14 / 151
剣聖の娘、王都に行く
悪い予感
しおりを挟むエステルとクレイが騎士団詰所で手続きを終えた頃。
王都エルネの中心にある王城では、ちょっとした騒ぎが起きていた。
「殿下……いや、陛下はまだお戻りにならないか?」
「はい。随伴した騎士から撒かれたと連絡が来てから、特に音沙汰はないです」
「そうか。……まったく。姫様まで連れ出して……」
王城の一室。
執務室で話をしているのは部屋の主であるエルネア王国の宰相と、その部下である。
宰相といえば国政に携わる官職の最高責任者。
経験や実績、実力が求められる職位であるため、通常であればそれなりに歳を重ねた者が就くものであるが、エルネア王国の宰相は年若く、まだ二十代……精々が三十代前半くらいに見える。
青銀の髪に、アイスブルーの瞳。
理知的な顔立ちに、丸いレンズの眼鏡がよく似合っている。
ともすれば怜悧にも見える外見だが、纏う雰囲気は穏やかだ。
苦労の絶えない宰相閣下の心の内を思えば同情を禁じえないが、いつもの事と言えばいつもの事なので、部下は上司の愚痴に苦笑するだけに留めた。
と、その時。
執務室の扉がノックされ、部下の一人が入室してくる。
「フレイ様。陛下がお戻りになられました」
「やっとか……では書類を持っていくか。……あぁ、私が行く。一言言わねば気が収まらん」
宰相……フレイは、説教する気満々で執務室を出ていった。
トレーニングにもなりそうなほどの大量の書類を抱えて。
残された部下たちは、やはりいつもの事……と、顔を見合わせて苦笑を浮かべるのだった。
「失礼します。陛下、決裁待ちの書類をお持ちしました」
王の執務室にやって来たフレイは、持ってきた大量の書類を、ドンッ!とこれ見よがしに音を立てて机の上に置く。
「……何だ?この出鱈目な量の書類は?」
「何だ、じゃありません。陛下が公務をサボって外出などされるから溜まるのです」
「サボったなどと人聞きが悪い。民の暮しを間近に見るのも、王の務めだぞ」
いかにも立派なことを言っているように聞こえるが、どこか拗ねたようなその表情をみれば、彼自身、後ろめたい気持ちが多少はあるのだろう。
「またそんな格好をされて……わざわざ魔法で髪と瞳の色まで……」
呆れたようにフレイは言う。
今、彼の目の前にいるこの国の若き国王は、黒い髪に黒い瞳、それに、仕立ては良いが平民が着るようなデザインの服を着ていた。
「おっと、まだ魔法を解いてなかった。アランはもう終わりだったな」
そう言って王は目を閉じて何事かを呟く。
すると、一瞬のうちに髪の色が黒から眩い黄金へと変化する。
そして、閉じていた目を開くと……瞳の色は青に変わっていた。
「……あまり、羽目を外さないで頂きたいものです」
劇的な変化にも宰相は驚かず、溜め息をついて苦言を呈する。
その様子は、これがいつもの事だと言うことを窺わせた。
「まぁ、そういうな。お前からすれば遊びにしか見えないだろうが……色々と収穫もあるのだぞ?」
「……?」
「有能な騎士候補を見つけた。まだ若いが、かなりの実力者たちだ」
先程出会った二人を思い出し、王は笑みを浮かべた。
その様子に、フレイは少し驚きを見せる。
王が実力を認める者など滅多にいないからだ。
「陛下がそのような評価をなさるとは……いったい何者なのです?」
「さぁ……な。だが、今頃騎士団の登用試験の手続きをしてるはずだ。書類を見れば分かるだろう」
「そうですか……では、楽しみにしておきましょう。……それよりも陛下。騎士団の事もよろしいですが……後宮の事もよくお考えください」
「……分かってる」
その話題が出た途端、王は不機嫌な表情となる。
だが、それに怯むようでは宰相は務まらない。
フレイはさして気にした風もなく、続けて言う。
「陛下が後宮の制度を嫌っているのは重々承知しています。ですが……」
「あ~、分かってるよ。ちゃんと考えておく」
「……お願いしますよ。10日後には審査があるのですから」
もう少し念押ししたかったフレイだが、これ以上不機嫌になられては書類仕事の効率が落ちると判断し、それを言うのに留めた。
だが、それを聞いた王の表情はどこか悪戯っぽいものとなるのをフレイは見逃さなかった。
「10日後……そうか、10日後か。そうか……」
「陛下……また何か良からぬ事を思いついたのでは……」
嫌な予感がしたフレイは、嫌そうな顔をする。
それを見た王は、益々いやらしそうな笑みを浮かべた。
「何、大したことじゃないさ。まぁ、あれだ。騎士団の審査も、後宮の審査も滞りなく、手違いなく進めるように、な?」
その王の物言いにフレイは、悪い予感が当たりそうだ……と、諦めにも似た思いが浮かぶのだった。
26
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~
黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。
待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金!
チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。
「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない!
輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる!
元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる