53 / 72
第5章 呪いの手紙編
第53話 呪いの手紙編⑩
しおりを挟む
ロジャー魔法大病院に向かう途中にある森への脇道を通って10分くらいの所に、件の墓地はあったわ。ここは縁者のいない人たちが埋葬されている、小規模な共同墓地らしいわ。他国の言葉を借りるなら、無縁仏ってやつね。
墓地の管理者は常時はいないらしく、全体的に雑草や植物が生い茂っている。アタシとリディアは辛うじて見える土の道を歩き、敷地内を移動する。
「…ここ、このお墓がヘンリーの。」
リディアが力を駆使し、ヘンリー少年のお墓を特定した。共同墓地なので1つのお墓に複数人が埋葬されているし、もちろん墓石に名前も掘られていない。名前が分からないまま亡くなる方もいるから、都度調べるようなことはしていないんでしょうね。
アタシとリディアはお墓周りの雑草を抜き、墓石に生えている苔や周りに落ちている小石や砂、埃を払っていく。
雑草に紛れて虫が飛び出してくるけど、アタシは淡々と摘んで森の中に放していく。リディアは興味深そうに虫を見つめているけど、触る勇気はないみたい。
_______。
「詠唱を開始します。少し離れなさい、レッドフォード伯爵。」
リディアに言われた通り、アタシは数歩下がってリディアの詠唱を眺めた。リディアの周りに魔法が集まり、森の木々が騒めく。
「”聖女リディアの名のもとに命じます。姿を見せなさい、ヘンリー・マッカリース”。」
リディアがそう言い終わるのと同時に、アタシたちの目の前に光の粒が集まり始めた。徐々に光は治まっていき、目の前に病院服姿の少年が佇む。
『君は…リディア!』
「久しぶり、ヘンリー。」
挨拶をしている2人を見て、アタシは少し驚いた。本当に夢の中で2人は会ったことある間柄だったのね。それに、リディアが本名を名乗っている。そこに驚いてしまったわ。
「ヘンリー、後ろにいるこの人はアディ。私の…お父さん。」
『わあ…初めまして。』
「初めましてヘンリー。お会いできて嬉しいわ。」
ヘンリーはアタシの左腕の呪いに気が付き、気まずそうな表情をした。アタシはそれに気が付き、隠すでもなく微笑んだ。
この場の空気を変えるべく、リディアが口を開く。
「ヘンリー、マリアからの手紙を預かってきたの。」
そう言ってリディアは、アタシに目配せをしてきた。アタシはそれを見て、鞄の中からマリアの手紙を取り出した。
「どうぞ、ヘンリー少年。」
『………。』
ヘンリーはびっくりして、目を見開いたまま交互に手紙とアタシとリディアを見ている。決心をしたのか、震える手で手紙を受け取り、ゆっくり息を吐く。
『…ありがとう、リディア、アディ。』
ヘンリーは泣きそうになりながら、手紙を抱き締めた。
『ボクの手紙のせいで、多くの人に呪いを振りまいてしまった。申し訳ない気持ちはあるんだ…。』
そう言いながら、ヘンリーはアタシの左腕を見つめる。アタシは左腕でバイバイするような動作を見せ、気にしていないアピールをする。
『だけど、それも今日で終われそう。もう誰も傷つけなくていいんだ…。』
「ヘンリー、私の力であなたの魂を癒します。永遠の安らぎを得られるように。」
ヘンリーは静かに頷くと、手紙を抱えたまま数歩下がって立ち尽くす。
そんなヘンリーにリディアは詠唱を始め、彼の周りに魔法の粒子が集まっていく。光り輝く粉をまとい、ヘンリーの魂は癒され消えていく。
消える間際に、彼は小さく口を開いた。
『本当にありがとう。』
そう言い残し、ヘンリーの魂は消えた。目の前には彼の眠る墓石と、リディアだけが残された。
「…おやすみなさい、ヘンリー・マッカリース。あなたに聖女リディア・アッシュクロフトの祝福がありますように。」
リディアがそう言った瞬間、アタシの左腕に鈍痛が走った。慌てて見てみると、真っ黒になっていた左腕が徐々に元の状態に戻っていくのが見えた。黒い蛇が巻き付いているような見た目になり、ボンっと音を立てて呪いが消え去った。
「…ヘンリーの魂は救われたのね。」
「…うん。これで、呪いの手紙も届かなくなるはず。」
アタシとリディアは一礼し、ヘンリーのお墓から立ち去る。
呪いの手紙はもう存在しない。魂に縛られて呪いと化してしまった少年はもういない。
リディアは何か思うことがあるのか、無言でアタシの左手を握ってきた。
アタシはそれに答えるように、少し強く握り返した。
墓地の管理者は常時はいないらしく、全体的に雑草や植物が生い茂っている。アタシとリディアは辛うじて見える土の道を歩き、敷地内を移動する。
「…ここ、このお墓がヘンリーの。」
リディアが力を駆使し、ヘンリー少年のお墓を特定した。共同墓地なので1つのお墓に複数人が埋葬されているし、もちろん墓石に名前も掘られていない。名前が分からないまま亡くなる方もいるから、都度調べるようなことはしていないんでしょうね。
アタシとリディアはお墓周りの雑草を抜き、墓石に生えている苔や周りに落ちている小石や砂、埃を払っていく。
雑草に紛れて虫が飛び出してくるけど、アタシは淡々と摘んで森の中に放していく。リディアは興味深そうに虫を見つめているけど、触る勇気はないみたい。
_______。
「詠唱を開始します。少し離れなさい、レッドフォード伯爵。」
リディアに言われた通り、アタシは数歩下がってリディアの詠唱を眺めた。リディアの周りに魔法が集まり、森の木々が騒めく。
「”聖女リディアの名のもとに命じます。姿を見せなさい、ヘンリー・マッカリース”。」
リディアがそう言い終わるのと同時に、アタシたちの目の前に光の粒が集まり始めた。徐々に光は治まっていき、目の前に病院服姿の少年が佇む。
『君は…リディア!』
「久しぶり、ヘンリー。」
挨拶をしている2人を見て、アタシは少し驚いた。本当に夢の中で2人は会ったことある間柄だったのね。それに、リディアが本名を名乗っている。そこに驚いてしまったわ。
「ヘンリー、後ろにいるこの人はアディ。私の…お父さん。」
『わあ…初めまして。』
「初めましてヘンリー。お会いできて嬉しいわ。」
ヘンリーはアタシの左腕の呪いに気が付き、気まずそうな表情をした。アタシはそれに気が付き、隠すでもなく微笑んだ。
この場の空気を変えるべく、リディアが口を開く。
「ヘンリー、マリアからの手紙を預かってきたの。」
そう言ってリディアは、アタシに目配せをしてきた。アタシはそれを見て、鞄の中からマリアの手紙を取り出した。
「どうぞ、ヘンリー少年。」
『………。』
ヘンリーはびっくりして、目を見開いたまま交互に手紙とアタシとリディアを見ている。決心をしたのか、震える手で手紙を受け取り、ゆっくり息を吐く。
『…ありがとう、リディア、アディ。』
ヘンリーは泣きそうになりながら、手紙を抱き締めた。
『ボクの手紙のせいで、多くの人に呪いを振りまいてしまった。申し訳ない気持ちはあるんだ…。』
そう言いながら、ヘンリーはアタシの左腕を見つめる。アタシは左腕でバイバイするような動作を見せ、気にしていないアピールをする。
『だけど、それも今日で終われそう。もう誰も傷つけなくていいんだ…。』
「ヘンリー、私の力であなたの魂を癒します。永遠の安らぎを得られるように。」
ヘンリーは静かに頷くと、手紙を抱えたまま数歩下がって立ち尽くす。
そんなヘンリーにリディアは詠唱を始め、彼の周りに魔法の粒子が集まっていく。光り輝く粉をまとい、ヘンリーの魂は癒され消えていく。
消える間際に、彼は小さく口を開いた。
『本当にありがとう。』
そう言い残し、ヘンリーの魂は消えた。目の前には彼の眠る墓石と、リディアだけが残された。
「…おやすみなさい、ヘンリー・マッカリース。あなたに聖女リディア・アッシュクロフトの祝福がありますように。」
リディアがそう言った瞬間、アタシの左腕に鈍痛が走った。慌てて見てみると、真っ黒になっていた左腕が徐々に元の状態に戻っていくのが見えた。黒い蛇が巻き付いているような見た目になり、ボンっと音を立てて呪いが消え去った。
「…ヘンリーの魂は救われたのね。」
「…うん。これで、呪いの手紙も届かなくなるはず。」
アタシとリディアは一礼し、ヘンリーのお墓から立ち去る。
呪いの手紙はもう存在しない。魂に縛られて呪いと化してしまった少年はもういない。
リディアは何か思うことがあるのか、無言でアタシの左手を握ってきた。
アタシはそれに答えるように、少し強く握り返した。
124
あなたにおすすめの小説
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです
珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。
そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。
日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる