生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)

夕香里

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第一章 生まれ変わったみたいです

もうひとつの誤算

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「おとーしゃま」
「んー? 何だいレーゼ」
「こーてーへいかはどんなお方ですか?」

 数日後、懲りない私はお父様に聞いてみることにした。この情報が一番頼りになるし、正確なのだ。
 粛清とかそういうことを質問しているのではなくて、性格を聞いているのだから以前よりは教えてくれるだろう。

 それにお父様は私に甘いからどうにかなる。

「まだ調べてるのかい? レイラにダメだって言われただろう?」
「うん、でもこーてーへいかはかっこいいから!」

 えへへと笑う。さりげなく皇帝と子爵家の娘が結ばれる絵本を差し出した。

「この絵本にね、出てくるへーかはとってもすてきなの! だから私たちのへいかもかっこいいんじゃないかって!」

 無邪気な子供を装って執務机の隣にあるソファに座る。足をぶらぶらさせていたら、呼び鈴によって顔を出した侍女が果実水を机の上に置いてくれた。

「そうだね。だが、現実と本の中の人間は違うんだよ」
「ふーん、でもユリウスへいかも聖女しゃまがそばにいるでしょ? こんにゃくしゃだから結婚したんでしょ?」

 これは合っているはずだ。でないと私が死んだ意味なんて本当に何も無くなってしまう。

 お父様は執務の手を止めて私の隣に座ると、私を膝に乗せた。

「よく知ってるね。でも、間違っているよ。聖女様と陛下は結局結婚しなかったんだ。婚約は破棄されている」
「えっ」

 初耳だ。ぴょんっとソファから飛び降りた拍子に二つ結びにしていた髪の毛が跳ねる。

「ど、どうして!? だっだって、へーかは聖女しゃまのこと!」

 ──好きだったはずなのに。

 だから私は諦めたのだ。敵わないから。心の弱い臆病者だから。

 告白しても無駄だからと。

 彼の片想いならまだしも、聖女である前に友人だったフローラも私にこっそり告げたのだ。


『好き、なの。だから……応援してくれる?』と。


(……もしかして私が死んだからなの?)

 変わってしまったのは全部処刑後だ。処刑前までは全てが上手く行っていた。

 だったら耐えて耐えて耐えて。ギリギリまで足掻けば良かっただろうか。

 実を言うと処刑を逃れる術がなかった訳では無い。その道が最善だと思ったから選んだのだ。
 どうせ私には他に守りたい相手なんていなかったし。

 なのに、私という人間が処刑という出来事によって逆に足枷になってしまったのだろうか。

 ぐしゃりと机上にあった白紙を握り潰してしまう。

「……ユリウス陛下と聖女様の婚姻は政略だったからなぁ」

 もう一度、私を膝に乗せたお父様が気の抜けた声で言う。

「──ちがいます。絶対に」
「そ、そうか?」

(どう、して。ねえ、何でよ)

 答えてくれる人はいない。

 そういえば、ユースがフローラとの婚姻を軽く否定していたけれど……。
 私は照れ隠しなんだろうなと思っていたが、違かったのだろうか。

「……聖女しゃまはいまどこに?」
「大神殿さ。毎日祈りを捧げているよ」

(信者として通えばユースよりかは会える可能性あるかしら)

 毎週神殿に通い、祈りを捧げ、献金をすれば。
 イザベルの時はそれで無理矢理フローラに対面する機会を作った貴族がいた。

 フローラから婚約破棄を申し出た可能性は低いだろうが、何があったのかは当事者なのだから絶対に知っている。

(しなければいけないことが増えたわ)

 ユースと同様にフローラ方面も調べなければ。

 とりあえず早くもっと大きくなりたい。三歳児では何も出来ない。いつも周りに大人がいるし、何をするにも危ないからと止められてしまう。

 だがその前に、お父様には洗いざらい吐いてもらおう。

「おとうしゃまはへいかのことどう思ってますか?」
「私がかい?」
「はい」

 お父様はしばらく考え込む。

「レイラにはナイショだよ? バレたら私が叱られてしまうから」
「ひみつです」

 指と指を絡めて約束する。
 お父様はそっと耳打ちした。

「みんな心無いことを言うが、私は彼が可哀想な人に見えるよ」
「かわいそうなひと?」
「ああ、陛下が一番大切にされていた人達はもう生きてないからね。私も随分お世話になった」

(それは……イザークお父様のことかしら)

 イザベルとしての父でランドール公爵家最後の当主。

「親しかったのですか?」
「まさか! 返しきれない恩はあれど、親しいだなんて烏滸がましいな。前皇帝の顔色を窺う貴族とは違う立派なお方で、お父様は永遠に敵わないよ」
「…………」

 くしゃりと髪を撫でられる。

「お父様は、陛下は孤独なんだと思ってる」
「こどく……」
「目の前で大切な人を亡くしたら。誰であれぽっかり心に穴が空くからね。それを埋める物など簡単には見つからない。ましてや陛下の場合は……」

 果実水のグラスに入っていた氷が溶け始めてカランと涼やかな音を立てた。


「──唯一無二の拠り所を一気になくしてしまわれた」


 その言葉は酷く重く伸し掛る。

 髪から手が離れ、お父様は私を床に下ろした。

「さあ、レイラが探しにくる前に部屋に戻りなさい。今話したことは秘密だからね」

 シーっと唇に指を当てて、動けない私をお父様はドアの方へ促した。
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