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剣聖と聖女の帰還
行方不明
しおりを挟むエドナは、姉がいなくなった日のことを思い出しながら、レジーナに話し始めた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
エル・ノイア神殿に引き取られ、聖女として日々を過ごすエドナとリアーナの姉妹。
スラムでの過酷な生活から一転し、穏やかな毎日が続く。
しかし、その平穏な暮らしは突然終わりを告げた。
ある日、リアーナが忽然と姿を消したのだ。
何の前触れもなく。
これまでも何人かの聖女たちがいなくなったことがあったが、ミラからは『良縁があった』と聞かされていた。
しかしエドナは、リアーナからそんな相手がいるなんて話は一度も聞いたことはなく……あるいは他の聖女の『良縁』とやらも、やはり嘘なのではないか?と考えた。
もちろん彼女は姉の捜索を始める。
手始めに養母のミラに聞いてみたのだが、彼女も姉がいなくなったことは初耳だったらしく、動揺を見せた。
そこで二人は事情を知ってるかもしれない上位の神官たちに話を聞こうとするが……
誰も彼も『知らぬ』と繰り返すのみだった。
そして、他に目撃者がいないか聞き込みをしても、その成果は芳しくなかった。
「ミラ母さん……おかしいわよ、絶対。上層部の人たちは何かを隠している」
女神への祈りの時間の合間、礼拝堂の片隅の目立たない場所で、エドナは養母のミラと話をしていた。
「そう……ね。だけど、この神殿でいったい何が起きているのかしら?」
「分からないわ……。こうなったら……誰か捕まえて、力ずくで聞き出して……」
パキポキと両拳を鳴らすエドナを見て、ミラはため息をつく。
見た目や雰囲気、普段の言動はまさに聖女らしくなったのだが、どうにもスラム暮らしの感覚が抜けきっていないらしい。
「落ち着きなさい。まったく……そんな事したら、あなたが捕まるでしょう」
「でも!じゃあどうすれば……!」
「とにかく、上層部が口を閉ざした現状では、神殿内で得られる情報も限られる。何か別の方法を考えなければ……」
ミラは頤に手を当てて考える。
しかし、すぐには良い考えが浮かぶわけではない……が。
手がかりの一つもないことには始まらない。
そう思ったミラはエドナに問う。
「エドナ。リアーナに何かおかしな様子はなかったの?」
「姉さんに……?特に何も…………あ、いえ、そういえば確か……」
ミラに改めて聞かれると、姉の言葉に気になるものあったことをエドナは思い出した。
「何日か前のことだったんだけど。……突然、『あなた、ジスタルさんのこと、好き?』……って聞いてきた」
「まぁ……それで、なんて答えたの?」
「べ、べつにそれは良いじゃない!……それより、何で急にそんな事聞いてきたのか。凄く神妙な顔だったからなにかと思えば、そんな事を聞いてくるんだから……。その時は拍子抜けしたのだけど、今思えば不自然だった気がする」
年ごろの姉妹の会話としては自然な気もするが……
エドナがジスタルに気があるのは、その態度を見ていればすぐに分かる事だ。
彼女は憎まれ口ばかりたたいていたが……それが照れ隠しであることは、姉も、ミラも、当のジスタルでさえも分かっていた。
そしておそらく……
妹は気付いていないだろうが、リアーナもジスタルのことを……と、ミラは思っていた。
そう考えると確かに、控えめな性格のリアーナが、そんな事を聞くのは不自然かもしれない……とも、彼女は思う。
「だとしたら、ジスタルが何か知ってるかも……」
「俺がどうかしたのか?」
「うきゃあっっ!?」
突然声をかけられたエドナが驚いて悲鳴を上げる。
彼女が慌てて振り返れば、今しがた話に出ていたジスタル当人がいるではないか。
「ジ、ジスタル!?」
「よぅ。何やってるんだ、こんな隅っこで。……ミラ様も」
彼はどうやら礼拝堂にやってきてすぐ、二人の気配を察知してやってきたらしい。
こそこそと人目をはばかるように話し込んでいた二人を訝っていたが、自分の名前が出たので話しかけたのだ。
「ぬ、盗み聞きとは感心しないわね。それでも正義の騎士なの?『剣聖』さま?」
「なんだなんだ、随分トゲトゲしいじゃないか。……まあ、それはいつもの事か。で、何を話してたんですか?ミラ様」
「ジスタル殿、ちょうど良かったわ。実は……」
エドナでは埒が明かない……と、ジスタルはミラに水を向け、彼女はそれに応えて事情を説明する。
「何だって?リアーナがいなくなった……?」
「そうなの!だから……ジスタルに何か知らないか聞こうと思ってたところなの」
「いや、まったく心当たりはないが……何で俺に?」
「えっ!?そ、それは……ううん、知らないならいいの!」
エドナは顔を赤らめて言う。
それを見たミラは、顔がにやけそうになるのを堪えてフォローする。
「とにかく手がかりがないのよ。だから取り敢えずあの娘を知ってる人には聞いてみようと……」
「そうですか……だけど、リアーナはあまり外に出ないでしょう。知り合いもそれほど多くは…………いや、待てよ」
と、そこで彼は何かに気が付いたのか、突然黙り込んで考え始める。
その様子を見たエドナは、勢い込んで彼に詰め寄った。
「やっぱり心当たりがあるの!?教えて!!姉さんはどこに行ったの!?さぁ!吐きなさい!!」
「うわっ!?」
胸ぐらをエドナに掴まれ、ガクガクと揺さぶられるジスタル。
必死の様子ではあるが、彼女の馬鹿力でそうされてはたまったものではない。
「お、落ち着け!!これじゃ話もできんだろが!!」
「エドナ!やめなさい!」
彼とミラは何とか彼女を引き剥がして落ち着かせる。
幾分冷静になったエドナだが、もちろんそれで引き下がりはしない。
「教えて。何を知ってるの?」
「いや、心当たりってほどの話じゃない。ただ……少し気になる事はある。だから今は少しだけ待て。何か分かれば必ずお前に話すから」
真剣な表情でエドナをまっすぐ見つめ、ジスタルは言う。
暫しの間、エドナはジスタルを睨みつけていたが……やがて諦めたかのように一つ息をつく。
そして。
「……分かったわ。でも、何か分かったら絶対に教えてよね!もし嘘なんてついたら……すり潰すわよ!」
「……怖えな。まあ、分かった。……俺がお前に嘘なんてつくわけないだろ?だから、俺を信じて待っていろ」
「……うん、分かった。信じてる」
姉を心配するあまりきつく当たってしまったが、言われるまでもなくエドナは彼を信じている。
自分たちを救ってくれた恩人なのだから……
そしてジスタルは、ぽんっ……と、彼女の頭に手を乗せてから、その場をあとにした。
「……もう、また子供扱いして」
残されたエドナは不服そうに頬を膨らませるが、どこか嬉しそうでもあった。
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