工藤くん、恋のバグは直せますか? 〜一夜の過ちから、同期の溺愛が始まりました〜

有明波音

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お宅訪問

3.

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 伊吹に甘えられることで、『自分は必要とされてる』に置き換わっていたのかもしれない。必要とされてるのは事実かもしれないけれど、その役割は恋人というより家政婦だ。

 だから伊吹も、セックスに満足できなければ別の女性に置き換えようとする。そもそも最初から都合の良い女だったのかもしれない……。
 
 そうやって暗い気持ちになっていると、また伊吹からの着信が表示された。どうしよう、と固まっていると、工藤は私の手からスマホをひょいと奪った。


「え? 工藤、どうするの?」
「俺に任せて」
「?」


 何か良い案があるのだろうかと成り行きを見守っていると、工藤は通話ボタンとスピーカーボタンを続けてタップした。こちらが何かを喋る前に、伊吹が堰を切ったように勢い良く話し始める。


「もしもし、波瑠? も~~~~やっと出てくれたね。今どこにいるの? 食べるものも全然無いし、帰ってくるついでに何か買ってきてくれない? 今日は無理して料理しなくても良いからさ」


 自分の都合しか考えていない伊吹に、頭に血が上って上手く言葉が出てこない。感情的な言葉をぶつける前に、工藤が口を開いた。


「あのー、言いたい放題言ってますけど。そもそも家主以外の人間が居座ってるの、おかしく無いですか? 別れたんだったら尚更」
「は? これ、波瑠のスマホじゃねーの? つか、アンタ誰?」
「俺は……波瑠の婚約者ですが?」
「は??」
「……っ!? くど」


 驚きのあまり声を出しそうになるも、工藤が指を自身の口に当てて「しっ、聞いてて」と囁いた。仕方なく、黙ってこの後の工藤の言葉を待った。


「波瑠、一夜で他の男に乗り換えたってこと? あ、前から浮気してたパターンか。波瑠も悪い女だなぁ」
「いえ、前々から実家同士で婚約の話は挙がっていましたが、それを波瑠が知ったのは昨夜です。こちらとしてもタイミングを見計らっていたので、別れて頂けて大変助かりました」
「あ? いや、まだちゃんと別れた訳じゃなくて、」
「今のアパートも近日中に解約しますので、早く出て行ってください。不法占拠でこちらもそれ相応の対応をしますよ?」
「……わ、分かったよ。すぐ出る」


 その言葉を聞いて、工藤はブチッと勢い良く通話を切った。予想外の展開に全く理解が追いつかない。
 婚約者って何?
 いつどこから、その話は湧いて出た……?

 ふう、とひと息ついた工藤を見て、私は溜め込んでいた疑問が一気に溢れ出した。


「ちょ、ちょっと……! 婚約者ってどういうこと!? あ、伊吹を黙らせるために適当に嘘ついてくれたってこと、だよね!?」
「あー……悪い、このままだと悪質なストーカーになりそうだから、他に男がいる方が良いと思って。それに、出ていくとは言ってたけど、この後も絶対青山に絡んでくると思うぞ?」
「え、そうかな……」
「だから、フリでも良いから婚約者がいるってことにした方が、青山の身を守れると思う」


 電話限りの話かと思いきや、この先も婚約者のフリを続けてくれるらしい。でも、工藤には何のメリットもない。むしろこんなことに巻き込まれて、デメリットしかないはずだ。


「婚約者のフリって……何それ、最近流行りの偽装婚約? でも、工藤には一ミリもメリットがないじゃない」
「プッ、流行りって。青山は漫画かドラマの見過ぎか? まぁ、今の俺にとってはWin-Winだと思うけどな」
「それってどういう……」


 工藤の言葉の意図を聞こうとした時、お腹から『ぐぅ~~』と大きな音が聞こえてきた。それを聞いた工藤は、「ははっ、良い音」と笑っている。こっちは恥ずかしくて仕方がない。
 でも、もうすぐお昼だ。それに、昨夜もあれだけ動いたのだからそりゃお腹が空くはずで。


「マンションの下にカフェレストランがあるから、そこでブランチにしよう。続きはまたゆっくり話すよ」
「……うん、ありがとう」


 話の続きは気になるけれど、まずはこの空腹をどうにかしたい。
 結局、ワンナイトで終わるどころか、工藤との新しい関係性がスタートしたのだった――。


 
***
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