異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗

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奇跡の対価

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「……おお……なんという……」

ヒースクリフは目を見開いた。
抱えていたフレデリカをベッドに寝かし、よろよろと歩み出る。
自発的に膝をついた。
淀みのない自然な動作で、祈るようにこうべを垂れる。
見れば玄関ホールに集まった辺境伯家の人間たちは、全員が平伏していた。

光翼が輝いている。
ルシフェルは言う。

「俺は父なる神の御使みつかい――天使です。だから奇跡を起こせる。それで俺はこれから地上にルシフェル教を興して広めていこうと考えています。そこで辺境伯様にはその手伝いをしてもらいたいな、と」

ヒースクリフが叫ぶ。

「ルシフェル様! 辺境伯『様』などとお呼びするのはお止め下さい! どうかヒースクリフと呼び捨てて欲しい」

ヒースクリフの態度は豹変していた。
目の前の天使たち、特にルシフェルは人間など比べものにならない高位の存在。
奇跡を授かった直後だ。
ヒースクリフはそのことを心底理解していた。
なれば態度くらい変わる。

「おお、ルシフェル様……慈悲深く尊き御方おんかた……。先程までの無礼をお許しください。私はなんと無知で不敬で愚かだったことか……」

天使たちはうんうんと頷いた。
「それで良いのだ」とか「ようやく分を弁えたか」とか囁き合っている。
ヒースクリフは顔を伏せながら続ける。

「フレデリカを生き返らせて頂きましたこと、まことにありがとう存じます! 恐れながらルシフェル様。その上でお願い奉る! 我が最愛の妻オリビアも……」

ヒースクリフが顔を上げた。
その表情は真剣そのものだ。
懇願を続ける。

「憐れにも理不尽な暴力に命を奪われてしまった我が妻オリビアも! 貴方様の奇跡の御業で蘇らせて頂くわけには参りませんでしょうか!」
「ふぇ? お、奥さんも⁉︎」

ルシフェルはびっくりした。
まだフレデリカを蘇らせた対価も支払ってもらっていないのに……。
この男、なかなか厚かましいぞ。
そんな風に思う。

「……う、うーん。蘇らせてあげたいのは山々なんですが、でも奥さんの遺体はさすがに保存してないんですよね?」
「墓を掘り返せば遺骨は出てきましょう」
「い、遺骨かぁ……それだと厳しいなぁ」

ルシフェルは悩んだ。
だがやはり難しいように思う。
というか、それは今後のヒースクリフの働きぶり次第である。
彼がルシフェル教の布教をしっかりと後押しし、信仰が潤沢に集まれば不可能ではない。
しかし現段階では無理だ。
保有する霊子力が足りていない。

それに本来的には集めた霊子力はアラボトの修復に当てる為のものだ。
ルシフェルは慈善事業をしにきたのではない。

「えっとですね。さっきも言った通り、死者蘇生は綺麗な遺体がないと難しいんですよ。出来なくはないんだけど力を使い過ぎるんです。だから諦めて下さい」

出来なくはない――
何気なく放たれたルシフェルの一言に、ヒースクリフは希望を見出した。
さらに深く平伏して願う。

「この通り、伏してお願い申し上げる! 私に出来ることなら何でも致します! なので是非に……」

ヒースクリフはなかなかしつこかった。
そしてルシフェルは押しに弱い。
困り果てたルシフェルは、シェバトに助けを求めることにした。



ルシフェルは囁き声で耳打ちする。

「ねえ、シェバトはどう思う? この人、結構しつこくない?」
「私に良い考えがございます」

シェバトがこういう言い方をしたときは、大体ろくな事を考えていない。
ルシフェルは経験上、そのことを知っていた筈だ。
けれどもこの時のルシフェルは、それをすっかり失念していた。

「じゃあ、あとの交渉はお願いして良いかな? 俺こういうのホント苦手でさぁ」
「承知致しました」

シェバトが歩みでた。
ヒースクリフが頭を下げる。
ヒースクリフにとってはルシフェルだけでなくこの場にいる高位天使のすべてが畏怖の対象だ。
シェバトは言う。

「人間、貴方は先程から『何でもする』『すべてを差し出す』そう繰り返していましたが、その言葉に偽りはありませんね?」
「もちろんです。既にフレデリカには奇跡を授かりました。この上オリビアまで蘇らせて頂けるのでしたら、私はもう他に何も要りません」
「……良いでしょう」

シェバトはこほんと咳払いをした。
話を続ける。

「では貴方は持てる全部を差し出しなさい。辺境伯の身分も、財産も、領地も、領民も……己が身、髪の一本から血の一滴に至るまで、そのすべてをルシフェル様に捧げるのです。その上でしかとルシフェルに仕え、いつかその功績が認められれば、つがいの相手を蘇らせて頂けることでしょう」

ヒースクリフが応える。

「……仰せのままに。それで我が願いが叶うのであれば……! これより私はルシフェル様にお仕え致します。粉骨砕身の働きをご覧にいれましょう」

シェバトは鷹揚に頷いた。
続けて命じる。

「良い心掛けです。では人間よ……いえヒースクリフ! 貴方は手始めに、辺境伯領をいしずえとしてこの地に国を作りなさい」

新たな国。
それはルシフェルを絶対なる教主として戴く聖国――

「ふぁ⁉︎」

ルシフェルが声を上げた。
いきなり何言ってんのこいつ?
そんな話聞いてないぞ?

驚いてシェバトを見る。
シェバトが頷き返した。
我が主人の意を得たりと、高らかに謳いあげる。

「さあヒースクリフ! この地に天使と人の楽園を築きなさい。新たなる千年王国ミレニアム『聖ルシフェル教国』を建国するのです!」
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