64 / 840
2 海の国の聖人候補
253 ギルド長に聞くアキツの現状
しおりを挟む
253
アキツの〝爆砂〟消失は世界に衝撃を与えたそうだ。
「帝国を始めとして、あの事故の直後から暫くは大国の方々に、本当にダンジョンと〝爆砂〟は消滅したのかどうか、それはひつこく問いただされ、何度も調査隊がきたそうです。
ですが、私共もない袖は振れませんし、何より一番がっくりきていたのは私たちでした。
結局どの国も調べ尽くして諦めて……〝爆砂〟と関連商品の在庫が無くなった瞬間に、この国のことは世界から忘れ去られたのです」
タスカ幹事は少し寂しげな笑みを浮かべて、自重気味に自国の衰退の原因とその後の経過を語った。
(〝爆砂〟以外には、この国に用はないってあからさまだね。でも、そのおかげで自治が認められた国として生き残ったと聞いているし、難しい所だわ)
「では、この国の主権者は当時から同じ一族の方なのでしょうか?」
話が暗くなってしまったので、少し違う方向の話を聞いてみよう。
「この国の礎は大天御神がお創りになったと伝えられております。
そして、これを礎とする〝天地教〟が国教と定められております。
現在も神事を行うのは、この神の子孫とされるミカミ一族でござまして、政も、ミカミの長を中心とした貴族たちが行なっております」
「ここも、貴族社会ですか……」
だが、帝国とは大分趣が違うようだ。
アキツの貴族は元々神職から始まっており、徳が高いことが求められる名誉職だったそうだ。
責任が重い激務で、増してさしたる産業もない現在のこの国では、余程の大貴族以外は領地を守ることもままならないのが現状だという。
「地方の貴族には、借金で領地を失うものも出る始末で……」
「え?領地が売られるのですか?」
「他国の方にお聞かせするのはお恥ずかしい話でございますが、〝爆砂〟で潤っていた昔ならばいざ知らず、今のアキツでは領地を維持できない領主もおります。
領主に売られた形になった土地では、債権者への借金返済のため、さらに重税が課せられたり、新たな持ち主の意向によっては、先祖伝来の土地から追い出されてしまうこともあります」
どうやら、領地もこの国では大きなくくりの不動産で売り買い可能らしい。
(この世界の土地制度、帝国でも結構いい加減というか、ザルだとは思っていたけど、ここはさらにひどいな……)
国がうまく行っていた時には、全ての土地が貴族の領地として割り振られたアキツの方が、管理体制が隅々まで目の届くものになっていたのだろう。
だが、それもすでに通用しない。
〝爆砂〟とそれに関わる産業を失った今では、財を成した平民が、貧乏貴族から領地を買い上げ新領主となることもあったり(その場合は貴族籍ごと売ることになる)、管理代行という立場で領地の運営を行う者もある。どちらも、ある程度の税収が見込める場合だ。
そうでない場合、領地全体が〝休眠地〟扱いとなる。
行政サービスゼロ地帯となり、人は〝住んでいない〟ことになってしまうのだ。
税金は取られないが、国の支援もゼロの土地となる。
そんな捨てられた土地となっても、たくましく自治の道を模索する元領民たちはいるが、元々採算が合わないことが原因で打ち捨てられてしまった土地の再建は途方もなく難しく、多くは最低レベルの生活を細々と続けるか、他領へ落ち延びるかの選択を迫られることとなる。
「最初から自治区ならまだしも、見捨てられていきなり自治しろというのは、いくらなんでも厳しいですよね。でも、そんな土地も増えているんですね……ここでは」
またまた話が暗くなってきた。この国に明るい話題はないんだろうか。
(そうだ!)
「商業ギルドでは、高額商品の取り引きを増やしたいと伺ったのですが、私の持って参りました商品を見て頂けますか?」
私の申し出にタスカ幹事の目が輝きを取り戻す。
「もちろんです。それで、どんなお品物を?」
私の指示でソーヤがちょっと重い3つの袋を机に置いた。
「これには50個づつの〝水の魔石〟と〝氷の魔石〟、それに〝風の魔石〟が入っています。
金貨5枚程度のものから50枚ぐらいの値段のものまで、大きさは色々ですが、品質は良いものを揃えていますし、しっかり稼働するものばかりですよ」
「ま、魔石150個!!」
思わずタスカ幹事が大声を上げる。
「こ、こ、こんな大量の魔石を他国へ持ち出してよろしいのですか?」
(ああ、軍事物資としての〝魔石〟のことね)
「ここにある石はどれも小さいもので、軍事物資としての価値は低いので問題ないと思います。でも、この国では帝国よりずっと必要なもののはずです。
それに、私としてはこのままではなく、付加価値をつけて販売をしてみてはどうか、とご提案したいのです」
おなじみの美少女スマイルでにっこり笑う私を見て、大きな仕事の気配にさすがの海千山千のギルド長も緊張したのか、ゴクリと喉がなる音が聞こえた。
アキツの〝爆砂〟消失は世界に衝撃を与えたそうだ。
「帝国を始めとして、あの事故の直後から暫くは大国の方々に、本当にダンジョンと〝爆砂〟は消滅したのかどうか、それはひつこく問いただされ、何度も調査隊がきたそうです。
ですが、私共もない袖は振れませんし、何より一番がっくりきていたのは私たちでした。
結局どの国も調べ尽くして諦めて……〝爆砂〟と関連商品の在庫が無くなった瞬間に、この国のことは世界から忘れ去られたのです」
タスカ幹事は少し寂しげな笑みを浮かべて、自重気味に自国の衰退の原因とその後の経過を語った。
(〝爆砂〟以外には、この国に用はないってあからさまだね。でも、そのおかげで自治が認められた国として生き残ったと聞いているし、難しい所だわ)
「では、この国の主権者は当時から同じ一族の方なのでしょうか?」
話が暗くなってしまったので、少し違う方向の話を聞いてみよう。
「この国の礎は大天御神がお創りになったと伝えられております。
そして、これを礎とする〝天地教〟が国教と定められております。
現在も神事を行うのは、この神の子孫とされるミカミ一族でござまして、政も、ミカミの長を中心とした貴族たちが行なっております」
「ここも、貴族社会ですか……」
だが、帝国とは大分趣が違うようだ。
アキツの貴族は元々神職から始まっており、徳が高いことが求められる名誉職だったそうだ。
責任が重い激務で、増してさしたる産業もない現在のこの国では、余程の大貴族以外は領地を守ることもままならないのが現状だという。
「地方の貴族には、借金で領地を失うものも出る始末で……」
「え?領地が売られるのですか?」
「他国の方にお聞かせするのはお恥ずかしい話でございますが、〝爆砂〟で潤っていた昔ならばいざ知らず、今のアキツでは領地を維持できない領主もおります。
領主に売られた形になった土地では、債権者への借金返済のため、さらに重税が課せられたり、新たな持ち主の意向によっては、先祖伝来の土地から追い出されてしまうこともあります」
どうやら、領地もこの国では大きなくくりの不動産で売り買い可能らしい。
(この世界の土地制度、帝国でも結構いい加減というか、ザルだとは思っていたけど、ここはさらにひどいな……)
国がうまく行っていた時には、全ての土地が貴族の領地として割り振られたアキツの方が、管理体制が隅々まで目の届くものになっていたのだろう。
だが、それもすでに通用しない。
〝爆砂〟とそれに関わる産業を失った今では、財を成した平民が、貧乏貴族から領地を買い上げ新領主となることもあったり(その場合は貴族籍ごと売ることになる)、管理代行という立場で領地の運営を行う者もある。どちらも、ある程度の税収が見込める場合だ。
そうでない場合、領地全体が〝休眠地〟扱いとなる。
行政サービスゼロ地帯となり、人は〝住んでいない〟ことになってしまうのだ。
税金は取られないが、国の支援もゼロの土地となる。
そんな捨てられた土地となっても、たくましく自治の道を模索する元領民たちはいるが、元々採算が合わないことが原因で打ち捨てられてしまった土地の再建は途方もなく難しく、多くは最低レベルの生活を細々と続けるか、他領へ落ち延びるかの選択を迫られることとなる。
「最初から自治区ならまだしも、見捨てられていきなり自治しろというのは、いくらなんでも厳しいですよね。でも、そんな土地も増えているんですね……ここでは」
またまた話が暗くなってきた。この国に明るい話題はないんだろうか。
(そうだ!)
「商業ギルドでは、高額商品の取り引きを増やしたいと伺ったのですが、私の持って参りました商品を見て頂けますか?」
私の申し出にタスカ幹事の目が輝きを取り戻す。
「もちろんです。それで、どんなお品物を?」
私の指示でソーヤがちょっと重い3つの袋を机に置いた。
「これには50個づつの〝水の魔石〟と〝氷の魔石〟、それに〝風の魔石〟が入っています。
金貨5枚程度のものから50枚ぐらいの値段のものまで、大きさは色々ですが、品質は良いものを揃えていますし、しっかり稼働するものばかりですよ」
「ま、魔石150個!!」
思わずタスカ幹事が大声を上げる。
「こ、こ、こんな大量の魔石を他国へ持ち出してよろしいのですか?」
(ああ、軍事物資としての〝魔石〟のことね)
「ここにある石はどれも小さいもので、軍事物資としての価値は低いので問題ないと思います。でも、この国では帝国よりずっと必要なもののはずです。
それに、私としてはこのままではなく、付加価値をつけて販売をしてみてはどうか、とご提案したいのです」
おなじみの美少女スマイルでにっこり笑う私を見て、大きな仕事の気配にさすがの海千山千のギルド長も緊張したのか、ゴクリと喉がなる音が聞こえた。
444
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。