利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

252 蒼く美しい凶器

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252

「メイロード・マリスさま

私、このマホロ商業ギルドの幹事を務めておりますタスカと申します。

本日はどのようなご用件でございましょうか」

おそらく、この建物で一番良い部屋と思しき応接室の椅子は、やたらとふかふか。背の小さい私は埋まってしまいそうで、大変座りにくい。

なんとかバランスが取れそうな位置を探して何度も座りなおしていると、走ってきた人がドアの前で一呼吸置いている様子が《索敵》で分かった。

次の瞬間、ノックされたドアから入ってきたのが、タスカさんと秘書らしき方だ。

「先ほどは、窓口の者が大変失礼致しました。こちらをお預かりしたまま席を離れるという失態、誠に申し訳ございません」

秘書の方は、綺麗な白い布の上に乗せた私の身分証を恭しく取り出し、お目付役として同行していたセイリュウの目の前のテーブルへ置いた。

(セイリュウなら女性に間違われることもありうる美形だし、まぁ、こんなゴツい紹介状付きのギルドカードを持っているのが子供だとは思わないよね)

私は微笑みを絶やさないよう気をつけながら、ギルドカードをセイリュウから受け取った。

当然、ギルドのお二人の顔は

「えっ?」

という、驚きに満ちたものになっていた。

「いえ、こちらこそ驚かせてしまったようで恐縮です。

少し派手な星は付いておりますが、たまたま知遇を得た方々が、素晴らしい方々であったというだけのことです。大げさにお考えにならないよう、お願い致します。

本日も、当地に暫く物見遊山の滞在を致しますので、ご挨拶しに参上したまでですので……」

私は少しも不快に思っていないという態度を崩さないように、慎重に言葉を続けた。

「この通り、体が小さいので、色々と苦労することもございますが、慣れておりますのでご安心を。もちろん、信用に足る取引はさせて頂けますよ」

タスカ幹事は度重なる失態に、非常に恐縮してしまっているが、こんな子供が金の星をつけたカードを持っている方がおかしいのだ。全く気にする必要はないと思う。

「大変失礼致しました、メイロード・マリスさま。度重なる失礼をどうぞお許しください。これほどの信用力を持つ商人がこのギルドに来られたことは、もう随分と長い間ございませんでしたので、私共もいささか慌ててしまいまして……まったくもってお恥ずかしい限りです」

商人にしてはなかなか率直で実直なお人柄らしいタスカ幹事は、頭を掻きながら背中を丸めて更に詫びる。

「本当にお気になさらず。それから私のことはメイロードで結構ですよ」

私の穏やかな態度に、ギルドの方々はやっと普通の受け答えができる様子になったので、当地についての情報など世間話をしてみる。

「やはり、首都であるマホロに活気がないのはダンジョンと〝爆砂〟の消失が原因なのでしょうか」

どうやらかなり高級品らしい緑茶に近い風味のお茶と甘く煮た柔らかい豆に更に砂糖をまぶしたこれもおそらく相当の高級品と思しきお菓子が静々と運ばれる中、気になっていた活気のなさについて、遠回しに聞いてみた。

「それは、確かに大きな原因のひとつです。〝爆砂〟の産出地は非常に少なくマホロにとっては唯一と言ってもいい特産品でした。これに関連したダンジョンは、アキツ全体に広がっておりまして、冒険者の数も非常に多く、当時のマホロはそれは活気のある街であったそうです」

〝爆砂〟枯渇の引き金は、1つのダンジョン内での爆発騒ぎだったという。

かなり大掛かりないわゆる〝採取屋〟グループが長期のダンジョン探索で溜め込んだ〝爆砂〟の取り扱いに失敗し大爆発を引き起こした。それは彼らのグループが全員亡くなっただけで済まず、被害はダンジョン内の他のグループにも飛び火し、誘爆に次ぐ誘爆という最悪な状況が起こった。

「当時、大陸でシド帝国が勃興し大戦の機運が高まっている時期でございました。〝爆砂〟の価格も高騰していたため、世界中から採取専門の冒険者が、ここマホロに集まっている時期だったのです。彼らは、まだまだ〝爆砂〟は高騰すると考えていましたから、手元に大量に保管していました。それがまずかった……」

〝爆砂〟は、その名の通り爆薬の原料となるもので、取り扱いには神経を使うものだ。
だが、当時の言わばゴールドラッシュのような状況で、一攫千金を狙う有象無象が大挙押し寄せてくる状況だった。

冒険者ギルドもレシータさんの作り上げたような管理体制にはまだ程遠い時代で、混沌とした時代だったのだ。

「いつ起こってもおかしくない、いつかは起こる事故……だったのです」

未だに何百人亡くなったのかさえはっきりしないという未曾有の大事故は、ダンジョン内部で炎上と爆発を繰り返し、やがて全てを焼き尽くす内部崩壊へと導いた。

「今では〝爆砂〟に関しては小さなダンジョンが1つだけ残るのみです。この残された最後の〝爆砂〟ダンジョンも怪物たちは凶悪な上に、〝爆砂〟も儲けになる程は採れませんので、今では荒れ果ててしまいましたよ。寂しいことです」

タスカさんは参考に、とギルドに保管されていたサンプルの〝爆砂〟を見せてくれた。

綺麗なガラス瓶の中のそれは、とても蒼く美しい細かな砂のようなもので、沿海州の海のように美しいが、数え切れないほどの人々を屠ってもきた恐ろしい凶器だった。
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