明瞭な罵詈雑言と共に、そこからはただ怒り任せた攻撃が、私に向かって投げつけられ始めた。
〔消えろ! われを憐れむな※#⚪︎▲#! われこそはこの世界の⚪︎※#※#!〕
絶え間なく降ってくる強力な鞭は、とてつもない威力だ。
そして、恐れていた事態になってしまう。
ついにセイリュウの強力な防御結界が綻び始めてしまったのだ。
(ああ、これはちょっとまずいかも……)
ついに結界を破壊した〝鞭〟が雲の上に叩きつけられると、雲は散り散りになって消え去り、さすがのセイリュウも吹き飛ばされてしまった。
そんなセイリュウの行方を確認するまもなく、雲から落ちた私は〝鞭〟に絡め取られ、先ほどまでのエスライ・タガローサと同じ状態になっている。
(あの男もこんな感覚だったのかな……)
躰にあらゆる毒が急激になだれ込んでいるその感覚は、ただただ気持ちが悪かった。目の前が真っ暗になるような瘴気が立ち込め、魔王は不気味に笑い続けている。
〔ククククク……※# ⚪︎※# ⚪︎※#……すべては……王に捧げられる供物なのだ……ククククク……〕
私は最後の言葉を哀れな魔王に呟いた。
「かわいそうな魔王様。ここはあなたの世界じゃないの。あなたはあなたの滅した世界で永遠を彷徨いなさい」
そして、次の瞬間、私を締め上げていた〝鞭〟と魔王の姿はドロドロに溶け始め、消えたのだった。
断末魔の声すらない、それは文字通りの〝消滅〟だった。
(もうこれ以上、エピゾフォールをこの世界に居させてはいけない…‥一刻も早くエイガン大陸に叩き返す‼︎)
人を殺めることに一切の躊躇がなくなっている魔王の様子と残骸となって海に沈んでしまった〝天舟〟を目の当たりにして、そう決意した私は、ちょっとした作戦を考えた。
〔セイリュウ、ここから私はエピゾフォールを挑発します〕
〔えっ、危なくない? なっ……なにをする気なの、メイロード⁉︎〕
〔詳しく話している時間はないんだけど、これがうまくいけば決着をつけられるはずなの。いまの魔王は危険すぎる、ここは短期決戦でいきましょう〕
〔でも……〕
〔お願い! そのためにいまは魔王の視線を私に集中させておきたいの。きっとすごい攻撃も受けるし……それに私は防御の魔法を使えないかもしれない。ごめんね〕
私の真剣な表情に、振り返ったセイリュウが笑顔を向けてくれる。
〔……わかった。ホント、メイロードは頑固だからなぁ。仕方ない、僕もできる限り防御を維持するよ〕
〔ありがとう、セイリュウ〕
雲の上でいままで前衛をしてくれていたセイリュウの前に進み出た私は、深く息を吸い心を落ち着かせると、できる限り声を張った。
「あーあ! 魔族の王様がここまで愚かだなんて、本当に残念。あなたはいま自分がどんなに惨めで無様なのか、なーんにもわかってないのね!」
私は頭の中で挑発的に聞こえそうな言葉を必死に選びながら、それでも余裕があるそぶりを見せようとゆっくりと話を続ける。
「以前のあなたはまだ少しはマシだったわ。ごくごく少ししか影響を与えられないこのイルガン大陸で、随分いろいろな騒動を起こしてくれた。どれもとても周到で人を弄ぶものだったけれど、あのころのあなたには知性が感じられたし、おかげで随分振り回されたわ」
まるで魔王の人間界への攻撃を評価しているように話すことで、彼の耳目を私に向けさせ、そこでさらに言い募る。
「なのに……いまのあなたはどう? 怒りに任せて力任せで、馬鹿みたいに鞭を振るうだけ! これがエイガン大陸の、魔族を統べる王なのかしら?」
私はできる限り嫌味ったらしく、挑発的に嘲る言葉を探しながら続ける。
「魔王様はすべてから〝魔力〟を奪い自分の力とするのでしょう? でも、きっともうあなたの大陸には、あなたに魔力を捧げるものはいない……だからその膨大な魔力で執念深く〝聖なる壁〟を破壊する方法を試し続けたのよね。で、お暇なときにイヤガラセみたいなちょっかいを人間に出していた。
その末には〝吸魔玉〟なんてものまで作り出して、私たち人間が神から与えられた〝魔法力〟を〝魔力〟に変換する魔道具まで作り上げた、その執念……いえ妄執には呆れるほかないわ」
私は哀れなものを見るように、いま魔王の姿に変化している〝鞭〟の先端を見つめた。
「そんなに私たちが、私たちの〝魔法力〟が欲しかったのね……いえ欲しがっていたのはあなたじゃない《王への供物》の渇望にあなたが抗えないだけ」
私は指を刺し、エピゾフォールを笑ってやった。
「滑稽ね! ひたすら〝魔力〟を求め、あなたを飢えさせるその力は、あなたを強くはするけれど、絶対に満足は与えない。魔王エピゾフォール……その権能に引きずられるだけのあなたは、その権能のただの奴隷よ」
鞭がしなり、耳をつんざくような高い音を響かせた。
〔黙れ! 黙れ! 世界を統べる最強の王の前にひれ伏せ!〕
「それは無理ね……だって、いまのあなたは王じゃないもの。あなたはかわいそうな自らの奴隷なんですもの、違うかしらエピゾフォール?」
〔だま……れ……ぐ、グゥ……うう〕
どうやら〝奴隷〟という言葉はエピゾフォールに深く刺さったようだ。最後の理性が、自らの権能に抗おうと試みている。
(でも、きっとそれも長くは保てないわね)
私はエピゾフォールにこれまで彼がしてきたことを思い出させることで、権能の支配下にいる魔王になんとか考える力を呼び戻そうとしていた。もちろん、この状況に至っていることを考えれば、すでに彼の理性のほとんどは《王への供物》にとらわれているだろう。
(それでも、この一瞬でいい。この一瞬だけ、自分の権能に抗ってくれたら……)
すべてを従えすべてを取り込むエピゾフォールの権能……それは最高の力のはずだったのに、こんな小娘から、自らが自らの〝奴隷〟になっていると指摘されている。この事態は、彼にとって耐え難い屈辱のはずだ。
〔王に……この世界の王に……なんという……おのれ! ギギ……ギ……〕
抗ってはいるようだが、やはりもうすでにエピゾフォールの思考の乱れは制御不能の領域に達しつつある。
そして、不明瞭な罵詈雑言と共に、そこからはただ怒り任せた攻撃が、私に向かって投げつけられ始めた。
〔消えろ! われを憐れむな※#⚪︎▲#! われこそはこの世界の⚪︎※#※#!〕
絶え間なく降ってくる強力な鞭は、とてつもない威力だ。
そして、恐れていた事態になってしまう。
ついにセイリュウの強力な防御結界が綻び始めてしまったのだ。
(ああ、これはちょっとまずいかも……)
ついに結界を破壊した〝鞭〟が雲の上に叩きつけられると、雲は散り散りになって消え去り、さすがのセイリュウも吹き飛ばされてしまった。
そんなセイリュウの行方を確認するまもなく、雲から落ちた私は〝鞭〟に絡め取られ、先ほどまでのエスライ・タガローサと同じ状態になっている。
(あの男もこんな感覚だったのかな……)
躰にあらゆる毒が急激になだれ込んでいるその感覚は、ただただ気持ちが悪かった。目の前が真っ暗になるような瘴気が立ち込め、魔王は不気味に笑い続けている。
〔ククククク……※# ⚪︎※# ⚪︎※#……すべては……王に捧げられる供物なのだ……ククククク……〕
私は最後の言葉を哀れな魔王に呟いた。
「かわいそうな魔王様。ここはあなたの世界じゃないの。あなたはあなたの滅した世界で永遠を彷徨いなさい」
そして、次の瞬間、私を締め上げていた〝鞭〟と魔王の姿はドロドロに溶け始め、消えたのだった。
断末魔の声すらない、それは文字通りの〝消滅〟だった。
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