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剣聖の娘、王都に行く
王都散策
しおりを挟む騎士団登用試験まで特にやることがないエステルとクレイは、試験の日まで王都を散策して過ごすことにした。
王都エルネは非常に大きい街なので、見どころはたくさんある。
エステルはシモン村を出る前に、両親からオススメの観光スポットを聞いていたが……
「じゃあ……どこに行く?クレイ」
「さぁ……?俺は王都で観光する場所なんか知らないからな。お前、師匠たちから色々聞いてるんだろ?」
「聞いたけど忘れた」
「………」
エステル・ブレーンは記憶力に定評がある。
……忘れっぽさにおいてだが。
興味のあることには驚異的な記憶力を発揮するのだが、そうではないものは数歩歩くと忘れてしまうのだ。
鶏か。
だが、それはつまり……両親が勧めた観光スポットは彼女の興味を惹くものではなかったという事だ。
「お前に期待した俺が馬鹿だったよ。……まぁ、宿に籠もっていても仕方ないからな。適当にぶらつくか……」
「そうだよ!自分の足で歩いて色々発見するのが旅の醍醐味だよ!!」
「どんだけポジティブ思考なんだ、こいつ……」
クレイは呆れつつも彼女の言葉にも一理あると思い、二人は特に目的は決めずに街へ繰り出すのだった。
「……おい。これで何件目だ?もう別のところに行こうぜ」
「え~、良いじゃない。クレイは楽しくないの?」
「いや……ここって楽しむところか?」
街の散策を始めた二人だったが、早々にエステルが興味を示したものがあった。
二人が今いるのは、多くの工房が立ち並ぶ職人街。
煙突から煙が上がり、そこかしこで鉄を打つ音が響き渡っている。
シモン村では、村にただ一人だけいる鍛冶職人が腕をふるって自警団の使う武器や、家庭向けの調理器具などを製造していた。
エステルやクレイの武器も彼の手によるものだ。
ただ、腕は良いのだが当然生産数には限度がある。
なので、ずら~っと様々な武器が並ぶ武器屋と言うのは、エステルにとって珍しい光景だったのだ。
「ほら、これ見て!!カッコよくない?」
もう何件目かの店舗に入って、目を輝かせて取っ替え引っ替え手に持って品定めをするエステル。
「……確かに、なかなかの業物みたいだな。って、180万クロナ!?」
エステルが手にした大剣に付いた値札を見て、クレイが青ざめて悲鳴を上げる。
「う~ん……でもちょっと軽いかな……えい!!やあ!!」
「ば、馬鹿!!適当に振り回すな!!」
無造作に素振りを始めたエステルを慌てて静止する。
それも無理はない。
180万クロナと言えば、王都の庶民が半年以上は遊んで暮らせる程の金額だ。
どこかにぶつけて刃こぼれでもさせてしまったら、弁償できるものではない。
「ほぅ……そんな大剣をその細腕でよく振り回せるものだ」
様子を見ていた店主らしき人物が声をかけてくる。
見た目は華奢な少女であるエステルが、彼女自身の身の丈ほどにも及ぶかという大剣を軽々と振り回すのを見て、興味を持ったようだ。
「どうだ?中々の剣だろう。買うならサービスするぜ?」
「あ、いえ、とても買える金額ではないので……おいエステル!!いつまでも振り回してるんじゃない!!」
購入を勧めてくる店主に、慌てて否定するクレイ。
そしていつまでも素振りをやめないエステルを制止するが……
「ははは!!構わねえよ、好きなだけ確かめればいいさ」
店主は特に気にした風もない。
「ありがとうございます!!……ん~、でももう良いかな。やっぱり、少し軽いや」
「……そいつはウチの剣の中でも相当な重量のはずなんだがな。お前さんたち、ハンターか何かか?」
彼が言うハンターと言うのは、人々にとって危険極まりない魔物を狩って報奨金を稼ぐ、その道のスペシャリストの事だ。
主にハンターズギルドと呼ばれる斡旋組織に所属しているが、フリーの者もそれなりにいる。
「いえ、俺たちは……」
「騎士です!!」
「……予定です」
エステルの断定をクレイが補足する。
「そうか、騎士志望なのか。それなら……もしお前さんたちが騎士になれたら、これから付き合いができるかもな?」
「「??」」
「ウチは騎士団の兵装一式を納入する工房の一つなのさ」
「あぁ、なるほど……」
「得物に拘りがあって個別にオーダーするヤツもそれなりにいる。お前さんたちも騎士になって出世したら、まぁガザック武具工房を贔屓にしてくれや」
「ええ、覚えておきます」
「よろしくお願いします!!」
店主……ガザックの宣伝文句に、クレイは丁寧に、エステルは元気よく応えた。
そして、その後も暫く武器を物色してから、二人はガザック武具工房をあとにするのだった。
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