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友人との約束(父:セドリックside)
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― 遠方へ行く時は、必ず事前に知らせること ―
約束を交わしたのは、今から八年ほど前。
アイリスがまだ五歳だった頃のことだ。
――――――――――――
最初に違和感を覚えたのは、偶然にしては重なりすぎる視線だった。
配達に出た日の帰り道。
花の仕入れで町の外へ出た時。
妻のロザリアとアイリスと並んで歩いている時。
気配は巧妙だった。
けれど、学生時代に散々叩き込まれた“それ”を見逃すほど鈍ってはいない。
――ああ、やっぱりか。
胸に浮かんだのは、呆れと、ほんの少しの苦笑だった。
その夜、アイリスが二階で眠りについたあと、ランプの明かりの下でロザリアと向かい合った。
「やっぱり、あなたも気づいた?」
「ああ。隠してるつもりなんだろうけどね」
ロザリアも当然気づいていたようで、小さく笑った。
「あの二人、学生時代から全く変わらないわね」
「まったくだ…」
「アイリスが生まれてから更に過保護になったんじゃないかしら?」
「ああ。二人の言葉を借りるなら"推しが増えた"という事らしい」
「なぁに、それ。ふふふ、本当に面白い二人」
「冗談ならまだしも、有言実行していく所がまた…。権力と財力の使い方が間違っているとしか思えないよ」
彼女は紅茶を一口飲んで、穏やかな声で続ける。
「そうね。気持ちはありがたいけれど、この小さな町で護衛なんて、やっぱり必要ないわ」
「同感だ」
「アイリスのことは、私たち二人でも十分守れるもの。ね、学年一位さん?」
そう言って、少しだけいたずらっぽく微笑む。
昔の呼び名に、思わず肩をすくめた。
「……それを持ち出されると弱いな」
ロザリアの言う通りだ。
この町は穏やかで、危険とは縁がない。
それに、アイリスには“余計な特別”を背負わせたくなかった。
「近いうちに、彼に話に行ってくるよ」
「お願いね」
数日後、セドリックは友人の屋敷を訪れた。
応接室で向かい合った彼は、こちらの用件を察していたのだろう。
苦笑を浮かべて、肩をすくめる。
「……やっぱり、バレたか」
「隠密に長けた人材を選んだんだろう? だからこそ、だ」
友人は小さく息を吐いた。
「護衛の件だが――」
「断らせてもらう」
即答だった。
「あの町は安全だ。ロザリアも、アイリスも、穏やかな時間の中で暮らしている。それを壊したくない」
友人は黙って聞いていた。
昔からそうだ。こちらの言葉を、決して軽く扱わない。
「では、アイリスだけでも…」
「ダメだ」
「ぐっ…だが、あんなに愛らしく妖精のようなアイリスに何かあったら大変だろう?」
「アイリスはあの町から出る事は無い。あの町の中なら、俺とロザリアの二人が居れば問題ない。」
「…学年主席のセドリックと次席のロザリアの腕を疑っている訳ではない」
「だろ?必要ないさ」
やがて、彼は視線を落とし、少しだけ声を落とした。
「……ならば、譲歩しよう」
友人の真剣な
「遠方に、ロザリアと二人で花を買い付けに行くことがあるだろう?」
「ああ」
「その時だけでいい。事前に、知らせてほしい」
普段は冗談ばかりの友人が、真剣な眼差しを向ける。
承諾しかねていると、彼はこう続けた?
「君たちが町を離れている間は、私にアイリスを守らせてくれ。それに…君とロザリアに何かあったら心配なんだ。魔法に長けているのは知っている。危ない目に遭うとは思っていない。それでも、万が一ということがある。だから、遠方に出向く時だけは、護衛をつかせてくれ。私の知らない所で君達3人に何かあったら…私は一生悔やんでも悔やみきれない……だから、お願いだ」
頭を深く下げる友人に、心底参ってしまう。
本来なら頭を下げるような身分ではないくせに、友人はいとも簡単に平民の俺に頭を下げる。
どうしようかと悩んでいると、ふと視線を感じてドアに目を向けると、少し開けられたドアの隙間から彼の妻も頭を下げているのが見えた。
(おいおい、二人揃ってやめてくれよ…)
学年時代から変わらない二人の姿に、思わず気が抜けてしまう。
「分かった。約束しよう」
――友人二人の気持ちを、無下にはできなかった。
約束を交わしたのは、今から八年ほど前。
アイリスがまだ五歳だった頃のことだ。
――――――――――――
最初に違和感を覚えたのは、偶然にしては重なりすぎる視線だった。
配達に出た日の帰り道。
花の仕入れで町の外へ出た時。
妻のロザリアとアイリスと並んで歩いている時。
気配は巧妙だった。
けれど、学生時代に散々叩き込まれた“それ”を見逃すほど鈍ってはいない。
――ああ、やっぱりか。
胸に浮かんだのは、呆れと、ほんの少しの苦笑だった。
その夜、アイリスが二階で眠りについたあと、ランプの明かりの下でロザリアと向かい合った。
「やっぱり、あなたも気づいた?」
「ああ。隠してるつもりなんだろうけどね」
ロザリアも当然気づいていたようで、小さく笑った。
「あの二人、学生時代から全く変わらないわね」
「まったくだ…」
「アイリスが生まれてから更に過保護になったんじゃないかしら?」
「ああ。二人の言葉を借りるなら"推しが増えた"という事らしい」
「なぁに、それ。ふふふ、本当に面白い二人」
「冗談ならまだしも、有言実行していく所がまた…。権力と財力の使い方が間違っているとしか思えないよ」
彼女は紅茶を一口飲んで、穏やかな声で続ける。
「そうね。気持ちはありがたいけれど、この小さな町で護衛なんて、やっぱり必要ないわ」
「同感だ」
「アイリスのことは、私たち二人でも十分守れるもの。ね、学年一位さん?」
そう言って、少しだけいたずらっぽく微笑む。
昔の呼び名に、思わず肩をすくめた。
「……それを持ち出されると弱いな」
ロザリアの言う通りだ。
この町は穏やかで、危険とは縁がない。
それに、アイリスには“余計な特別”を背負わせたくなかった。
「近いうちに、彼に話に行ってくるよ」
「お願いね」
数日後、セドリックは友人の屋敷を訪れた。
応接室で向かい合った彼は、こちらの用件を察していたのだろう。
苦笑を浮かべて、肩をすくめる。
「……やっぱり、バレたか」
「隠密に長けた人材を選んだんだろう? だからこそ、だ」
友人は小さく息を吐いた。
「護衛の件だが――」
「断らせてもらう」
即答だった。
「あの町は安全だ。ロザリアも、アイリスも、穏やかな時間の中で暮らしている。それを壊したくない」
友人は黙って聞いていた。
昔からそうだ。こちらの言葉を、決して軽く扱わない。
「では、アイリスだけでも…」
「ダメだ」
「ぐっ…だが、あんなに愛らしく妖精のようなアイリスに何かあったら大変だろう?」
「アイリスはあの町から出る事は無い。あの町の中なら、俺とロザリアの二人が居れば問題ない。」
「…学年主席のセドリックと次席のロザリアの腕を疑っている訳ではない」
「だろ?必要ないさ」
やがて、彼は視線を落とし、少しだけ声を落とした。
「……ならば、譲歩しよう」
友人の真剣な
「遠方に、ロザリアと二人で花を買い付けに行くことがあるだろう?」
「ああ」
「その時だけでいい。事前に、知らせてほしい」
普段は冗談ばかりの友人が、真剣な眼差しを向ける。
承諾しかねていると、彼はこう続けた?
「君たちが町を離れている間は、私にアイリスを守らせてくれ。それに…君とロザリアに何かあったら心配なんだ。魔法に長けているのは知っている。危ない目に遭うとは思っていない。それでも、万が一ということがある。だから、遠方に出向く時だけは、護衛をつかせてくれ。私の知らない所で君達3人に何かあったら…私は一生悔やんでも悔やみきれない……だから、お願いだ」
頭を深く下げる友人に、心底参ってしまう。
本来なら頭を下げるような身分ではないくせに、友人はいとも簡単に平民の俺に頭を下げる。
どうしようかと悩んでいると、ふと視線を感じてドアに目を向けると、少し開けられたドアの隙間から彼の妻も頭を下げているのが見えた。
(おいおい、二人揃ってやめてくれよ…)
学年時代から変わらない二人の姿に、思わず気が抜けてしまう。
「分かった。約束しよう」
――友人二人の気持ちを、無下にはできなかった。
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