31 / 333
迷子になりました
31
しおりを挟む2日ぶりの『とまりぎ』に戻ったのはお昼の営業が始まる少し前だった。
「おかえりトーヤ。」
忙しい中みんなが手を止めて、マートは「すまなかった」と。ヘレナは「ごめんね」と。ビートは「ばかトーヤ」と言いながら順にハグして俺を迎え入れてくれた。
「勝手な事をしてすみませんでした。迷惑かけてごめんなさい。」
「違うだろ、トーヤがそう言うならそもそも俺が手癖の悪い客を放っておいたのが原因だった。すまなかった。」
「そうよ私達を守ろうとしてポトレの所へいってくれたんでしょう。ありがとう。」
マートとヘレナがそう言うのにクラウスが付け加える。
「お前がかけたのは『迷惑』じゃなくて『心配』だ。」
そうなのかなそうだといいな。今までの周りの大人達はいつだってあからさまに迷惑そうな顔をしていたからそれにどう返していいのかわからないけど…
「心配かけてごめんなさい。」
そう頭を下げてみた。足元にジェリーが寄ってきて折り紙で折ったお花をくれた。俺が教えた朝顔の花。おかげでずっと我慢していた涙がでた。
そんな俺に「にいちゃいたいたい?」と下げたままのお頭をそっと撫でてくれる。
膝を折ってしゃがみ込んでジェリーを抱き込んだ。
「違うよ、嬉しくて。ありがとうジェリー、僕の宝物にするね。」
この世界に来てからたくさんの優しさに触れて僕の涙腺はずいぶん緩んでしまったみたいだ。
「じゃあトーヤも帰ったことだし昼の営業始めるか。ビート、看板だしてくれ。トーヤはジェリーをよろしくな、そのマントも脱いでクラウスも一緒に飯くえよ。」
マートに言われもうそんな時間かと慌ててマントを脱いでクラウスに返す。
「まあまあまあトーヤ隠してたのかい?可愛い格好して。よく似合ってるじゃないか、ちょっとくるっと回って見せておくれよ。」
ヘレナのテンション高めな声にもらったスーツを着ていたことを思い出した。
照れくさいけど褒められてるのは嬉しくて言われた通り回ってみた。
「にいちゃかあいいねぇ。」
ジェリーまでにこぉって可愛い顔で笑って褒めてくれる。ホントは格好いいって言われたいんだけどな。みんなから見たら見た目が中学生みたいなもんだから仕方ないのかな?
「本当よく似合ってるよ。どうだいビートも学校の入学式にこうゆうの着るかい?」
「やだよそんな貴族の坊っちゃんみたいなやつ、おれは普通のでいいからな、絶対やめろよ!」
話を振られたビートは逃げるように表に看板を出しに行ってしまった。
……これ、貴族の坊っちゃんみたいなんだ。クラウスの病院での態度にようやく納得できた。お詫びと言いつつソフィアに遊ばれた感じもした。王都で頑張って普通のスーツを手に入れよう。
部屋でいつもの服に着替えてからお客さんが引く時間までジェリーと遊びながらクラウスと王都へ移動するための準備にかかる日数や俺が用意するものなどの話をして食堂に降りていき、客が俺達だけになってお店の看板を下げたところでマート達に王都行きの話を切り出した。
「クラウスのバカ!なんでトーヤを王都に連れってっちゃうんだよ。クラウスだけ王都に帰って騎士団にでもなんでも復帰すればいいじゃんかよ!」
いつもはお兄ちゃんなビートがクラウスを背後から叩いている。俺がやられたら大きなダメーを食らいそうなそれはクラウスにとっては『ポコポコ』って感じに受け流している。
「ごめんねビート、この町に僕の働ける場所がないんだ。孤児院の仕事は住む所も用意して貰えてそれに僕の一番やりたい事なんだ。でも王都にしかないって聞いて……だから行きたいと思うんだ。」
「そうだな、ここは小さな町だからウチみたいな家族経営が多いしスキルがなけりゃ家賃を払えるような収入は得られないもんな。トーヤにとってすごくいい話なんだ気持ちよく送り出してやらなきゃな。」
マートがなだめるように言い聞かせてくれる。
「だけど3日後なんて早すぎるよ。まだマデリンの事知らないだろ。案内したい所いっぱいあるのに全然足りないじゃんか!」
そう、この町は『マデリン』と言う事も知らなかった。3日後に王都へ向かう事になったのは俺のわがままも入っている。いつまでも必要ないのに働かせてもらう上に感謝まで口にされるのに耐えられないからだ。
「確かにそうだけど……そうだ、どうせ色々買い物もあるんだろ?明日はビートが一日案内してトーヤの買い物に付き合ったらいいじゃないか。この町を案内できるだろ?あとはそうだね…トーヤはどこか行きたい所とかあるかい?」
ヘレナのありがたい提案だ。
「え、僕ですか?行きたい所と言っても……そうですね学校か……あ、クラウスさんが連れてってくれた丘の公園?」
屋根しか見えなかった学校にあの丘の公園くらいしか知ってる所もなかった。そういえば公園は昼間にも来てみたいと思ったんだった。
「あらいいわね。ジェリーもあそこなら走り回る事も出来るし。じゃあ明後日は食堂を休みにしてお弁当持って遊びに行くことにしようか。」
「そんな、お仕事休んでまでなんて…」
「トーヤにろくにお礼もしないうちにポトレなんかに盗まれた挙げ句3日後には王都へ行ってしまうんだろ?こんなに懐いてるウチの子供達にも納得できるようにちゃんとお別れさせてやってよ。」
本当にヘレナさんの気遣いには心を救われてばかりだ。
「クラウスはどうせギルドにいるんだろ?昼ご飯食べに来たらいいじゃないか、3年も顔見てたあんたがいなくなるのだって寂しいんだよ。ね、決まりだ。」
明日と明後日の予定が決まった所でマート達は仕事に戻り俺はクラウスについていってもらってギルドでお金を下ろして戻ってきた。
移動費用は全部ギルド持ち、王都に着いたらすぐ仕事に就けると言うので白銅貨40枚を銀貨3枚と白銅貨10枚にしてもらい入れるものがなくてまごついてるとソフィアがキレイな飾り紐の付いた巾着袋に入れてくれた。お使いした時の感覚だと白銅貨1枚が千円くらいだった。これでまず服と下着を買おう。後はかばんが欲しいな、あとタオルとかハンカチとか……
食堂のテーブルに座ってジェリーと2人、折り紙やお絵かきの相手をしながら必要な物を書き出してみたものの身一つでこの世界に来たくせに宿屋という便利な所にお世話になっっていたお陰で全く不自由してなかった。つまり必要なものがありすぎて優先順位がわからない。
「ゔ~~」と唸ってると俺の握っていたメモ用紙を誰かがひょいと取り上げた。
「これは文字なのか?」
クラウスだった。メモを見てきれいな眉をひそめている。だよね、俺もこの世界の文字はそんな感じになるよ。
「僕の使える文字ですよ。必要なものを書き出しているんですけどありすぎてわかんなくなってきちゃって。値段も行ってみないとわからないし…。」
「なんて書いてあるんだ?」
クラウスがメモを指差すので俺は文字を指でなぞりながら『普段着3組、下着3枚、タオル、歯ブラシ、かばん』と読み上げる。なぞる文字をじっとみながら少し考えてから二階へあがるとクラウスのかばんを持って降りてきて、中から大きめの肩掛けかばんをだしてくれた。
「前から思ってたんですけどそれも魔法のかばんなんですか?」
気になってたことを聞いてみた。
「そうだ。結構なんでも入るもんだから適当に放り込んでたら自分でも何が入ってるか忘れてるくらいだ。イメージして探せはあるときは手に触る。そのかばんも使ってないからお前にやる。だからまあ服だけ買ってこれば後はなんとかなるさ。」
「ほら」とタオルに歯ブラシも出してくれた。手品みたいだ。
「すごいホントだ。でもそんなに甘えれません。」
「なんだよ。甘やかしていいんじゃないのか?それにこれはどっちかと言えばこのかばんの不用品整理だ。だから気にするな。」
そう言ってにやっと笑って俺の頭を撫でてくれた。
「……じゃあ甘えちゃいます。」
自分でも驚く程素直に頷いた。
「そういえばお前は名前書けるか?仕事の契約書とかこの先必要なんだが……」
そう言われてメモ用紙に書いてみた。
『桜木冬夜』
なんだか久しぶりに見た気がした。
「これは?」
尋ねられさっきと同じ様に指でなぞる。
「『さくらぎ とうや』です。家名?も必要ですか?」
「いや、ギルドに登録してあるのでいい。」
「じゃあこの下に書いてもらっていいですか?トウヤって。」
みんなは『トーヤ』と呼ぶけれどソフィアとクラウスだけは『トウヤ』と呼ぶ。律儀なんだよな二人とも。
スラスラとクラウスが書いてくれた文字は未だ記号みたいな認識だ。
「これが『ト』これが『ウ』これが『ヤ』」
書いてもらったものに今度はカタカナで読みがなをふった。
「王都につくまでに覚えます。」
そう意気込む俺をよそにメモを見てまた眉を寄せている。
「俺にはこっちの『トウヤ』とこっちの『トウヤ』は違って見えるんだが……」
「そうですね同じだけど違います。こっちがただの文字でこっちは意味のある文字です。寒い季節の『ふゆ』と朝昼夜の『よる』そう書いて『トウヤ』それが僕の名前です。」
それが俺に最初に与えられたモノ。
「じゃあこっちは?」
今度は名字を指して言う。
「それはそのまま『さくら』の『き』ですよ。」
この世界にも桜があるのをマートに聞いた。もっと心が大人になったらまた咲き誇る様を美しいと思える日が来るだろうか。
俺の説明をクラウスはただ「そうか、不思議なもんだな」と言って食堂を後にした。
365
あなたにおすすめの小説
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
俺の居場所を探して
夜野
BL
小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。
そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。
そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、
このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。
シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。
遅筆なので不定期に投稿します。
初投稿です。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる