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契約関係くらいが、ちょうど良い。
1.
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工藤の「婚約者」という爆弾発言に翻弄されつつも、空腹に耐え切れなかった私は急いで身支度を整えた。
ある程度支度もできた所で、改めて工藤の住んでいる部屋を見渡す。
(よく見たら……モデルルームみたい)
広々としたリビングに高い天井、ホテルで見るような大きなソファ、光沢のあるアイランドキッチン。壁には不思議な模様のアートが飾られている。そして窓際に立てば、背の低い建物が眼下に広がっていた。
昨夜は酔っ払っていて『夜景が綺麗だな~』くらいにしか思っていなかったけれど、明らかに高級タワマンだ。
(うちの会社だったら、営業よりエンジニアの方が年収は高いだろうけど……でも、それだけじゃここには住めないよね。工藤って一体、何者なの……?)
「青山?」
「えっ!? うわぁ!」
「プッ、驚き過ぎだろ。準備できた?」
「うん、大丈夫……!」
あまり気配なく現れるのは、仕事でもプライベートでも変わらないらしい。
(……さっき疑問に思ったことは、後で直接聞いてみよう)
二人でマンションのエレベーターに乗り込めば、ここが28階だと分かった。マンションのフロントにはコンシェルジュもいて、工藤は慣れたように「おはようございます」と挨拶をしている。
「うわー……なんか、おしゃれなカフェレストランだね?」
「あぁ、自家製パンが売りなんだけど、美味しいからよく買って家でも食べてる」
「そうなんだ。楽しみ」
大きな窓から自然光が差し込む店内は、柔らかな温もりに包まれていた。中央には木製の大きな長テーブルが一つ。
その周りを囲うようにボックス席が並び、大きな観葉植物やアンティーク家具が、空間にさらに落ち着きを添えている。
席はほとんどが埋まっていたものの、運良く空いたボックス席に通され、私たちは向かい合って腰を下ろした。
「わ~何にしよう、キッシュにクロックムッシュ……どれも美味しそう」
「好きなの、好きなだけオーダーしなよ。もし食べ切れなかったら俺が食べても良いし」
「え、工藤ってそんなに食べられるの?」
「んーどうだろ、結構食べる方かも。あ、あそこに色んなジャム瓶並んでるだろ? ハード系のパン頼んで色々楽しむのもありだぞ」
ジャム瓶が並んでいる所を指差し、再び工藤はメニューに視線を落とす。なんというか、多分、機嫌が良い。少し鼻歌が聞こえてきそうな気さえする。
(ふふっ 工藤クン、ご機嫌じゃないですか~?)
工藤が楽しげで、なんだかこちらまで嬉しくなる。今までメガネともっさりヘアスタイルでよく見えなかったけど、実は感情表現が豊かなタイプなのかもしれない。
やっぱり、私は工藤について知らないことが多すぎる。
「ん? どした?」
「ううん、なーんにも! 早くオーダーしよっ」
結局、私達は同じモーニングプレートをオーダーした。
カンパーニュといったハード系のパンを数種類、それ以外にもサーモン、半熟卵が載っており盛り沢山だ。工藤はさらにクロワッサンも追加していた。
食事を待っている間、私たちの話題は偽装婚約の件ではなく、仕事の話から始まった。
「そういえば、最近営業の方はどう?」
「んー、新機能もリリースしたし、既存のお客さんに提案してる所だよ。工藤には改善したいポイント話したけど、それを除けば割とどこの会社も好印象」
「そっか、それなら良かった」
「うん、元々お客さんから要望があって生まれた機能だしね。営業部隊もどんどんアップセルしていくよー」
「本当、そうやって売ってくれる青山たちがいてこそだよな。機能作っても、広がらなきゃ意味無いし」
ふわりと優しく笑う工藤に対して、不意打ちを突かれたように心が揺れる。
(工藤ってこんな風にも笑うんだ……)
驚いて何も反応できずにいると、工藤は「どうした?」と小首を傾げた。「ううん、ありがとう」と伝えればまた彼は微笑んだ。
ある程度支度もできた所で、改めて工藤の住んでいる部屋を見渡す。
(よく見たら……モデルルームみたい)
広々としたリビングに高い天井、ホテルで見るような大きなソファ、光沢のあるアイランドキッチン。壁には不思議な模様のアートが飾られている。そして窓際に立てば、背の低い建物が眼下に広がっていた。
昨夜は酔っ払っていて『夜景が綺麗だな~』くらいにしか思っていなかったけれど、明らかに高級タワマンだ。
(うちの会社だったら、営業よりエンジニアの方が年収は高いだろうけど……でも、それだけじゃここには住めないよね。工藤って一体、何者なの……?)
「青山?」
「えっ!? うわぁ!」
「プッ、驚き過ぎだろ。準備できた?」
「うん、大丈夫……!」
あまり気配なく現れるのは、仕事でもプライベートでも変わらないらしい。
(……さっき疑問に思ったことは、後で直接聞いてみよう)
二人でマンションのエレベーターに乗り込めば、ここが28階だと分かった。マンションのフロントにはコンシェルジュもいて、工藤は慣れたように「おはようございます」と挨拶をしている。
「うわー……なんか、おしゃれなカフェレストランだね?」
「あぁ、自家製パンが売りなんだけど、美味しいからよく買って家でも食べてる」
「そうなんだ。楽しみ」
大きな窓から自然光が差し込む店内は、柔らかな温もりに包まれていた。中央には木製の大きな長テーブルが一つ。
その周りを囲うようにボックス席が並び、大きな観葉植物やアンティーク家具が、空間にさらに落ち着きを添えている。
席はほとんどが埋まっていたものの、運良く空いたボックス席に通され、私たちは向かい合って腰を下ろした。
「わ~何にしよう、キッシュにクロックムッシュ……どれも美味しそう」
「好きなの、好きなだけオーダーしなよ。もし食べ切れなかったら俺が食べても良いし」
「え、工藤ってそんなに食べられるの?」
「んーどうだろ、結構食べる方かも。あ、あそこに色んなジャム瓶並んでるだろ? ハード系のパン頼んで色々楽しむのもありだぞ」
ジャム瓶が並んでいる所を指差し、再び工藤はメニューに視線を落とす。なんというか、多分、機嫌が良い。少し鼻歌が聞こえてきそうな気さえする。
(ふふっ 工藤クン、ご機嫌じゃないですか~?)
工藤が楽しげで、なんだかこちらまで嬉しくなる。今までメガネともっさりヘアスタイルでよく見えなかったけど、実は感情表現が豊かなタイプなのかもしれない。
やっぱり、私は工藤について知らないことが多すぎる。
「ん? どした?」
「ううん、なーんにも! 早くオーダーしよっ」
結局、私達は同じモーニングプレートをオーダーした。
カンパーニュといったハード系のパンを数種類、それ以外にもサーモン、半熟卵が載っており盛り沢山だ。工藤はさらにクロワッサンも追加していた。
食事を待っている間、私たちの話題は偽装婚約の件ではなく、仕事の話から始まった。
「そういえば、最近営業の方はどう?」
「んー、新機能もリリースしたし、既存のお客さんに提案してる所だよ。工藤には改善したいポイント話したけど、それを除けば割とどこの会社も好印象」
「そっか、それなら良かった」
「うん、元々お客さんから要望があって生まれた機能だしね。営業部隊もどんどんアップセルしていくよー」
「本当、そうやって売ってくれる青山たちがいてこそだよな。機能作っても、広がらなきゃ意味無いし」
ふわりと優しく笑う工藤に対して、不意打ちを突かれたように心が揺れる。
(工藤ってこんな風にも笑うんだ……)
驚いて何も反応できずにいると、工藤は「どうした?」と小首を傾げた。「ううん、ありがとう」と伝えればまた彼は微笑んだ。
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