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20. 選んだ居場所
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アナスタシアが目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。本や書類が決められた場所に置かれ、何から何まで真っ直ぐに整えられている。窓から日光が差し込み、少し眩しく感じた。そして、そばにはダニエルがいた。
「おはよう」
「……おはようございます」
アナスタシアはどこか気まずそうに挨拶を返した。いろいろか~なり世話になったのだ。致し方ない。それはそれとしてアナスタシアはあらゆることをわきに置いて、気になっていることを尋ねた。
「えっと、その、もう朝ですか?」
「うん」
ドーロン伯爵邸に寄ったのが夕方でそのあと仕置き部屋で起きたのもちょっと時間経ってからだし……と一体今は何日なんだと疑問に思ったが、まあ別いつでもいいかと変な悟りを開いた。両親との訣別ができたようで無闇矢鱈にスッキリしていたのだ。
「あの、昨日は本当にありがとうございました」
「うん」
いつとか何とか言う前に世話になったことの謝罪をしなければならないと思い立ち、アナスタシアは深々と礼をした。
「ドクターに診せたんだけれど、頭の怪我は今は問題ないって。でも、場所が場所だから安静にだって」
「本当にお世話になりました。ありがとうございます」
安静にすると言われても……とどこでゆっくりしようかとアナスタシアは考えた。アナスタシアの家=研究室といった状態なのだ。
「あの、そういえば、ここどこですか?」
「……俺の部屋」
「え!」
アナスタシアは無駄にあたふたしだした。
「ここは嫌……?」
ダニエルは微笑を湛えながら少し首を傾げた。
「嫌というか申し訳ないっていうか……」
「アナスタシアさん、今まで研究室で暮らしてたでしょ」
「はい!」
「休める場所あるの?」
「研究室でゆっくりします!」
ダニエルは呆れたとばかりにジト目で見てきた。
「……なんですか?」
「ここで安静にしてて」
「それは……!」
「嫌だったら、別の部屋を用意するから」
「はあ」
さすがにいろいろと無理だなと思って、アナスタシアはベッドから出ようとした。
「あっ、嫌なの?」
ダニエルは眉を八の字にし、傷ついたような顔をした。
「ええ、ここは落ち着かないので……」
「じゃあ、運ぶね」
そう言うとダニエルはサッとアナスタシアを横抱きにした。
「歩けます!」
「いーや、安静にだからね」
じたばた暴れているアナスタシアを難なく抑え込むとダニエルは一応用意していた部屋まで運んだ。
「……ありがとうございます」
アナスタシアはやや不服そうに礼を言った。この家で世話になることになりそうだと観念した。
「あのさ……」
「なんですか?」
ダニエルはいきなり真剣な面持ちになった。そういえば、今日のダニエルはアナスタシアの様子をあまり見ず、マイペースにひたすらずんずん進んでいたため、ちょっと変だなとアナスタシアは感じていた。何を言われるのだろうとアナスタシアはどっかりとした覚悟を構えた。
「その、この前、結婚してくれって言ったじゃん……?」
「はい」
アナスタシアはお断りした方がその話を蒸し返すとはダニエルはかなりの勇気があると感心していた。とても断った側の目線とは思えないが、両親との縁切り成功に少々テンションがおかしくなっていたのだ。
「俺は別に同情とかそういうのじゃなくて。君のことが好きだから、結婚してほしいと思ってる。そうすれば、これからもいろいろできるし、何よりそばにいられる」
「…………」
「それでもだめ?」
ダニエルはアナスタシアの様子を伺うように、顔を寄せた。
「…………私でよければ」
「あなたがいいんだ」
ダニエルはアナスタシアをしっかり抱きしめた。
「じゃあ、俺の部屋でもよくない?」
「いいえ、この部屋がいいです。あなたは仕事に行ってください」
アナスタシアはダニエルから身体を離すと、し・ご・と!し・ご・と!と追い立てて部屋から出した。
「すきなひと……」
アナスタシアは器用にもダニエルが部屋から出たあとで、顔を耳まで真っ赤にした。彼女は愚かではない。そのため、もしかしたらダニエルが自分のことを好いているかもしれないと感じていた。しかし、彼女は自惚れ屋ではない。絶対ダニエルが自分のことを好きだ!!!という自信はなかった。また、好きな人が自分のことを同じように好きなのか、確信を抱くほどの経験値も持ち合わせていなかった。
アナスタシアの顔が落ち着いた頃、様子を見にダニエルの母が部屋を訪れた。
「ダニエルさんにはお世話になっております」
「い~え、こちらこそ」
この人がダニエルの母か~とちょっとした感慨に耽った。ダニエルとは顔立ちはあまり似てはいないが、一見穏和な雰囲気がそっくりだった。
「アナスタシアさん、大丈夫?」
「はい。何から何までご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いいのよ、元気そうでよかったわ」
ダニエルの母はにっこにこの気さくそうな笑顔をアナスタシアに向けた。これはダニエルと笑い方が同じだなとアナスタシアは感じた。
「あと、あれで平気?」
「はい?」
ちょっと心配そうな顔でダニエルの母は聞いた。
「ダニエルでいいの?」
「ええ、彼がいいんです」
アナスタシアは目を細め、口角を少し上げて微笑んだ。
「おはよう」
「……おはようございます」
アナスタシアはどこか気まずそうに挨拶を返した。いろいろか~なり世話になったのだ。致し方ない。それはそれとしてアナスタシアはあらゆることをわきに置いて、気になっていることを尋ねた。
「えっと、その、もう朝ですか?」
「うん」
ドーロン伯爵邸に寄ったのが夕方でそのあと仕置き部屋で起きたのもちょっと時間経ってからだし……と一体今は何日なんだと疑問に思ったが、まあ別いつでもいいかと変な悟りを開いた。両親との訣別ができたようで無闇矢鱈にスッキリしていたのだ。
「あの、昨日は本当にありがとうございました」
「うん」
いつとか何とか言う前に世話になったことの謝罪をしなければならないと思い立ち、アナスタシアは深々と礼をした。
「ドクターに診せたんだけれど、頭の怪我は今は問題ないって。でも、場所が場所だから安静にだって」
「本当にお世話になりました。ありがとうございます」
安静にすると言われても……とどこでゆっくりしようかとアナスタシアは考えた。アナスタシアの家=研究室といった状態なのだ。
「あの、そういえば、ここどこですか?」
「……俺の部屋」
「え!」
アナスタシアは無駄にあたふたしだした。
「ここは嫌……?」
ダニエルは微笑を湛えながら少し首を傾げた。
「嫌というか申し訳ないっていうか……」
「アナスタシアさん、今まで研究室で暮らしてたでしょ」
「はい!」
「休める場所あるの?」
「研究室でゆっくりします!」
ダニエルは呆れたとばかりにジト目で見てきた。
「……なんですか?」
「ここで安静にしてて」
「それは……!」
「嫌だったら、別の部屋を用意するから」
「はあ」
さすがにいろいろと無理だなと思って、アナスタシアはベッドから出ようとした。
「あっ、嫌なの?」
ダニエルは眉を八の字にし、傷ついたような顔をした。
「ええ、ここは落ち着かないので……」
「じゃあ、運ぶね」
そう言うとダニエルはサッとアナスタシアを横抱きにした。
「歩けます!」
「いーや、安静にだからね」
じたばた暴れているアナスタシアを難なく抑え込むとダニエルは一応用意していた部屋まで運んだ。
「……ありがとうございます」
アナスタシアはやや不服そうに礼を言った。この家で世話になることになりそうだと観念した。
「あのさ……」
「なんですか?」
ダニエルはいきなり真剣な面持ちになった。そういえば、今日のダニエルはアナスタシアの様子をあまり見ず、マイペースにひたすらずんずん進んでいたため、ちょっと変だなとアナスタシアは感じていた。何を言われるのだろうとアナスタシアはどっかりとした覚悟を構えた。
「その、この前、結婚してくれって言ったじゃん……?」
「はい」
アナスタシアはお断りした方がその話を蒸し返すとはダニエルはかなりの勇気があると感心していた。とても断った側の目線とは思えないが、両親との縁切り成功に少々テンションがおかしくなっていたのだ。
「俺は別に同情とかそういうのじゃなくて。君のことが好きだから、結婚してほしいと思ってる。そうすれば、これからもいろいろできるし、何よりそばにいられる」
「…………」
「それでもだめ?」
ダニエルはアナスタシアの様子を伺うように、顔を寄せた。
「…………私でよければ」
「あなたがいいんだ」
ダニエルはアナスタシアをしっかり抱きしめた。
「じゃあ、俺の部屋でもよくない?」
「いいえ、この部屋がいいです。あなたは仕事に行ってください」
アナスタシアはダニエルから身体を離すと、し・ご・と!し・ご・と!と追い立てて部屋から出した。
「すきなひと……」
アナスタシアは器用にもダニエルが部屋から出たあとで、顔を耳まで真っ赤にした。彼女は愚かではない。そのため、もしかしたらダニエルが自分のことを好いているかもしれないと感じていた。しかし、彼女は自惚れ屋ではない。絶対ダニエルが自分のことを好きだ!!!という自信はなかった。また、好きな人が自分のことを同じように好きなのか、確信を抱くほどの経験値も持ち合わせていなかった。
アナスタシアの顔が落ち着いた頃、様子を見にダニエルの母が部屋を訪れた。
「ダニエルさんにはお世話になっております」
「い~え、こちらこそ」
この人がダニエルの母か~とちょっとした感慨に耽った。ダニエルとは顔立ちはあまり似てはいないが、一見穏和な雰囲気がそっくりだった。
「アナスタシアさん、大丈夫?」
「はい。何から何までご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いいのよ、元気そうでよかったわ」
ダニエルの母はにっこにこの気さくそうな笑顔をアナスタシアに向けた。これはダニエルと笑い方が同じだなとアナスタシアは感じた。
「あと、あれで平気?」
「はい?」
ちょっと心配そうな顔でダニエルの母は聞いた。
「ダニエルでいいの?」
「ええ、彼がいいんです」
アナスタシアは目を細め、口角を少し上げて微笑んだ。
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