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剣聖の娘、騎士登用試験を受ける……?
舞踏狂想曲
しおりを挟むダンスホールに優雅な曲が流れる。
煌めくシャンデリアの光に照らされ、美しく着飾ったご令嬢たちが曲に乗って軽やかにステップを刻み、あるいは優雅に舞い、見事なダンスを披露する。
後宮審査会の最初の課題であるダンス。
王妃や側室ともなれば夜会に出席する事も多々あり、国内外の賓客の注目を浴びながら王と共にダンスを披露することになるだろう。
高貴な女性の嗜みとして以上に重要なスキルと言えるかもしれない。
男子禁制であるため、パートナーを務めるのは男装した使用人たちだ。
エステルを案内してくれたクレハの姿も見えるが、その格好は中々様になっていてまさに男装の麗人といった趣き。
中にはうっとりとして顔を赤らめているご令嬢も。
相手をする使用人の人数も限られているので、ダンスは何回かに分けて行われる。
エステルが踊るのは、最後の回となる。
さて、そのエステルと言えば……
当然ながら貴族が夜会で踊るようなダンスなど全くの未経験だ。
村祭で剣舞を披露したことはあるが、それは全くの別物だろう。
果たしてエステルはこの課題をどうやって乗り切るつもりなのか?
彼女は令嬢たちのダンスを、じっ……と真剣な表情で見つめていた。
いつも能天気で、あまり物事を深く考えない彼女にしては珍しい表情だ。
「1……2……3、はいステップ、ターン、くっついて……1……2……3…………」
常にない真剣な様子で集中して見ながら、小さな声で何事かを呟く。
普段はあまり使われないエステル・ブレーンは、これまでにないくらいにフル稼働していた。
「……あ、そう言う動きもあるんだ……リズムは……1、2……1、2…………ん、分かった」
どうやら、今踊っている女性たちの動きを覚えているようだ。
エステル的に言えば、これは『見取り稽古』である。
何と、彼女は今この場で社交ダンスの動きとリズムを覚えようとしているのだ。
果たしてそんな事が可能なのだろうか……?
その後、何度かグループが変わった後も、じっと見つめて……その動きを自分のものにしようとするのだった。
やがて、ついにエステルがダンスを披露する番がやってきた。
ダンスホールの中央へ進み出るエステル。
相手を務めるのはクレハだ。
曲が始まる前に、クレハがこっそり耳打ちしてきた。
(……いかがです?踊れそうですか?)
(あ、はい……多分、大丈夫です。……ちょっとこの靴が心配ですけど……)
信じ難いことに、エステルはそう答える。
果たして、あの僅かな時間で社交ダンスを習得したというのだろうか?
その答えは、再び流れ始めた曲によって明かされる。
前奏を聞きながらリズムを取り、主旋律に入るタイミング……クレハのリードに合わせてエステルは一歩を踏み出した。
そして、彼女たちは優雅に踊り始める。
驚くべきことに、エステルのダンスは様になっていた。
とても初めて踊るとは思えないくらい、優雅に舞い、軽やかにステップを刻む。
クレハのリードに合わせて付いては離れて、離れてはクルクルと回り、再びパートナーの腕に抱き寄せられる。
ぎこちなさも全く感じられず、周りの令嬢と遜色ないどころか、むしろ抜きん出てさえいた。
先に踊り終わった令嬢たちも二人のダンスに注目し、そのレベルの高さに感嘆の声がどよめきとなる。
「エステル様……驚きました。ダンスがお上手でいらっしゃいますね。てっきり初めてかと思いましたが……」
クレハはエステルを案内した時の様子から、そのように考えていたが、自分の思い違いだったと反省する。
しかし。
「あ、いえ。ダンス、初めてですよ~。皆さんが踊ってるのを見て覚えました」
「え…………お、覚えた!?今、この場で……ですか?」
「はい!!頑張りました!!一番最後の回でよかったです~」
事もなげに言うエステル。
とんだチート娘だ。
エステル・ブレーンはやる気を出すととんでもない能力を発揮するのだった。
……なぜ普段から、そのやる気を剣術以外に見せないのか。
レジーナは、エステルたちのダンスを食い入るように見つめていた。
彼女の目から見ても、エステルのダンスは洗練されていて文句の付けようがないものだった。
彼女自身もダンスには自信があったのだが……同レベルで踊れる者がこの場にいるとは思っても見なかった。
「もし……?あの方のお名前は何て仰るのかしら?」
レジーナは、近くにいた使用人に質問をした。
「あの方は……エステル様でございますね。ニーデル辺境伯領のご出身であると伺っております」
「まぁ……驚きましたわ」
辺境の出身と聞いて、レジーナは驚きをあらわにする。
そして、道理で王都の社交界では見かけなかったはずだ……と思った。
彼女は知る由もないだろう。
あの見事なダンスを披露しているのが、ついさっき覚えたばかりの……本来だったら素人ですら無いということを。
そして、エステルが平民であるということも、彼女の想像の範疇ではなかったはずだ。
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