1 / 28
1. 笑顔が素敵な貴方
しおりを挟む
アナスタシアには一つ下の妹がいた。名前はキャシー。金髪のふわふわ巻き毛で大きな青い瞳がきゅるんとして、とてもかわいらしい。両親から目に入れても痛くないほどに溺愛されていた。アナスタシアは覇気のない目に長めの茶髪を飾り気なくまとめており、華やかさに欠けてはいたが、決して不美人というわけではない。しかし、年上・目上の人間や男性から見たかわいげが欠けていた。妹は庇護欲がそそる表情や仕草を熟知しており、よくいえば甘え上手であった。そんな妹にアナスタシアは幼い頃からほしい、ちょうだいとせがまれたものを何でもあげていた。
「おねえさま、このお人形さんください!」
「おねーさま、この髪飾り私の方が似合うわ!」
「お姉さま、このネックレスほしいわ!」
「お姉様、この化粧台、ちょーだーい」
「お姉様ー、このドレス、私のでいいよね」
このような具合でアナスタシアはキャシーにありとあらゆるものをあげてきた。興味のそそらないものか必要ではないものが大半であったため、アナスタシアは別にいいかという心持ちであった。
「お姉様、アラン様は私の方が好きなのよ」
「じ、実はそうなんだ……」
キャシーとアランは仲睦まじそうに腕を組んでいた。そして、両親はお姉様なんだから譲りなさいと囀った。家同士の結婚であるため、アナスタシアかキャシーのどちらかが結婚すればよいということもあるが、かわいいキャシーの意思を尊重した結果だろう。アナスタシアもアランのことは好きではないし、別にいいやと、とうとう婚約者まで譲ってしまった。そして、学生の頃からオファーのあった魔術研究所で働くことになった。そこは、魔術関連の研究者の選りすぐりのエリートが集まる場所だ。
それから三年の月日が経ち、今日もバリバリ研究に勤しんでいた。アナスタシアはいろいろ頑張ってもぎとった個別の研究室に籠り、海水を飲み水にかえる魔術の研究やバリアの張り方の開発など手広く行っていた。
「すみませーん、アナスタシアさんいますか?」
「はーい」
外から男に声をかけられた。この研究室に知らない人間が訪れることはあまりない。アナスタシアは誰だ?何だ?と疑問に思った。
「どちら様でしょうか?」
のっぺりとした表情でアナスタシアは応対した。用件さえわかればいい、お愛想は不要と彼女は心底思っている。
「……ダニエルです。皇太子殿下の護衛を務めています」
ダニエルは明るくにっこり笑って自己紹介をした。第一印象は大事と彼は心底思っている。
「このバリアを開発したのはあなたかな?」
「ええ、はいそうです」
アナスタシアはダニエルから渡された書類をパッと読んだ。これは徹夜のテンションでパッパラパーになって作ったバリアだった。ちょっとどのようなものだったのか記憶が飛んでいる。
「これをうちの金庫で使いたいんだけれど、詳しく教えてもらってもいい?」
「わかりました」
アナスタシアは立ち話も何ですしと言って、なけなしの客室に案内した。その間に、頑張ってどのような魔術であるかを思い出した。
「魔術はお得意ですか?」
「え?フツーかなぁ」
ダニエルはヘラッと笑って答えた。皇太子の護衛に名を連ねている騎士であるため、多分何とかなるだろうとアナスタシアは踏んだ。
「これはここをこうしてこんな感じでこうです」
アナスタシアは訳のわからない説明をしながら、バリアをぶんっと出現させた。
「おお~、このまま持っていけば使えるかな」
「これはさっと作ったものなので、すぐ消えてしまいますよ」
あっそっかとダニエルは納得した。そして、ちゃんと作ってくれないかなと期待に満ちた笑顔でアナスタシアを見つめた。
「……ちゃんと作ってもいいですけれど、私しか金庫が開けられなくなりますよ」
「え?」
「この魔術は術者のみがバリアを抜けられるものになっています」
「つまり、俺がやらなきゃダメってことか~」
ダニエルはラクができず、ガックシと肩を落とした。
「少し難しいかもしれませんが、その分、金庫を守るためにはうってつけの魔術ですよ」
アナスタシアはこの魔術をラク~にやる方法を考えた。
「あっ、ステッキがあるとやりやすいと思います」
ステッキがあると魔力のコントールがしやすいのだ。アナスタシアは初歩的なことを思い出した。
「へぇ、今は持ってないや。明日とか空いてる?」
「はい」
大丈夫大丈夫とアナスタシアは自分に言い聞かせた。基本的に彼女の予定はガラ空きではあるが、予定を入れることに気が乗らないシーズンと突然どっか行きたくなると思い立つシーズンなどがあるのだ。アナスタシアは明日の風に身をまかせる気まぐれ人間なのだ。
「じゃあ、明日のこの時間にステッキを持って行くから、教えてねー」
今日はありがとうと言ってダニエルは笑顔で去った。
「よく笑う人だったなぁ」
アナスタシアは久しぶりに知らない人とちゃんと話したなと感慨深くなった。
「おねえさま、このお人形さんください!」
「おねーさま、この髪飾り私の方が似合うわ!」
「お姉さま、このネックレスほしいわ!」
「お姉様、この化粧台、ちょーだーい」
「お姉様ー、このドレス、私のでいいよね」
このような具合でアナスタシアはキャシーにありとあらゆるものをあげてきた。興味のそそらないものか必要ではないものが大半であったため、アナスタシアは別にいいかという心持ちであった。
「お姉様、アラン様は私の方が好きなのよ」
「じ、実はそうなんだ……」
キャシーとアランは仲睦まじそうに腕を組んでいた。そして、両親はお姉様なんだから譲りなさいと囀った。家同士の結婚であるため、アナスタシアかキャシーのどちらかが結婚すればよいということもあるが、かわいいキャシーの意思を尊重した結果だろう。アナスタシアもアランのことは好きではないし、別にいいやと、とうとう婚約者まで譲ってしまった。そして、学生の頃からオファーのあった魔術研究所で働くことになった。そこは、魔術関連の研究者の選りすぐりのエリートが集まる場所だ。
それから三年の月日が経ち、今日もバリバリ研究に勤しんでいた。アナスタシアはいろいろ頑張ってもぎとった個別の研究室に籠り、海水を飲み水にかえる魔術の研究やバリアの張り方の開発など手広く行っていた。
「すみませーん、アナスタシアさんいますか?」
「はーい」
外から男に声をかけられた。この研究室に知らない人間が訪れることはあまりない。アナスタシアは誰だ?何だ?と疑問に思った。
「どちら様でしょうか?」
のっぺりとした表情でアナスタシアは応対した。用件さえわかればいい、お愛想は不要と彼女は心底思っている。
「……ダニエルです。皇太子殿下の護衛を務めています」
ダニエルは明るくにっこり笑って自己紹介をした。第一印象は大事と彼は心底思っている。
「このバリアを開発したのはあなたかな?」
「ええ、はいそうです」
アナスタシアはダニエルから渡された書類をパッと読んだ。これは徹夜のテンションでパッパラパーになって作ったバリアだった。ちょっとどのようなものだったのか記憶が飛んでいる。
「これをうちの金庫で使いたいんだけれど、詳しく教えてもらってもいい?」
「わかりました」
アナスタシアは立ち話も何ですしと言って、なけなしの客室に案内した。その間に、頑張ってどのような魔術であるかを思い出した。
「魔術はお得意ですか?」
「え?フツーかなぁ」
ダニエルはヘラッと笑って答えた。皇太子の護衛に名を連ねている騎士であるため、多分何とかなるだろうとアナスタシアは踏んだ。
「これはここをこうしてこんな感じでこうです」
アナスタシアは訳のわからない説明をしながら、バリアをぶんっと出現させた。
「おお~、このまま持っていけば使えるかな」
「これはさっと作ったものなので、すぐ消えてしまいますよ」
あっそっかとダニエルは納得した。そして、ちゃんと作ってくれないかなと期待に満ちた笑顔でアナスタシアを見つめた。
「……ちゃんと作ってもいいですけれど、私しか金庫が開けられなくなりますよ」
「え?」
「この魔術は術者のみがバリアを抜けられるものになっています」
「つまり、俺がやらなきゃダメってことか~」
ダニエルはラクができず、ガックシと肩を落とした。
「少し難しいかもしれませんが、その分、金庫を守るためにはうってつけの魔術ですよ」
アナスタシアはこの魔術をラク~にやる方法を考えた。
「あっ、ステッキがあるとやりやすいと思います」
ステッキがあると魔力のコントールがしやすいのだ。アナスタシアは初歩的なことを思い出した。
「へぇ、今は持ってないや。明日とか空いてる?」
「はい」
大丈夫大丈夫とアナスタシアは自分に言い聞かせた。基本的に彼女の予定はガラ空きではあるが、予定を入れることに気が乗らないシーズンと突然どっか行きたくなると思い立つシーズンなどがあるのだ。アナスタシアは明日の風に身をまかせる気まぐれ人間なのだ。
「じゃあ、明日のこの時間にステッキを持って行くから、教えてねー」
今日はありがとうと言ってダニエルは笑顔で去った。
「よく笑う人だったなぁ」
アナスタシアは久しぶりに知らない人とちゃんと話したなと感慨深くなった。
24
あなたにおすすめの小説
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
魔力量だけで選んじゃっていいんですか?
satomi
恋愛
メアリーとルアリーはビックト侯爵家に生まれた姉妹。ビックト侯爵家は代々魔力が多い家系。
特にメアリーは5歳の計測日に計測器の針が振りきれて、一周したことでかなり有名。そのことがきっかけでメアリーは王太子妃として生活することになりました。
主人公のルアリーはというと、姉のメアリーの魔力量が物凄かったんだからという期待を背負い5歳の計測日に測定。結果は針がちょびっと動いただけ。
その日からというもの、ルアリーの生活は使用人にも蔑まれるような惨めな生活を強いられるようになったのです。
しかし真実は……
全部私が悪いのです
久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。
姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。
世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。
*全18話完結となっています。
*大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。
*後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。
*この作品は他誌にも掲載中です。
見知らぬ子息に婚約破棄してくれと言われ、腹の立つ言葉を投げつけられましたが、どうやら必要ない我慢をしてしまうようです
珠宮さくら
恋愛
両親のいいとこ取りをした出来の良い兄を持ったジェンシーナ・ペデルセン。そんな兄に似ずとも、母親の家系に似ていれば、それだけでもだいぶ恵まれたことになったのだが、残念ながらジェンシーナは似ることができなかった。
だからといって家族は、それでジェンシーナを蔑ろにすることはなかったが、比べたがる人はどこにでもいるようだ。
それだけでなく、ジェンシーナは何気に厄介な人間に巻き込まれてしまうが、我慢する必要もないことに気づくのが、いつも遅いようで……。
【完結】さっさと婚約破棄してくださいませんか?
凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢のシュレア・セルエリットは、7歳の時にガーナス王国の第2王子、ザーディヌ・フィー・ガーナスの婚約者となった。
はじめは嬉しかったが、成長するにつれてザーディヌが最低王子だったと気付く──
婚約破棄したいシュレアの、奮闘物語。
妹は病弱アピールで全てを奪い去っていく
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢マチルダには妹がいる。
妹のビヨネッタは幼い頃に病気で何度か生死の境を彷徨った事実がある。
そのために両親は過保護になりビヨネッタばかり可愛がった。
それは成長した今も変わらない。
今はもう健康なくせに病弱アピールで周囲を思い通り操るビヨネッタ。
その魔の手はマチルダに求婚したレオポルドにまで伸びていく。
【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~
ゆうき
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。
長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。
心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。
そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。
そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。
レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。
毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。
レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく――
これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。
※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!
犠牲になるのは、妹である私
木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。
ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。
好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。
婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。
ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。
結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。
さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる