婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

文字の大きさ
30 / 54

第30話 人族の居住区

しおりを挟む
「ルシル様、ここが竜都で人族が住んでいるエリアです」

 竜都の外れ。
 寂れた薄暗い地域に、私は案内されました。


「ここがブラッドが生まれた場所なのね」


 この場所は、竜都内で人族が集中して住んでいる区画だそうです。

 私が人族の居住区を視察していると、一台の竜車が広場に到着しました。
 たくさんの木箱を運んでいたようで、次々と居住区に荷下ろしされていきます。


「ブラッド、あれはなんですか?」

「あれは国王陛下から下賜かしされた竜茶です。種族の垣根を超えて友愛を説く陛下の、人族への心遣いですね」


 わざわざ国費を使って、人族の居住区に竜茶を渡しているらしい。
 竜と人の、親愛の証として。

 アイザックの父親である現国王は、平和主義者であり、種族だからといって差別をしない心の広いお方のようです。
 たしかに私と会った時の態度も、とても寛容であられた。

 立派な王を持つことができて、この国の民は鼻が高いだろうね。
 ここの人たちから現国王への評判も、悪くないみたい。


「ここの人たちも、竜茶を飲むのね」

「昔は飲む習慣がなかったのですが、ここ2,30年前から竜茶も食卓に並ぶようになったようですね」


 その竜茶について、ブラッドから興味深い話を聞いた。
 人族は成人になるまでは、竜茶を飲んではいけないという古い習慣の話です。

 建国神話では、初代国王の妻である竜天女が竜茶を発明したけど、そのことが理由で若くして亡くなってしまった。
 その竜天女は、私と同じ人族。


「人族は成人しないと竜茶を飲んじゃいけないっていう話は、竜人族は知っているの?」

「いいえ、誰も知らないでしょうね。なにせこの成人してからっていう話は、人族の年寄りに伝わるおまじないみたいなものですから。竜茶が居住区に出回るのと同時にどうせ迷信だろうとないがしろにし始めたので、いまじゃ人族だって知らない人のほうが多いですよ」

「そんな迷信みたいな話を、よくブラッドは知っているわね」

「私の場合は、ちょっと特殊でして……実は私が生まれた時には祖母は亡くなっていたんですけど、この成人してから竜茶を飲むようにっていうのが祖母の遺言だったんです」

 遺言にしてまでも、おまじないを孫に残すことってあるのかな。

 カレジ王国で竜研究をしていた私の勘が、これだと閃きます。
 こういった場合のおまじないは、実は意味があることが多い。


「それに竜茶が庶民に広がったのは、ここ2、30年の話です。それまでは宮中のお偉いさんしか飲む機会がなかったんですけど、こんな旨いものを国民が知らないなんてかわいそうだと陛下が勅令を出して、いまでは誰でも竜茶が飲めるようになったんです」


 数十年前までは、竜茶はお城の飲み物だった。

 城内に人族はほとんどおらず、働いているのは竜人族ばかり。
 つまり人族が竜茶を飲むようになったのは、つい最近のことなのね。



 私がブラッドと話し込んでいると、建物から一人、また一人と人が出てきます。

 みんなやせ細った体をしている。
 彼らの肌には、鱗がない。

 つまり、私と同じ人族なのだ。


「もしや噂の、ルシル様ではないですか?」
「ルシル様だって!? そんな高貴な方が、こんな所に来るもんか」
「いいや、見なさいよ。あんなに高そうなドレスを着ている人族が他にいるもんですか」
「てことは、ルシル様ってことか!」
「あのアイザック殿下の婚約者の!」
「ルシル様、お会いしたかったです!」
「人族の希望の星だ!」


 ぞろぞろと人が出てきて、大勢の人たちに囲まれてしまいます。
 ざっと100人くらいはいるかな。
 みんな、私と会えたことを喜んでいるようでした。


 そこで、私は異変に気が付きます。

 この人族の集落にいるのが、大人ばかりということを。
 

「なんだか若い人ばかりね。お年寄りはどうしたの?」

「……年寄りは、いないんです。昔は子どもから年寄りまでたくさんいたんですが、ここ最近はバタバタとみんな倒しれてしまって……」


 お年寄りだけじゃない。
 
 子どもの姿も、まったくない!
 
 こういうところに来れば、嫌でも子どもが遊んでいる姿を見かけるのに、ここまで姿が見えないなんて……。


「もしかして子どもも?」

「はい、子どもは病弱な子たちがほとんどで、家でじっと動かない子ばかりです」

「いったい、なんでそんなことに……」

「人族の子どもが大人になることは、いまでは珍しいんです。私の両親の時代は、そんなことなかったようですが」


 原因は不明。
 感染病なども疑われたけど、原因はわからなかった。


 生き残っている人族もみるみるうちに弱っていき、力仕事をするのが厳しい人ばかりになってしまったのだとか。
 それでも大人たちは竜人族に混じって仕事をしたけど、次々に倒れ、衰弱していき、そして亡くなってしまった。



 私が考え事をしていると、居住区の責任者だと名乗る老人が現れます。
 この竜都で最年長の人間だそうです。

 そんな長老さんが、私に話したいことがあるからと、面会を希望してきました。


「お初にお目にかかります。ルシル様は大変聡明な研究者だと伺いました。ですので、伏してお願いがございます」

「長老さん、頭を上げてください。私にできることなら、なんでもしますから」

 ここにいるのは、私の数少ない同胞なのだ。
 同じ人族として、少しでも彼らの手助けしてあげたい。


「非常に申し上げにくいのですが……このままでは、竜都の人族は全滅してしまうことでしょう。働き手である若者たちも日に日に弱っていき、死者数は過去最高にまで膨れ上がりました」


 そこで私は、事態の重さを認識します。
 竜都の人族は、思っていたよりも深刻な状況だったのだと。


「ルシル様、お願いでございます。我々をお救いください」


 長老さんが、近くの建物へと視線を向けました。
 建物の中を確認しに行くと、大勢の子どもたちがベッドで寝ているのを目にします。

 彼らはみな、やせ細っていて、生気がない。
 このままでは、命を落とすのも時間の問題のようでした。


 長老さんから話を聞いた私は、さっそく行動に出ます。

「ブラッド、法務庁に行くわよ」

「え、いったいどうして?」

「調べたいことがあるの」


 待っていて、みんな。

 私が絶対に、助けてみせるから!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...