利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

253 ギルド長に聞くアキツの現状

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253

アキツの〝爆砂〟消失は世界に衝撃を与えたそうだ。

「帝国を始めとして、あの事故の直後から暫くは大国の方々に、本当にダンジョンと〝爆砂〟は消滅したのかどうか、それはひつこく問いただされ、何度も調査隊がきたそうです。

ですが、私共もない袖は振れませんし、何より一番がっくりきていたのは私たちでした。

結局どの国も調べ尽くして諦めて……〝爆砂〟と関連商品の在庫が無くなった瞬間に、この国のことは世界から忘れ去られたのです」

タスカ幹事は少し寂しげな笑みを浮かべて、自重気味に自国の衰退の原因とその後の経過を語った。

(〝爆砂〟以外には、この国に用はないってあからさまだね。でも、そのおかげで自治が認められた国として生き残ったと聞いているし、難しい所だわ)

「では、この国の主権者は当時から同じ一族の方なのでしょうか?」

話が暗くなってしまったので、少し違う方向の話を聞いてみよう。

「この国の礎は大天御神おおあまみかみがお創りになったと伝えられております。

そして、これを礎とする〝天地アマツチ教〟が国教と定められております。

現在も神事を行うのは、この神の子孫とされるミカミ一族でござまして、まつりごとも、ミカミの長を中心とした貴族たちが行なっております」

「ここも、貴族社会ですか……」

だが、帝国とは大分趣が違うようだ。

アキツの貴族は元々神職から始まっており、徳が高いことが求められる名誉職だったそうだ。
責任が重い激務で、増してさしたる産業もない現在のこの国では、余程の大貴族以外は領地を守ることもままならないのが現状だという。

「地方の貴族には、借金で領地を失うものも出る始末で……」

「え?領地が売られるのですか?」

「他国の方にお聞かせするのはお恥ずかしい話でございますが、〝爆砂〟で潤っていた昔ならばいざ知らず、今のアキツでは領地を維持できない領主もおります。
領主に売られた形になった土地では、債権者への借金返済のため、さらに重税が課せられたり、新たな持ち主の意向によっては、先祖伝来の土地から追い出されてしまうこともあります」

どうやら、領地もこの国では大きなくくりの不動産で売り買い可能らしい。

(この世界の土地制度、帝国でも結構いい加減というか、ザルだとは思っていたけど、ここはさらにひどいな……)

国がうまく行っていた時には、全ての土地が貴族の領地として割り振られたアキツの方が、管理体制が隅々まで目の届くものになっていたのだろう。
だが、それもすでに通用しない。

〝爆砂〟とそれに関わる産業を失った今では、財を成した平民が、貧乏貴族から領地を買い上げ新領主となることもあったり(その場合は貴族籍ごと売ることになる)、管理代行という立場で領地の運営を行う者もある。どちらも、ある程度の税収が見込める場合だ。

そうでない場合、領地全体が〝休眠地〟扱いとなる。

行政サービスゼロ地帯となり、人は〝住んでいない〟ことになってしまうのだ。
税金は取られないが、国の支援もゼロの土地となる。

そんな捨てられた土地となっても、たくましく自治の道を模索する元領民たちはいるが、元々採算が合わないことが原因で打ち捨てられてしまった土地の再建は途方もなく難しく、多くは最低レベルの生活を細々と続けるか、他領へ落ち延びるかの選択を迫られることとなる。

「最初から自治区ならまだしも、見捨てられていきなり自治しろというのは、いくらなんでも厳しいですよね。でも、そんな土地も増えているんですね……ここでは」

またまた話が暗くなってきた。この国に明るい話題はないんだろうか。

(そうだ!)

「商業ギルドでは、高額商品の取り引きを増やしたいと伺ったのですが、私の持って参りました商品を見て頂けますか?」

私の申し出にタスカ幹事の目が輝きを取り戻す。

「もちろんです。それで、どんなお品物を?」

私の指示でソーヤがちょっと重い3つの袋を机に置いた。

「これには50個づつの〝水の魔石〟と〝氷の魔石〟、それに〝風の魔石〟が入っています。

金貨5枚程度のものから50枚ぐらいの値段のものまで、大きさは色々ですが、品質は良いものを揃えていますし、しっかり稼働するものばかりですよ」

「ま、魔石150個!!」

思わずタスカ幹事が大声を上げる。

「こ、こ、こんな大量の魔石を他国へ持ち出してよろしいのですか?」

(ああ、軍事物資としての〝魔石〟のことね)

「ここにある石はどれも小さいもので、軍事物資としての価値は低いので問題ないと思います。でも、この国では帝国よりずっと必要なもののはずです。

それに、私としてはこのままではなく、付加価値をつけて販売をしてみてはどうか、とご提案したいのです」

おなじみの美少女スマイルでにっこり笑う私を見て、大きな仕事の気配にさすがの海千山千のギルド長も緊張したのか、ゴクリと喉がなる音が聞こえた。
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