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18. ガンガンいこうぜ
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ダニエルは一度プロポーズを断られたくらいで、めげない、へこたれない、諦めない男だ。前回の無計画なプロポーズから何とか改善点を見出していた。
アナスタシアはたしかそんな理由で結婚してほしくないと言っていたということは……。理由を変更すればよいのだ!ダニエルのあげていた理由は、直前にアランが結婚しろと突然凸したこともあって、彼女の家族絡みのことに重点を置いていた。そのため、今回はダニエルが結婚したいと思っている理由を全面に出してリベンジしようと意気込み、お昼休みにアナスタシアの研究室を訪れた。
「アナスタシアさん……?」
しかし、そこには誰もいなかった。ダニエルにはアナスタシアがいるところについて、ここ以外心当たりはなかった。ダニエルはもしかして避けられているのかもしれないと不安になってきていた。攻勢あるのみという気持ちが萎みかけていた。
「ごめんください。……あの、アナスタシアさんは?」
「いらっしゃらないみたいです」
ダニエルが研究室で立ち尽くしていると、人のよさそうなマダムがやって来た。
「い、いないの……?」
マダムは愕然とした表情をした。それが落ち着くとどうしようとおろおろしだした。気持ちがそのまま表情に出るマダムだった。
「私は皇太子の護衛をしているダニエルと申します。あの、失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「……アランをご存知ですか?ドーロン伯爵家の次女の夫の……」
「ええ」
「私はその母です」
ダニエルは姿勢をピンと伸ばし、ちょっとした警戒体勢に入った。
「どのようなご用件で?」
「アナスタシアさんのお知り合い?」
「ええ、そうです。仲良くさせてもらっています」
ダニエルは信用を得られる程度ににこやかに笑った。アランの母は皇太子の護衛をしている騎士ということもあって、ダニエルを一応信用はしたようだった。
「その……、昨日、私の家に彼女が来たんです。何でも、アランがキャシーと離婚してアナスタシアさんに乗り換えようとしていると伝えてくれました」
「……あなたはご存知なかったのですか?」
「ええ、お恥ずかしい話、息子とは結婚以来疎遠になっていて……」
「そうでしたか。その後、アナスタシアさんがどこに行ったかわかりますか?」
「……ドーロン伯爵家に呼ばれたため寄るとおっしゃっていました。私はその、少し心配になってここに来たんです」
アランの母は眉間に皺寄せ、深刻そうな顔をした。
「……アナスタシアさんのことはどう思っているんですか」
「息子が婚約破棄をしたことを申し訳なく思っています。それだけではなく、ご両親に不憫に扱われているようで、心配なんです」
「そうですか」
ダニエルはアナスタシアがアランの両親はまともそうというようなことを言っていたことを思い出した。アランの母親だからといって目の前の女性を疑うことはできないと判断した。
「息子さんは今どこに?」
「キャシーさんと一緒に私たちの家にいます」
「そうですか。では、俺がドーロン伯爵邸に行って様子を見て来ます。あなたは二人のところにいてください」
アランの母に厄介なキャシーとアランを任せると、ダニエルはドーロン伯爵邸に向かった。嫌な予感が付き纏っている。とりあえず、アナスタシアの安全第一でいこうと考えた。
「突然申し訳ありません」
「どちら様です?」
アナスタシアの母親らしき人が応対してくれた。この人がドーロン伯爵夫人だろう。アナスタシアと目元の部分がよく似ていた。そして、ダニエルは名乗ることは億劫だったため、自分の用件についてだけ話すことにした。
「アナスタシアさんはどこです?研究室にいないんですよ」
「私たちには関係ありません」
伯爵夫人はツンとそっぽを向いた。
「昨日、彼女はここに寄ったそうですね。どんな用件で呼びつけたんですか?」
「お前には関係ない!!」
ダニエルの訪問を聞きつけた偉そうな男が大声を出して現れた。彼がアナスタシアの父、ドーロン伯爵だろう。アナスタシアとはあまり似ていなかった。彼女は母似なんだなとダニエルはやや不愉快なタイミングで気づいた。
「そうですか……、では、あれを使いましょう」
「あれ……?」
「あれですよ。尋問用の魔術です。俺のは結構辛いと評判ですよ」
ダニエルはにこにこ笑ってステッキを取り出した。
「そんなことが許されるとでも思っているのか?」
この若造がと伯爵は忌々しそうに吐き捨てた。
「伯爵の許しがなくとも問題はありませんよ。あなた達には人を監禁している疑いがありますから……」
ダニエルは笑顔を崩さず、伯爵夫妻に言った。
「わ、わかったわ。言います」
「その、昨日は仕送りについて相談があって……」
「で?」
「そうしたらあの娘もう仕送りは辞めると嫌がらせを言うんです」
「……」
これを俺にひどい娘でしょみたいに言うのかとダニエルは心底驚愕した。ある程度ゆとりのある貴族が娘に対して仕送りをせびるとはありえない。アナスタシアさんが日頃どれほどの扱いを受けていたのか、想像するだけでダニエルは頭に血がのぼった。
「……アナスタシアさんはどこだ?」
ダニエルはステッキを振ると、伯爵夫妻を拘束した。
「貴様、何をする!!!!」
「黙れ」
ダニエルは先ほどまでのにこやかな顔からは一転、すべての感情を削ぎ落としたような顔をした。怒りのあまり、顔がこわばってしまったのだろう。
「わかったわ!言うから離して!」
伯爵夫人はダニエルの態度に底の見えない恐ろしさを感じ、早々に根を上げた。興味のないアナスタシアのためにリスクはおかしたくないのだ。
「先に言ってくれ」
「……屋根裏部屋よ!鍵はここにあるわ」
ダニエルは二人の拘束を解くと、ステッキを下ろした。伯爵夫人は部屋にあったデスクから鍵を取り出してダニエルに手渡した。
「では、二人にはあともうひとつだけ。この誓約書にサインをしてください」
アナスタシアにもう二度と近づかないようにする などが書かれたものだ。二人は渋々ではあるが、大人しく従った。
「誓約書には約束を破れば命を奪うという魔術が仕込まれています。行動には気をつけてくださいね」
ダニエルは口元だけで笑顔を作って、二人に笑いかけた。伯爵夫妻はその場にへなへなと座り込み、ダニエルが遠ざかる姿をただ見送っていた。
アナスタシアが心配だとばかりにダニエルは急いで屋根裏部屋に向かった。一刻も早く安全を確かめたかったし、誓約書を見せて安心してもらいたかった。
「これは……!」
目当ての部屋に辿り着き、鍵を開けようとしたが、扉に触れられなかった。アナスタシアのバリアが張ってあるためだ。
「アナスタシアさん!開けて!!」
ダニエルが大声を出してもバリアの中には届かないようだった。どうやら防音完備らしい。
「やるか」
ダニエルはバリアを何とかしようと力を入れた。
アナスタシアはたしかそんな理由で結婚してほしくないと言っていたということは……。理由を変更すればよいのだ!ダニエルのあげていた理由は、直前にアランが結婚しろと突然凸したこともあって、彼女の家族絡みのことに重点を置いていた。そのため、今回はダニエルが結婚したいと思っている理由を全面に出してリベンジしようと意気込み、お昼休みにアナスタシアの研究室を訪れた。
「アナスタシアさん……?」
しかし、そこには誰もいなかった。ダニエルにはアナスタシアがいるところについて、ここ以外心当たりはなかった。ダニエルはもしかして避けられているのかもしれないと不安になってきていた。攻勢あるのみという気持ちが萎みかけていた。
「ごめんください。……あの、アナスタシアさんは?」
「いらっしゃらないみたいです」
ダニエルが研究室で立ち尽くしていると、人のよさそうなマダムがやって来た。
「い、いないの……?」
マダムは愕然とした表情をした。それが落ち着くとどうしようとおろおろしだした。気持ちがそのまま表情に出るマダムだった。
「私は皇太子の護衛をしているダニエルと申します。あの、失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「……アランをご存知ですか?ドーロン伯爵家の次女の夫の……」
「ええ」
「私はその母です」
ダニエルは姿勢をピンと伸ばし、ちょっとした警戒体勢に入った。
「どのようなご用件で?」
「アナスタシアさんのお知り合い?」
「ええ、そうです。仲良くさせてもらっています」
ダニエルは信用を得られる程度ににこやかに笑った。アランの母は皇太子の護衛をしている騎士ということもあって、ダニエルを一応信用はしたようだった。
「その……、昨日、私の家に彼女が来たんです。何でも、アランがキャシーと離婚してアナスタシアさんに乗り換えようとしていると伝えてくれました」
「……あなたはご存知なかったのですか?」
「ええ、お恥ずかしい話、息子とは結婚以来疎遠になっていて……」
「そうでしたか。その後、アナスタシアさんがどこに行ったかわかりますか?」
「……ドーロン伯爵家に呼ばれたため寄るとおっしゃっていました。私はその、少し心配になってここに来たんです」
アランの母は眉間に皺寄せ、深刻そうな顔をした。
「……アナスタシアさんのことはどう思っているんですか」
「息子が婚約破棄をしたことを申し訳なく思っています。それだけではなく、ご両親に不憫に扱われているようで、心配なんです」
「そうですか」
ダニエルはアナスタシアがアランの両親はまともそうというようなことを言っていたことを思い出した。アランの母親だからといって目の前の女性を疑うことはできないと判断した。
「息子さんは今どこに?」
「キャシーさんと一緒に私たちの家にいます」
「そうですか。では、俺がドーロン伯爵邸に行って様子を見て来ます。あなたは二人のところにいてください」
アランの母に厄介なキャシーとアランを任せると、ダニエルはドーロン伯爵邸に向かった。嫌な予感が付き纏っている。とりあえず、アナスタシアの安全第一でいこうと考えた。
「突然申し訳ありません」
「どちら様です?」
アナスタシアの母親らしき人が応対してくれた。この人がドーロン伯爵夫人だろう。アナスタシアと目元の部分がよく似ていた。そして、ダニエルは名乗ることは億劫だったため、自分の用件についてだけ話すことにした。
「アナスタシアさんはどこです?研究室にいないんですよ」
「私たちには関係ありません」
伯爵夫人はツンとそっぽを向いた。
「昨日、彼女はここに寄ったそうですね。どんな用件で呼びつけたんですか?」
「お前には関係ない!!」
ダニエルの訪問を聞きつけた偉そうな男が大声を出して現れた。彼がアナスタシアの父、ドーロン伯爵だろう。アナスタシアとはあまり似ていなかった。彼女は母似なんだなとダニエルはやや不愉快なタイミングで気づいた。
「そうですか……、では、あれを使いましょう」
「あれ……?」
「あれですよ。尋問用の魔術です。俺のは結構辛いと評判ですよ」
ダニエルはにこにこ笑ってステッキを取り出した。
「そんなことが許されるとでも思っているのか?」
この若造がと伯爵は忌々しそうに吐き捨てた。
「伯爵の許しがなくとも問題はありませんよ。あなた達には人を監禁している疑いがありますから……」
ダニエルは笑顔を崩さず、伯爵夫妻に言った。
「わ、わかったわ。言います」
「その、昨日は仕送りについて相談があって……」
「で?」
「そうしたらあの娘もう仕送りは辞めると嫌がらせを言うんです」
「……」
これを俺にひどい娘でしょみたいに言うのかとダニエルは心底驚愕した。ある程度ゆとりのある貴族が娘に対して仕送りをせびるとはありえない。アナスタシアさんが日頃どれほどの扱いを受けていたのか、想像するだけでダニエルは頭に血がのぼった。
「……アナスタシアさんはどこだ?」
ダニエルはステッキを振ると、伯爵夫妻を拘束した。
「貴様、何をする!!!!」
「黙れ」
ダニエルは先ほどまでのにこやかな顔からは一転、すべての感情を削ぎ落としたような顔をした。怒りのあまり、顔がこわばってしまったのだろう。
「わかったわ!言うから離して!」
伯爵夫人はダニエルの態度に底の見えない恐ろしさを感じ、早々に根を上げた。興味のないアナスタシアのためにリスクはおかしたくないのだ。
「先に言ってくれ」
「……屋根裏部屋よ!鍵はここにあるわ」
ダニエルは二人の拘束を解くと、ステッキを下ろした。伯爵夫人は部屋にあったデスクから鍵を取り出してダニエルに手渡した。
「では、二人にはあともうひとつだけ。この誓約書にサインをしてください」
アナスタシアにもう二度と近づかないようにする などが書かれたものだ。二人は渋々ではあるが、大人しく従った。
「誓約書には約束を破れば命を奪うという魔術が仕込まれています。行動には気をつけてくださいね」
ダニエルは口元だけで笑顔を作って、二人に笑いかけた。伯爵夫妻はその場にへなへなと座り込み、ダニエルが遠ざかる姿をただ見送っていた。
アナスタシアが心配だとばかりにダニエルは急いで屋根裏部屋に向かった。一刻も早く安全を確かめたかったし、誓約書を見せて安心してもらいたかった。
「これは……!」
目当ての部屋に辿り着き、鍵を開けようとしたが、扉に触れられなかった。アナスタシアのバリアが張ってあるためだ。
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