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剣聖の娘、裏組織を叩き潰す!
プリュケスの木の下で
しおりを挟むその日の夜。
慌ただしかった空気も落ち着き、普段通りの静けさを取り戻した王城内にて。
「…………?」
戦いのあと深い眠りについていたエステルが目を覚まし、身体を起こして不思議そうにキョロキョロと周りを見る。
見覚えのない部屋に戸惑いながら、彼女は眠る前の記憶を思い出そうとした。
「えっと……でっかいドラゴンをやっつけて…………はて?それからどうしたんだっけ?」
と、丁度その時。
彼女がいる部屋の扉が開いた。
顔を見せたのはエドナだ。
どうやら娘が目を覚ました気配を感じて様子を見に来たらしい。
「あ!お母さん!!」
「目を覚ましたのね」
エドナはそう言って、ほっとした様子を見せた。
そしてエステルが寝室らしき部屋から居間に出ると、ソファで寛ぐジスタルの姿もあった。
「意外と早かったな。朝まで起きないかと思ったぞ」
「どう?どこか調子が悪いとか無い?」
ジスタルも安心した様子で娘に声をかけ、エドナは見たところ大丈夫そうだと思いながらも、念のため確認する。
何と言っても、女神降臨などという想像もつかない事が娘の身に起きたのだから。
「うん、大丈夫だよ!……ここどこ?」
「エルネ城の客室よ。いきなり眠ったあなたを、アルド様がここまで運んでくれたの。あとでお礼を言っておきなさい」
「アルド陛下が……うん!」
嬉しそうに返事をするエステルの様子に、エドナは目を細める。
少なくともアルドに対しては娘も好意的なようだ……と、彼女は思った。
「あれだけ寝たんじゃ、もうしばらくは寝られないだろ?少し話をしようか」
「あ、そうだ……なんでお父さんたちがここにいるの?」
戦ってるときは考える暇もなかった疑問。
故郷のシモン村にいるはずの二人が、なぜ王都に来ているのか。
エステルは首を傾げてそれを聞いた。
「クレイ君からセーナに手紙が来て……あなたが後宮にいるって聞いたからよ」
「はぇ~……クレイってば手紙なんて出してたんだ~」
その考えは彼女には全くなかった。
そもそも手紙の出し方もしらないのだが。
「あなたも、手紙くらい書いたらどうなの?」
「別にすぐ帰れるし……ジークとエレナにも会いたいから月イチくらいは帰ろっかな~……って思ってたし」
本来なら、彼女の故郷シモン村は月イチで帰郷するような距離ではない。
普通だったら片道だけで一ヶ月近くかかる。
しかしエステルは初めて王都に来たとき、僅か5日程で走破してしまった。
それも、初めての旅程であったことと、クレイのスピードに合わせていたので、自分だけであれば片道2日もあれば帰れる……と、彼女は考えていた。
非常識にも程があるが、おそらくその考えは間違ってないだろう。
「お前がそのつもりなら、俺たちも安心できるが……後宮ってのは、そんな気軽に外にでれるもんなのか?」
「アルドへ~かは「自由に出入りしていい」って言ってたよ。他の皆もそうしてるみたいだし」
「ふむ……かつてのそれとは大分違うんだな……」
それは、ジスタルやエドナが知るバルド王の後宮であれば考えられないことだった。
いや……普通は後宮というのはそういうものだろう。
王の血を残すという目的を考えれば、後宮の女たちを他の男と接触できる環境に置くのは何かと都合が悪いはず。
そう言った意味ではアルドの方が異端なのだ。
しかし……
「ふぅん…………女の人を囲い込むのはイヤだけど、大分マシにはなったのかしらね……」
……と、エドナとしては、その事実にほんの少しばかり好感を覚えたようだ。
「そもそも、私は後宮の女の人たちの護衛任務でいるだけだよ?」
エステルのその言葉に、ジスタルとエドナは顔を見合わせた。
アルドはあれだけあからさまな好意を見せてると言うのに、娘の鈍感さと来たら……と、少し呆れている様子だ。
「…………なんか、心配するだけ無駄だった気がしてきたわ」
「俺はそんなことだろうとは思ってたがな。まあ、お前も言った通り……たまには村に顔を出すようにしてくれ」
「うん!」
一先ずその話は終わり。
ジスタルとエドナも全てに納得したというわけではないものの、取り敢えずしばらくは様子見ということで意見は一致したようだ。
それから、エステルは(彼女にとって)重要な事を思い出した。
「そうだ!私のお肉!確保してくれたかな!?」
「……流石にあれだけの巨体だと解体作業も時間がかかるって。でも、最大の功労者のあなたには、一番良い部位を優先的に確保する……って、アルド様からの伝言よ」
「やったぁ~っ!!へ~か大好きっ!!」
満面の笑みでエステルははしゃぐ。
それを見た両親は「うちの娘、チョロすぎやしないか……?」と、残念なものを見るような目を彼女に向けた。
そして、エステルが未来の王妃になるというのも、案外近いのではないか……とも思うのだった。
なおドラゴン肉については、エドナもしっかり自分たちの分を確保してもらっている事は言うまでもない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
客室から外に出たエステルは城内を歩く。
いつもより遅い時間まで城内は慌ただしい雰囲気だったが、流石にそれも落ち着いて夜番の兵士以外にすれ違う者もいない。
彼女はアルドから贈られた通行証代わりのペンダントを身に着けているので、不審者として見咎められることもなく気の向くままに散策していた。
さて、なぜ彼女がそんな時間に一人で城内を歩いているかと言えば……
普段であれば既に就寝している時間だったが、流石にぐっすり眠ってしまった後では再び横になることもできなかった。
両親はエステルとの話を終えたあと直ぐに寝てしまった。
なので、すっかり目が冴えてしまったのに話し相手もなく、暇を持て余した彼女は気を紛らわせようと散歩する事にした……というわけだ。
「素振りでもできれば良いんだけど。訓練場も閉めてるだろうし…………庭園の方にでも行こうかな?」
もしかしたら自分と同じように眠れない誰かがいるかもしれない……そう思った彼女は庭園に向かうことにした。
後宮のではなく、一般区域の中央庭園の方だ。
人気のない夜の城内。
照明の光と、それが届かない場所の深い闇が強いコントラストを生み出し、日中とはまるで雰囲気が異なる。
その不気味さには恐怖を覚える者も多いだろうが、辺境の深い森の中で夜を明かしたこともあるエステルにとっては何ら感情を呼び起こすほどのものではない。
むしろ足取りも軽く、鼻歌すらでそうな雰囲気で彼女は進んでいった。
やがて、彼女は中央庭園まで辿り着いた。
「うわぁ~…………こっちも後宮の庭園に負けてないね~」
照明で彩られた庭園は幻想的な雰囲気で……普段は色気より食い気の彼女でさえも、その美しさに感嘆のため息を漏らした。
「あ…………あれって」
美しい庭園の中でも、ひときわ目立つそれを見た彼女は、間近で見ようと近づいていく。
すると……
「……エステル?」
そこに一人で佇んでいたアルドが、近づいてくるエステルに気が付く。
「あ、アルドへ~か!」
そしてエステルも、話し相手がいた事を喜び顔をほころばせた。
「良かった……目が覚めたんだな。身体の調子はどうだ?」
大丈夫とは言われててもやはり心配は尽きなかったアルドは、真っ先にそれを確認する。
「全然だいじょ~ぶです!あんなところでいきなり寝ちゃってすみませんでした」
アピールするかのように彼女は元気よく答え、心配をかけたことを謝る。
そして、エドナに聞いたことを思い出した。
「あ、そうだ、お部屋まで運んでくれてありがとうございました!」
「いや、礼を言うのはこちらだ。事件解決は君のおかげだ。そして……王都の危機を救ってくれたのも。王都に住む全ての者を代表して……感謝する」
エステルの礼に、アルドは逆に微笑みながら感謝の意を伝えた。
「いえ~、騎士として当然の働きをしただけです!……まだ騎士じゃないですけど」
「君が騎士として十分すぎるくらいの実力と志を持っていることは、もう誰もが認めてると思うぞ」
「えへへ~……でも、ちゃんと来年の試験は受けます!」
「……ああ、頑張ってくれ」
少なくとも、それまでの間はここで暮らしてくれる……そう思えばアルドの頬も自然と緩む。
そして、二人はどちらともなく空を見上げた。
そこには……照明と月明かりに照らされ、夜の闇に浮かび上がるように白く輝く花々が咲き誇っていた。
「プリュケスの花……咲いたんですね」
「あぁ、ここ数日で開花し始めて……今日が満開らしい。このタイミングで……君に見てもらえて良かった」
始めてエステルが王城を案内されたとき……その時のアルドは『アラン』と名乗って姿も変えていたが、確かに約束した。
満開になったら、また見に行かないか……と。
「事件解決をお祝いしてくれてるのかも」
「……そうだな、きっと」
確かに一連の事件は一応の解決を見たと言えるかもしれないが、まだ問題は残されている。
しかしアルドは、それを言うのはこの場では無粋だろう……と、エステルの言葉に同意した。
それから二人は、しばし無言になって月夜の花見を楽しむ。
お互いに何も言わずとも、どことなく心地よい空気が流れていた。
アルドはその雰囲気に後押しされるように、エステルに何事かを告げようと口を開きかけたが……寸前で思いとどまった。
今はまだ、その時ではない……と。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その時、アルドとエステルの語らいを遠巻きに眺める者たちがいた。
植え込みの影に隠れて様子を伺っていたのは……
「…………いい雰囲気ですね。何だか声をかけづらいわ……」
「でも、いつまでこうしてるつもりなんです?」
「まあまあ、もう少し様子を見ましょうよ」
「任務の締めくくりが覗き見とか……はぁ……」
ヒソヒソ声で話すのは、レジーナ、クレイ、マリアベル、ギデオンの四人だった。
少々おかしな取り合わせだが……
レジーナは、竜との戦いの際に避難していたバルドの屋敷から帰ってきたところ。
クレイとギデオンは彼女の帰り道の護衛をバルドから頼まれた。
そしてマリアベルは、たまたま庭園近くで三人とばったり出会っただけだ。
「それにしても兄様……まだエステルちゃんに告白はしないのかしら?」
「「「告白?」」」
マリアベルの呟きに、他の三人が疑問を投げかける。
彼女は意味ありげに微笑んでから、それに応えた。
「あのプリュケスの木はね……歴代の王たちが、正妃となる女性に想いを告げた場所なのよ。ちょうど、今みたいに満開の花が咲く時に……ね」
それは彼女がまだ幼い頃に、兄とともに父親から聞かされた話だ。
どういう会話の流れでそれを聞いたのかは覚えていないが、その言い伝えだけははっきりと覚えていた。
その時は、まさか自分たちが王家の血筋だとは……と、彼女は夢にも思っていなかったのだが。
そしてマリアベルは、ちら……と、クレイの様子を伺うと。
彼の何とも形容し難い表情を見て、苦笑を浮かべるのだった。
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