25 / 28
19. 誓約
しおりを挟む
アナスタシアが気がつくと、目の前には馴染みのある仕置き部屋が広がっていた。
「思いっきり殴られたなぁ」
自分の頭を触ると血が滲んでいる。アナスタシアは両親に殺されそうになってショックを感じていた。何をするかわからないとは思っていたが、頭をぶん殴るとは想定外であった。親はそんなことをしないと知らないうちに勘定していたのだろう。
「ちょっと油断したなぁ」
アナスタシアはこの部屋に誰も入ってこないようにバリアを張った。学校に入り、魔術を学んでからは、家にいる時、欠かさずバリアを張って誰も近づかないようにしていた。両親や娘にぐちぐち言われることを避けるために防音も兼ねている。今回もバリアをしておけばよかったとアナスタシアは反省した。
ちょっとした反省会を終えると、アナスタシアはこれからのことに目を向けた。
両親から逃げるためにドーロン伯爵邸から脱出することは可能だ。できればここにはもう来たくはないし、両親にはアナスタシアを制限するだけの強さはない。では、その後はどうしようか。研究室に戻ったとしてもまた同じことになるかもしれない。全く違うところに、両親や妹の知らないところに行こうか。今までの生活を捨てて新天地を探そうかとアナスタシアは思案した。
しかし、それは無理だと腕輪が目に入った瞬間に悟った。ダニエルと別れの言葉を言わずに離れることは耐えられないとアナスタシアはひしひしと感じた。いや、もしかしたら、顔を見ると名残り惜しくなるかもしれない。ダニエルとの日々は明るくて、楽しくて、それに、ご飯が美味しくて、快適で、空がきれいで……。アナスタシアには、彼と離れて生きている意味が見出せるか自信が微塵もなかった。
アナスタシアが悶々と悩んでいると、張っていたバリアが、がしゃんと音を立てて壊された。警戒してドアの方を見ていると、鍵が開き、人が入ってきた。
「ごめんね。壊しちゃった」
バリア解除スマートにできなかったとダニエルは照れくさそうに頭を掻いた。
「……ダニエルさん」
ダニエルはアナスタシアの顔を見ると、神妙な顔をし出した。そして、ゆっくりと近づくと、ギュッと大切な人を抱きしめた。
「なんで、ここに……」
「ここに行ったまま帰ってこないって聞いたから、心配になって迎えに来たんだ」
「そうですか……」
アランの母が何かしてくれたのだろうとアナスタシアは気づいた。
「頭に怪我してる。応急処置だけしとくね」
「ありがとうございます……」
「あとでドクターに診てもらわないと」
ダニエルはアナスタシアを慰めるように頭を優しく撫でた。
「もう大丈夫だよ」
ダニエルの腕の中はあったかくて、アナスタシアにとって安心できる場所だった。
「さっき、ドーロン伯爵夫妻にあなたには絶対に近づかないよう、誓わせたから」
「ごめんなさい」
「んー?」
「ありがとう、ございます……」
アナスタシアはダニエルの言葉を信頼した。もう両親と関わらなくて済むと知って、張り詰めていた気が抜けていった。
「うん、もう大丈夫だからね。だから、泣かないで」
「……泣いてます?」
「うん、ずっと」
アナスタシアが自分の頬を触ると確かに濡れていると手をまじまじと見た。今まで気づかないでいた自分にに驚いていた。余程動揺しているのだろう。
「ごめんなさい、服濡れましたよね」
「へーきだよ。もしかして、泣いた方がすっきりするかな。じゃあ、もうひと泣きしようか」
赤ん坊じゃないんだからと思いつつも、今までずっと我慢してた分まで流れ出ているようで、なかなかアナスタシアの涙は止まらなかった。とうとう、泣き疲れて寝てしまった。
「アナスタシアさん?」
腕の中で目を閉じて脱力しているアナスタシアを見てダニエルはちょっと焦った。声をかけたり、手をかざしたりして安全を確かめた。
「寝てる……」
ダニエルは安心して寝ているアナスタシアを抱えて、ドーロン伯爵家から出た。
もうアナスタシアはここには来させないとダニエルは心の中で誓った。
「思いっきり殴られたなぁ」
自分の頭を触ると血が滲んでいる。アナスタシアは両親に殺されそうになってショックを感じていた。何をするかわからないとは思っていたが、頭をぶん殴るとは想定外であった。親はそんなことをしないと知らないうちに勘定していたのだろう。
「ちょっと油断したなぁ」
アナスタシアはこの部屋に誰も入ってこないようにバリアを張った。学校に入り、魔術を学んでからは、家にいる時、欠かさずバリアを張って誰も近づかないようにしていた。両親や娘にぐちぐち言われることを避けるために防音も兼ねている。今回もバリアをしておけばよかったとアナスタシアは反省した。
ちょっとした反省会を終えると、アナスタシアはこれからのことに目を向けた。
両親から逃げるためにドーロン伯爵邸から脱出することは可能だ。できればここにはもう来たくはないし、両親にはアナスタシアを制限するだけの強さはない。では、その後はどうしようか。研究室に戻ったとしてもまた同じことになるかもしれない。全く違うところに、両親や妹の知らないところに行こうか。今までの生活を捨てて新天地を探そうかとアナスタシアは思案した。
しかし、それは無理だと腕輪が目に入った瞬間に悟った。ダニエルと別れの言葉を言わずに離れることは耐えられないとアナスタシアはひしひしと感じた。いや、もしかしたら、顔を見ると名残り惜しくなるかもしれない。ダニエルとの日々は明るくて、楽しくて、それに、ご飯が美味しくて、快適で、空がきれいで……。アナスタシアには、彼と離れて生きている意味が見出せるか自信が微塵もなかった。
アナスタシアが悶々と悩んでいると、張っていたバリアが、がしゃんと音を立てて壊された。警戒してドアの方を見ていると、鍵が開き、人が入ってきた。
「ごめんね。壊しちゃった」
バリア解除スマートにできなかったとダニエルは照れくさそうに頭を掻いた。
「……ダニエルさん」
ダニエルはアナスタシアの顔を見ると、神妙な顔をし出した。そして、ゆっくりと近づくと、ギュッと大切な人を抱きしめた。
「なんで、ここに……」
「ここに行ったまま帰ってこないって聞いたから、心配になって迎えに来たんだ」
「そうですか……」
アランの母が何かしてくれたのだろうとアナスタシアは気づいた。
「頭に怪我してる。応急処置だけしとくね」
「ありがとうございます……」
「あとでドクターに診てもらわないと」
ダニエルはアナスタシアを慰めるように頭を優しく撫でた。
「もう大丈夫だよ」
ダニエルの腕の中はあったかくて、アナスタシアにとって安心できる場所だった。
「さっき、ドーロン伯爵夫妻にあなたには絶対に近づかないよう、誓わせたから」
「ごめんなさい」
「んー?」
「ありがとう、ございます……」
アナスタシアはダニエルの言葉を信頼した。もう両親と関わらなくて済むと知って、張り詰めていた気が抜けていった。
「うん、もう大丈夫だからね。だから、泣かないで」
「……泣いてます?」
「うん、ずっと」
アナスタシアが自分の頬を触ると確かに濡れていると手をまじまじと見た。今まで気づかないでいた自分にに驚いていた。余程動揺しているのだろう。
「ごめんなさい、服濡れましたよね」
「へーきだよ。もしかして、泣いた方がすっきりするかな。じゃあ、もうひと泣きしようか」
赤ん坊じゃないんだからと思いつつも、今までずっと我慢してた分まで流れ出ているようで、なかなかアナスタシアの涙は止まらなかった。とうとう、泣き疲れて寝てしまった。
「アナスタシアさん?」
腕の中で目を閉じて脱力しているアナスタシアを見てダニエルはちょっと焦った。声をかけたり、手をかざしたりして安全を確かめた。
「寝てる……」
ダニエルは安心して寝ているアナスタシアを抱えて、ドーロン伯爵家から出た。
もうアナスタシアはここには来させないとダニエルは心の中で誓った。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる
ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。
でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。
しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。
「すまん、別れてくれ」
「私の方が好きなんですって? お姉さま」
「お前はもういらない」
様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。
それは終わりであり始まりだった。
路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。
「なんだ? この可愛い……女性は?」
私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。
妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版
まほりろ
恋愛
国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。
食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。
しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。
アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。
その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。
ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日
※長編版と差し替えました。2025年7月2日
※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。
自分こそは妹だと言い張る、私の姉
ゆきな
恋愛
地味で大人しいカトリーヌと、可愛らしく社交的なレイラは、見た目も性格も対照的な姉妹。
本当はレイラの方が姉なのだが、『妹の方が甘えられるから』という、どうでも良い理由で、幼い頃からレイラが妹を自称していたのである。
誰も否定しないせいで、いつしか、友人知人はもちろん、両親やカトリーヌ自身でさえも、レイラが妹だと思い込むようになっていた。
そんなある日のこと、『妹の方を花嫁として迎えたい』と、スチュアートから申し出を受ける。
しかしこの男、無愛想な乱暴者と評判が悪い。
レイラはもちろん
「こんな人のところにお嫁に行くのなんて、ごめんだわ!」
と駄々をこね、何年かぶりに
「だって本当の『妹』はカトリーヌのほうでしょう!
だったらカトリーヌがお嫁に行くべきだわ!」
と言い放ったのである。
スチュアートが求めているのは明らかに可愛いレイラの方だろう、とカトリーヌは思ったが、
「実は求婚してくれている男性がいるの。
私も結婚するつもりでいるのよ」
と泣き出すレイラを見て、自分が嫁に行くことを決意する。
しかし思った通り、スチュアートが求めていたのはレイラの方だったらしい。
カトリーヌを一目見るなり、みるみる険しい顔になり、思い切り壁を殴りつけたのである。
これではとても幸せな結婚など望めそうにない。
しかし、自分が行くと言ってしまった以上、もう実家には戻れない。
カトリーヌは底なし沼に沈んでいくような気分だったが、時が経つにつれ、少しずつスチュアートとの距離が縮まり始めて……?
甘やかされた欲しがり妹は~私の婚約者を奪おうとした妹が思わぬ展開に!
柚屋志宇
恋愛
「お姉様の婚約者ちょうだい!」欲しがり妹ルビーは、ついにサフィールの婚約者を欲しがった。
サフィールはコランダム子爵家の跡継ぎだったが、妹ルビーを溺愛する両親は、婚約者も跡継ぎの座もサフィールから奪いルビーに与えると言い出した。
サフィールは絶望したが、婚約者アルマンディンの助けでこの問題は国王に奏上され、サフィールとルビーの立場は大きく変わる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
★2025/11/22:HOTランキング1位ありがとうございます。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
妹に婚約者を取られてしまい、家を追い出されました。しかしそれは幸せの始まりだったようです
hikari
恋愛
姉妹3人と弟1人の4人きょうだい。しかし、3番目の妹リサに婚約者である王太子を取られてしまう。二番目の妹アイーダだけは味方であるものの、次期公爵になる弟のヨハンがリサの味方。両親は無関心。ヨハンによってローサは追い出されてしまう。
公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に
ゆっこ
恋愛
王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。
私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。
「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」
唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。
婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。
「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」
ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる