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第一章 生まれ変わったみたいです
噂のままであって欲しい
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その日の夜、私はひっそり自室を抜け出した。小さめのランプを手に持ち、人気の無い廊下をどんどん進む。
そうしてたどり着いたのは屋敷内にあるだだっ広い図書室だ。
ジャンプしてドアノブを掴んで開ける。
以前、お父様が言っていたのだ。これまでの新聞をスクラップにして図書室に保管してあると。
膨大な数を所蔵しているので見つけ出すのは大変だが、これしかないのだ。
(これじゃない、これでもない。あーもうっどこにあるの!)
奥の方からランプで照らしつつ背表紙を確認し、新聞のスクラップを探す。
特に三年前の四の月と五の月の記述が見たい。
何があったのか知らなければ。自分の目で確かめなければ。
(ユースがしたなんてうそよ嘘。あの子にそんなこと出来っこない)
信じたくない私はこの時点まではそう考えていた。
「あった!」
新聞のスクラップを揃えた列を見つけた。私は梯子を登って上から全部取り出す。
一番最初に手に取ったものは三年前の記事だった。パラパラめくる。
「即位──ユリウス・ヘルゲ・ベルンシュタイン」
ドクンと一際大きく鼓動する。
窓際に移動し、ランプと月明かりで照らせば次代皇帝がどのような人物なのかという特集記事のようだ。
そこにはこう書かれていた。
(冷酷無慈悲、血に飢えた皇帝、皇位簒だ──父帝殺害!? えっ、あの優しかったユースが……?)
他にも、皇位継承順位が高い第一皇子、第二皇子の命を奪った。いつも返り血を浴びていて、頬から血が滴っている。という噂が書かれている。
文字を目で追うが理解が追いつかない。書物を握る手が震えてしまう。だって私の知っているユースと真反対なのだ。
ぎゅっと抱きつけば顔を真っ赤にして、私が転んだら自分のことのようにオロオロして泣きそうに。暗いところが大の苦手で、雷が落ちて真っ暗になった時は、シーツにくるまって私の寝台に潜り込んでくる。そんな人なのだ。
とはいえ無条件に彼が優しい人だとは思わない。
戦地に赴いたら誰しも人を殺すだろう。殺さなければ自分が剣で切られてしまう。
だから人を殺せないほど優しい人ではないのだ。けれど、それでも、それだけで、血に飢えた皇帝という二つ名が付くわけがない。
粛清も、皇帝・皇子殺害も。彼がやったと思われてるからそんな風に呼ばれているのだ。
「変わってしまったの……? ねえ」
闇の中に呟いた言葉は溶けていく。
載っているユースの姿絵にそっと触れる。約三年ぶりのユースの顔だ。鋭い眼光はまるで私に向けられているようで。ヒヤリとする。
姿絵なので誇張されているのかもしれないが、こんな表情、見たことがない。
「私、生まれ変わってからずっと貴方が幸せに暮らしてるって思ってたのよ」
『──認めれば、連座制であいつにも罪がかかる所を防いでやろう。お前は報われないのに健気な事だ』
無理やり振り払った、嘲笑とともに降り注ぐあの時の絶望や恐怖は。
「意味、なかったの?」
それとも、残虐なことをして皇帝になるのが彼の望みだったのだろうか。
信じて疑わなかった、一縷の望みとしてかけた願いが崩れていて、進む道を見失う。
目の前が真っ暗だ。
「──貴方に会えば教えてくれる?」
イザベルとしてだったら。すぐにでも聞きに行けるのに。テレーゼの身分では叶わない。
それだけ公爵と伯爵の位はかけ離れている。ましてや相手は皇子殿下ではなくて皇帝陛下なのだ。
皇子よりも多忙を極め、直接対面可能な者などひと握り。
小娘の些末な願いなど門前払いが当たり前。
「それとも、会っても無駄?」
どうにかして彼の元にたどり着いて、笑っている姿を目に映したかった。
でも、この状態では……。
会わない方がいいのではないかと思ってしまう。
私の知っているユースとはまるで別人だから。
「──笑わない皇帝」
記事の一節。不正を働いた者は容赦なく処罰を課せられ、弁明の余地も許さないのだという。
淡々と真顔でたった一言、処遇を告げるらしい。
貴族からの評判はあまり良くないが、民からの評判は悪くない。政策も、無茶ぶりではなくて理にかなった物。
理性的な一面があるのに対し、感情的になる部分もあり、平時は寡黙で無表情。それ故に皇宮に務める侍女達や文官達を恐怖に陥れている──
そんな風に締めくくられていた。
パタンと閉じる。
ランプの中でゆらゆら揺れる炎が書物に影を落とす。私は書物の上に頭を置いた。
「分かんないわ。ユース……どうして」
起き上がり、散らかした書物を元の場所に戻す。
(これだけ持っていこう)
一冊、三年前のものだけ手元に残す。足音を立てないよう静かに廊下に出て、ゆっくりドアを閉めた。
自室に戻る道のりは長いように感じられ、書物を胸元で抱きしめながらとことこ歩く。
どうやら私は計画を大幅に変更せざるを得ないみたいだ。
遠くから笑う彼を一目でも見るというものから、皇帝となった彼に直接会う方法へ。そしてどうしてこんなことをしたのかその理由を突き止めたいから。
そうしてたどり着いたのは屋敷内にあるだだっ広い図書室だ。
ジャンプしてドアノブを掴んで開ける。
以前、お父様が言っていたのだ。これまでの新聞をスクラップにして図書室に保管してあると。
膨大な数を所蔵しているので見つけ出すのは大変だが、これしかないのだ。
(これじゃない、これでもない。あーもうっどこにあるの!)
奥の方からランプで照らしつつ背表紙を確認し、新聞のスクラップを探す。
特に三年前の四の月と五の月の記述が見たい。
何があったのか知らなければ。自分の目で確かめなければ。
(ユースがしたなんてうそよ嘘。あの子にそんなこと出来っこない)
信じたくない私はこの時点まではそう考えていた。
「あった!」
新聞のスクラップを揃えた列を見つけた。私は梯子を登って上から全部取り出す。
一番最初に手に取ったものは三年前の記事だった。パラパラめくる。
「即位──ユリウス・ヘルゲ・ベルンシュタイン」
ドクンと一際大きく鼓動する。
窓際に移動し、ランプと月明かりで照らせば次代皇帝がどのような人物なのかという特集記事のようだ。
そこにはこう書かれていた。
(冷酷無慈悲、血に飢えた皇帝、皇位簒だ──父帝殺害!? えっ、あの優しかったユースが……?)
他にも、皇位継承順位が高い第一皇子、第二皇子の命を奪った。いつも返り血を浴びていて、頬から血が滴っている。という噂が書かれている。
文字を目で追うが理解が追いつかない。書物を握る手が震えてしまう。だって私の知っているユースと真反対なのだ。
ぎゅっと抱きつけば顔を真っ赤にして、私が転んだら自分のことのようにオロオロして泣きそうに。暗いところが大の苦手で、雷が落ちて真っ暗になった時は、シーツにくるまって私の寝台に潜り込んでくる。そんな人なのだ。
とはいえ無条件に彼が優しい人だとは思わない。
戦地に赴いたら誰しも人を殺すだろう。殺さなければ自分が剣で切られてしまう。
だから人を殺せないほど優しい人ではないのだ。けれど、それでも、それだけで、血に飢えた皇帝という二つ名が付くわけがない。
粛清も、皇帝・皇子殺害も。彼がやったと思われてるからそんな風に呼ばれているのだ。
「変わってしまったの……? ねえ」
闇の中に呟いた言葉は溶けていく。
載っているユースの姿絵にそっと触れる。約三年ぶりのユースの顔だ。鋭い眼光はまるで私に向けられているようで。ヒヤリとする。
姿絵なので誇張されているのかもしれないが、こんな表情、見たことがない。
「私、生まれ変わってからずっと貴方が幸せに暮らしてるって思ってたのよ」
『──認めれば、連座制であいつにも罪がかかる所を防いでやろう。お前は報われないのに健気な事だ』
無理やり振り払った、嘲笑とともに降り注ぐあの時の絶望や恐怖は。
「意味、なかったの?」
それとも、残虐なことをして皇帝になるのが彼の望みだったのだろうか。
信じて疑わなかった、一縷の望みとしてかけた願いが崩れていて、進む道を見失う。
目の前が真っ暗だ。
「──貴方に会えば教えてくれる?」
イザベルとしてだったら。すぐにでも聞きに行けるのに。テレーゼの身分では叶わない。
それだけ公爵と伯爵の位はかけ離れている。ましてや相手は皇子殿下ではなくて皇帝陛下なのだ。
皇子よりも多忙を極め、直接対面可能な者などひと握り。
小娘の些末な願いなど門前払いが当たり前。
「それとも、会っても無駄?」
どうにかして彼の元にたどり着いて、笑っている姿を目に映したかった。
でも、この状態では……。
会わない方がいいのではないかと思ってしまう。
私の知っているユースとはまるで別人だから。
「──笑わない皇帝」
記事の一節。不正を働いた者は容赦なく処罰を課せられ、弁明の余地も許さないのだという。
淡々と真顔でたった一言、処遇を告げるらしい。
貴族からの評判はあまり良くないが、民からの評判は悪くない。政策も、無茶ぶりではなくて理にかなった物。
理性的な一面があるのに対し、感情的になる部分もあり、平時は寡黙で無表情。それ故に皇宮に務める侍女達や文官達を恐怖に陥れている──
そんな風に締めくくられていた。
パタンと閉じる。
ランプの中でゆらゆら揺れる炎が書物に影を落とす。私は書物の上に頭を置いた。
「分かんないわ。ユース……どうして」
起き上がり、散らかした書物を元の場所に戻す。
(これだけ持っていこう)
一冊、三年前のものだけ手元に残す。足音を立てないよう静かに廊下に出て、ゆっくりドアを閉めた。
自室に戻る道のりは長いように感じられ、書物を胸元で抱きしめながらとことこ歩く。
どうやら私は計画を大幅に変更せざるを得ないみたいだ。
遠くから笑う彼を一目でも見るというものから、皇帝となった彼に直接会う方法へ。そしてどうしてこんなことをしたのかその理由を突き止めたいから。
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◇◇◇◇
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